悪役令嬢、怒りのあまり剣に狂う。   作:4kibou

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26/さあ、決着の時間だ

 

 

 

 

 ――廊下を駆ける。

 

 彼の足は速い。

 クリスティアナが必死で這いずり回っていた距離をもう超えている。

 

 ……当然だ。

 

 なにせライセスは怪我ひとつしていなかった。

 

 見かけた死体は彼女を人質にとった男を含めふたり。

 数的不利な状況にあってなお、無傷で切り抜けたということになる。

 

 ――――知らなかった。

 

 そう、本当に。

 

 彼女はなにも知らなかった。

 

 彼が剣気をまとえたのも、

 聖剣使いふたりを相手に勝てるほど強かったのも、

 

 そして――――

 

「…………っ」

 

 抱き上げられたまま、きゅっ、と彼の制服を掴む。

 

「――ヴァルトーレ公爵令嬢?」

「ぁ…………」

「……どうか、したのかい」

「…………ぃ、ぇ……」

「ならもう少しだけ我慢してくれ。嫌なのは分かるが、頼んだのは君だ」

「………………っ」

 

 ……ライセスの言う通り。

 

 運んでくれと頼んだのはクリスティアナだ。

 繰り返すが、それは別におかしなコトではない。

 

 彼女にはまだ魔剣の反動が残っている。

 

 回復薬は浴びていたが、治りは普通の傷と比べて著しく遅かった。

 だから、あの場では彼の足を利用するのが一番賢い選択だったろう。

 

 他意なんてない。

 

 そんなもの、あってはならない。

 

 ……なにせ彼は自分に婚約破棄を叩きつけてきた馬鹿王子だ。

 

 嫌いで嫌いで仕方なくて、声を聞いたら腹が立って、顔を見たら吐き気がして。

 

 なにを狙っているかも、なにを考えているかも分からない、男で。

 

 それで。

 

 

 ――――――それで。

 

 

「………………――っ」

 

 

 ……それで、刃は。

 

 彼の剣が語ったところは。

 

 

(――ああもうッ……なんなん、ですのよ……!)

 

 

 ……ワケが分からない。

 

 心臓が痛い。

 

 胸が苦しい。

 

 うまく呼吸ができなくなりそうだ。

 

 なんだか無性に熱いし、耳が溶けそうだし。

 

 そんな自分に、クリスティアナはますます苛々する。

 

 今だけは己の特異性、その才能を恨んだ。

 

 ……ああ、そうとも。

 

 もしも彼女が、刃を交えた相手の心情を読み取るなんてコトができなければ。

 

 ――――一生、その気持ちを知ることもなかったのに。

 

 

「…………、」

 

「――――――」

 

 

 そっと、彼の顔を見上げる。

 

 いつものような剽軽な笑顔は貼り付けていない。

 ライセスは真剣な表情そのままに、全速力で闘技場へ向かっていた。

 

 ……不思議だ。

 

 今日はこれまで生きてきて、見たことのない彼の姿ばかり見る。

 

 ――いや、違う。

 

 きっと見てこなかったワケじゃない。

 

 見られなかったのは。

 気付かなかったのは。

 

 ――――ひょっとしなくても、自分(わたくし)のほうで。

 

 

「――――……っ」

 

 

 ぎゅっと、制服を握る手に力を込める。

 

「…………、ごめん」

 

 彼はちいさく謝った。

 

 分からない。

 

 いまはそんな言葉なんてもう要らない。

 それを言って欲しかった時期はとうに過ぎ去った。

 

 なんでもない公爵令嬢と、なんでもない第一王子の政略結婚。

 

 親に決められた婚約者同士。

 

 そんな関係はすでに終わっていて。

 

 彼は王位継承権を失って落ちぶれた王族で、

 彼女は公爵家の淑女らしからぬ剣に狂った令嬢だ。

 

 だからもう、二度と。

 

 あの頃みたいには戻れない。

 

 

「――――――ッ」

 

 

 ……胸が痛い。

 

 心が苦しい。

 

 口の奥、舌の付け根、喉の手前あたりから何かでてきそうだ。

 

 甘い。

 

 でもちょっとだけ、嚥下するには辛く苦い。

 

 ……分からない、分かりたくもない、こんなの知らない、知りたくなかった。

 

 だって、そう、ふたりの間にはとくにコレといった情もなくて――

 

 

「――そろそろ着く。準備はいいかい」

「…………ぁ」

 

 

 でも。

 

 だったらなぜ。

 

 ……いや、もう、そんなの……どうでもよくて。

 

 …………なんだか、悔しい。

 

 別の意味で……違うところで、腹が立つ。

 

 名残惜しい、と。

 

 感じてしまう、だなんて。

 

 

「――――ッ、ええ、万全……ですわよ」

「なら急ごう。君の狙いはもう分かってる。大方その聖剣が鍵だろう」

「……なんでもお見通しですのね、貴方は」

「さあ、どうだろう。俺がそんなに出来た人間だと思うかい?」

「………………、」

 

「――行くよ。障壁が邪魔だ。強引に突破する」

 

 

 ライセスが剣を振り抜く。

 

 それだけで邪魔くさいモノはすべて断ち切れた。

 

 王家に伝わる聖剣。

 概念斬撃、万物を断つ刃のクインドレス。

 

 それを惜しげもなく使って、彼は足を止めずに歩み続ける。

 

 

 〝わたくしは――〟

 

 

 咄嗟に。

 

 ……彼の制服を、また一段と強く掴む。

 

 どうしてか。

 

 前進を止めない彼に、置いていかれてしまいそうで。

 

 そう、感じてしまって。

 

 

「――――居るよ」

「!」

 

 

 耳元で囁かれて、ばっと顔をあげた。

 

 向かう先。

 遠く前方。

 

 赤い髪をした男の傍に、情けなく倒れこむ少女の姿を見る。

 

 

「――――あのッ、バカ……!」

 

 

 嫌な予感が的中した。

 

 なにを無茶なんてしているのか、と歯を食いしばりながら聖剣を握る。

 

 ムカつく。

 

 だがそれ以上に、どこかで納得している自分もいた。

 

 マーガレットが目の前で異能を使う聖剣使いと相対すれば、躊躇なく戦いに行くだろうと気付いていたらしい。

 

 ……本当、憎らしい相手のことばかり理解してしまって。

 

 これもどれも、すべて剣を取って、刃を交えてしまったせいだ。

 

 そうに違いない。

 

 

 

「――――マーガレット・パラネロスゥウゥウウウウ!!!!」

 

 

 

 渾身の力で彼女の名を叫ぶ。

 

 ようやく回復してきた身体は万全でなくとも動かせる程度だ。

 本気のマジにここで零から死合うのは無理だが、必要最低限な力は出力可能。

 

 

 

「貴女はやはりッ!! その程度の弱い弱い女でしたのねェ――――ッ!?」

 

 

 

 振りかぶった聖剣を投げる。

 

 切っ先は真っ直ぐ彼方に。

 

 少女へ向けて刃が飛ぶ。

 

 

 ――それを。

 

 その一手を。

 

 その言葉を、そこに秘められた彼女からの激励を。

 

 ――――見逃すような、マーガレットではない。

 

 

 

「…………いいえ」

「! てめえ」

「私はッ!」

 

 

 

 歯を食いしばって立ち上がる。

 

 振り絞った力で動けないようにしていた男の拘束から抜け出す。

 

 一歩踏み出せばまともに走れもしなかった。

 

 

 ――だからどうした、それがなんだ?

 

 

 構わない。

 

 走れないならしょうがない、()()()()()()()()()()()()

 

 そうだ、彼女は知っている。

 

 諦めることなんてできない。

 常に進まなければ意味がない。

 止まっている暇なんてひとつもない。

 

 すべては己が強さを証明するため。

 

 例え矢尽き刀折れ、血肉がはじけて骨が砕けて内蔵が破れて傷を負って病に倒れて毒を含んで腐って衰えてよもや倒れて力尽きようとも――――

 

 ――――何度でも、立ち上がって前に進めば一切合切問題ない。

 

 

 

「――――私は、強いッ!!」

 

 

 

 どくん、と。

 

 撃鉄を下ろすように心臓の音が鳴る。

 

 力の在処、無意識の目醒め。

 

 それは間違いなく。

 

 

 限界を超える奇跡の光。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 ――バラバラと、障壁が崩れていく。

 

「……おいおいカイよォ。てめえなにしてやがる? スィレストーレは絶対に破られないんじゃなかったのかよ、あァ?」

「し、知るか……ッ、こんなのありえない。外側から……切り裂かれた、のか……?」

「ちッ、んだよメンドクセエ。だったらとっとと目当ての品をパクってトンズラ――」

 

 

「――――――――」

 

 

 と、そこで彼はマーガレットの構える聖剣に目を移した。

 

 光沢を放つ黒い柄。

 蒼白色に輝く鍔の宝石。

 日の下にあってなお輝く銀色の刃。

 

 そうして、怪しく光を放つその刀身の正体は。

 

 

「――する手間が省けたってかァ!? ちょうどいいッ! マーガレット!! 良いモン貰ってんなァオイ!! そいつごと俺のもとに――――」

 

 

 

「〝我が意正しく(ほしはそのとおり)真名是即ち数えて二十(てんにおおきくかくされたもの)〟」

 

 

 

 大気がざわつく。

 

 世界が震える。

 

 その場に居る誰もが息を詰まらせた。

 

 目に見えない響きを持った言葉。

 

 少女は剣を握りしめて、眼前の男を見据えている。

 

 

「――――なんだ、てめえ……」

 

 

 

「〝聖剣解放(そのなをよぶ)〟」

 

 

 

 ――――桃色に染まる髪が伸びる。

 蒼い眼光から光の痕が空へ奔る。

 

 剣の形(シルエット)

 

 薄い刃。

 切っ先は鋭く。

 

 刀身は反るようにして波の模様を描いた。

 

 鍔は円い。

 

 柄には襤褸布が巻かれ、光を追うようたなびいている。

 

 

 

 

「〝リベオライト(――Judgement――)〟」

 

 

 

 

 ――その光景を、目にした者は忘れないだろう。

 

 剣を握った少女の姿が、見たコトもない誰かと重なる。

 放たれる圧が通常の比ではない。

 

 たかだか異能を扱えるだけの剣?

 

 そんな程度であるものか、と。

 

 

「なんなんだ、てめえ、そいつは」

 

 

 

「――――――――、」

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 気付けば男は跳ねていた。

 

 今までの愉快な気分も眼前の少女へ向けていた心も忘れて剣を握る。

 

 ありえないぐらいの焦燥感。

 認めがたい危機の予兆。

 

 ――――まずい、まずい、まずい。

 

 なんでまずいのか、どうしてそこまで怯えるのかは分からない。

 

 ただ、まずい。

 この少女はダメだ。

 

 これを――――こんな存在を、目の前で許しては駄目だ。

 

 

「カイてめえ!! 力を貸せ今すぐにだァ!! 障壁でコイツの動きを止めろォ!!」

 

「――――ッ、あぁッ!!」

 

 

 マーガレットの足元に小さく障壁が展開される。

 

 外からの介入を許す、内側のモノを閉じこめるための結界。

 

 それは見た目より何倍も凶悪な足枷だ。

 手練れの騎士たちが何度斬りつけても破れなかった障壁の拘束。

 

 彼女に逃げ場はない。

 

 一歩も下がれない。

 

 

「許せマーガレットッ!! 勘だがてめえは生かしちゃおけねえッ!! ここで死にな大人しくなァ!!」

 

「ばっ――――避けなさいマーガレット!!」

「えっ、えっ、ちょっとマーガレットなにをしてるんですかッ!?」

 

 クリスティアナの声が聞こえる。

 母親の声が聞こえる。

 

 どちらも焦っている。

 

 当然だ。

 

 彼女の首めがけて放たれた刃はあと一秒とせず届く。

 

 マーガレットは知らない。

 

 聖剣の力は治癒だ。

 怪我を治して身体の傷を塞ぐ。

 

 彼女はすでに万全になっている。

 

 

 ――だが、完治してなお首を切られて聖剣使いは死んでいた。

 

 

 だから。

 

 

 

 

「おらァッ!!」

 

「     」

 

 

 ぐちゃっ、と。

 

 鈍い音を響かせて、少女の首が宙を舞う。

 

 一瞬だった。

 痛みすら走る暇もない一撃。

 

 見間違いでも、目の錯覚でもない。

 

 マーガレットの胴体、その首から上が完全に千切れてなくなっている。

 

 人間とは脆いものだ。

 

 所詮生き物はどれだけ強かろうが生き物。

 自然の摂理、絶対的な規則、物理法則には逆らえない。

 

 頭を飛ばせば人は死ぬ。

 

 首を切られれば生きてはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、刹那。

 

 を噴き出して無様に落ちる、

 

 空を回るアタマが笑った。

 

 眼光が、蒼く神秘に烈々と輝く。

 

 

 

「なんのこれしき()()()()

 

 

 

 光が奔る。

 

 聖剣が彼女の意思に応える。

 

 

 

「まだです。私は負けません。弱くはないから強く在るからッ」

 

 

 

 

 頸を斬られた程度で()()()()()()()、と彼女は高く吼え上げた。

 

 

 

「――私は貴方に、勝利するッ!!」

 

「――――――ば……」

 

 

 

 握りしめた得物が光に包まれた。

 

 切り離したはずの首から頭が生えている。

 

 落ちたモノは代わりとでも言うべきか光に灼かれて蒸発していく。

 

 

 ――――なんだ、この女は。

 

 

 目の前にいるこの少女は本当に同じ人間か。

 本気で同じ身体構造を持った、たったひとつしかない命を持つ生き物か。

 

 それがどうして――――致命傷を負ってなお、まだ死なずに生きて立ち上がる?

 

 

 

「ば、か……かよ……!? なんだ、てめえ――――なんなんだァ!?」

 

「そんなのは決まっているッ!!」

 

 

 

 唸りを上げる神秘の渦。

 とどまるところを知らない光の奔流。

 

 限界はとうに越え尽くした。

 

 だがそれが打ち止めではない。

 

 まだ行ける。

 まだ戦える。

 まだ強くなれる。

 

 もっともっと――――己の身体の天井はこんなところにない。

 

 だが今はこんなモノで十分だ。

 

 目の前の男を斃すのに、これ以上の覚醒(チカラ)は必要ない。

 

 

 

「貴方より強い、それが私ィ――――――ッ!!!!」

 

 

 

 光の嵐が闘技場に広がる。

 

 振り下ろされた刃は真っ直ぐに。

 

 男の肩から脇腹までを割いた剣は、わずかに命を残しながらその意識を刈り取った。

 

 

「…………ふぅ、これで証明完了ですねっ」

 

 

 力無く頽れていく男を見ながら、マーガレットはにこりと笑ってみせる。

 

 

 

「ほら、私のほうが強いっ!! だから貴方とは結婚できません!!」

 

 

 

 すでにその言葉は、憐れな聖剣使いに届いてさえいなかった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「……ッ、どいつもこいつも、ろくに役目も果たせないのか……!」

「それはお前もだろうに」

「――――ッ」

 

 首元に刃を当てられる。

 

 スィレストーレの展開していた障壁は消えた。

 いまは誰もがどこへも自由に動いてしまえる状況。

 

 守られていたモノも、縛っていたモノもどこにもない。

 

 だからこそなにより素早く。

 近くに居た神官よりも、わずかに離れた騎士よりも。

 

 真っ先に動いて最後に残ったひとりの聖剣使いへ向かったのは――皇帝陛下(ジョット)だった。

 

「貴様……ッ」

「私らの下の年代は大人しい子らばかりだ。騎士団長も大神官も()()まで荒々しくはない。学園でも特に目立った騒ぎは起こしておらん。故に、落ち着くと思っておったのだがなぁ……」

「…………は。帝国の主が直々に剣を向けるとは。その慢心、命取りに――――」

 

「なにを言う」

 

 

 くつくつと喉を鳴らす。

 

 音は鳴らなかった。

 空気は震えなかった。

 

 激しい衝撃も、目に見える変化もない。

 

 ただこぼれた剣気が至近距離から放出されて、一瞬だけ息が詰まる。

 

 

 ――――その直後、両腕が飛んでいた。

 

 

「…………は?」

 

「――うっわやべえ失敗した。ミスティアが見てる前で失敗したヤバいめっちゃ格好悪いあれだけ大口叩いておいて俺マジでよぉだから剣才ないんだって分かってくれよみんなして魔剣なんぞぽんぽんぽんぽん使いやがって――」

 

「ぁ、あ? あぁあッ!? あぁぁああぁあああ――――――」

 

 ん、んんッ。……まぁ、こういうことだ、若造。()()()()()なら()でも使えるというコトだ。あまり帝国を嘗めるな。どうして大陸で私たちが一際強い国家になったと思っている?」

 

 

 痛みに喘ぎながら聖剣使いが蹲る。

 

 振り抜いた剣を視認できたのは極僅か。

 そのなかでも刃の軌道を理解できたのは、一握りの人物だけだろう。

 

 故に、ベルリオンのトップとしての面子は最低限保たれたと言っていい。

 

「あなた。ジョットが五つしか出せてなかったわ」

「鈍ったな。昔は十二はいけただろう。なんだ雑魚かあいつ。雑魚だったな」

「酷いですね。あれがミスティアと一緒に過ごしてる軟弱者ですか。まあ私、ゼルアと結婚してからも剣は振ってますけど」

「五つでもジョットは格好良いから……!」

 

(((あ、駄目だコイツら)))

 

 最低限、保たれたと言っても、良いはずだ。

 たぶん。

 

「一振りで全方位から斬撃を繰り出せるのがあいつの強みなのに減らしてどうするんだ、減らして」

「ますます対処が容易になっているわ」

「いまの私なら圧勝できる気がします」

「きゃー! ジョットー! もう一回! もう一回やってー!」

 

「うるさい……! なんだ彼奴ら……! 私の気持ちを考えられんのか……!?」

 

 ……ともあれ、これにて一件落着。

 

 事態は片付いた。

 後始末は迅速に行われる。

 

 襲撃者の数は全部で五名。

 うち二名が死亡、二名が意識不明、一名が(回復薬込みで)軽傷。

 

 持ち込まれた聖剣も同じく五本。

 一本は完全に破壊、修復は不可能と判断された。

 

 もちろん、開会式は中断としてその場にいた騎士達が忙しなく動いていく。

 

 突然降りかかってきた非日常、窮地の場面、危機は最早ない。

 

 誰もが剣を下ろした。

 鞘に収めた。

 刃を振る理由も戦う理由もなくなった。

 

 それは自然なコト。

 別に彼らがおかしいワケじゃない。

 

 ――――だから。

 

 普通の観点からして。

 

 

 おかしいのは彼女たちのほうだ。

 

 

「――――ふふっ」

「――――――、」

 

 

 ライセスの腕から降りて、震える足を動かしながらクリスティアナは自分で歩いた。

 いまだ舞台の上、待ち受けるように立ち続けるマーガレットへと近付く。

 

 惹かれるように、無理を押し通してまで進む。

 

 

「――――やっぱり、そうですよね」

「…………ええ、認めがたいですが」

 

 

 誰もを魅了した聖剣の輝き。

 その光に目を灼かれたのはなにも普通の人間だけじゃない。

 

 精神が昂ぶっている。

 

 動悸が激しい、我慢ならなかった。

 

 加えて、いまはついでに――――尤もらしい()()()もあるのだから。

 

 

「……本日は聖剣祭ですわ。けれどもこんな事態になってしまって……、嗚呼。だから()()、一大行事が終わっていませんもの」

「ふふふっ、あははっ……はい。そうです。そうですよね、クリスティアナ様」

 

 

「……うん? あの、ご令嬢たち? なにをする気で……」

「騎士団長。止めるな。あれはもういかん。多分なにを言っても駄目だ」

「え、陛下。しかし……」

「長年の経験だ。というか実体験だ。ははは。……血筋だなぁ……

「え? え?? あの、えぇっ??」

 

 

 堪えられる?

 

 いいや。

 

 次に持ち越せる?

 

 そんなワケない。

 

 必要がない?

 

 だからどうした。

 そんなくだらない理屈なんて反吐が出る。

 

 

「剣が舞えば良いのですから、今さら態々〝型〟にこだわるのも馬鹿らしいですし」

「ええ。剣であれば良いので、()()を持ってくるってのも時間の無駄だと思います」

 

「だったら揃ってますわねえ。状況も道具も」

「揃ってますよぉ、人もやる気も、この通り」

 

「ふふっ、ふふふふっ」

「あはっ、あはははっ」

 

 

 向い合う。

 

 柄に手をかける。

 

 眼孔はただ相手だけを穴が開くほど見詰めていた。

 

 方や治癒の権能を使ったばかり、体力も限界を迎えている伯爵令嬢。

 方や魔剣の反動でまだ完治していない、ボロボロとなった公爵令嬢。

 

 身体の調子(コンディション)は万全とは言えない。

 

 そんな状態でわざわざ戦う必要性なんてこれっぽっちもない。

 

 

 

 ――――でも、理由なら腐るほどある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーガレットォオッ!!」

 

「クリスティアナ様ァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いたい。

 

 斬り合いたい。

 

 負けたくない。

 

 証明したい。

 

 アイツに勝ちたい。

 

 アイツより強くなりたい。

 

 

 だから。

 

 ――だから。

 

 ――――そう、だから。

 

 

 

 

 

「ふ、ははッ、ははははははは――――ッ!!!!」

 

「あ、あはッ、あはははははは――――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 ――――いまここで、やり合わなければ気が済まない!

 

 

 

 







》異教徒
鎮圧。残念でした。敗因は喧嘩を売る相手を間違えたことに尽きる虚しさ。どうして……(現場猫並感)


》伯爵令嬢
やったね! これで遠慮なく傷を押して覚醒できるよ! それはそれとしてこの力で適うかどうか試したいよなァ!?


》悪役令嬢
聖剣の本気を見た。凄い。なにあれ凄い。でもあれ振るってるのヒロインちゃんかあそっかあ――じゃあやるしかねえよなァ!?


》陛下
しってた(白目)
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