悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

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19/古代からの襲撃者

 

 

 

 

「では続いて、学園を代表して誓いの言葉を捧げる。――マーガレット・パラネロス、前へ」

「はい」

 

 名前を呼ばれてマーガレットが立ち上がる。

 

 闘技場は決闘の時と違って豪奢な装飾の施された式典場となっていた。

 

 直接関与のあるものは石畳の舞台へ。

 それ以外の見物人は観客席で見守っている。

 

「先ずはこの機会を与えてくださった我らが祖、女神ステラに感謝を」

 

 ちらりと周囲を確認する。

 

 ……クリスティアナの姿はない。

 先ほど人ごみに紛れてどこかへ出ていくのを偶然見かけた。

 

 単なる見間違いかと思ったマーガレットだが、どうもそうではなかった様子。

 

 どこへ行ったのだろうか。

 

 いまは目の前のくだらない挨拶よりも、そっちのほうが気になる。

 

「アドレーラ聖神閃学園の生徒として、栄えある帝国ベルリオンの民として、我らを守護し導いてくださった聖女と聖剣に誓う」

 

 ……正直、彼女にはあまりよく分からない。

 

 遠い昔に偉大なことを成したからといって今の今までどうして信仰されているのか。

 

 過去のことは過去のことで、今に生きるのは自分たちだ。

 どうしてそこまで執着するのか、その考え方がさっぱり理解できない。

 

 それを聞いたクリスティアナは「ばか」と言った。

 

 〝それだけ長く信仰されるぐらい凄いコトをしたという証拠でしょう。確かなものが残り続けて此処に有る。それだけのことですわ。それこそ貴女のいう「強さ」という奴よりよっぽど立派だと思いますが?〟

 

 ……やっぱり、よく分からない。

 

「この身に宿った魂に懸けて、我らが心の剣を以て。今日より明日、未来永劫の平和と祝福を願い、此処にいまの――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刃を捧げる、ということか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厳かな空気を切り裂く落ち着いた言葉。

 

 誰とも知れず視線は一気に声のほうへ向いた。

 

 舞台は左側、ちょうど騎士の反対側についた教会の座で――ひとり立ち上がる大男がいる。

 

「残念だがそうもいくまい。ここで式典は中止だよ。これより先、演者は我らだ」

「なッ――なにをしている貴様ッ!? 誓いの言葉を遮ってまでなんの戯れ言を――」

 

 

 直後。

 

 制止に入った神官の首が飛んだ。

 

 鮮血が白い布地を絵の具をぶちまけたように塗らしていく。

 

 躊躇なんてあったかどうか。

 どころか、それは薄く唇を歪めながら。

 

「戯れ言? それはおまえたちの下らない信仰のことを言うんだ、修羅の末裔どもが」

「――――総員構えッ!! 団長命令だ一番隊から五番隊は陛下をお守りしろッ!! 六番隊から十番隊までは観客をッ!! それ以外は避難の支援だ急げ速くッ!!」

「遅いんだよ対応が」

 

 大男の懐から刃が引き抜かれる。

 

 随分と古い意匠の剣。

 

 だがしかし状態は良い。

 保管方法が良かったのだろう。

 刃はこぼれておらず、傷は少ない。

 

 柄は長く、刃の根元には宝石が埋め込まれ、両刃の刀身には波のような紋様が浮かんでいた。

 

 ――それが、真っ直ぐ舞台の上に突き刺される。

 

 

「聖銘」

 

 石畳の上を赤黒い光が這っていく。

 

 

「我が意を阻め、スィレストーレ」

 

 

 逃げられない。

 

 動けない。

 防げない。

 

 それは瞬間、一秒にも満たない間。

 

「――――まずい」

「陛下!?」

「全員下がれっ、アレを相手にするな! 大人しく逃げろ! さもないと――」

「気付いたところでどうにもならないさ、すでに」

 

 大地に突き立つ槍のように。

 空へ向かって伸びる塔のように。

 

 神秘の障壁が、その場に居た誰もを囲むように展開される。

 

「――準備は整えてある。この通り」

「…………ああくそ、本気か貴様ら……してやられたどころじゃないが……ッ」

「陛下! 陛下っ! ご無事ですか!? それより何を知っておいでで!?」

「うるさい落ち着け! 確証がないから気にとめておく程度だったが、馬鹿め。こうくるとは予想外にもほどがあるぞ……あれは――」

「そうだぜェ皇帝。そいつは〝聖剣スィレストーレ〟だ」

 

 

 降ってきた声に頭上へ視線を向ける。

 

 文字通りの空の中。

 

 その場を囲んだ障壁の外にひとり、赤い大剣を背負った男が立っていた。

 

「内と外を隔てる絶対の盾。使い方を変えれば誰も破ることのできない鉄の鳥籠。東のマルドバルク公国が持つ守護刀剣。これによってアイツらは小国でありながら数百年もの間を他国の侵攻を耐えきった。そいつをちょいと拝借できてなァ。事実を知られたらマズいからって必死で隠蔽する公国の笑える苦労よ」

「……何者だ。何が目的だ。貴様らがこの場に現れた意味が何を示すか分かっているのか」

「当然よォ。そのために喧嘩売りに来たんだぜェ? 我らが祖、偉大なる神秘の奏者、魔導神クロウ様は仰った。穢れた血族、刃を握った蛮族どもに崇高な魔術の真意は理解できない――となァ」

 

 歪んだ瞳、牙のようにすら見える不揃いの歯。

 手入れがされておらず跳ねた長髪といい、着崩した襤褸切れまがいの服といい、その姿には荒々しさしか存在しない異常性。

 

 なのにそんなコトをどうでもいい普通(こと)のようにまとめあげる本人の放つ雰囲気。

 

 一目で理解する。

 この男はイカれたクソボケだ。

 

「我らは真導神教。かつて大陸の統一を目指し、志半ばで無惨にも散っていった魔導士の血族。その末裔。でもってェ――――」

 

 すらりと、その大剣が天高く振り上げられる。

 

 

「――――テメエらをぶっ潰す真なる神の遣いだッ! 覚えとけやァ! アホ面晒してる不能(インポ)野郎どもォ!!」

 

 

 飛び上がる影。

 

 落ちてくるヒトガタ。

 

 いくら剣で切っても裂けなかった壁がすんなりと男を受け入れる。

 

 当然のこと、それは捕らえた者を逃がさないための牢であって防護壁ではない。

 内からの衝撃には絶対の耐性があっても外からの侵攻には無意味だ。

 

 

「聖銘ィ! 我が意に燃えろォ!! ヴェルハスレイブッ!!」

 

 

 刃をなぞって火炎が奔る。

 

 自然発生したと到底思えない熱量はけれど現実に在る脅威だ。

 

 すなわち彼の握る得物はただの鉄の塊とは違う。

 

 真剣とは一線を画す願いと祈りの込められた聖遺物。

 この学園にも存在する異能を宿した神秘の結晶。

 

 それこそが――――聖剣である。

 

「陛下っ!!」

「下がれ。良い、騎士団程度で相手取れるか。これは――――」

 

 

 

 

 

「あはっ」

 

 

 

 

 

 ひとつ、足を出す。

 

 放射状に広がる火炎を前にして躊躇わずその影は動いた。

 

 ふたつ、剣を取る。

 

 近くに居た騎士から拝借したものだ。

 悪いけれどここは勝手に使わせてもらおう、なにせ時間がない。

 

 みっつ、彼女はニィッと笑う。

 

 迫る業火を目前に、ただただ愉しそうに笑みを濃くする。

 

 

「それが、聖剣ッ!?」

「――――あぁッ?」

 

 

 凡愚の剣才。

 鮮やかさなどひとつもない太刀筋。

 

 けれどもそれは、()()()炎を裂いて切り捨てた。

 

「あはっ、あははははっ!」

「おいおいなんだぁテメエッ! ――愉快な小娘(ガキ)がいるじゃねえか正直惚れちまったぞオイ! いいじゃねえか最高だぜ! 名前はなんだ教えてくれよお嬢様ァ!!」

 

「手が熱いっ! 火傷したかな、凄いねソレ! 強いってことでしょう!? でも大丈夫、安心して。私のほうがもっと強いから!

 

「話が通じねえなあ女ァ! イカレてんのか!? でも大好きだぜそういう奴はッ!! 俺好みだとんでもなくよォ!!」

 

「うんッ! 貴方も私好み!! 強い人が好きなの、だって――――」

 

 

 くすりと、マーガレットは微笑みながら。

 

 

「――――私のほうが強いって、証明できるから!!」

 

 

 ……いや、それは微笑んでいるとかそういう程度じゃない。

 

 満面の笑みだった。

 これ以上はない百点満点の笑顔だった。

 

 強さの亡者、マーガレット・パラネロス。

 

 初めての聖剣相手の斬り合いに心が躍りすぎてテンションがハイになっている(わる)い例である。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 ――一方その頃。

 クリスティアナは校舎の中で、静かに相手を見詰めていた。

 

「刃を交える前に訊いておく」

「なんでございましょう」

「聖剣を渡せ。そうすれば無駄な争いはせずに済む」

「それは無駄な血を見ないで済むということではないですわね?」

「……やはり見事だ。私は貴様に敬意を表する。貴様と巡り会えたのは幸運だ」

 

 風に揺れる長い銀髪、色が抜け落ちたような灰色の瞳。

 

 神官服が似合うほど冷静な男は、けれどその立ち居振る舞いがそうでないと告げている。

 

 手に持った剣は見るからにただの棒切れではない。

 クリスティアナは一目でそれが理解できた。

 伊達に剣気をまとっているワケではないということだろう。

 

 ……たしかに。

 

 彼のほうから漂ってくる殺気を、その身に感じている。

 

「受け取れ」

「っ」

 

 空を切って投げ渡される。

 

 彼に手に握られた得物ではない。

 見れば鞘におさまった長剣だった。

 

 しかもご丁寧に柄頭には王家の象徴、星の意匠がついている。

 

 …………帝国騎士にのみ帯刀が許される専用の真剣だ。

 

「……貴方、これをどこで?」

「此処に来るまで三十人だ。ひとつ、無事なものを取っておいた。何事も備えあれば憂いなしと言うだろう。よもやこんな場面で使うようになるとは思わなかったが」

 

 ということは、実力十分な騎士たちを蹴散らす程度には強いということ。

 

「わざわざ武器を貸してあげるなんて紳士ですわね。その優しさが命取りになるかもしれませんのに」

「ならば貴様がそれ程の剣客だったというだけのこと。相手にとって不足はなかったというワケだ」

「わたくしじゃなかったら逃げてますわね、この状況。きちんと考えていて?」

「逃げるならその背を追って切る。向かってくるならその剣を折って切る。どちらにせよ齎される結果に相違はない。あるとすれば自ずと分かってくるだろう」

「すなわちわたくしが強ければそれは違うと?」

「話が早いのは有り難い」

 

 表情は崩さない。

 声音は変わりない。

 

 あたかも感情が欠落しているようだ。

 それほどまでに男の顔に色が感じられないでいる。

 

 ――――けれど、いまの彼女には関係ない。

 

「なら、そうさせてもらいますわ」

 

 柄を握って剣を引き抜く。

 

 呼吸と共に全身の感覚を支配する。

 

 胸の奥底、身体の内側――――秘められたモノを一気に外へ引き摺り上げた。

 

 

ッ――――貴様、これは」

「全力で。ええ文字通り、わたくしの総てを懸けて相手いたしましょう。優男」

 

 

 剣気は迸る。

 

 歯を剥き出して少女は笑う。

 

 久々に、嫌な相手でもムカつく相手でもない。

 

 ――――愉しい剣を振るえる、純粋無垢な剣客相手だ。

 

 

「……良いだろう。私も手応えがなくては腕が錆び付く。悉く迎え撃とう。貴族令嬢」

「貴族令嬢ではありません。クリスティアナ・ヴァルトーレでしてよ、優男」

「優男ではない。アッシュバルトだ」

「ではその名前ッ、わたくしに勝てたら死にながら刻んでやりますわッ!!」

 

 

 舞台は学園。

 決戦の火蓋は、ここに切って落とされた。

 

 

 







》真導神教
むかしむかしあるところに居た大陸の支配を目論む魔導士の血筋、その生き残り。神託を受けて襲撃を決行する。おもちゃみたいな聖剣が五本ある(火炎の操作・絶対防御障壁・???・???・???)


》伯爵令嬢
わぁい聖剣! マーガレット聖剣とかそういう強いものだーいすき♡ って感じで気分が最高にハイッ⤴になってるご令嬢。笑い方が悪魔か?


》公爵令嬢
まともな剣の相手とか最高ですわね! って感じで全力全開。こいつもこいつでコレだから剣って怖いネ!


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