悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

16 / 30
16/ちょっとした休息(強制)

 

 

 

 

「――どうしてここに呼ばれたか分かっているな、ヴァルトーレ」

「さっぱりですわ」

「校舎を破壊したからだろォがァ!! 知らなかったとは言わせんぞ貴様ァ!! ベルリオンを殴るのは百歩譲って良いとしても我が校の伝統ある建物を壊すとは何事だおまえェ!!」

「我が国の王子を殴るのは良いんですのね。わたくしひとつ賢くなりましたわ」

「話を逸らすなァ!!」

 

 がぁしぃッ! とクリスティアナの頭を鷲掴みにして怒鳴るイザヤ。

 

 割れたはずの眼鏡は代え(スペア)があったのか変わらぬ様子でかけられている。

 

 遡るは今朝の一件、都度四発の剣気を込めた拳撃。

 

 ご令嬢だろうがなんだろうが才能の有り余っているクリスティアナだ。

 真正面から受けたライセスが軽傷におさまっていようと周囲の被害は甚大になる。

 

 主に壊れやすい建築物なんかはとくに。

 

「そこまでにしなよ、イザヤ。俺なら平気だ」

「貴様の心配などしておらんわライセス・ベルリオンッ!!」

「彼女は悪くないよ。煽ったのは俺だ。修理費は全額こちらで負担しよう。これ以上ヴァルトーレ公爵家に迷惑をかけるワケにはいかないからね」

「現在進行形で貴方がそんなコトを宣っているのが迷惑なのですが??」

「そういうわけだから頼むよイザヤ」

「無視しないでくださいましぃ!!」

 

 がしぃッ! と今度はクリスティアナがライセスの顔を掴む番だった。

 ギチギチと肌に食い込む指は常人の感覚だと相当痛いだろうに、彼は頬を引き攣らせるどころかちょっと笑みを濃くしている。

 

 流石は第一王子といったところ。

 

 校舎に罅を入れさせる拳を受けて鼻血で済ませた実力は伊達じゃない。

 

「変わった愛情表現だね、ヴァルトーレ公爵令嬢。この細い指を退けてくれないか?」

「誰が貴方に愛情なんぞォ!! そんなもん表現するコトなんて一生ッ、この先ずっとありませんわよッ!! あったとしたなら木の下に埋めて貰っても構いませんわッ!!」

「俺は少なくとも愛してくれる人を意味もなく生き埋めにする趣味なんてないけど」

「あってたまりますかこの国の王族がァ!!」

 

「ふたりとも黙れェッ!! 静かにしろォ!! 貴様らが口を閉じるまで何秒かかったかあえて言わなければ分からないか莫迦共がァッ!!」

 

 言ってることが最早先生である。

 みんなが静かになるまで何秒かかりました、なんてコトを十六になって言われている側もそうそういない。

 

「ともかくだ。ヴァルトーレ。おまえは二日間の停学処分とする。学園側の決定だ」

「はァ!?」

「最近そこの馬鹿王子が帰ってきてから色々と荒れているだろうが。少し頭を冷やせ」

「だったらそこの馬鹿王子をどうにかしてくださりません!? めちゃくちゃ腹が立ちますのよこいつッ!! 一発二発殴っても良いでしょうッ!?」

「あっはっは。いちおう言っておくけど王位継承権はないにしても俺はまだ王族だからね。不敬は不敬だよ。あと殴られたのは四発だ、公爵令嬢」

「ムカつくでございましょう!?」

「まあ否定はしない。俺もその化け物はあまり好かん」

「酷い言い草だな、イザヤはそんな風に俺を見てたのか」

 

 くすくすと笑うライセスを、イザヤがぎろっと睨んで黙らせる。

 

「……たまたま人の形に生まれただけのヤツを人間とは言わん。そういうことだろう」

「いいですわ。もっと言ってやってください生徒会長」

「二対一か。厳しいね。俺は正真正銘母上のお腹から生まれた子供だっていうのに」

「だから言ってるだろうが。……その点だけで言えばとんでもない人材だな、おまえは」

「……? え、なんでわたくしのほうを見ますの?」

「なんでもない」

「??」

 

 ふいっと視線を逸らすイザヤ。

 

 クリスティアナには一体なんのことか分からない。

 貴重な他人からのライセスへの悪口だ、むしろもっとやれーと内心で応援していたところへの不意打ちじみた言葉である。

 

 真意を探ろうにも話を打ち切られてしまったのがなんとも。

 

「そういうワケで話は以上だ。人生の先達から一言いわせてもらうと、そいつとはさっさとカタをつけて距離を取れ。おそらく帝国が滅びてもひとりだけ死なないような男だぞ、そこの馬鹿は」

「流石に謀反とか起きたら死ぬんじゃありませんの、ライセスだって人の子ですわ」

「そうだよ、イザヤ。俺だって死ぬときはちゃんと死ぬさ」

「……本気でそう思っているんなら貴様らのそれはギャグだぞ、莫迦共」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「――――ということがありましたの」

「そう。大変だったわねクリス」

 

 翌日、午後の公爵邸。

 庭園の休憩所(ガゼボ)でティータイムを楽しむのは絶賛停学中のクリスティアナと母親であるメアリのふたりだ。

 

 先の謹慎とは違って学園からの処遇である今回は外出制限もない。

 対外的には大人しくしておいたほうが今後のためであるが、当の本人はそんなこと気にした様子もない――どころかぶっちゃけどう思われようが関係ないという思考である。

 

 公爵令嬢、舞踏会よりも武闘会に出たくなるお年頃か。

 

「でも意外だわ。貴方がそこまでライセスのことを引き摺っているなんて」

「あ、いえ、全然引き摺っておりませんわよ。アレと婚約するぐらいならわたくし家出して旅の護衛とかしながら日銭を稼ぎますわ」

「流浪人はやめておきなさい。苦労するわよ」

「なぜそこで本気の声音(ガチトーン)ですの」

 

 どこか実感のこもった言葉はおそらく母親の闇に包まれた経験によるものだろう。

 公爵夫人であるメアリ・ヴァルトーレが剣気の使える剣士だなんて誰も思わない。

 

 少なくとも事の真相を知らない普通の帝国民であるのなら。

 

「……ああ。そういえば聖剣祭で剣舞の役に選ばれたんでしょう? 当日はあの人と一緒に見に行くわ。頑張りなさい」

「もちろんですわ、お母様。……まあ相手が相手なのですけれど」

「パラネロスのご令嬢だったわね。伯爵に似て強い子だと聞いているわ」

「まあたしかに強いは強いと思いますけれど、アレは振り切れすぎですわ」

 

 こくこくと紅茶を飲みながらどこか遠くを見つめるクリスティアナ。

 

 脳裏に過るのは最近ずっと絡んでいた桃色髪の頭の中までつよつよ伯爵令嬢だ。

 事あるごとに「私のほうが強いです!」とか言ってマジに切ろうとしてくるのは相当ヤバい。

 

 正直クリスティアナに天性の素質がなければ七回は軽く死んでいる。

 

 しかもそれが悪ふざけならともかく無駄に本気だから質が悪かった。

 そして逆にとことん打ちのめしてやれば更に強くなって返してくるのだから余計にだ。

 

 人間的な意志の強さと思いの固さで限界を超えてくるのは勘弁してほしい。

 

 おまえちょっといい加減にしろと。

 

「気になるわね、どんな子?」

「世界で一番自分が強くないと納得しないおバカさんですわ」

「あらまあかわいい」

「わたくしのほうがかわいいですわよッ!!」

「ええ、クリスだってもちろんかわいいわ。だって私の娘なんだもの」

「や、やだ。お母様ったら……!」

 

 わたくしもう子供ではないんですのよ? とちらちら視線を寄越す娘の頭をメアリは優しく撫でる。

 

 いくら優れた才能を持っていても彼女だって成人にも満たない少女だ。

 甘えたがるところはないでもない。

 

 その様はどこか耳をぴょこぴょこと動かして尻尾をぶんぶん振り回す大型犬を想起させる。

 

「伯爵令嬢のことが嫌いなの?」

「嫌いですわよ、あんな厄介女。一緒に居るのも鬱陶しいですわ」

「ふふっ、クリスも素直じゃないわね。顔が楽しそうよ」

「ッ、………………ま、まぁ……退屈しないのは、そうですが」

「良い友人を見つけたのね。母も嬉しいわ」

「……友人ではありませんの」

「ふふふっ」

 

 …………まぁ、たしかに?

 

 なんだかんだで同じ空間にいて嫌悪感は湧いてこないし?

 

 本気で斬り合おうとしてくるところも実際マジで嫌というほど嫌ではないし?

 

 むしろ公爵令嬢である自分に真っ向から来るところとかわりと評価は高いし?

 

 ライセスに対してとくにこれといった想いを抱いてない部分とか気に入っているし?

 

 技術がないなりに気合いと根性でどうにかしようと足掻いているのは見ていて悪くないし?

 

 総評してダメな相手というワケではない――のだが、それでも嫌いだ。

 とにかく嫌いだ、むしろそういう好きな部分も含めて大嫌いだ。

 

「クリス」

「なんですの、お母様」

「婚約のこと、ごめんなさいね。私たちがもっと考えていれば良かったわ」

「……お母様のせいではないでしょう。悪いのはあの馬鹿王子ですわ」

「それでもよ。……これからは好きにしていいわ。貴女の思うこの人だって相手を見つけてちょうだい。それがどんな身分であれ誰であれ、私たちが手を尽くすから」

「お父様が手を貸してくださるかしら?」

「私が説得するわ」

 

 無論説得(物理)であるのは言うまでもない。

 

 ヴァルトーレ公爵、唯一頭のあがらない妻に実力でも圧倒されている不憫さだ。

 勢いで陛下は脅せてもメアリは駄目だった。

 

 彼が彼女に勝てるのはせいぜい夜のベッドの上ぐらいなものである。知らないが。

 

「でも、良いですのよ、お母様。わたくしそう急ぐつもりはありませんの。それこそ向こう二、三年ぐらいはひとりで過ごすつもりですわ」

「……やっぱり、今回の件で貴女……」

「ああ、いえ、そうではなく。……自由にしていいというのでしたら、まだそんな気分でないというだけですわ。時が来ればわたくしだって恥ずかしがって頬を赤く染めますわ」

「あらあら。ふふっ……楽しみに待っているわね、クリス」

「はい。まだまだ先ですけれど」

 

 言いながら、彼女は手に持っていたカップを置いて立ち上がる。

 

 そろそろ時刻は午後四時をすぎるかといったところ。

 

 休憩は終わりだ、と息を吸ってぐいと伸びをした。

 

「さてっ、続きをいたしましょうお母様! せっかくのお休み、お母様と長く刃を交えられる数少ない機会ですわ!」

「そうね。良い名目ではないけれど、時間がとれたのは僥倖だったわ。私としても貴女にこうしてなにかをしてあげられるのは嬉しいもの」

 

 ふたりは揃って休憩所(ガゼボ)から演習場に向かう。

 

 平日の午後、まだまだ日が高いヴァルトーレ公爵邸。

 そこに響くのは風に揺れる枝葉のざわめきと、使用人たちの忙しない足音と、住み込みで護衛する騎士たちの笑い声と。

 

 ――――ついでに、刃金を擦る甲高い剣戟の快音だった。

 

 

 







》生徒会長
予備の眼鏡があって助かったぜ(スチャ)


》悪役令嬢
どろっとした憎悪じゃなくてカラッとした怒りを向けてるのが相当アレ。器だけは本当に大きい。ちなみに胸もそれなりにお下品もといでかい。B89。悪役令嬢だからネ!


》王子様
化け物呼ばわりされる自国の王族。なお間違ってない模様。修理費の負担はびくびく怯える誰かさんがここぞとばかりに率先して払いました。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。