悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

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18/変・色

 

 

 

 

 ――正直言うと、クリスティアナは騒がしいのがあまり好きじゃない。

 

 彼女自身どちらかというと喧しいほうだが、それとこれとは別。

 己が叫ぶのは理性なくした鬱憤晴らしで、ハレの日を楽しむのは純粋な心だ。

 

 よって本人が騒がしいからといってそれが好ましいというのは間違いにあたる。

 

 ……もっともクリスティアナがそれを認めるコトはないのだが。

 

「おっ、公爵令嬢じゃーん」

「今日は無事に学園来れたみたいですわね。大丈夫ですか? ライセス様のこと殴ってません?」

「まさかぁ。ヴァルトーレは今日の主役だぞ? そのあたり分かってるだろー」

「分かってねえからこの前王子様殴って二日間の謹慎もらったんだよなあ……」

「殴ってませんわよ。まったく、噂話が好きなお人たちですわね」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながら教室を横断する。

 

 すでにクラスメートたちはあらかた揃っているようだった。

 

 空席は少ない。

 学園をあげての、ひいては帝国的にも大きな行事で欠席するような者も極少数。

 

 なんだかんだでアドレーラの生徒である。

 

 こういうところは真面目だ、と息をつきながら自分も席へ。

 

「おはようございます、クリスティアナ様!」

「ごきげんよう、マーガレット。調子は如何かしら」

「ばっちりですよ! 今にもクリスティアナ様のこと斬り殺せそうです!」

お願いですから今日だけはやめてくださいませ。聖剣祭ですのよ? マジでやったら頭おかしいどころじゃなくイッちゃってますわよ??」

「冗談です。でも調子が良いのは本当ですよ。あ、それに私、開会式の挨拶に選ばれちゃいました。とっても光栄ですよね?」

「まあ、それは」

 

 意外だ、という感想と、それもそうか、という本心を胸の内に仕舞う。

 

 歴とした伯爵令嬢とはいえマーガレットは養子だ。

 おまけにライセスを巡っての悪い噂や、それに引っ張られた根も葉もない話も広がりつつある。

 

 そのあたりをどこぞの生徒会長は配慮したのだろう。

 

 聖剣祭の挨拶に選ばれたとなればそれだけで箔がつく。

 学園内ではクリスティアナの決闘で本性を曝け出しているあたり尚更だ。

 

 噂の真偽はどうあれ、マーガレットの立場は貴族社会でかなり強く振れてくるだろう。

 

「せいぜい頑張りなさい。ここでの貴女の努力がきっと結果につながるでしょうから」

「はい、もちろんです! 期待に応えて見せますよ、私」

「? 期待?」

「ええ! きっと私が強いから指名されたんですよね、分かってます!」

「うーんこの強さおバカ」

 

 まあこの通り本人はそのあたり一切知らないのだろうが。

 むしろ何から何まで強い尽くしで知ったとしても「いいですね!」なんて笑いそうだが。

 

 ちょっとひとりの知人としてこのままで大丈夫かと心配になるクリスティアナだった。

 

 剣士としてはともかく、少女としてはあまりにもダメだ。

 何事もすぐ強さでねじ伏せ(マウント)とってくる令嬢とか嫌すぎる。

 

「しっかりしなさいマーガレット。パラネロス伯爵もいらっしゃると思いますが」

「え? お父様は来られませんよ? ちょうど仕事が入ってしまったみたいで」

「あら、そうなのですか。それはまたお気の毒ですわね」

「でもクリスティアナ様と一緒にいられるので大丈夫(おっけー)です!」

「なにも大丈夫じゃないですわ。ぶん殴りましてよ」

 

 言うが早いか空を裂く鋭い拳。

 

 クリスティアナの右ストレートはマーガレットの頬を軽く掠めて突き抜けた。

 

 もちろん当てるつもりだった一撃である。

 

 それを避けてニコニコしている少女はなんというか、非常に厄介というか。

 

「ともかく、今日だけはふざけないでくださいませ。大事な聖剣祭ですのよ。下手してわたくしか貴女が血でも流せば剣舞は台無しですわ」

「わかってます。薄皮一枚までは許容範囲(セーフ)ってことですもんね!」

駄目(アウト)ですおバカ! もうッ……もうッ! このおバカッ!

「ごめんなさい」

「ごめんなさい(にこぉ)じゃないんですのよぉ! 分かっておりますのマーガレットッ!? 本番なんですからちゃんと気合いを入れてくださいまし! ここで恥なんてかいていられませんわよ!?」

「あはは」

「笑うなァ!!」

 

 そもそも型の決まった剣舞で出血や怪我の心配をしている時点でズレている。

 

 きちんと正しく覚えて打ち合えば刃が擦れるだけだ。

 決して傷を負うコトなどない。

 

 ……その点、正しく覚えるというのはふたりとも完璧だった。

 

 問題はそのあと、正しく打ち合うということ。

 

 失敗に失敗を重ねてイザヤの胃を破壊(ブレイク)したのもそこにある。

 

 例えばマーガレットの場合、強いからと隙をついて。

 例えばクリスティアナの場合、報復やムカつくからという理由で殺意をこめて。

 

 なにかと相手の命を絶つ剣筋を走らせるのだから質が悪い。

 

「ところでクリスティアナ様」

「なんですの。まだ笑い足りませんの、マーガレット」

「今日の剣舞、私が勝ったら私のほうが強いって認めてくださいね!」

「だから勝負じゃありませんのよッ!! 貴女剣舞をなんだと思っていて!?」

「つまらない決闘かなって」

「おバカぁあぁぁああぁあああぁああッ!!!!」

 

 ……本当に、心配である。

 

 はたしてこんな少女と一緒にまともに剣舞の奉納ができるのか。

 無事に刃を合わせるだけの作業を無傷で終わらせられるものなのか。

 

 剣舞の最中にいきなり暴れ出してなんだかんだで決闘にしてこないものか。

 

 …………本当の本気に、心配である。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 開会式はつつがなく進んでいった。

 

 生徒会長の開会宣言からはじまり、騎士団や教会からも有り難い言葉をもらう。

 

 その後は皇帝陛下から直々の話だ。

 

 名門の学園生とはいえ自国の皇帝と顔を合わせる機会なんて滅多にない。

 ましてや直に拝めるというだけでも十二分なぐらいだ。

 

 我こそはという生徒たちが集まったおかげで、式場である闘技場にも大勢の人集りができている。

 

「――――――、」

 

 そこからひとり孤独に、けれど颯爽と離れていくのはクリスティアナだ。

 

 前述のとおり彼女は騒がしい場所があまり好きではない。

 式が行われている現在の闘技場なんてまったくその通り。

 

 せめてもの義理は果たそうと彼女も三十分は頑張ったがそれまで。

 

 これ以上は無理だ、と諦めて闘技場から出ることにした。

 

「…………まぁ、こればっかりは仕方ないですわよね」

 

 クリスティアナだって人間である。

 

 好き嫌いはあって然るべき。

 むしろ少しでも我慢したコトを褒めてもらいたい。

 

 基本的にそういう自分を抑えつける行為が大の苦手な公爵令嬢だ。

 

 もっとも、そんなのはわざわざ明言せずともこれまで起こした騒動が如実に表している。

 

「………………、」

 

 式の最中、校内に人の気配は極端に少ない。

 

 カツカツと響く足音は彼女ひとり分。

 堂々と廊下を歩く人影も彼女ひとつ分。

 

 ともすればそれは、いつも見落としてしまいがちな日常の平穏だ。

 

 

 ――――とても、静か。

 

 

 くすり、と自然に笑みがこぼれた。

 

 まるで世界に自分ひとりだけになったような錯覚。

 あるいは時間に取り残されたような孤独感。

 

 いつもいつも周りには人がいて、彼女自身も他人も煩く喧しい。

 

 だからこそ落ち着ける感覚はひときわ大事だ。

 

 きっと彼女が剣を好んだのもそのあたり。

 

 刃の柄を握った瞬間。

 得物を振るうと決意した刹那。

 

 彼女の心身は正しく冷まされ、ただただ剣を振るコトだけに専心する。

 

 

「…………あぁ、やっぱり」

 

 

 ……だから。

 

 そう、だから、きっと自分でも分かっていた。

 

 マーガレットと刃を交えた瞬間から、彼女の優先順位は覆っている。

 

 このまま貴族の令嬢として生きること。

 

 クリスティアナ・ヴァルトーレとして絶対だった権力を振りかざすこと。

 

 公爵家の令嬢として相応しい振る舞いをして生活すること。

 

 いまとなっては、そんなの。

 

 

「正直、どうでもいいんですわね。わたくしは」

 

 

 驚くぐらいその言葉はスッと出てきた。

 

 どうでもいい、なんでもいい。

 

 戦いの最中でもずっと思っていた。

 終わってからも心のどこかで考えていた。

 

 己にとって大事なものはなんなのか。

 なにを抱えてこの先の生を謳歌したいのか。

 

 地位? 名誉? 権力? 財力?

 それとも――――男?

 

 どれも、違う。

 

 

「きっとそう。いまの価値も、勝敗も」

 

 

 とくにコレといって、こだわることでもないだろう。

 

 

「ただ……」

 

 

 嗚呼、ただ。

 

 心に浮かんだのはただ純粋な願い。

 

 あのときに感じた不思議な高揚感を思い出す。

 

 ならばこそ、それがいい。

 

 

多くの人と、剣を交えたい。勝ってもいい、死んでもいいから――わたくしは本気の刃を受けて、味わって……」

 

 

 笑ってしまう。

 

 こんな愚かなことが十六になる少女の願いだなんて、本当に笑い話だ。

 

 おかしすぎて涙まで出てくる。

 

 ――――でも、仕方ない。

 

 ああそうとも、そう思ってしまったのなら仕方ない。

 

 

「まあそれはそれとしてあの桃髪女に勝ちを譲る気はないんですが」

 

 

 ふんす、と腕を組みながら険しい顔をするクリスティアナ。

 

 なんだかんだ言ってマーガレットは特別扱いである。

 これまでの経緯を思うとそうおかしな話でもないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――思いの外、居るものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――…………」

 

 

 即座に身体から熱が引いていく。

 

 声は廊下の奥から聞こえてきた。

 

 距離にしておよそ十五メートル以上。

 

 足音はない。

 気配は感じ取れない。

 

「……不躾な方ですわね。急に。貴方、だれ――――いえ、()()?」

「慧眼だ。鋭い洞察力は感心する。故に分かるのは貴様が障害ということだ」

「質問に答えなさい。その神官服、どこで手に入れましたの。教会の人間ではないでしょう。彼らが式を抜けるはずがありませんもの」

「詳細に語る必要はない。我々にとって重要なのは明確な立ち位置だ。即ち――」

 

 

 直後、彼女が見ている中でその異変は起きた。

 

 

 ――空が覆われる。

 

 

 青い色が塗り潰されて赤黒い液体が滲んだように天を閉ざす。

 

 同時に起こった校舎を震わせる衝撃は()()()()()()

 距離的にはそう離れていないが、建物は完全に別の場所。

 

 それに驚く暇もなく、声をかけてきた男が重苦しい服の隙間から腕を上げた。

 

 ……そこに。

 

 

 

「貴様らの敵だ」

「――――なるほど。よく分かりましてよ」

 

 

 

 怪しげな輝きを放つ、一本の剣を握り絞めて。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「いやァ見事なぐらい大成功ッ! 全部計画通りだなァ。いいじゃねえか最高だぜッ! やっぱり()()()様を信ずる者は救われるッ! そのためにわざわざ五本分の聖剣を分捕った甲斐があったッ!」

 

 

 からからと、それは酷く大声をあげながら。

 

 

「我ら真導神教ッ、ここに名乗りをあげたりッ! さァやっちまおうぜど派手によォ! 帝国ひとつ大陸ひとつぶっ壊してなんぼの世界だ気にせずやれやスカッとしようぜぇ!!」

 

 

 誰もが見上げるしかない闘技場の外で、盛大に刃を振り上げるのだった。

 

 

 







》悪役令嬢
みんなと斬り合いたい系お嬢様。命懸けてないとなんか物足りねえよなァ!? ついでにエンカウント。得物ナシ。やば。


》聖剣祭ちゃん
お偉いさんが顔を出す(アウト)警備が厳しい(アウト)誰にとっても大事な祭り(アウト)スリーアウトってところかナ……(白目


》真導神教
異教徒。敵。ころせッ (襲撃)ぐわーッ


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