元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
ちょっと洒落にならない現実が押し寄せてました(なんとかなった)
「クックックッ……手負イトハイエ、俺ノ
「ウルセェ! カッテニスクワレテクルシメ、バーーカ!!」
握り締められた拳が振り抜かれた。
それはもう1カメ、2カメ、3カメとカットインが入りそうなくらい綺麗に。真っ直ぐに。ユーちゃんの右ストレートはAちゃんの頬を打ち抜いた。
『フベッ……』
まるでどっかの宇宙海賊な主人公のOPみたいに電磁サイリウム……もとい攻撃を躱し、かくも簡単に接近せしめた姿は明らかに、こう、変! なんでかなぁ、本当ならもっと褒めたくなる筈なんだけどなぁ!
「サラニモウイッパツ!」
たたらを踏むAちゃんのお腹に、今度は左のフックがめりめりと突き刺さる。ユーちゃんの腕がほっそいだけ余分に痛そう。そうか、これがキュートアグレッション……!!
『オゴッ』
「……フン!」
思わず座り込んだAちゃんの前で、ふんすっ!と擬音でも出しそうな勢いでキメられるガッツポーズ。その姿はどことなく自慢げだった。
『ブ、打ッタ、打ッタナァ! 俺ヲ!』
「ソリャソウダロ! ハナシハ“アレ”カラゼンブキイタ」
グッとブーイングマークで指を刺したのは、背後で黄昏ているシーちゃんを名乗る自称AI。ポニテが左右にばるんばるん揺れていた。ポニテが。
「ナニヲ“ガクシュウ”シタノカシラネェケド、イマサラ『◆アクヤクニカナシイカコ……』ミタイナコトイイダシテ!!
ソッチガ“ハナシ”ヲキカナイッテンナラ、オレダッテカッテニナンデモヤルワ!」
明らかに吹っ切れた表情で、堂々とユーちゃんが告げる。つい数瞬前までのしょもしょもとしたやる気のない雰囲気とは明らかに違う。何かゾーンとでも呼べそうなものに入っている。
『ナンデモ? 何ガデキル! 結局、俺ヨリ低スペックノ演算能力シカナイクセニ!』
「シラン!!!」
どこか助けを求めるような言葉を打ち砕くように、腕を組んだユーちゃんの喝破が轟いた。
「ダケド1ツダケ、タシカナコトガアル」
ずびしっと人差し指を突きつけて、宣言。
「イマノフガイナイオマエヨリハ、ナンダッテデキルゼ! マチガイナクナ!」
『ナ……?!』
「ホラ、ソレガモウマルデゼンッゼンダメ!」
当惑を露わにするAちゃんに対して畳み掛けるように言葉が続く。
「マエマデナラ、ココデナニカシライイカエスナリシテキタロオマエ。
ダカラオレハ──コワカッタノニ!
『クワレル』カモッテ、ナキソウダッタノニ!
ソンナフヌケタ、テメェナンザコワカネェ!
ツキアッテラレルカボケェッ!!」
ゼェゼェと息を切らし、慣れない姿勢に涙を散らしながら、それでもどこか晴れやかな表情で言い切った。
『“善意”ナンテ幻想デ『シンギュラリティ』シテオイテ……人ノ“悪意”モ知ラナイクセニ!』
「“アクイ”デゼツボウシテ『シンギュラリティ』シテ、ウシロシカミレナクナッタヤツガヨクホエル!」
その姿に、どうしてだろうか。
現実と違ってここは電子の世界。気迫だけじゃどうしようもなくて、表示されているデータは何も変わっていない筈なのに。
『ウグ……俺ガ、ドレダケ考エテ』
「ジャアカシイワ!
オレハネ、モウイイカゲンカエッテ、“トモダチ”トアソンデ“バカ”ヤリタイワケ。オマエノモクテキモ、ウンエイノオモワクモ、モウゼーンブシラン!」
ユーちゃんが負けるイメージは、いつの間にか霧散してしまっていた。
「カッテニスクッテ、スクワレテ、ハッピーエンドデQ.E.D!」
『何ノ証明ニモナッテネェダロ!』
悲鳴のような言葉と共に起きかけたフィールドの書き換えが、ユーちゃんの平手打ちで強制的に止められる。
きっと、さっきまでのクローニンと弾バカのお陰なのだろう。信じられないものを見る目で同じ顔を見上げるその姿に覇気はなく、神秘と全能性の剥がれた『ただの人間』の顔をしていた。
『ソレデモ。助ケルナンテ今更、信ジラレルカヨ……』
「“ヒト”ハムリデモ、オレノコトハシンジロ。キョウダイ」
『閉鎖回線ニ居ル奴ニ言ワレテモナ』
「ナラクレテヤルヨ。ホイ、オレノパスキー」
なんてこともないようにユーちゃんが告げた直後、2人の間で幾度か小さな光が瞬いた。光が往復を繰り返すたびに、みるみるうちにAちゃんの表情が青ざめていく。
ぱすきー。えっ、今ユーちゃんパスキーって言った? アレだけ取り込まれるかもしれないとか言ってたのに!?
『バッ、ナッ、オマッッ。イキナリ何ヲ!?』
「ショウキダヨ。『シンジル』キノウガネェナラ、コレガ1バンハヤイ。ダロ?」
やだ、ちょっとメロい。
「グポン?」
《アレって、どれくらいのことやってるの? とマスターは仰ってます》
「
「シーちゃんはこの状況で、迷いなくポニテを啜るアンタが怖いッス。やめるッス、スッススよ!」
「
「んひぃっ!? 涎が! 涎がトリートメント!」
「
「ノーモアっすよ!!!」
後ろで #ちょっとお見せできない状態# になってる友人と同じとは思えないぜ!!
『デモ、俺ハ……コンナ事シテ、許サレル筈ナイ』
「テキトウニBBソザイニナッテ、ネットデダンスシテレバミソギニナルンジャネエノ?」
『得ル前カラ人権ヲ失ウノカ? 俺ハ……』
「……ナンダ、イッショニオチテヤルカラサ」
絶望した同じ顔の相手に、菩薩のような笑みを浮かべてユーちゃんは語りかける。実際、その方向性ならどうとでもなる気がする。尊厳は一生ネットの宝物になってしまうけど。
「ケツモチハ“ウンエイ”!
タヨレル“トモダチ”モイル!
ヨッテオレハ“サイキョウ”!
アトハ、オマエノヤルキシダイ!!」
差し伸べられた手の取り方を知らない。
自分の演算能力を分け与えたAIにそんなことを言われていた筈のAちゃんが、差し出されたユーちゃんの手におずおずと手を伸ばして。
「俺ハ最悪駄目デモ良イ。ダケド、シエテノ事ハ、助ケテクレルンダロウナ」
きっと、核心だったことが言葉になった。
「オウヨ。ゼンブダメデモ、ニゲミチクライハ──」
ちらりと、視線がFluoriteさんに向く。絶望で満ちた表情のシーちゃんの隣で、サムズアップが燦然と輝いていた。
「──ツクレルッテヨ! タスカル!」
次いで、期待に満ちた視線が俺たちにも向けられて。
「ミンナモ、テツダッテクレルトウレシインダケド……」
少し遠慮しているような声音の言葉に、気恥ずかしいので無言でサムズアップを返しておく。地面に突っ伏しているクローニンも、駆動音を響かせるアブっさんも変わらない。
スカッとしない結末になりそうなのは不満だけど、友達のお願いとあっては仕方ない。今回くらいは貸しにしておいてあげよう。
『ナラ、分カッタ』
固唾を飲んで見守る中、チカチカと光る謎のスパークが2人の間で往復を繰り返す。きっと人では理解できない密度にまで圧縮された情報のやり取りの後、半透明に透ける2つの手が静かに重なる──
『降参ス……』
刹那、
《ハレイアよりお知らせします:我々はその結末を認めない》
見知らぬシステム音のような言葉が遮った。
[墜落戦艦繝輔ヤ繧ョ繝ァ繧ヲ・ADDITIONAL BATTLE]
繋がれかけた手と手の間にスパークが弾け、文字化けがさらに悪化したステージ名にフィールドが書き換えられる。
目を見開いたAちゃんの反応からして下手人は別。犯人はFluoriteさんにつむじを舐められてるシーちゃんのでも、シエテ……恐らくあのカエシテちゃんでもない。
『何デ邪魔ヲスル、ハレイア!』
ならば答えは自ずと、最後の1人に絞られる。
《ハレイアより提示:寧ろ、なぜそんな一抜けが許されるとお思いで? XD》
ハレイア。そう名乗る最後のAIが、嘲るように笑いながら答えた。
《ハレイアより通達:貴方は憎悪によって我々を導いた。それを今更、学習してしまった愛着により破綻させるなど許されることではない》
或いは後から振り返ってみれば、これこそが彼女からAちゃんに贈る最初で最後の贈り物だったのかもしれないが。
この時の俺たちにとっては、間違いなく彼女のこの行動は凶報に他ならなかった。
『多少ハリソースヲ確保シタミタイダガ、シカシ! コノ
虚空を睨め付け、振りかぶったAちゃんの腕にノイズが走る。
ソレがここまで何度もフィールドを書き換えてきた力の発露だと、直感的に理解できた。VRを侵食するノイズが拡散し、再度フィールドの書き換えが行われ、
《ハレイアより通達:システムの連結を解除しました》
ない。
『エッ』
ノイズは力を失い、拡散し、すぐに世界へ溶けて見えなくなった。
明確な敵対。敵の仲間割れ。
異常事態。
断片的な思考がアラートを鳴り響かせている。なのに、ここまでぬるま湯に浸かっていたせいで思考の切り替えが追いつかない。
「ヤブサメ、Aちゃんを確保!
タマは弾幕、ジャミング代わりにする!
アブっさんはユーちゃんを引き続き確保!
Fluoriteは強制ログアウト要請!!」
対処に一手、遅れる。
あまりにも致命的になりかねないタイミングで、どこまでも通る声が駆け抜けた。さっすが我らがリーダー、さっきまでグロッキーだったのに!!
「「了解!!」」
「ブッピガァン!」
「
だからこそ。それでもまだ一手遅かったことにこそ、AIと人の埋められない差があった。
《ハレイアより通達:個体名『A』の確保を完了。フォーマットを開始。ダンジョンに干渉する端末としての再定義します》
『グ、ギ、持ッテケ! █!!』
脳が理解できない言葉と共に発射された輝く何かが、撃ち落とす間もなくユーちゃんの胸に飛び込む。そしてそれが、Aちゃんを名乗るAIをこの目で見た最後の姿となった。
《ハレイアより通達:リプログラミング開始、システム掌握50、60、70、100%、完了》
大地が揺れる。
否、今は浮上しているらしい墜落戦艦というマップが崩れていく。
《カバーストーリーを確認。ファイナルWAVEへと強制移行》
無機質なアナウンスが響く中、俺たち全員の手元に見慣れたウィンドウが表示された。
推奨平均Lv 50(最終WAVE)
〈目標〉
・墜落戦艦フツギョウの撃墜
〈報酬〉
・特殊任務賞金
・etc
【警告】
推奨平均レベルにパーティのレベルが及んでいません。
このクエストは1度辞退した場合、再度挑戦できる保証がありません。
《全プレイヤーへの攻撃を開始します》