【短編】私は謎の旅商人   作:ウルハーツ

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何となく思い付いて書いた短編その9です。


本編

 私の家系は代々、商人をしている。それも決まった住処を持たない旅商人だ。ファンタジーなこの世界でダンジョンや偉い人の建物なんかにも現れて『何でこんな所で店を開いてるんだ?』って思われる神出鬼没なあれ。

 

 物心ついた頃から気配の消し方を叩き込まれた。それこそ魔王とか存在しているこの世界で、魔王の側近辺りまでは誤魔化せるレベルにまで。

 

 そう、この世界はド定番の王道系RPGの世界らしい。勇者とか魔王とか、子供の頃から頻繁に聞いていた。そして代々と言う通り、魔王も勇者も繰り返し生まれている訳で……ここまで話せば察している人も多いと思うけど、私はこの世界の住人じゃない。いや、正確にはこの世界に生まれたけど、私は前世の記憶があるパターンの所謂ありふれた転生者だったりする。

 

 父と母は前代の勇者パーティーに協力する様に、旅の行く先々で商売を繰り返していたらしい。それが私達の家系がするべき使命だと教わって来た。因みに顔は知らない。私が赤ん坊の頃の話であり、育ててくれたのは祖父母だったから。

 

「新たな勇者が旅立つそうじゃ。準備は良いな」

 

「ん……ありがとう、おばば」

 

 そして私は今代の勇者を支える為に、旅商人として旅立たなければいけない。別に嫌って訳ではないけれど、今まで育って来た場所を離れる事やおばば達と会えなくなるかもしれない事がとても寂しく感じている。

 

 因みに私の両親は帰って来ていない。流れ的に私は旅立つ前に子供を残して行かなきゃいけなかったんだけど、残念ながら誰かと結ばれる事なんて無かった私は旅商人の後継者を残さずに旅立つ他に無い。……まぁ、こんなチンチクリンで無表情の子供に欲情する男とか、ロリコン以外の何物でも無いからこっちから願い下げなんだけど。

 

「今代の勇者達の旅路をしっかり支えるのじゃぞ」

 

「……行ってきます」

 

 常に気配を消す様に教え込まれた私は、家を出ると同時に誰の目にも留まらない様に気を付けながら出発する。勇者が向かう場所は何処なのか、今代の勇者達を見つけて話を盗み聞きする事が、まず最初にやるべき事だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王を倒す為の旅。そう聞かされて私達は仲間と一緒に数多くの危険を乗り越えて来た。時には盗賊を倒しに行ったり、時には更なる力を求めてダンジョンに潜ったり。

 

「……いらっしゃい」

 

「また居る。ねぇ、どうやってここまで来たの?」

 

「……企業秘密」

 

 そんな私達を支える人が仲間達以外にも1人。それは私達の行く先々に現れる謎の旅商人。真っ黒なフードを目深に被っていて、声も何かを通してるみたいに変なせいで性別が分からない。数少ない分かる事といえば、かなり小柄でどんな危険な場所でも怪我一つしないで来れる程の実力があるって事くらい。

 

「マジックポーションを3つ貰うわ」

 

「……500」

 

「少し高くなってません?」

 

「……出張料金」

 

「いや、何で皆そんな当たり前みたいに受け入れてるのさ!?」

 

「?」

 

 魔法使いと賢者の仲間が驚いた様子も見せずに買い物している姿を見て思わず叫んでしまう。だって、どう考えてもおかしいじゃん! 結構ここに来るまでに現れた魔物とか、苦戦する奴も多かったんだよ? なのに怪我一つせずに当たり前の様に鎮座して私達に商売をするなんて、変だよ! 行く先々に現れるのもおかしい。まるで私達の向かう先を知ってるみたいに。

 

「……買わない? ……新装備、あるよ?」

 

「むっ、見せて貰おうか」

 

「だから、騎士ちゃんも普通に買い物しないでよ! 第一、何処でそんな品を集めて来てるのさ! しかも毎回毎回今の奴より良い装備だし!」

 

 いくら聞いたって、結局答えてはくれない。それは分かってるんだけど、気になって仕方ない。それこそこのまま魔王の城に攻め込む時とか、お城の中でもお店を開いて待ってそう。……え、言って思ったけどまさかそんな事無いよね? 流石にそんな場所にまで来ないよね?

 

 

 その後、長旅の末に魔王の城へ辿り着いた私達を最初に出迎えたのが謎の旅商人だった事に頭を抱えるのは未来の私の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅商人として勇者達の旅を支えていたけど、ちょっと予想外だった事がある。

 

 まず最初は勇者が勇者ちゃんだった事。いや、勝手に勇者=男だと思ってた。別にそんな決まり無い筈なのに、そう決めつけていた。でも実際には日本人見たいに黒髪の突っ込みが多い女の子だし、仲間だって全員女の人だった。

 

 八重歯の似合うとんがり帽子が愛らしい茜色の髪をしたちょっと上から目線の魔法使いちゃん。

 プラチナブロンドの聖母みたいな微笑みが特徴的な敬語口調の賢者ちゃん。

 栗色の髪をポニーテールにした仏頂面で口数が少ないものの、誰よりも仲間を守る事を使命としている騎士ちゃん(さん)

 

 皆女の人で、ちょっと安心したのもある。男の人だったら怖く感じていたかもしれない上に、勇者が全員素晴らしい人格とは限らないらしいから。中には商品を強引に奪おうとする野蛮で横暴な勇者も居たらしい。その代の旅商人は完璧に勇者相手に気配を消して、勇者以外の真面な仲間達に商売をする事で支えていたと聞いている。

 

 次に予想外だったのは、勇者ちゃんが私の神出鬼没さを警戒し始めた事。まぁ、結局は不安そうにしながらも買い物してた上に最後の最後まで味方で居たから別に問題は何も起こらなかったけど。でもゲームじゃ当たり前の様にしていた事も、現実に起きるとちゃんと警戒はするみたいで人間味を感じられて良かったかな。

 

 さてさて、勇者ちゃん達の魔王を倒す旅は無事に終わった。これで私の旅商人としての役目も無事に終了して、後はゆったりと余生を謳歌しよう。子供とか居ないけど、多分何とかなるんじゃないかな。あれ、旅商人の家系って私で最後だったら私が子供産まないと途絶えたりする? ちょっと不安になって来た。

 

 現在、私は勇者ちゃん達の帰路を陰から見守りながら進んでいる。場所は木々の生い茂る森の中。帰るまでが遠足とはよく聞いたもので、魔王を倒す旅も帰るまでが旅だ。野を超え山を越え、何とか辿り着いた魔王の城からの帰り道は来た道と同様に険しい。私は別に気配を消せるから危険な生物にも気付かれないけど、勇者ちゃん達は違う。まぁ、魔王を倒した腕があるから危ない事なんて無いと思うけど……偶にはアイテムの補給もしたくなるだろうしね。

 

「……いらっしゃい」

 

「あら、奇遇ね?」

 

「ちょうど回復アイテムを切らしていたところでした。商品を見てもよろしいでしょうか?」

 

「ん……どうぞ」

 

「もう突っ込まない。私はもう突っ込まないからね」

 

「何を言っているんだ、勇者? むぅ、新しい武器は無いのか?」

 

「……魔王の城で、売った武器。……あれ、最高級品」

 

 何時も通りに先回りしてお店を開いて待ち伏せ。装備品の購入は全く期待して居なかったけど、回復系統のアイテムは沢山売れた。これでしばらくは大丈夫だと思うから、3つくらい先のダンジョンでお店を出すくらいで良いと思う。つまり、ピッタリ後ろを尾行する必要はないって事。

 

 実はここへ来る前に森の中で温泉らしきものを見つけた。勇者ちゃん達はとっとと先に行くと思うから、ここで商売をしておけばゆっくり浸かって行けるかもと思ってる。気配を消しながら旅に着いて行く中で、温泉とかに入った事は一度も無い。もう使命も殆ど終わってるんだから、羽を伸ばしたって罰は当たらないと思う。

 

 商店を閉めれば、勇者ちゃん達は先へと進み始める。温泉は少し来た道を戻った場所にあるから、大丈夫。ここまでの疲れを一気に発散しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「温泉?」

 

「うむ。お主らが超えて来た森には大自然が生み出す温泉があっての。どんな疲れも忽ち癒されると伝わっておる」

 

 森を超えて最初の村で、私達は村人からそんな話を聞いた。ここは魔王の城へ向かう途中に立ち寄った村で、私達を送り出してくれた人達が居る。で、私達が帰って来た事で魔王を倒したと分かった村人の人が労いの言葉と一緒に温泉について教えてくれた。

 

「少し戻るのは面倒だけど、良いんじゃない? あたし達、頑張ったもの」

 

「そうですね。時折宿で湯浴みをする事は出来ましたが、大自然の中で魔王を倒した後の温泉は心の芯まで癒される事でしょう」

 

「あそこの魔物なら大した事はない。魔王が消えた今、より弱体化しているだろうからな」

 

「じゃ、満場一致だね。温泉へ行こう!」

 

 って感じで私達は温泉へ向かう事にした。来た道を戻ると言う事は、さっき出会った謎の旅商人が居るかな? とか思ったんだけど……買い物した場所にはもう誰も居なかった。

 

「あの方も私達を物資で支援してくださっていました。教えて差し上げたかったですね」

 

「えぇ~、多分あれ男でしょ? あたし、一緒に入るのはごめんだわ」

 

「温泉の場所を教える。それだけすれば良い話だ。覗きに来るような不埒者では無いだろう」

 

「まぁ、居ない者は仕方ないよ。それより、温泉温泉♪」

 

 気を取り直して私達は温泉に向かう。村人の人から聞いた話や森にある目印を辿り続ければ、少し歩いた先で私達はそれを見つけた。暖かい事を示す湯気が立ち上る、それはもう大きな温泉。泳ぐのだって余裕で出来ちゃうようなそこには、ポツンと人の影があった。それに、何か落ちてる?

 

「むっ、先客が居る様だな」

 

「私達だけじゃ無いの? 男だったら、後に入るのなんて嫌だからね」

 

「見るに子供の様ですが……勇者様?」

 

「? どうしたのよ? って、それ……」

 

 信じられなかった。だって、私の手にあるそれは明らかに見覚えのあるフード付きのコート。しっかりと畳まれているのを見るに、本人が脱いでここへ置いた事が伺える。そして温泉には先客が居て、明らかに子供で……私はようやく、その姿をハッキリと捉えた。

 

 

 木々の間から差し込む太陽の光と温泉の水面が反射する輝きの中、一際輝きを放つシルバーの髪。正確な長さは先端が湯に浸かっていて分からないけど、多分腰上くらいまで伸びてると思う。

 

 湯に浸かっている事で血行が良くなっているのか、白過ぎない健康的な色の肌は触ったらプニプニとして心地良さそうに見える。決して太ってる訳じゃない。子供特有の柔らかさを感じさせるって事で、華奢なその細腕は大人が力を加えれば簡単に折れてしまいそう。

 

 胸はまだ成長途中なんだと思う。でも平らって訳じゃない。ちょっとだけ膨らんでいて……下は浸かってるから見えないけど、一切無駄毛が無いのを見るに多分生えて無いと思う。

 

 

「う、そ……嘘よ……」

 

「ぁ……あれは、正しく……妖精……」

 

「確かに男だと本人は言っていなかったな。私達が勝手に誤解していたのか、旅商人(彼女)を」

 

「…………」

 

 私達は正しく開いた口が塞がらなかった。まだあの見目麗しい少女は此方に気付いていない。あれが神出鬼没な謎の旅商人の正体だと決まった訳じゃないけど、殆ど確定と言って良いと思う。今の今まで正体を明かさなかったのは、自分の姿を見られたく無かったから何だと思うけど……私達は知ってしまった。

 

 そして、私は完璧に魅了されてしまった。

 

「ちょ、勇者!?」

 

「何をするつもりですか! 妖精様に手荒な真似をするなら、許しません!」

 

「一瞬で服を脱いだな。そんな才能があったのか、勇者」

 

 着ていた服を脱ぎ捨てる。一瞬で生まれたままの姿になった私は、温泉へ飛び込んだ。音を聞いて驚いた様にこっちを見るのは、まるで宝石の様に綺麗なエメラルドグリーンの瞳。あぁ、なんて可愛いんだろう。なんて愛らしいんだろう。私は間違いなく、彼女に一目惚れしてしまった。

 

 今まで勇者として育てられた私は色恋沙汰に全くもって無縁だった。気になる人が居た訳でもない。一緒に過ごしていて楽しい仲間達は居ても、一生を添い遂げたいと思った人はいない。……でもそれは今日までの話。あの子と仲良くなりたい。隣に寄り添って、一緒に笑って、エッチな事も出来たらしたい! ううん、絶対にしたい!

 

「私、勇者! 貴女は旅商人ちゃん? さっそくだけど、一緒に温泉でイチャイチャしよ!」

 

「……飛び込んで、来ないで……っ! 近づかない、で……っ!」

 

 泳ぎ距離を詰めてから、一気に水面を飛んで旅商人ちゃんの元へ。そのまま身体を抱いてしまおうと思ったけど、寸前のところで躱されてしまう。その後も近づこうとするけど、凄い警戒した様子で私から離れる旅商人ちゃん。無表情なのにちょっと怖がってるその姿も、最高に可愛い!

 

 それから私は温泉の中で旅商人ちゃんを追いかけ回した。でも少ししたところで魔法使いと賢者に止められて、騎士が怯える旅商人ちゃんを宥める状況に。ちょっと怖がらせちゃったけど、私は絶対に諦めない。あの最高に可愛い旅商人ちゃんと結ばれて、×××するんだっ!

 

 




22時におまけも公開します。

常時掲載

【Fantia】にて、オリジナルの小説を投稿しています。
また、一部先行公開や没作の公開もしています。
下記URLから是非どうぞ。
https://fantia.jp/594910de58
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