悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

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13/お祭り騒ぎまで

 

 

 

「――それでは特別授業をはじめる」

 

 決闘騒ぎから三日後。

 ライセスの処遇も決まり、当事者であるふたりの怪我も完治したところで彼女たちは生徒会室に呼ばれるコトとなった。

 

 理由は明白。

 

 現在用意された机の上でどーんという効果音が聞こえてきそうなほどずっしり積み上げられた紙の束が言外に告げている。

 

 表紙には「アドレーラ聖神閃学園 学則」という題名。

 

「なんですのこれ。わたくしの実家の帳簿でもまだ薄いですわよ」

「見れば分かるだろうヴァルトーレ。我が校の規則一覧だ」

「あの、生徒会長。今日の授業はないってさっき先生から聞いたんですけど……」

「ああ、そうだな。教師から受ける授業はない。だからこその俺直々に行う特別授業だ。ありがたく思えパラネロス」

「「…………、」」

 

 ちらっ、とお互いに目を見合わせるふたり。

 なんだかんだで知り合い以上友達未満の関係性になったのが功を奏した。

 

 思うことはひとつ、やるべきことは一瞬だ。

 椅子を引き、腰を落とし、

 

 ――――ダンッ、とその場から逃げるように走りだす。

 

「逃がすかァッ!!」

「ぐえーっ!? ちょっ、首! 首絞まってますわよ!?」

「離してっ! 離してください会長! 私、お父様に手紙を書く用事がっ」

「莫迦者どもがァ! 貴様らは先ず一からうちの規則を頭に叩きこむ必要があるゥ! そういうことだと理解しろォ!!」

「ぬぐぐぐぐ」

「ふぅううぅ」

「――――返事ィ!!」

「「はい」」

 

 剣気の爆風に押されて素直にうなずく。

 見ればちょっとだけ窓の硝子が欠けていた。

 

 ……闘技場で気絶させたコトといい、彼女たちの決闘に割って入ったコトといい。

 

 なんともまあとんでもない生徒会長である、と。

 

(実力が推し量れますわねえ……機会さえあれば吝かではないですわ)

(会長、強いのかなあ。強いよね。勝ちたいなあ、決闘できたらなあ)

「……おまえらが大体なにを考えているか手に取るように分かるが、俺は無駄な争いは好まない。ましてや貴様らと命を懸けた斬り合いなどせんぞ」

「もったいないですわ」

「そんなー」

「まずは学ぶところからきちんと学べェッ!!」

「「はい」」

 

 今度こそ大人しく席につく。

 

 学則書はクリスティアナの腕より三倍ほど分厚い。

 これを読むだけでも一苦労だろう。

 

 そう思えば十分に罰則としても働きかねない。

 

「ではまずヴァルトーレ。一(ページ)目を開け」

「開きましたわ」

「第一章第一条を読み上げてみろ」

「態々ですの?」

「良いから読め」

「仕方ないですわねえ」

 

 よいしょ、と彼女は本を手に文字を目で追う。

 

「えー、本学園に在籍する生徒は階級、性別、出身地、その他個人的な要因を問わず聖神閃教の始祖、聖女ステラの名の下に平等であるものとし、これは絶対の原則とする」

「もう一度」

「……本学園に在籍する生徒は階級、性別、出身地、その他個人的な要因を問わず聖神閃教の始祖、聖女ステラの名の下に平等であるものとし、これは絶対の原則とする」

「もう一回だ」

「本学園に在籍する生徒は階級性別出身地その他個人的な要因を問わず聖神閃教の始祖聖女ステラの名の下に平等であるものとしこれは絶対の原則とするッ」

「もう一回ィ!」

「なんなんですのよォ!!」

 

 ばりぃ!! と学則書を破り捨てながらクリスティアナは吼えた。

 

「一体何度読ませるつもりでしてぇ!? そもそも大前提のこんなコトを知らないはずがないでしょう貴方馬鹿にしておりますのッ!?」

「理解はしていないだろうヴァルトーレ」

「はあ!? していますが!? 貴方こそなんなんですのよその態度ッ! 自分の立場も理解しておりませんのぉ!? たかだか男爵家の跡取り風情がッ!!」

「そういうところだァアアァアアアアッ!!!!」

「にゅわァアアァアアァア!!??」

 

 掴まれた頭をぐいんぐいんと回される公爵令嬢。

 

 悲しいかな、直情的な彼女は時々とんでもない地雷を踏み抜いたりブーメランを投げたり矛盾をつくったり自爆したりする。

 

 これもその一環だった。

 

「貴様もだぞパラネロスゥ」

「え? で、でも私、爵位とか気にしたことないです。本当です」

「だからといってイチャモンをつけてくる相手に過度な実力行使はやめろォ」

「だって私のほうが強いって教えてあげなきゃ……」

「そういう問題じゃないだろぉがァアアアァアッ!! 今まで大人しかったからといって見くびられているのは分かっているがそれで骨を折るなァ! 大問題だァ!!」

「きゃーーーーーっ!!」

 

 同じく頭を掴まれてぐおんぐおんと回される伯爵令嬢。

 

 オドオドとしていた姿はどこへやら。

 クリスティアナとの決闘で「もう私、迷わない!」状態になった彼女はそのまま卑屈だった過去と一緒にネジを何本か飛ばしてしまった。

 

 つまるところ「あんた最近調子乗ってんじゃない?」とかいってきたお嬢様方を先のお父様(はくしゃく)同様()()()()し、言い寄ってきた男子も()()()()したのだ。

 

「おまえたちはどうしてこう、大胆というか、極端なんだ。もうちょっと穏便に済ませられないのか? 天下の帝国のご令嬢が聞いて呆れる……」

「なんですのっ、もう! 大体学則なんて飾りじゃありませんのッ! わたくしのような貴族で横柄に振る舞っている輩などいくらでもいましてよっ!」

「やられたままじゃ終われません。私は私自身の価値を信じるって決めたんです。もう誰かのために我慢するのはできません」

「うるさい黙れ」

「「きゃああぁぁあうあうあうあう」」

 

 桃色金色の竜巻をぐるぐる回しながらイザヤは重いため息をついた。

 前途多難、我の強い人間をどうにかするのはとんでもなく大変だ。

 

「とにかくこの学則を暗記してもらう。書き取り、音読、暗唱も合わせてだ。なに一週間はここでみっちりになる。安心しろ俺は教えるのは得意だ」

「マーガレット」

「クリスティアナ様。やるんですね、いま! ここでっ!」

「ええッ、勝負はいま、ここで決めますわ!」

「――――――喝ッ!!!!」

「あへっ」

「ひぅっ」

 

 ぱたたん、と机に突っ伏すか弱き乙女ふたり。

 

 今度は窓硝子も耐えきれずパリーンと割れた。

 どこか冷たさの残る風が生徒会室に入ってくる。

 

 …………ほう、と二度目になるため息。

 

 イザヤは割れた硝子の破片を集めながら、眉間を揉むように指を這わせた。

 

「く……卑怯ですわよ……! 剣気で威圧するなんてッ」

「う……うぅ……私使えないのに……全然ダメなのにっ」

「いや復帰が早くなってるなおまえら。なんなんだ。どうしてそのあたりの学習能力だけ異様に高いんだ?」

「知りませんわよっ」

「私も同じですぅっ」

「………………、」

 

 剣気をまとえるクリスティアナはともかく、マーガレットはそのあたりイザヤからしても謎だ。

 

 決闘に割り込んだ際にちらりと覗いた瀕死からの奮闘もそうだが、どうにも彼女は〝強くなる〟というのが根本的なモノとして違っているように思えた。

 

 もっとも彼の勘からして、なので確信はない。

 

「……おまえたちのその荒っぽさはなんとかしなくてはな。ひと月後には聖剣祭だぞ。我が学園にこんな猛獣がいては外部の方が安心して入場もできん」

「聖剣祭、ですか?」

「知りませんのマーガレット。聖女ステラの誕生を記念する学園の行事ですわよ。特別に園内を開放して外から人も入れますの。意外と賑やかで楽しめますわよ」

「お祭りですか? いいですね!」

「……ああ、そうだ。ちょうどいい。おまえたちで剣舞の奉納でもするか」

 

 え? と首をかしげながら共にイザヤの顔を見る剣馬鹿たち。

 

 クリスティアナは良いのかそれ、という面持ちで。

 マーガレットは再びなんだろうそれ、という感じの表情だ。

 

「剣の女神、聖女ステラに捧ぐ舞だ。この先一年の幸福と平和を祈願して行われる。真剣を用いて決められた型を打ち合うだけだ。これならおまえたちでもできるだろう。ついでに大人しい剣の取り扱いでも覚えてくれ」

 

「あの、会長」

「なんだ」

「それってどうなったら勝ちなんですか?」

「話を聞いていたかパラネロス? 勝負ではなく奉納と言ったが??」

 

「生徒会長」

「なんだヴァルトーレ」

「わたくしはそんなことしなくても剣の取り扱いは完璧ですわよ」

「おまえはちょっと静かにしててくれ」

 

 ――とにもかくにも、こうして一大行事の主役は決まった。

 

 人選から間違いない不安しか感じないが、それでも決まったものは決まったのだ。

 

 アドレーラ聖神閃学園、聖剣祭。

 

 祭りの足音はすぐそこまで迫っている。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 聖王宮西館、三階の右奥。

 現在謹慎中である第一王子ライセス・ベルリオンの私室に許可もなく飛んできたのは、つい先日次期皇帝として指名された彼の弟――第二王子レイスト・ベルリオンだった。

 

「お兄様ァ!!」

 

「……どうしたんだ、()()。そんなに慌てて。ああでも、良いところに来てくれた。ちょっと話したいこともあったし」

「どうしたもこうしたもないでしょう!? なんでこんなコトになったんです!!」

「そりゃあまあ、俺が次期皇帝に相応しくない態度を取ったからじゃないかな」

「だからそれがなんでって言ってるでしょおおぉぉおおぉおおッ!!!!」

 

 ダンダンダンッ! と部屋に入るなりいきなり台パンをかましていくレイスト。

 

 余程急いで来たのか髪は乱れているし服もところどころ雑な着方だ。

 一体なにをそこまでと思うライセスだが、弟は弟で思うところがありすぎたらしい。

 

「お兄様なら申し分ないって何度も父上が仰ってました! 俺もそう信じてましたよ! ええ信じていたんですとも! だから俺は安心してお兄様の手助けができるように頑張ろうとですねぇ!?」

「それはごめんね。でも決まったことなんだ。大丈夫だ、レイ。おまえなら十分うまくやれるよ。兄ちゃんが保証する。安心して皇帝になるといい」

「なにも安心できませんよォ!? お兄様差し置いて俺が皇帝とかありませんからァ!! 今からでも遅くありませんお父様を説得いたしましょう! 大丈夫です! 例えお兄様のためなら俺は火の中水の中森の中ッ!!」

「ちょっと落ち着こうな、レイ」

 

 どすん、とレイストの額にライセスの指が打ち込まれる。

 秘孔を突いたとでも言わんばかりの一撃だった。

 

「あば――――ッ!?」

「取り繕わなくてもおまえの性格は分かってる。面倒事が嫌いなのは昔からだ」

「……分かってるんならどうにかしてくださいよお兄様。俺、昨日から早速家庭教師の叱責が酷くて酷くて。このままだと一生引き籠もって皇帝になりそうです。助けてください」

「それだけ期待されてるってことだよ。レイは優秀だからね」

「皮肉にしか聞こえないです。大体俺、あんまり頑張りたくないんですけど。努力とか嫌いなんで。できるだけ労力を減らして生きていたいです。働きたくねえ……ッ」

「そんなこと言ってると婚約者(シルヴァーナ)にまた尻を叩かれるんじゃない?」

「言わないでくださいアイツのことはお願いしますお兄様」

 

 ずざざざざーッ、と迷いなし(ノータイム)で土下座を遂行する現王太子。

 

 レイスト・ベルリオン。

 幼少期からなにかと兄であるライセスと比べられてきた彼は卑屈……というにはちょっと堕落のほうへ走りすぎた性格へと育った。

 

 好きな言葉は休息、嫌いな言葉は行動。

 

 あと一年で学園へ入学というところで「いや俺の立場なんてせいぜい第二王子だから行かないヨ! 部屋で大人しくしてるネ!」と引きこもりを敢行しかけた過去がある。

 それを無理やり引っ張り出したのが件の二歳年上である婚約者だ。

 

 つまるところ無職(ニート)気質の王子様だが、これでも「ライセスに一歩及ばずだが総合的には劣らない」とまで言われているあたり神は二物を与えずなのかもしれない。

 

「俺にこそ皇帝なんか務まらない。だからこそ継承権を父上は取り上げたんだ」

「……そんなコトないと思いますケドねえ……」

「それより、はい」

「? なんですかお兄様コレ」

「俺が手伝ってた父上の書類仕事。やり方も簡単にまとめておいた。あとで一通り見ておいてくれ」

「あッ、用事思い出したんで帰っていいスか?」

「もうちょっと聞いてほしいな」

 

 両手をついて項垂れるレイストにライセスはニコニコと笑いかける。

 

「これから色々学ぶこともあるだろうから、俺からも教えておこうと思ってね」

「えー……なんですか色々って」

「頼れる人とそうじゃない人だよ。例えば西のエルイスト侯爵とか、その隣のアレイテラ子爵とかね。最近動向が妙だ。資金の流れも不審な部分が多い。この前の夜会にも参加していなかったろう?」

「…………ほぇ?」

「あと、ヴァルトーレ公爵には今回の件で色々と迷惑をかけてる。父上もそのあたり対処してくださるだろうが、レイからも気にかけておくと良い。パラネロス伯爵も同様だ。他に気をつけるべきはラスティフマ男爵とか、ユーベリッヒ男爵もそうか。彼らは時折市場に行っているらしいから。分かりやすいだろう?」

「ちょッ、待って待って待って待ってくださぁい!?」

 

 がたんっ、と立ち上がりながら兄のほうを二三度見直すレイスト。

 

 気のせいならこの男、いまめちゃくちゃ重要な情報をサラッと吐かなかったかと。

 

「お兄様お兄様、それついでに言う情報と違います。やべーヤツです」

「それに最近は変な噂も広がってる。諸国で管理している聖剣が盗まれたとかね。……ああ、聖剣で思い出した。これも持っておくかい? はい、〝クインドレス〟」

「王家に伝わる聖剣をそんな簡単に渡さないでくださいッ! 大体お父様はそれを手放せとか言ってないじゃないですかァ! お兄様が持っててくださいッ!!」

「ええ、要らないのかい?」

「はいッ!!」

 

 元気よく返事をするレイストに渡そうとした()()()()()を押し返される。

 

 ライセスとしては純粋な親切心からだったのか、少し残念そうな顔だった。

 

 陛下からは「おもちゃ」と言われ王子からは雑に扱われる王家の聖剣。

 これほどまでに不憫なモノもない。

 

「つうかお兄様は良いんですか。継承権もそうですけど」

「なにがだい」

「とぼけないでください。クリスティアナ様のコトですよ」

「……エイギスも父上も同じコトを言ってたな。どうしてそこまで俺と彼女のことを気にするんだ。別になんともないだろう?」

「なんともないってなにがですか。直接明言してないからって分かってないと思ってんならお兄様の勘違いです。……父上だってそこを見抜いてるから言ったんでしょ」

「……本当だよ。なにもない。今はもう婚約関係ですらない」

「お兄様ッ」

 

 詰め寄るレイストだが、それにライセスはニコリと微笑むだけだ。

 

「……クリスティアナ様との婚約だけはどうにか戻してもらいましょう。対外的にヴァルトーレと王家の繋がりを強くする機会ですから、父上だってまだ」

 

「ダメだ。やめろ」

 

「――――お兄様」

「……ごめん、ちょっと言い方がきつかった。でも良いんだ。レイがどう思ってたかは知らないけれど、俺と彼女にわざわざ続けるほどの想いなんてなかったよ」

「つまんない嘘ですね。クリスティアナ様とお出かけ(デート)したあと、あれだけ上機嫌で帰ってきてたのに?」

「知らないな、覚えがない。何度も言うけど俺と彼女はもう関係ない他人だ」

 

 くるりと背を向けたライセスを、レイストはじっと睨む。

 

 兄の言葉が本心からのものでないことぐらい彼でも分かった。

 

 なんとも面倒くさい。

 

 色々と考えを巡らせている人だが、それにしたってこれは阿呆だ。

 

「……そんなにクリスティアナ様のことが嫌いだったんですか」

「別にそうとは言ってないつもりだけど」

「じゃあ素直に言ったらどうですか。好きなんでしょクリスティアナ様。だから――」

「レイ。もういいだろう。この話は終わったことだ。……今さらおまえがなにを言っても変わらないよ。俺も、彼女も」

「――――――ッ、馬鹿兄貴ッ!!」

 

 ばたん、と勢いよくドアを閉めて去っていく第二王子。

 半ば突き放すような物言いになってしまったコトを申し訳なく思いながら、ライセスはほうとひとつ息を吐いた。

 

 ……他の誰も気にしないと思っていたのだが、どうにも意外とそうではないみたい。

 

(……まぁ、良いか。彼女の在り方は変わらないから心配ない。俺もそれでいい)

 

 窓の外、覗いた空は青色。

 本日の天気は、ちょっと心境に合わないようだった。

 

 

 







》聖剣祭
聖女ステラ様に剣舞ささげる祭り。学園主催。外部からも人が来る。ちなみに警備も凄い。


》剣舞の奉納
悪役令嬢とヒロインはじめての共同作業(意味深)百合じゃ(ry ふたりともどこか勘違いしてるけど勝負じゃねえからァ!


》王子
おめえの席ねえから! された殿下。ゆっくり謹慎期間消化中。なんかみんな婚約破棄のこと気にしすぎじゃない? なんなん?(不機嫌)


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