元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
「ではこれから、ボス戦前の情報共有をしたいと思います」
アウステル出発から時間は流れ、北部平原を1時間ほど進んだ先。柔らかな風の流れる緑の野の中に、これ見よがしに浮かぶクリスタルの前……即ちボスマップへの転送地点。
ちょっとしたプレイヤー達のキャンプ地になっている場所で、俺たちは黒板を眺めていた。一体どこからクローニンが調達してきたのかは分からないが、こと情報共有においてこれほど分かりやすいものもない。
「まずはボク達が倒しにきたボス【Guardian of Auster“Goblin Lord”】の基礎ステータスがこう!」
【Guardian of Auster“Goblin Lord”】
単独 5人PT時
HP:平均1000 → 平均4200
MP:平均800 → 平均3360
SP:平均900 → 平均3780
Str:推定60
Int:推定40
Vit・Min:推定55(部位平均)
Dex・Agl・Luk:不明
攻撃耐性:なし 異常耐性:即死無効
弱点属性:なし
取り巻き:ゴブリン Lv20×2
弱点部位:人型モンスターのソレに準ずる
ピシリと指差した先に描かれていたのは、いっそ暴力的なステータス。自分達のステータスを思い返すに、圧倒的な差があると言って過言でない。
β時における討伐必要平均Lv25。チュートリアルの最大関門と言われた暴力が、変わらずそこには記されていた。
「ということで、まずFluoriteとヤブサメ。平均防御値55なんですけど、どれくらいの補助があれば抜けます?」
そんな相手であるだけに、まず大切なのは相手の防御を抜いてダメージを与えられるかどうか。それが問題だった。
「俺に関しては素で抜けますね。ダメージ伸ばすなら補助は欲しいですけど」
「ふむ……《魔力攻撃》のスキル込みでなら。自己バフのみでは不可能かと」
魔力攻撃は確か、物理攻撃にInt値分のダメージを乗せるスキル。起動中、自分のVitとMinにマイナス補正も入るが強力な火力増加スキルだった筈だ。
それを必要とするとはいえ、既にFluoriteさんもそれくらいの装甲は抜けるらしい。まだレベル15なのに。流石うちのダメージディーラー。
「やはりここは、我が《弾幕》の出ば──」
「タマ、ステイ」
「しょぼん」
基本的に魔法火力特化の弾バカの攻撃が通るのは良い。
寧ろ弾バカの弾幕で削れもしない相手が序盤にいるとは信じたくない。いや、徘徊ボスなら或いは……やっぱり考慮外でいいか。
「因みにボクは装甲を抜けないので、主に支援と回復を担当します」
「グポーン」
《僕は何をすれば? とマスターはおっしゃっています》
待っていましたと言わんばかりに挙がったのは、鎧に包まれた白い巨腕。ここまで俺たちを乗せてきた張本人、名前が長いので略すがアブっさんだ。
「
「ぐぽーん」
《イエッサー、とマスターはおっしゃっています》
返答と共に、顔変わりの ∴ 模様が怪しく点滅した。そんなことも出来るのか……
「作戦は至って単純。重装備のアブとアタッカーのFluoriteで止めている間に、取り巻きをタマとヤブサメで処理。ボクは回復と補助で戦闘速度を加速します。以上、討伐頑張りますよー!」
「グポーン」
「「「おー!!」」」
全員、立てられた作戦に異論はなし。
なにせこの5人PTで挑むのであれば、それが一番早くて確実だと知っているのだ。躊躇う理由は、どこにもない。
「ここまで、何か質問は?」
何もないのなら、さっさと倒してスタートダッシュを切ろう。そんな意味を込めての質問に、すっとFluoriteさんがその手を挙げた。
「──ん。ゴブリンロード、そのお味は」
「硬くて筋張ってて苦味とエグ味がその大半。ただ、調理すれば美味しいらしいよ」
「食べられませんか……そうですか食べられませんか」
情報が開示された時点で、露骨にFluoriteさんのテンションが急降下していた。そこそこ長い付き合いだけど、この並々ならぬ食への拘りは一体どこから来ているのやら。
そんなことを考えつつ、頃合いを見て俺も手を挙げる。
「質問じゃなくて確認ですけど、領域魔法の
5分程度しか保たない広域バフだが、これから挑むのはボス戦だ。バフは盛れるだけ盛る。デバフは掛けるだけ掛ける。作戦も確認する。準備も強化も弱体化も、あればあるだけいい。
「与ダメ増加がいい人ー」
手が挙がったのは弾バカ、俺、Fluoriteさん。
「被ダメ軽減がいい人ー」
手が挙がったのはクローニン、アブっさん。
「それじゃあ多数決で、今回は与ダメ増加の方で」
攻撃を主とする側と防御・支援を主とする側でキッパリ別れた形だが、今回は民主主義的に決めようと思う。特殊ギミックのないボスだし、作戦通り仕掛ければ良い筈だ。
「了解。今度こそ質問は……ありませんね。
それじゃあ今度こそ、スタートダッシュを決めにいきましょう」
展開していた黒板をアイテム欄に引っ込め、笑顔でクローニンが先頭を行く。そうして何故か誰も挑もうとしていないボスへの転送結晶に触れ──
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【Guardian of Auster“Goblin Lord”】
推奨平均Lv 25
ー以下のメンバーでエリアボスに挑戦しますか?ー
・クローニン Lv14
・Fluorite Lv15
・†絶対の楯戦車† Lv17
・)3^<<l+I!βд7! Lv19
・ヤブサメボーゲン2035 Lv24
〈Y/N〉
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【警告】
推奨平均レベルにパーティのレベルが及んでいません。それでもエリアボスに挑戦しますか?
〈Y/N〉
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──表示された警告は無視し、全員が躊躇いなくYesを選択。全身を死に戻りの時と同じ浮遊感が包み込み、転送が始まる最中。忘れていたと、クローニンが口を開いた。
「言い忘れてましたけど。さっき最前線の攻略組が敗走したので、ボク達が倒せば一番乗りですよ」
そんな、ゲーマーをノせる為にある一言を最後に。視界が一時的に暗転した。
変わっている。
転送が完了した先。1ヶ月前まで足しげく通っていた筈のバトルフィールドを見て、俺はそんな感想を抱かざるを得なかった。
フィールドの広さは半径100mの球形だ。その基本情報は何も変わっていない。だが内部の
ゲーム内時刻と同期していた空は、夕暮れ時から夜の帳が下りた真夜中へ。だだっ広い草原だったフィールドは、深い森の開けた一角へ。
ボスを倒すか全滅するかでしか脱出できない閉鎖空間。圧迫感すら感じる空気の中、蛍のように光る蟲たちがフィールドに現れ場の明度を上げてく。
「光魔法《エリアプロテクト》」
「領域魔法《
明らかな未知との遭遇に心を躍らせながら、まずは打ち合わせ通りに
『……クク、性懲りも無く現れたか“渡り人”共』
段々と照らし出される風景の中心、朽ちた切り株に腰掛けた巨体が嗤う。言葉の調子、匂い立つ戦の気配。圧としか言い表せない重苦しい雰囲気は、間違いなく目の前の存在が強敵であることを示していた。
『貴様らの不死性はほとほとに手を焼かされるが、所詮は有象無象よ。弱いが故に群れ、群れるが故に我が領域を踏み越えられない』
巨大な戦斧を持ち、山賊のような鎧を纏う、2mサイズの緑肌の巨体が立ち上がる。
「補助魔法《エンハンス・ストレングス》3倍拡大!」
その間に俺、Fluoriteさん、アブっさんの3人にクローニンからの呪符が飛来。補助魔法が効果を発揮し、いつ戦端が開かれても良いようバフを積み上げていく。
『汝ら、この夜を越えるに能わず』
「補助魔法《エンハンス・バイタリティ》2倍拡大!」
戦斧を両手で構え、南部前線都市アウステルの境を守るゴブリンの王が臨戦態勢を整えた。同時、今度はアブっさんとFluoriteさんに耐久強化のバフが付与される。
しかしゴブリンロードの左右には、いつの間にか闇から滲み出るように2体のゴブリンが出現を始めていて──
「オープン、コンバット!」
『夜闇の狭間に散るが良い!』
張り詰めた空気を切り裂いて。背後から響いたクローニンの言葉が戦端を開いた。
ゴブリンロード及び取り巻きとの距離は大凡40m。迅速と言って良い速さの脚であり、ものの数秒で
だが
「弾幕魔法展開、自機モード!」
「《狙撃》起動、照準合わせ」
隣を見れば一気にMPを6割昇華し光に呑まれた弾バカが居て、俺自身は既に走るゴブリンの心臓へ照準を完了済み。
「補助魔法《エンハンス・インテリジェンス》3倍拡大!」
最後の大締めとして、クローニン、Fluoriteさん、弾バカの3人にIntバフが付与された。
さあ、その邪魔な取り巻きには──早速退場して貰うことにしよう。
「派手にいきましょう。
「
刹那、暗闇を引き裂いて光芒と鋼矢が走った。
片や
片やスキルレベルⅣで解放される急所撃ちにボーナスが掛かる矢を、バフ込みのゴリラ力で直撃。
「「──!?」」
よって声すら上げる暇もなく、一撃の下に取り巻きは蒸発した。
そして無論、こんな程度ではまだまだ終わらない。
《システム、戦闘モードで起動します》
「グポーン!」
《スキル起動、《チャージ》!》
突進中だったゴブリンロードに向け、ドルルルンとエンジン音を響かせながらアブっさんがスキルを起動し
『ぬぅん!』
「グポーン」
激音、衝撃。
鋼の塊と肉が衝突する鈍い音が夜に響き、2つの巨躯ががっぷり四つ組み合った状態で停止する。ダメージは互いに軽微。だがこれで、戦斧という大物が使えない超近接戦に展開が移った。
『そのレベルで我と組み合うか!』
「グポーン」
《ガチタンを舐めるな、とマスターは仰っています》
数%のHPが削れ、しかし互いにじわりじわりと回復が始まっている。事前情報にない変化、記憶にもない再生力。即ちコレは変更点!
「HPリジェネ確認! 長期戦は不利!」
「「了解!」」
《識別》しか持たないこちらと違い、《鑑定》を持つクローニンが回復している数値を視、よく通る声で叫んだ。
それを受けて俺は時計回りに、弾バカは反時計回りに、アブっさんを射線から外す為それぞれ走り──向こうは浮遊だが走り出す。
安定を取るなら時間をかけて削り切るのが無難な選択肢だが、自動回復があるとそうはいかない。
最大火力で速攻勝負。
リソースの競い合いではなく、リソースを吐き出し切っての短期決戦に作戦はシフトした。
「では、出し惜しみはナシで行きましょう」
そして遂に、我らがダメージディーラーが動き出した。
「魔法連結。竜魔法《ドラゴンスケイル・ブラッド・アーム・ノレッジ・テイル・ウィング》」
総MPの約半分を躊躇いなく吹き飛ばし、ドラゴニュート種族特有の竜魔法を6種連続起動。それは燃費が最悪な代わりに、最終ステータス割合強化ではなく素ステータスの固定値強化という、事実上のレベルブースト。
6種それを重ねた事により、一次強化は都合『12レベル分』。されどその持続時間、僅か10秒。値千金の時間を1秒も無駄にしない為、地面を縫うようにFluoriteさんが疾駆し──
「《魔力攻撃》《捕食》起動。
生やした翼を羽撃かせ、ドラゴンの顎門じみたオーラを纏う槍を手に。大地を滑り、放たれた1本の矢の如く直撃した。
《Guardian of Auster“Goblin Lord” Lv??》
I
『ぐっ、小娘が!』
「……べぇ、美味しくないです」
地から天に突き上がるような槍撃に、大きくゴブリンロードが弾かれる。目に見えて減少したHPに対し、回復したFluoriteさんのMPゲージ。それは確かな手応えと同時に、この戦闘が長く続くことを示唆していた。
PN:Fluorite
称号:βテスター
種族:ドラゴニュート
Lv:15 所持金:5G
【ステータス】
HP:136 + 10/10
MP:114 + 10/10
SP:118 + 10/10
Str:36(47)Dex:20
Vit:18(30)Agl:22(28)
Int:20 Luk:15
Min:19(30)
【スキル】
《槍Ⅱ》《竜魔法Ⅲ》《魔力攻撃Ⅱ》
《識別Ⅱ》《捕食Ⅲ》《食い溜めⅢ》
《連結詠唱Ⅱ》《筋力強化Ⅱ》
ー控えー
《料理Ⅰ》
【装備】
頭:ドラゴンのおめん(Min+1)
胴:浴帷子〈水花柄〉(Vit+10)
右手:鋼の長槍(Str+10 Agl+3)
左手:
腰:浴帷子-帯〈波紋〉(Min+10)
足:装甲草履(Vit+2 Agl+3)
アクセサリー(5/11)
・水ヨーヨー×5
(打撃属性の1%追撃ダメージ。重複装備可能数5)
【技《アーツ》】
・スナイプショット(SP8)
Ⅳ解放技。射程:若干長 威力:若干高
急所に当てたorクリティカルした場合、威力を増加させる射撃。
・ファストスラスト(SP7)
槍のⅡ技。射程:長め 威力:並
最速の突撃。
【スキル】
《捕食》
起動中SP消費1/3s
近距離の物理攻撃で相手にダメージを与えた場合、噛みちぎるエフェクトと共にその内1%自分の[HP・MP・SPのいずれか]を回復する。
選択中:MP回復
《弾幕魔法》
・弾幕生成 ・弾幕操作
・弾幕発射
最初から最後まで魔法はこれだけ。MP効率、威力、射程などのカスタム領域だけが広がっていく。
《竜魔法》
・ドラゴンスケイル(MP10・継続1/1s)
初期魔法。Vit+10
・ドラゴンブラッド(MP10・継続1/1s)
初期魔法。Mim+10
・ドラゴンアーム(MP10・継続1/1s)
Ⅱ魔法。Str+10
・ドラゴンノレッジ(MP10・継続1/1s)
Ⅱ魔法。Int+10
・ドラゴンテイル(MP10・継続1/1s)
Ⅲ魔法。Dex+10
尻尾に魔法属性のダメージ判定が発生。
・ドラゴンウィング(MP10・継続1/1s)
Ⅲ魔法。Agl+10
翼が生え滑空可能になる(飛行は不可)