悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

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12/陛下はどうかい平気かい?

 

 

 

 

「アルバート・ヴァルトーレ公爵の入場です」

「……よろしい。入――――」

「失礼するゥ」

 

 ばごぉん! と乱暴に開け放たれる両開きの扉。

 

 聖王宮東館、謁見の間。

 護衛の騎士百名、王宮暮らしの臣下八十名、教会関係者五十名が待ち受けるその場において事件は起きた。

 

「な、なんたる無礼!」

「陛下のお返事も待たずに口を開かれたぞ!」

「団長ッ、どうしますか!?」

「ウルサイ。黙レ」

「団長ッ!?」

「大神官、ここはひとつお言葉を――」

「面白い事を言うのですね。私に死ねと?」

「大神官??」

「…………全員静粛に」

 

 カツン、と長杖で床を叩く音。

 ベルリオン帝国現皇帝――ジョット・ベルリオンの一言は鶴の一声のようにその場にいた誰もの口を閉じさせた。

 

 ……ただひとりを除いて。

 

「……急な来訪だな。礼節も欠けておる。一体何事かね? ヴァルトー……」

「久しぶりだな、ジ(・)ョ(・)ッ(・)ト(・)。とりあえずアレだ。言いたいコトは色々あるが降りてこい。なんだその玉座は趣味が悪いな、ははは。――ほら早く降りてこいさもないと死ぬ(ころす)ぞ??」

「――――――」

「なんだあの態度はッ! あれが帝国の主に対するモノか!?」

「見ろ! 陛下も怒りで震えておられる!!」

「なあ陛下のお顔真っ青なんだけど」

「怒りというよりあれは恐怖ですな。ほほほ。……なにゆえ?」

 

 ぶるぶると震える帝国の真なる光。

 その右手に持つ杖がカタカタとわずかに音をたてているのに誰も気付かないワケがなかった。

 

「騎士団長。いくら貴族といえど問題ある行為には口を挟むのが帝国騎士の意志ではなかったかしら? お早く口を挟みになって??」

「大神官殿、その声は神のお告げを伝えるためだけにあるわけじゃないでしょう。偉大なる貴女様からどうぞ仰ってください」

「誰かのためにあるのが騎士じゃありませんの? 人の嫌なコトを率先して行うのは騎士道に反さないと思いますが」

「人に嫌なコトを押しつけるのが教会の、ひいては女神ステラの教えなのですか? そんなことはないでしょう。ええ、もちろん」

「……お願いユリウス助けてぇ私怖いのぉ」

「我慢しろテレジア。俺だって命は惜しい」

 

 小声で会話する騎士団長と大神官はこの場において大きな発言力を持つ人物だ。

 

 国教である聖神閃教の大神官であるテレジア・ヒズトリルはもちろん、帝国騎士団のトップであるユリウス・ヘルベレナは文武両道の秀才として名を馳せた。

 齢二十三という若さにして団長に就任して経歴は輝かしい。

 

 ……が、今回は相手が悪すぎた。

 色んな意味で。

 

「……皆の者」

「陛下っ」

「とりあえず全員下がれ。退室しろ。すぐにだ」

「陛下ッ!?」

「頼む。私も頭を下げよう。いますぐ出て行ってくれ」

「おやめください陛下ッ!!??」

「はっはっは。そんな頭なんぞ下げなくていいぞジョット??」

 

 びきぃ、とアルバートのこめかみに青筋が宿る。

 もはやどちらが上の立場か分からない。

 

「――騎士団は陛下の意志を尊重する。全員下がるぞッ」

「団長まで!? 良いんですかこの状況で!?」

「教会も決定に同意します。さあ、帰りますよすぐにッ」

「大神官!? どうされたのですか酷いお顔ですよ!?」

「「良いからはやくッ!!」」

 

 各人の移動は迅速に行われた。

 率先して退出を促した団長と大神官にアルバートはニコリと微笑む。

 

「すまない、ありがとうふたりとも」

「イエ、トンデモゴザイマセン」

「これも神の思し召しですから」

「そうかそうか。良かった。――本当に良かった。何事もなくて」

「「ハハッ」」

 

 渇いた笑い声を最後にパタンと扉が閉まる。

 

 部屋の外から聞こえてくる「ごわがっだよぉユリウスぅうぅうう」「よしよし泣くな、大丈夫だ。ほら、もう俺たちは解放されたんだよ……」「うぇえぇえユリウスげっごんじでぇええぇ」「あと一年待ってくれそれで任期が五年目だから婚約制限が解かれるんだよ……」「うぇえぇええぇ」という会話には誰も触れなかった。

 

 騎士団長ユリウス、および大神官テレジア。

 絶賛熱愛中の恋する若人たちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの」

「うん?」

「こういうの、やめてくれないかな……俺(・)も困るんだけど……」

「困る? そうか、困るのか。そうかそうか。ははは」

「……え、なんですか。これ。またなにかやっちゃいました、俺? ははッ」

「ジョットォ!!!!」

「ぎゃーーーーっ!?」

 

 

 ばすぅん! と陛下の額(おでこ)に刺さる白い封筒。

 手に取ってみればどうにもヴァルトーレの家へ送られた手紙のようだった。

 

 ご丁寧に王家の印章まで押した痕がある。

 

「……これは?」

「昼過ぎにライセス殿下から届いたものだな」

「ライセス? あの子がどうかしたっていうの」

「どうに(・)か(・)してるの間違いじゃないか?? うん??」

「やめてやめて笑顔で圧かけないでだから怖いんだよアルバートはさぁ……」

「知らないのなら読め。知っているなら自白しろ。それがすべてだ」

「…………、」

 

 ぴらり、と試しに開いてみる。

 

 ちなみに封筒が刺さった額からはぴゅーぴゅー血が噴き出ていた。

 皇帝陛下にとってはそこまで大事でもないらしい。

 

 気にしていない様子だ、たぶん。

 

「なになに、えぇっと……、…………、………………」

「(にこにこ)」

「………………、…………………………、…………………………」

「(にこにこにこにこ)」

「――すまない私は急務があるのだ国政に関することでナこの件はこれまでにしよう」

「ジョットォ」

「あ痛ァ!?」

 

 横を通り抜けようとする陛下の首根っこをしっかり掴むアルバート。

 

 じたばたと藻掻いて抜け出そうとする国の光(笑)はしかしどうしようもできずにそのまま体力を消耗していく。

 

「一応訊くぞ。なんだこれは。ウン? 喧嘩を売っているのか? いるんだな? ははっ、久しぶりだなあジョット。君とは若い頃何度も喧嘩したなァ」

「待て待て待て! 俺は知らないんだよこんなコトッ! 大体許可した覚えもない!! こっちだって驚いてるからな!? 本当のマジにパーペキだよっ!!」

「皇帝になってからおまえは剣を振っていないと聞く。良い運動になるぞ」

「誰に聞いたんだよそんなのォ!!」

「皇后陛下に決まっているだろう??」

「ミスティアぁあ!! どうしてッ! 俺を売ったのかぁ……!?」

 

 と、そこではじめてアルバートが周囲を見渡した。

 

「そういえば今日は居ないんだな。どこへ?」

「ちょうど入れ替わりでおまえンところの夫人に会いに行ったよッ!!」

「そうだったのか。じゃあ遠慮なくやれるなァ」

「やめろー! 死にたくなーい!!」

 

 じたばたと暴れる皇帝陛下第二幕(パートツー)。

 

 威厳溢れる王の姿はここにない。

 あるのはただ青年期に中央街の闇市や違法賭博場を嵐の如き暴れっぷりでぶっ潰した秘密団体(おあそび)のまとめ役兼責任者兼胃痛に襲われる役である。

 

 もちろんそんな物騒なのが元王子現皇帝の裏の顔と知るのは極少数だ。

 

「――? なあジョット」

「えぇ!? なに!? まだなにか!?」

「今日はまた別で人を呼んでいたのか? 誰か来るぞ」

「は? いやそもそもおまえ含め誰も呼んでな――」

 

 直後、王宮全体を揺らすような馬鹿でかい衝撃が響いた。

 

 ……さぁああっ、とさらに顔を青くさせる皇帝陛下(ジョット)。

 

「え? なに? 敵襲?? アルバートおまえまだ戦えるよな??」

「場合によってはこのまま首を渡してやるのもいいな……あ(・)り(・)だ」

「な(・)い(・)けど!? おまえら(・)さァ! 昔馴染みだから良いけどちょっと国の王に対して扱いが雑なんだよ!? 俺が俺じゃなかったらマジで首飛んでるからね!?」

「なあジョット。俺たちの首がギロチンごときで断てると本気で思ってるのか?」

「まァ無理だろうネ!!」

 

 現役時代、首に斧を振られて薄皮一枚切れたぐらいで済んだ化け物どもの顔を思い出す。

 主に彼や彼の妻や自分の妻やその他諸々の今となっては大人しい貴族たちである。

 

「というか本気でなんだ、いまの。侵入者なら騎士たちが――」

「なんだ貴様ッ!? 王宮になんの目的でッ!?」

「待て! この方の顔に見覚えがあるッ!! 剣を抜くなァッ!!」

「団長っ! 我らが騎士団がまるで赤子の手を捻るように転がされてますぅ!?」

「ちぎっては投げちぎっては投げされてますよ!? 誰です!?」

「邪魔だ、退け。ジョットに合わせろ。ヤツはどこだ」

 

 

 扉越しに聞こえてきた声は、ふたりとも覚えがあった。

 

 

「……どうやら来客のようだぞ、皇帝陛下」

「ヤメテ。……もうなんなんだ……静かにしてくれ……! 俺の平穏を乱さないでくれ……っ、もう戦争とか喧嘩とか争い事はこりごりなんだよぉ……!」

「頑張っているではないですか、陛下。陛下が即位されてから周辺国との関係は良好に続いております。ご尽力の賜物ですね」

「こういう時だけ公爵面するなぁッ! 頼む、アルバート。止めろ……! あ(・)の(・)人(・)を止めてくれ……っ! 絶対おまえよりマズいことになる……ッ」

「現在進行形でマズいだろ、コレ」

「ああぁもうやだぁあぁあぁあッ」

 

 どがぉおん! とアルバートのときより三倍ぐらい酷い破壊音。

 

 謁見の間に設置された扉は見事に粉砕された。

 跡形もない。

 

 見れば外の廊下には退出した二百名以上が死屍累々の状態で転がされている。

 

 おそらく死んではいないだろうがとんでもない光景に変わりはなかった。

 

 

「――我が娘の心を脅かしたのは貴様の倅で合っているな、ジョット」

「おや、ゼルア・パラネロス伯爵」

「アルバートか。おまえに用はない。そいつを寄越せ」

「とのことですが陛下」

「公爵。この婚約破棄、私の権限でなかったことにしよう。それで良いか」

「ゼルア。後は頼んだ」

「ああ、任せろ」

「やめろォ! なんでだッ!? 嫌か!? 嫌なのか!? じゃあ取りやめでいい分かった分かったからとりあえず落ち着こう! 暴力はいけない! 国の一大事だ話し合いで決めよう俺たち友達じゃない、かッ!!??」

 

 その後、この件については徹底的な箝口令が敷かれた。

 どうしてかなんて言うまでも無い。

 

 皇帝陛下、ジョット・ベルリオン。

 

 毎日胃痛に悩まされる憐れな国の主、真なる光である。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「父上、ライセスです」

「よろしい。入れ」

「失礼いたします」

 

 ――それから数時間たって、ついぞ日が沈むかといったとき。

 なにやら扉の意匠が変わっているコトとかちょっと廊下が荒れているコトとかには目を向けず、ライセスは謁見の間へと足を踏み入れた。

 

「ライセス・ベルリオン。帝国の真なる光にご挨拶申し上げます」

「顔をあげよ。……ライセス」

「はい、父上――――なんでちょっと泣きそうに?」

「いや、なんでもない。我が息子よ。おまえはそのままでいてくれ。頼む。ほんとマジで頼むから……」

「は、はぁ……?」

 

 ちょっと感動した、といって目頭をおさえる父親の気持ちは彼に伝わらない。

 

 当然のように扉を開けてきちんと入ってくるところとか、挨拶をきちんと交わしてくれるところとか、この場の誰も威圧しないところとか、警備の騎士をひとり残らずち(・)ぎ(・)な(・)げ(・)しないところとか。

 本当もうあたりまえで(褒めるところ)しかなさすぎて涙が溢れている。

 

「団長。これが王の器なのですね……」

「ああ。見ろあの態度を。流石は王太子殿下だ。ああ本当に流石だ……」

「大神官。なにゆえ涙ぐんでおられるのですか」

「あなた達もでしょう。ああ、彼こそ女神ステラの血を受け継ぎし高貴なる光なのですね……」

「……やはりなにかあったのですか、父上?」

「気にするな。些細なことだ。ははっ。ああそうとも些細なことだよ……」

 

 はははっ、と再度笑うジョットはどこか遠い目をしていた。

 本当、どうして学園生のときに関係を持ったヤツは全員あ(・)あ(・)なのだろう、と。

 

「……まあいい。どうして呼んだか分かっているな、ライセス」

「はい」

「分かっているならどうしてこんなことをしたんだ、ライセス」

「はい、申し訳ございません」

「理由を訊いておるのだライセス。なあどうしてなんだ。頼むライセス。パパに分かるように教えてくれ。頼むから、ライセス。なんでよりにもよってあのふたりの娘を巻き込んじゃうのかなぁ……」

「? 父上。今回の責任はすべて私にあります。彼女たちは関係ありません」

「分かってる……分かってるんだライセス……おまえはなぁ……もっと賢い子だと思ってたのになあ……いや賢い子だからこそなのかなぁ……ははっ」

 

 哀愁の漂う皇帝陛下の姿にライセスが首をかしげる。

 

 さもありなん。

 昼間にあったことを思えばその場に居合わせた誰も声をかけることなどできなかった。

 

 あの男ども、ヤバい。

 

「――私に無断での婚約破棄、学園での問題行為の数々、クリスティアナ嬢への侮辱とマーガレット嬢への度を超えた接触。……これらは間違いないことだな?」

「はい、父上」

「認めるなら最初からしないでくれよ……」

「申し訳ございません、父上。処罰ならなんなりと」

「……ライセス・ベルリオン。おまえの王位継承権を剥奪、並びに二週間の謹慎を命ずる。次期皇帝は弟であるレイストだ。もちろんヴァルトーレ公爵令嬢との婚約もなしとしよう。分かったなら戻りなさい。話は以上だ」

「寛大な処置に感謝いたします、父上」

「…………ほんと、どうしてこうなった……」

 

 はあ、とため息をつく父親を前にライセスは踵を返した。

 重い空気を切り裂くように扉まで真っ直ぐ向かう。

 

「…………ライセス」

「なんでしょう、父上」

「良いのか、おまえ」

「…………なにがですか?」

「クリスティアナ嬢のことだ」

「良いもなにも、彼女とはもう婚約関係にありませんので」

「…………、」

 

 失礼いたしました、と。

 静かにドアを閉めて彼はその場から去って行った。

 

 なにか言いたげなジョットの視線から逃げるように。

 

 ……血の繋がった家族であるのなら、父親であるのなら。

 ましてや息子のことならば、あんなに分かりやすいコトはなかったと。

 

 

 

 

 







》陛下
苦労人。(胃腸に)ストライッ! バッターアウッ! 学生時代はイキイキしてた。先帝に隠れて不正暴いて堕落した貴族をぶっ潰していった首謀者。いまとなっては黒歴史です。あと七人ぐらい頭の上がらない仲間がいる。


》お父様
まだ優しい。封筒でスパァ。トランプでも同じことができるらしい。


》ヒロインお父様
そこ退けそこ退け伯爵が通る(全ブッパ)我が娘がつらそうにしている。ぎるてぃ。


》王子様
数年前までは誰かさんに会ったあとめちゃくちゃ機嫌が良くなってたとかなんとか。


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