元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする) 作:銀鈴
『ぐっ、小娘が!』
「……べぇ、美味しくないです」
地から天に突き上がるような槍撃に、大きくゴブリンロードが弾かれる。目に見えて減少したHPに対し、回復したFluoriteさんのMPゲージ。それは確かな手応えと同時に、この戦闘が長く続くことを示唆していた。
故に。
「タマ! 誤射しない自信があるなら、ボスモード解禁してヨシ!」
「OK! 大好きですよクローニン!」
躊躇いなくもう1人、殆ど極振りに近い弾バカの封印をクローニンが解除した。
刹那、蒸発する弾バカのMPとSP。リソース管理という言葉を投げ捨てて、なりふり構わず全てを使い弾バカの回りに弾幕の元が生まれていく。
「Fluoriteとアブはそのまま、ヤブサメは目を潰して下さい!」
「グポーン」
《了解、とマスターは仰っています。《挑発》スキルを起動》
「踊り食いです」
「弓兵使いの荒いことで!」
三者三様、断る理由はどこにもない。
アブっさんは変わらずゴブリンロードと組み合いながら、ダメージ反射と自動回復の合わせ技で地道な削りとヘイトの集中を。
Fluoriteさんも自己バフを途切れさせないよう、一撃一撃地面を這うようにしながら鋭い槍撃で削りを入れていく。
ならば俺も、負けているわけには行かないだろう。
「《狙撃》起動。照準合わせ
2本引き出した矢を、煙玉の代わりにベルトポーチへ固定した【琥珀蜂の毒液】に浸し毒矢に変更。
そのまま指の間に2本を挟み弓を倒し、両方を同時に番え引き絞る。動いている目標の、しかも回避が比較的容易な頭。しかもその中で小さな目を狙い撃てとのご命令だ。
正直なところ全力で拒否したいが、“やれる”と見込んで任されて“やれません”と匙を投げるのはあまりにもカッコ悪い。やってやろうじゃないかこの野郎。
「アブっさん、1秒でいい。コッチに顔を向けさせて下さい!」
「グポーン」
《了解、とマスターは仰っています。
打てば響く会話の直後、2枚の大盾による強打が実行された。威力こそ最低保証ダメージが通るだけで、ゴブリンロードにとっては何の痛痒にもならないごく微量。
だが確かに、俺のいる方向に向けてその顔を向けさせた。正直システム色強めなこの技は嫌いだが、選り好みしている理由もなし。
「
呼吸を抑え、予測した未来の場所へ矢を置きにいく。
『ふん、狙いを明言しての射撃な、どッ!?!?』
「ビンゴ」
左右に並び飛翔する矢から逃れるため、咄嗟に頭を下げたゴブリンロード。その両の眼球に、
首を横に振っても片目は潰せるようにしていたけど、軸とした予想通り頭骨の傾斜で受け流そうとしてくれた。ダメージは大きくないが、一手分まる儲けだ。
『がぁぁぁっ!?』
「──隙だらけです《パワースラスト》」
組み付くアブっさんを振り解き、よろめきながら退がろうとするゴブリンロードの背後。膝裏の腱を切るように、衝撃音を響かせながら槍が穿ち抜いた。
「グポーン」
《スキル《チャージ》、技《シールドバッシュ》を起動》
堪らず膝をついたロードの真正面、大盾を2つ構えた6腕戦車が突撃する。否、
ダメージこそ殆ど通っていないが、大きくロードを吹き飛ばし転倒させる。敵を抑えるべきタンクが敵から離れるという、本来ならば避けるべき状況。だが今に限っては、それは次なる攻撃への備えとなる。
『小癪な……!』
「ボンバー行きます!」
両眼に突き刺さった矢を引き抜き、戦斧を手に立ち上がったゴブリンロード。その全身に、絨毯爆撃と言っても過言ではない大爆発が巻き起こった。
それはまるで、STGのボムのように。ダメージ量は然程でもないが、弾幕を消滅させるに足る
「さあさあ、これが今の私の全力全開!」
そしてここで問題だ。
一体この弾バカが魅了された弾幕とは、一体どんなゲームであったのか。
簡単なソーシャルゲーム? 違う。
古の横スクロールSTG? 違う。
巫女が異変を解決する物? 違う。
『なんだその姿は──蜂!?』
弾バカが魅了されたのは、発売から幾星霜を経てなお、人類卒業試験と名高い金字塔of金字塔の弾幕だった。
弾幕の光を纏った弾バカの姿は、驚愕するロードが叫んだ通りまさに蜂。死ぬがよいとでも言いたげな暴力の塊が、今か今かと解放の時を待ち侘びて。
「フ グ 刺 し 特 盛 り で す!!」
解き放たれる。
正面から見たその紫色の鱗のような弾の群れは、まるで翼を広げた孔雀の羽根のように。或いは並べられた“てっさ”のように。螺旋を描きながらも美しく、殺意に満ちた輝きを以て夜陰に吹き荒れた。
「フグ刺し……」
Fluoriteさんが釣られるのは分かってたけど、涎くらいは隠す努力をしてほしかった。
「グポーン」
《凄い弾幕だね、とマスターは仰っています》
「そうですね。でも、削り切ることはできない」
3割くらいは魅せ弾として放たれており当たっていないものの、ゴブリンロードのHPは既に6割を切った。だが弾バカの自己申告によれば弾幕の持続時間は残り5秒。順当に削れたとして、このペースだと3〜4割は残る。
「バフを掛け直します! ヤブサメは無粋ですが援護射撃、アブっさんは弾幕後の発狂待機、Fluoriteも回避を念頭に置いて下さい!」
どうするかと悩むより早く、後ろから頼もしい指揮が飛んできた。相変わらずタイミングがいい、こちらの手綱を取る感覚が抜群だ。
「とはいえ……」
『ええい、鬱陶しい!』
弾バカを狙うゴブリンロードの動きは激しい。弾幕の被弾を最低限で済ませながら、着実に一歩ずつ近づいている。故にこそ、下手に弓を撃つことが出来ない。
下手に撃てば弾幕に巻き込まれ撃墜。狙い打つにしても、今の俺では防具の上から防御を抜けない。或いはバフが盛りに盛られた今なら或いは、とも思ったが。
「ちっ。やっぱりゴリラ
試しに弾幕を縫い撃ってみた通常狙撃とパワーショット狙撃。そのどちらもが、カンッという虚しい音と共に弾かれ意味を成さなかった。通ってくれれば、未だ発症させられていない〈毒Ⅰ〉を狙いやすかったんだが。
「グポポーン」
《ゴリラ力ってなに? とマスターは仰っています》
「
「!?」
いいタイミングで弾幕の密度が薄まり首を晒していたので、全力のスナイピング。人で言う延髄あたりに矢は着弾し、ゴリッとHPを削り飛ばした。
これでHPの減少幅は5割。10%刻みの90〜60で何も起きず、20%刻みの80・60で何も起きず、25%刻みの75%でも何も起きなかった。
タングデサントで移動中の弾バカ曰く『そういえば途中から火の玉でサーカスしてきた気がする』との話。それが来るとしたら、恐らくこのタイミングだと思うが……
『未だ力の足りぬ“渡り人”風情がよくぞここまで削った。だが、その進撃もここに終わる』
弾幕が尽きるまで潜り抜け、HPを4割強残したロードが不敵に笑う。ぐるりとこちらを見渡した目は、格下を甚振るものから敵と相対するものに変わっていて。
『いでよ、我が配下ども!』
戦斧を天に掲げたゴブリンロードの後方に、2つの火柱が立ち上がった。そして次瞬、炎の中から新たな敵が出現する。
「状態異常に〈怒り〉を確認!
効果は火力増大、解除時スタン!
時間経過で解ける!
パターン変化来ます!」
後方からの情報共有の中、現れたのは2体のゴブリン。
片やゴブリンらしいボディに捻くれた杖とローブを羽織ったシャーマン。
片や同様の身体に歪んだ印の刻まれた杖とローブを羽織ったプリースト。
取り巻きの
「取り敢えず殺っときますか」
「──ロードの方がまだ美味しいです。うぇ」
何の活躍をすることもなく、否、アクションを起こすことすら出来ずに剛弓と竜槍の露と散った。
いやまあ、うん。かっこいい出現演出だし、まともに戦闘に加わられると果てしなく面倒な手合いだけど……
『捉えたぞ、“渡り人”』
なんて、順調に進み過ぎた弊害か。一瞬だけ気が抜けた間隙に、ゴブリンロードの行動は終わっていた。大きく振りかぶられた、燃え盛る巨大な戦斧。どう見ても範囲攻撃、推定50%技。
後衛も後衛であるクローニンには届かなそうな距離だが、俺、弾バカ、Fluoriteさんにアブっさんは攻撃範囲圏内。死んだかな? 死んだかも。
『
解き放たれた燃え盛る斧の大旋回。それに合わせて全方向に、炎の津波が巻き起こる。近距離であれば斧の破砕が、遠距離であれば魔法の炎が焼き尽くす大技だ。そして、俺の紙耐久ではそれを耐えることは不可能。
「グポーン」
《技《カバーリング》を起動》
仕方ない、と反撃の一矢を撃とうと構えていた瞬間。視界が塞がった。正確には、凄まじい速度で移動してきたアブっさんが目の前に出現している。
大盾の
「ありがとうございます!」
「グポポーン!」
《是非に及ばず、とマスターは仰っています》
だが俺を庇ったことで、残りの2人には炎の津波が直撃した。前衛であるFluoriteさんはともかく、きっと弾バカは落ちただろうと考えが脳裏を過って──
「バー↑リヤー↓wwwヘイキダモーンwww!」
『貴様ぁぁぁぁぁ!!』
シャカシャカと小刻みに動きながら煽り散らかす姿が見えて、何もかもが一気に霧散した。そういや障壁魔法で壁作れましたね貴方。けど
「光魔法《エリアヒール》!」
そうしてロードが気を引かれているうちに、降り注いだ光の雨。それがダメージを負ったアブっさんとFluoriteさんのHPを最大値まで回復させた。
「ちょっと肩借りますね!」
そしてヘイトを集めてくれるのは、俺としても狙いやすくて助かる。
視点を高く取る為に、一旦アブっさんの肩に登り全力で弓を引く。番えるのは毒矢。《狙撃》スキルを起動、怒っているおかげで動きの予測なんてし放題。
「《スナイプショット》《ファストショット》《アーマーピアス》」
3連続で狙撃。延髄の矢に対してロビンフッドを決めつつ、左右の膝裏にも矢をお届けした。そろそろ俺もSPが半分に届きそうだし、継戦能力的に厳しくなってくるが……
「〈毒Ⅰ〉の状態異常出ました!
でも同時に〈一時耐性:毒〉が出現!
毒矢の効果は保証出来ません!」
「センキュー!」
手を振って挨拶しつつ、足場にしていたアブっさんから降りて一時撤退。
「グポーン」
《スキル《チャージ》《挑発》を起動します》
エンジン音を轟かせながら突進する姿を見送りながら、矢を矢筒に入れられるだけ再装填。ベルトポーチのアイテムを【琥珀蜂の毒液】から【琥珀蜂の蜂蜜】に変更し、付与できる状態異常を〈毒Ⅰ〉から〈魅了Ⅰ〉へ切り替える。
「怒り状態解除までカウントダウン!
10、9、8、7──」
そしてそうこうしている間に、大きなチャンスが巡ってきた。
一体何秒の
「──3、2、1、0!」
『ぐ、ぬぅ……』
クローニンのカウントが終了すると同時に、がくんとゴブリンロードの膝が折れ動きが止まった。
「
「弾幕魔法!」
「《ファストスラスト》から《ダブルスラスト》まで接続」
「グポーン」
《スキル《チャージ》技《シールドバッシュ》を起動します》
「《スナイプショット》」
瞬間、殺到するのは最大火力。
防御を抜けないクローニンを除き、全員が己の持ち得る最大火力を叩き込んでいく。
《Guardian of Auster“Goblin Lord” Lv??》
II
〈毒Ⅰ〉〈魅了Ⅰ〉〈怒りⅤ〉
そうして遂に、スタンからの回復を待たずにHPは残り1割のラインに達して。
『よもや、今日この日にここまで追い詰められるとはな』
演出が入ったのか、HPゲージの変動が止まったゴブリンロードが呟く。ここからが弾バカも単独では敗北した発狂モード。それを察して、弾バカ同様に一気に距離を取る。
『汝らに夜明けを目指す力があることを認めよう』
フィールドが燃え上がり、決戦のバトルフィールドが形成。
『故に、ここからは加減なし。全力で叩き潰す!』
「発狂モード、来ます!」
夜の闇を煌々と照らす炎の中、咆哮が響き渡った。
PN:クローニン
称号:ニュービー
種族:人間
Lv:14 所持金:8420 G
【ステータス】
HP:87
MP:132
SP:102
Str:5 Dex:20
Vit:20(23)Agl:15(17)
Int:35(40)Luk:20
Min:20(23)
【スキル】
《光魔法Ⅲ》《補助魔法Ⅱ》《鑑定Ⅱ》
《MP消費軽減Ⅱ》《MP自動回復Ⅱ》
《魔法拡大Ⅱ》《看破Ⅱ》
【装備】
頭:
胴:初心者のローブ(Vit+1 Min+3)
右手:初心者の呪符
左手:
腰:多機能ベルト(Vit+1)
足:初心者の脚衣(Vit+1 Agl+2)
アクセサリー(0/10)
・呪符ホルスター
・薬箱〈大〉(回復量強化5%)
・知力の指輪(Int+5)
・回復のシンボル(回復量強化3%)
〈補助魔法〉
・エンハンス(SP3)
初期魔法。対応する呪符1枚を消費して、基礎ステータスの何れかを20%上昇させる。抵抗は任意(Int対抗)
・リデュース(SP3)
初期魔法。対応する呪符1枚を消費して、基礎ステータスの何れかを20%下降させる。抵抗は任意(Int対抗)
・トランスファー・マナ(SP0)
Ⅱ魔法。対応する呪符1枚以上を消費して、味方1人に自分のMPを供給する
・トランスファー・ヘルス(SP0)
Ⅱ魔法。対応する呪符1枚以上を消費して、味方1人に自分のHPを供給する
・トランスファー・スタミナ(SP0)
Ⅱ魔法。対応する呪符1枚以上を消費して、味方1人に自分のSPを供給する
私自身は真アキ(虫姫さまスマホ版)の発狂を越えられない程度のシューターでした。火蜂?無理無理。