投稿したと思ってたけどそんなことはなかったぜ!(一敗)
聖剣祭。
剣の女神、聖女ステラへ感謝の念を捧げ、これからの平和と幸福を願う催し。
毎年春の終わりにアドレーラ聖神閃学園で行われるそれは、帝国にとっても教会にとっても大事な年中行事だ。
そして学園にとっては数少ない門を開く日でもある。
生徒の関係者はもちろん聖神閃教の神官、帝国騎士、はては現皇帝まで園内に招待できるのは偏にアドレーラが帝国一の規模を持つ学園だったからだろう。
……まあ、そのおかげで警備がとんでもないコトになっていたりするのだが、そこはそれ。
これだけの行事なら仕方ないといえばその通り。
「――ということで持ち物検査と身分証明のほう宜しいでしょうか、お嬢様」
「あらユリウス様。今年は騎士団長直々に確認いたしますの? どえらいですわね」
「ははは。まあ、そうですね。たまたま……そう、たまたま、お鉢が回ってきまして」
「そうですの。まあわたくしに怪しいところも不審な点もありませんのでどうぞご自由にご覧になって? むしろわたくしの美貌をその目に映す光栄な機会といたしますわ!」
「あっ、女性の方は私が行いますのでご心配なく」
「おや、テレジア様。……おやおや。おやおやおや」
うーん? 首をかしげながらじろじろふたりを見るクリスティアナ。
いまは
なにかと理由があって王宮へ足を運ぶことはあった。
当然ながらそこに滞在している人間の顔は覚えるし、機会さえあれば知り合いにもなる。
ましてやこのふたりは帝国騎士の団長と教会の大神官だ。
顔を合わせないハズがない。
「な、なんでしょうかヴァルトーレ公爵令嬢……」
「帝国騎士団の長が職権濫用とかしていいんですの」
「違います。たまたまです。ちゃんと他に立候補したものとは然るべき方法で選定いたしました」
「然るべき方法?」
「総当たりの決闘ですね」
「決め方が蛮族ですわ!」
無論クリスティアナだって本来は他人のコトを言えない。
八つ当たりで殺し合いまがいの決闘を持ちかけた彼女の方だって立派な蛮族思考だ。
そしてそれに応じて今や笑顔で殺しに来る伯爵令嬢もなかなかの蛮族度だろう。
この国、要人に蛮族しかいない。
「――――はい、お荷物の方は大丈夫です。じゃあ身分証明ですけど」
「学生証ですわ」
「ありがとうございます。……若干髪が伸びました?」
「世間話でございます? 伸びますわよわたくしだって人間ですし」
「大事になさってくださいね。長い髪は祝福の証ですよ。聖女ステラの黒髪は地に着くほど長かったと言いますから」
「それはそれで邪魔くさいと思いますが」
ズバッと言うクリスティアナにビキィッと固まるテレジア。
とても大神官の言葉に返すような態度ではない。
「……はい、完了です。クリスティアナ・ヴァルトーレ公爵令嬢。どうぞお入りください」
「ご苦労さまですわ。ちなみに陛下はもう来られてますの?」
「はい。四階の来賓室に騎士たちと一緒におられますよ。折角ですから挨拶でもしてきては如何でしょう?」
「残念ながらわたくしいまとなっては一介の学園生ですので。ライセスとももう婚約関係じゃありませんし。とくにコレといってわざわざ顔を見せに行く理由がないですわ」
それでは、と告げてクリスティアナは歩みを再開した。
ついぞやってきた祭りの日。
平時とは違って緩やかな雰囲気が漂う学園には様々な人の姿が見える。
いつもだったら制服しか目に映らない景色も、今日ばかりはどこか新鮮味があった。
まあだからといってどうというコトもないのだが。
正直ぶっちゃけ彼女にとっては剣舞を無事に完遂できるのかとそれだけがほんのわずかな心配なのだが。
主に相方のせいで。
(どうせパラネロス伯爵も来られるでしょうし、流石に馬鹿な真似はしませんわよね)
というかしないでくれ。
そうであってくれ、と願いながら一先ず教室に向かう。
外はもちろん校舎の中にも人の気配は多い。
廊下で談笑しているのは主に外部の関係者で、彼女の知らない顔も増えてきた。
その中を悠然と歩いていく。
――――と。
「あうっ」
「あっ」
とたん、誰かとぶつかった。
真正面から硬い胸板に押されながらクリスティアナは即座に睨みをきかせる。
「申し訳ございません。ご令嬢」
「……神官服……?」
「ええ。いつもは教会につとめております。……お怪我はありませんでしょうか。こちらの不注意です」
「大丈夫ですわよ。……そう、教会。見ない顔と思ったら、王宮じゃないんですのね」
「はい」
ニコリと笑う人の良さそうな男。
ごてごてとした装飾のある神官服というのもあるが、見るからに
衝突と同時にクリスティアナを仰け反らせたのも頷ける。
(というかなんですのコイツ。腹立つほど
イラッときたのは多分そこだ。
普段なら顔が良い程度なんともないのだが、いまのクリスティアナは違う。
帝国一の顔が良いクソ野郎にフラストレーションを募らせている状況は精神衛生上非常によろしくない。
結論、ライセス・ベルリオンはあと一発殴ってもやっぱりよかった。
「わたくしも避けられなかったから同じですわ。ごめんあそばせ」
「いえそんな。頭をあげてください公爵令嬢」
「下げてませんわよおっちょこちょい」
「おっちょ……?」
「いいから気になさらないでくださります? 急いでいるのでしょう。わたくしの構わず行ってくださいな」
「あぁ、そうでした。申し訳ございません。感謝いたします、ご令嬢。では」
たたっと走っていく男神官。
ぱっと見ただけでも身長百九十を越える大男が駆ける姿はちょっと衝撃的だ。
絵面のインパクトが半端ではない。
「……そういえば」
と、彼女は思い出したように。
「わたくしを知ってらしたのね、あの男。どこかで会ったのかしら」
公爵令嬢と呼んできたコトに首をかしげながら踵を返す。
考えても記憶にはない。
が、こればっかりはある程度しょうがないことだ。
彼女だって忘れることはある。
きっと以前は思い出にも残らないほど雑な出会い方をしたのだろう、なんて。
◇◆◇
「あッ」
「ん?」
ふと、彼女が教室目前まで来たところだった。
ちょうど階段をのぼったあたりで、廊下の曲がり角からこちらを見る少年と目が合う。
歳のほうはそれほど離れていない。
せいぜいがひとつかふたつ下だろう。
……というか、彼女の記憶が正しければちょうどひとつ下だ。
「お
「残念ですわレイスト様。わたくしもう貴方のお義姉様候補ではございませんの」
「なんでもいいから助けてくださいお願いしますぅ! この悪鬼羅刹がヒドッ」
「誰が悪鬼羅刹ですって、レイ?」
「ああぁあぁあああ肩ァ!? 肩外れますよシルヴァーナ=サン!? それが将来を誓い合った婚約者にすることかよォ!?」
(わたくしは将来を誓い合った元婚約者に鉄拳ぶちかましたんですけれど)
そう考えるとその場をおさめる気にはなれなかった。
レイストの性格はクリスティアナだって知らないでもない。
どうせまたロクでもないコトでも言って婚約者を怒らせたのだろう。
くるり、と見なかった聞かなかったフリをして回れ右。
そのまま来た道を真っ直ぐ戻っていく。
教室とは反対だが関係ない、そうだ、お手洗いにでも行ってこよう。
「ちょッ、待って待って待って!? いや兄上は関係ないので救いの手をくださいクリスティアナ様ッ!? コイツちょっとマジであたたたたッ!? 痛ぇッ!?」
「…………、シルヴァーナ。離してあげてください。痛がってますわよ、そこのソレ」
「クリス。この男がなにをしたのか知らないでしょう」
「なにをしたんですの」
「いまさっきウチの学園の女子を口説いていたわ」
「遠慮なくやってくださいませ!」
「いや誤解ィ!!」
ギリギリギリ、とキマっていく関節に苦悶の表情を浮かべる第二王子。
表現的にも物理的にもシメているのは正真正銘彼の婚約者である。
シルヴァーナ・エンデルメルツ。
銀の髪に薄い青の瞳、細い手足に白い肌。
まさしく良家のご令嬢といった容姿は儚げであり美しい。
まあ自国の次期トップに制裁を下す姿はどちらも全然ありはしないモノなのだが。
「ちょっと落とし物したから拾ってあげただけですヨ!? それをあたかも下心ありきみたいな言い方は酷いでしょうシルヴァーナさん!?」
「あら、そうだったの……ごめんなさい。私、てっきり……」
「そ、そうなのそうなの。いやー本当、親切心で動ける人間だからね、俺。女の子が落とし物をしたらそりゃ放っておけなくて」
「ええ、そうね。貴方はそういう人よね、レイ。ごめんなさい。私の早とちりだったわ」
「で、ですよねー、早とちりに決まってますよねー……」
「ええ…………、」
「ははッ…………」
「…………、」
「…………、」
「――すいませんちょっとついでにお茶とか誘ってみようとしてま」
「やっぱり合ってるじゃない」
「ああぁああぁあぁあぁあああああッ!?」
ギリギリギリギリ、と先ほども見た光景に戻っていくふたり。
はじめは面白くて眺めていたクリスティアナだったが、なんだかちょっと見ていて馬鹿らしくなってきた。
本人たちにそういった気はないのだろうが、婚約者同士のイチャイチャを見せつけられた気分である。
勝手にやってろ、幸せ者共め、という感じ。
「あら、もう行くのクリス」
「そもそも呼ばれなければ来るつもりもなかったですわ」
「ひでえ。これが兄上の元婚約者か。関係が切れたらもう良いってのかよぉ」
「そりゃそうでしょう。というか堂々と婚約破棄されてまだみっともなく未練引き摺って縋ってるほうがヤバいですわよ。人として」
「うわすっげえ。クリスティアナ様がマトモそうなこと言ってる!」
「ふんッ」
「うぐぁああぁああああああッ!!」
どすん、とレイストの額に打ち込まれるクリスティアナの人差し指。
奇しくも彼に行った所業はライセスと被った。
指先ひとつでダウンとは行かずともダメージは結構なもの。
じたばたと跳ねて痛がる彼を背にクリスティアナはほくそ笑んだ。
「年上の女性に失礼なコトを言うからですわよ」
「ちょっとクリス。私のレイになんてことをしているの」
「ふふっ、申し訳ありま――」
「やるなら徹底的にやりなさい。グーでいいわよ」
「シルヴァーナ。それはちょっと。他人の婚約者にはやれませんわ」
つまり自分の婚約者にはやれるということである。
「いててて……あーもう、なんだかなあ……」
「? なんですのよレイスト様」
「……ぶっちゃけ聞くんですけど」
「ええ」
「兄上ともう一回婚約する気ないですか? 俺と父上ならどうにかできますけど」
「しませんわよあんなクソ王子とッ!! 二度といたしますかァ!!」
「あ、すんません。もういいっス。お義姉様の気持ちはよく分かりました……」
今度こそ振り返って教室へと向かう公爵令嬢。
後ろ姿からもぷんすこと怒っている様子が見てとれる。
それでいて淑女らしく大人しい歩き方なのだからなんとも奇妙だ。
「……残念、兄上。これで見事失恋かあ。なんであんな馬鹿しちゃうんだろうね……」
「ライセス様のことなんてクリス以外に理解できるわけないでしょう。ずっと昔からそうだったじゃない」
「そうだったなあ。……ああ、そうだったのになあ」
あれだけ嫌われていては二度と関係は修復しないなだろう、とレイストは確信する。
……事実、彼の予想は間違いではなかった。
なにせこの先、ふたりが死に別れるまで。
欠片だって以前のような関係には戻らなかったのだから。
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ここかぁ……祭りの場所はァ……(鉄パイプ)
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