縁結びの暴太郎 作:ろくべりあ
未来、或いは過去の自分―――緑谷出久へ。
これは日記と言える程大したものじゃない、メモみたいなものだ。僕……と何人かに見せることはあるかもしれないけど、僕が経験したことを記録するヒーロー研究ノートの一部分に過ぎないモノなんだ。
普段から冴えなくて、何かと不遇な僕だけど……強烈な出会いがあったんだ。もっと上手い言い方があるのかもしれない。けど強烈って言葉がぴったりな出会いだったんだ。下手をしたらオールマイトと同等、もしくはそれ以上の出会いが。
過去の自分に何か言葉を送れるなら『運命を受け入れろ』、
未来の自分に何かを聞けるなら『僕は今無事ですか』。そんな劇的な出会いだった。
世界の総人口の8割が個性という特異体質を持ち、多種多様な人が存在するこの世界。ヒーローとかヴィランとかの他にも色々奇天烈な人はいるけどその男はとにかく奇妙で、強烈で……物凄い変な人だった。
出会うべきでなかったかもしれない。けどもう関わらない、他人の振りをするなんてことは無理だろう。僕と彼との間には『縁』が出来てしまったのだから。
そんな彼との出会い、それはヘドロ事件から月日が経ち、雪も降るような寒空が広がる日。
珍しく都内に雪が積もったという話題以外特に持ち上げるようなものも平凡な一日だったけど、この日が僕が平凡と呼べる日常との別れだったかもしれない。
オールマイトの指導の下トレーニングを行っていた僕は白面の道路を一人走っていた。人通りも少なく、ヒーロー事務所もすぐ近くには無い閑散とした道だった。
「はっ……はっ……」
息を整えつつ、一定のペースで走っていく。体中を血液が脈打つ。オタク気質で引きこもりがちだった身体が健康的な身体へと変貌しているのを身で感じていた。おかげで辛いトレーニングにもめげずに取り組めていた。
白い息が宙へと消えていくのを見ながら走っていく。すると突然目の前に巨大な壁が現れて、僕は足を止めた。
「いけないねェ……こんなとこに子どもが一人でいたらさァ」
壁のように見えたそれは壁じゃなかった。それは壁ではなく人、背丈は3mを優に超えている。黒一色のコートがその男をより不気味に感じさせていた。
「すみません、ランニングに夢中になってたらこんな場所まで来てしまって」
「トレーニングかぁ偉いねェ……なんでトレーニングを?」
「ヒーローを、目指してるので」
「……ヒーローォ? オイオイオイオイ!」
その一言を聞いて巨漢の態度が豹変する。近くに置かれていたベンチは男によって破壊され、その破片が辺りに飛び散った。
「ヒーローになられちゃあ困るなァ」
「……なんでですか?」
「そりゃあ……俺がヴィランだからだよォ!」
先ほどベンチに振り下ろされた拳が僕にも振り下ろされる。僕はその拳をヒョイと躱して見せた。以前の僕ならぺちゃんこだろうけど、鍛えた成果が着実に現れていたんだ。
「んォ?」
「これなら……いけるかも!」
この時の僕は調子に乗ってた。初めて感じる身体が鍛えられていく感覚に酔い、今なら並みのヴィランくらいなら切り抜けられる……なんて考えてた。
「あぅ……」
「大したことねェなァ。こんなんでヒーロー目指してたのかよォ」
けどそんな自信は数秒後に僕がのされたことで簡単に打ち砕かれた。
結果は案の定惨敗。というか相手にもしてもらえず、一発KO。
冷静に考えればそんなので勝てれば『無個性』ヒーローなんていくらでもいる。生半可な鍛え方でヴィランに勝てるわけがなかった。
「まァいいわ。お前を人質に強盗し放題だ、人質がいりゃヒーローなんてハエも同然だしよォ」
「……ッ‼」
「おいおい暴れんなって」
肩に担がれた僕は必死に抵抗する。けれど個性無個性以前にフィジカルが明らかに違うのだ。いくら鍛えた体でもそのフィジカル差を覆すことは出来なかった。
「これでガッポガッポ、夢が広がるってもんだ……なァ坊主?」
「ッ、誰かぁぁぁぁ‼」
救けを求めひたすらに叫ぶ。人通りの無いこの付近にもヒーローがいると信じて。
けれどその叫ぶに答える者はなく、ただ自身の叫びが木霊するだけだった。
「残念だなァ、今この付近にヒーローはいねェ。そこらへんもちゃんと調べて動いてんだよ」
今の時代、悲鳴を聞けばヒーローはすっ飛んでやってくる。が、悲鳴を出してもヒーローは来ず、代わりにヴィランの手下らしい人たちが出てきて状況は絶望的だった。もう逃げることはどうあがいても出来ない。
「そんな……」
「あぁ~そんな顔するなァ。ほらほら、笑え笑え。アーッハッハッハッ!!」
優越感に浸った顔でヴィランは僕に笑うように急かしてくる。こんな状況で笑える人間なんているはずがないのに。
「はーっはっはっはっ!!!」
けれどそのヴィランの言葉に返すように特大の笑い声が辺りに響き渡った。
「⁉ お前か⁉」
ヴィランは目を丸くして僕の方を見る。けれどヴィランもすぐに僕が笑ったわけではないことに気付いただろう。目を丸くしているのは僕も同じだったのだから。
そして数秒も経たぬうちにその笑い声の正体はやってきた。
煌びやかな神輿に乗って。
「祭りだ祭りだァ!!! 踊れ、歌え‼」
「はぁ⁉」
「なんだよありゃ⁉」
神輿を支えるは上裸の屈強な男たち、天女とも言うべき人数人が周りで舞う。そしてその上で扇子をはためかせるは赤いタイツかのようなスーツにサングラスを掛けたかのような面をした男。背にはそこにある筈もない桃源郷か何かが見えていた。
人通りの無い、白面の道には似つかわしくない。というかこの状況下に存在する物とはその場にいる誰もが信じられなかった。
「袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端くれ。ともに踊ればつながる縁……この世は楽園! 悩みなんざ吹っ飛ばせ!!!」
「うるせぇ奴だな、やっちまえ‼」
「そうこなくちゃな。さぁ勝負勝負‼」
ヴィランの手下が神輿へと駆け、たどり着くよりも先に赤男は神輿から飛び降りる。飛び降りるまでわずか1秒。けれど僕が瞬きした次の瞬間には手下の数人は地に伏していた。
「なっ、どうしたお前ら⁉ まさか一瞬で……⁉」
「こんなもんか? もっと楽しもうぜ‼」
どこからともなく剣を赤男は取り出すと、今度はこっちの番だと言わんばかりにヴィランの方へと一直線に駆けていく。
「そらそらそらそらァ‼」
虹色に輝く剣を叩きつけるかのようにヴィランへとぶつけていく。当然ヴィランも対抗しようとするが赤男の速さには追い付けない。
「遅い遅い! どうしたどうしたァ!」
「ぐわァッ⁉」
「いでェ⁉」
「まだまだァ‼」
雑魚の群れの合間を赤い閃光が縫って行く。
速い‼ 強い‼ 何よりうるさい‼
それが目の前の男に対する絶対的印象だった。
「何やってんだお前ら! ヘンテコなグラサン野郎一人倒すだけじゃねぇかよ!」
「す、凄い……」
「ぃ~よいしょッ! そらそらそら!」
一人、また一人と斬って蹴って張り倒していく。
この時点では『うるさい』の印象が強かったけれど1対多の圧倒的不利な状況を気にもかけず敵をなぎ倒していく姿は正しくヒーローだった。
倒すというよりは暴れてるという表現が正しいのかもしれないけど。
そんな風に思っていた時だった。
手下の敵を一層したサングラスの男が僕を担いだ親玉の方へと身体を向ける。
敵を見据えてかジリジリと近づいてくる男。けれど彼の視線の向かう先は敵の方ではなく、僕の方だった。
「お前、今俺を見たな⁉」
「へ? ぼ、僕?」
「そうだ‼ これでお前とも縁が出来た‼」
唐突に何を言い出すんだこの人は。
戦闘中も叫んでばっかりだったし実はヤバイ人なのかもしれない……と高々に叫ぶ男を前に疑念を抱きつつあった僕だったが、その疑念がはっきりするよりも先に男は言葉をつづけた。
「それで? そこでお前は何をしている?」
「何ってそりゃ「人質に決まってんだろ! イカレ野郎が!」」
僕のことなど気にすることなく、敵が男に対し叫ぶ。
息が荒立っていたところからも相当頭に血が上っているようだった。何人もいた部下がたった一人、それも変な登場してずっと笑っているような人にあっと言う間にやられてしまったのだから無理はないと思うけど。
「ふむ、人質か。それは災難だな小僧」
「ようやく理解したか……いいか、お前が動けばコイツの命は「ならば今助け出してやる‼」」
「何を……ッ⁉」
今度は敵の言葉に男が言葉を被せる。余計に怒りを募らせる敵だったが次に僕が目を開いた瞬間には男の足が敵の顔面にめり込んでいた。男は持っていた剣を振るい敵の腕から僕の身体を自由にさせると、同人僕を抱え込み敵を踏み台に数メートル奥の方へと跳躍したのだった。
後から書き込んでいるからこうも丁寧に書けるけど、実際には瞬き数回、いや一度の瞬きのうちに起こったことだと思う。瞬時に僕は解放され、敵は地に膝を付く。正に一瞬の出来事だった。
「ッ、てめェ‼ 生きて帰れると思うなよォ‼」
「はーっはっはっはっ‼ やれるもんならやってみろ‼」
救出劇も束の間、両者駆け出し刃と拳を交える。体格は一回りも二回りも違う両者だったけど男はそんな体格差など関係無いとばかりに軽い身のこなしで敵の攻撃を受け流し、荒々しくも的確な攻撃を男は敵へと与え続けた。
男に拳が当たることはなく、敵の身体に傷は一つまた一つと増えていく。敵の方のタフネスも凄かったけど勢いは完全に男の方にあった。
「クソっ……何なんだよ畜生! ここら辺に居るヒーローの情報を予め調べてたってのに……何でお前みたいに強い奴がここにいるんだよ! 神の悪戯だとでも言うのかよ!」
「俺がそんなこと知るか。 そろそろ祭りも終わりだ、さぁ行くぜ‼」
「クソォォ!!」
自棄になった敵が男に捨て身の一撃を与えんと突っ込んでいく。対する男は剣に備えつけられている歯車のようなものを回す。すると男の持つ剣は虹色に輝きだし、男の背後には真っ赤な富士が見えたような気がした。
いや多分見えてたんだと思う。疲れとか寒さからの幻覚でなければ。敵も驚いてたし。
「……は? なんだよコレ……」
「桃台無敵・アバター乱舞‼」
『モーモタロ斬 モモタロ斬』
どこからともなく謎の掛け声が聞こえてくると同時に辺り一面が暗闇に包まれる。その暗闇で光るのは男の持つ虹色に輝く剣、そしてその光を反射する男のサングラスだけだった。
『必殺奥義! モモタロ斬』
虹の閃光が弧を描きつつも敵の身体を裂いていく。その閃光は目では追えない速度で敵をあらゆる角度から、あらゆる場所を切り刻む。そして最後の一太刀が敵の身体へと振るわれ、敵の身体は辺り一面の雪をかき消すほどの大爆発を起こした。
「決まったな……!」
「え……えええええええ⁉」
そう大爆発。なんで爆発が起きたかはわからないけど立て続けに起こる理解不能な出来事に僕はもう驚くことしか出来なかった。
「おう、大丈夫か小僧!」
「ぼ、僕はおかげさまで大丈夫ですけどあなたの方は⁉ 今の爆発あなたも当たってるように見えましたけど⁉」
「安心しろ、ただの演出だ!」
「え、演出……?」
もうわけがわからなかった。富士山が見えたり急に暗くなったり、挙句の果てには大爆発。明らかに演出とか幻覚の域を超えたものだったのは確かだった。けれど大爆発なんてしたら周りの物も壊れそうだし雪なんてすぐに溶ける筈なのに爆発前と何も変わらない。いつもの風景がそこに広がっていたんだ。
「演出……ですか?」
「そうだ、演出だ! 祭りには派手さも大事だからな!」
この時僕は思考を放棄した。助かったんだからいいんじゃないか、と。『演出』とはなんと便利な言葉なんだろうとその時の僕は本気で考えていたように記憶している。いつもは人の意見にはあまり反発しない僕だけどこればかりは誰だってこうなると胸を張って言えると思う。
そんな風に思考を放棄している僕の前では男はいつの間にか剣をどこかへと収めていた。
「おい、大丈夫か」
「……」
「おい、大丈夫か!」
「は、はい! ありがとうございました!!」
「気にするな! 俺との縁は超良縁、困った時は俺を呼べ!」
「ありがとうございます。それでお名前は?」
「よくぞ聞いてくれた!」
僕の言葉に反応してか男がグイッと顔を近づける。
表情の変わらないマスク?だからか余計に怖かった。
「俺の名はドンモモタロウ!」
「ドンモモタロウ……」
「じゃあな小僧! はーっはっはっはっ!!!」
「ちょ、ちょっと!」
慌てて呼び止めるも今度こそ駆け出した彼の動きは止まることはなく、ものの数秒で僕の視界からドンモモタロウは姿を消した。
雪の絨毯に残されたのは僕と倒れ伏す敵複数名。防犯カメラなどが無い場での事件だったことから爆発の音で駆け付けた警官への説明に苦労したのは言うまでもないことだと思う。
―――――――――ピンポーン
「出久~、郵便受け取っといて!」
「はーい! ……キリも良いしここら辺にしとこうかな」
母の声を聞いた出久は筆を置き、部屋を出ると呼び鈴の鳴らし人の待つ玄関へと向かう。
日時から察するに雄英高校の教科書などが届く頃合いだった。憧れの雄英高校のモノを早急に受け取るべく出久は急ぎ足で玄関の前に立ち、扉を開けた。
「よっと……お待たせしました!」
「こんにちはシロクマ屋……お前、やっぱり縁があるな」
「え?」
「何、気にするな。ここにサインをくれ」
「は、はぁ……」
「……よし、サインはこれで大丈夫だ。学生生活頑張れよ。えーと……緑谷出久!」
「ありがとうございます……? その……桃井さん? も頑張ってください」
「おう、じゃあな」
出久は軽くお辞儀をして扉を閉めるとリビングへと荷物を運ぶ。これまでに経験の無い宅配でのやり取りを出久は今経験したのだった。
「雄英高校の届いたんだ! よかったわね出久……ってどうしたの? 何とも言えない顔して」
「いや何というか……不思議な人っているもんだねお母さん」
(フランク過ぎてびっくりしたけど……悪い人じゃなさそうだ)
また会えるかな、なんて出久は思いつつ雄英からの宅配物を開封していく。
この時の出久は知る由もなかっただろう。出久と『彼』との間には既に『縁』が結ばれてしまっているということを。
ここから始まるはドンモモタロウと緑谷出久らの奇想天外なお話。過去語りになるのか、それとも進行形になるのかもわからない。そんなお話の始まり始まり。
オムニバス形式的なアレになる予定。つまり「どの話から見てもヒロアカ本筋の話を知っていれば楽しめる」的な流れにするつもりなんですね、ハイ。
この形式にすればいつでも投稿ストップ出来るし、続けられる。加えて匿名投稿にすることでサボっていることもバレまセーン。ま、忙しいから書けてないだけなんですが。
ワーオ! アンビリバボー! ミーの策略は完璧デース!