思考が冴える。
視界が鮮明と映った。
ここに欠けるものなどなし。
いま在るものが全てだ。
弱っていようが疲れていようが傷が残っていようが関係ない。
――睨み合う。
交錯する瞳と瞳。
空想の景色で散る火花。
マーガレットは適合した聖剣を握りしめる。
クリスティアナは只重いだけの鉄塊を掴む。
傍に落ちていたものだ、呼応するなら炎でも吐いたのだろう。
そんなコトはない。
剣を。
――剣を。
――――剣を、握りしめる。
「ふ、ははッ、ははははははは――――!!」
「あ、あはッ、あはははははは――――!!」
さあ刮目しろ。
決して目を背けるな。
瞳を逸らすな。
しかと見届けよ。
この場に立つ意味など大したコトはない。
大義名分も
すべては意地。
ただの意地。
くだらない
すなわち己という存在をかけたぶつかり合い。
喧嘩、決闘。
なんでもいい。
名前なんてくだらない、どうでもいい。
「――――――――ッ!!」
クリスティアナが刃を振りかぶる。
目の前にあるのは障害。
認められないたったひとり。
己の未来を打ち壊した要因のひとつ。
決して相容れない存在。
理解はしようともそこは変わらない。
腹が立つ。
ムカつく。
気にくわない。
気に入らない。
ああそうだ、はじめからまったく同じ。
彼女に対するクリスティアナの想いなんて一切不変。
――――だから、斬る。
「――――――――っ!!」
マーガレットが剣を水平に構える。
目の前にあるのは高い壁。
いつかの明日を塞ぐ重い壁。
たしかな未来を拒む厚い壁。
決して適うことのない存在。
強くなろうともそこは変わらない。
勝ちたい。
強くなりたい。
強く在りたい。
あの人よりもずっと、もっと。
ああそうとも、あのときからまったく同じ。
彼女に対するマーガレットの想いだって一切不変。
――――だから、勝つ。
「ふ――――ぅうぅぉおああぁああああッ!!」
「は――――ぁあぁあぁあぁあああああッ!!」
剣気が荒ぶる。
神秘が吹き乱れる。
舞台の上で行われる人智を超えた奇跡の衝突。
方や人の身に於いて辿り着いた、頂点に連なる技術の到達点。
方や物の本質を完璧に引き出した、これ以上ない極上の得物。
方向性は違えど立ち位置は同じ。
――――睨み合う、睨み合う、睨み合う。
目は、逸らさない。
〝傷が酷いッ、怪我が重い! ああなんてコトッ! 状態は最悪! 会得したばかりの魔剣を一日に二度も放つなんて馬鹿げておりますわッ!!〟
〝治癒は万能じゃないッ、疲労で身体がいっぱいいっぱいッ! 全力を出してようやく本気も本気ッ! ああでも一瞬しかダメそうだなんて!!〟
剣の柄を握りしめる。
〝マトモに振るえるのはあと一回ッ! だが十分ッ! それでいい、それだけでいいッ! もとよりわたくしの奥の手は一度きりの必殺剣!! 故に――――〟
〝今よりもっと強くなれるッ!? 当然なれるッ!! その確信があるッ!! でもきっと、クリスティアナ様のほうが速い! 遅すぎるッ!! なら――――〟
気合いを、
力を、
根性を、
誇りを、
魂を、
〝――――真正面から叩き斬るッ!!〟
〝――――真ん前から迎え討つッ!!〟
刹那の一刀に、抱え込んだ全てを懸ける――!
「マーガレットォオォオオォオオォオォオッ!!!!」
「クリスティアナ様ァアアァアァァアァアッ!!!!」
絶叫と同時に足が動く。
音を越して両者の身体が地を駆けた。
剣気に包まれた身体掌握、自己の保存をかえりみない自滅必至の肉体駆動。
神秘を撒き散らす極大光、真の適合者となった担い手による絶対的な一撃。
――――迫る、迫る、迫る。
向き合う顔が憎たらしい。
覗く瞳がなにより輝いている。
なにを笑う。
なにが愉しい。
――――ああ、愉しい。
そうだ、愉しい。
愉しくて愉しくて、仕方ない!
「〝魔剣〟ッ!!」
「〝
引き金は引いた。
撃鉄は落とされた。
放たれた弾丸がどうして戻ろう。
後には引けない。
退くつもりなど毛頭ない。
回避?
防御?
馬鹿を言うな。
己が一刀、己が強さ、己が正当性を主張するなら――
ぶつかり合って叩き潰して、我こそは格上だと示さなくては意味がない――!
「〝終閃散華〟――――――――ッ!!!!」
「〝
譲らない。
譲れない。
譲りたくもない、だって勝ちたい!
相手が
相手が
腹が立つ。
証明したい。
因縁がある。
上回りたい。
負けたくない。
ただ勝ちたい。
そのためならこの身体を擲つ痛みなど快感と同義だ。
そのためならこの神秘を扱う苦労など児戯と同義だ。
〝なんということッ! 痛い! 苦しい! 酷くて辛くてもう最悪ですわッ!! ですが、ああッ、ですがいま! 貴女の身に刃を届かせるためならどうというコトもないでしょうッ!!〟
――――いま、色は要らない。
限界を迎えた身体が崩壊していく。
口の端から血が洩れる。
鼻からも赤い汁が垂れてきた。
耳も駄目だ、もう聞こえない。
色を落としたハズの視界が
それでも剣を握る。
一歩踏み出す。
眼前を見据える。
敵。
斬り伏せるべき相手。
それが居る。
そこに居る。
ならば、どうしてこの程度の限界で立ち止まれる――――!!
〝最初から分かりきってるコトでしょう!? クリスティアナ様が強いってことも! 私に剣才がないことも!! なにもかもが足りてないこともッ!! ええ、そうッ! 私は事実、目の前のこの人に劣っているッ!!〟
砕けんばかりに聖剣を握りしめる。
膂力は十分。
鮮やかな剣筋など端から望めない。
ならばマーガレットのやる事などひとつだ。
全力を尽くす。
全霊で放つ。
例えこの身が耐えられないとしても関係ない。
いまの状態では適わないからどうしたという。
〝劣っているのはしょうがない! だったらそうだ、全部使うッ! 私のすべてをかき集めるッ!! 血液の一滴ッ! 骨の一本ッ!! 筋肉の一筋ッ! 神経のひとつに至るまですべてッ!! かき集めて振り絞って研ぎ澄まして武器にしてッ!!〟
奇しくも選んだのはふたりとも同じだった。
自身の焼却、自己の崩壊、この身を使い尽くす。
それを前提とした一撃での決着。
実に明白だ。
簡単で簡潔でこれ以上ないほどハッキリできる。
小細工など要らない。
相手を倒すのなら、刃の軌道がすべて。
「あぁああああぁああああ――――ッ!!」
「おぉおおおぉおおおおお――――ッ!!」
刃が重なる。
衝撃が周囲へ撒き散らされる。
ギチギチと震える刀身。
血まみれになった身体で剣姫がふたりニヤリと笑った。
酷い顔だ、これが淑女か。
もちろん違う。
ここに居るのはただの剣狂い。
ただふわふわと生きてきた伯爵令嬢でもなく、
ただ煩く騒いで喧しかった公爵令嬢でもなく、
斬り合いを楽しむ修羅の逢瀬。
「――――あぁあッ」
「!!」
剣気が押す。
天秤が傾いた。
当然のコト。
自分自身を懸けるなら。
この身にあるすべてを差し出すなら。
正真正銘、クリスティアナの土俵だ。
彼女の魔剣は完璧に仕上がっている。
これ以上なんてないほどに。
「あぁあぁああぁあぁああ――――――!!!!」
「――――――――――――――――ッ!!!!」
押し込まれていく刃。
止まらない振り下ろし。
斬り返す隙はない。
そんな暇も当然与えない。
クリスティアナは盛大に笑った。
マーガレットは目を輝かせている。
馬鹿だ。
ああ馬鹿だ。
馬鹿しかいない。
でもないとこんな馬鹿げた始末がくり広げられるワケがないだろう。
「わたくしのォ――――勝ちだァッ!!!!」
「いいえッ!! まだッ、まだァッ!!!!」
マーガレットの刃が押し返す。
この土壇場で力が一気に強くなった。
余力なんて残していなかったハズだ。
そんなコトができるのならすでにこの勝負、決着がついている。
ならば――――ああ、当然のように。
窮地に陥って尚、その実力を
「私のほうがァッ! 強いィイイィイッ!!」
「ほざくなァッ!! マーガレットォオ!!」
クリスティアナを襲う反動。
腕が千切れかける。
肉が裂ける。
骨が砕ける。
神経が灼き切れる。
急速な勢いで脳細胞が死んでいく。
内臓が機能を停止する。
死ぬ、死ぬ、死ぬ――――
――――死ぬ?
誰が?
この
こんな小娘との競り合いで負けて、その上死ぬ??
――――ありえない。
「ああぁああぁあぁあああぁああああぁああ――――ッ!!!!」
「――――――――――ッ」
押し返す。
力を込める。
どうなってもいい。
この先のコトなんていまは考えられない。
ただ勝ちたい。
負けたくない。
そのために必死で踏ん張っている。
限界を迎えて、身体はボロボロで、でも意地を張って立ち上がった。
前を向いた。
――――嗚呼、一度で駄目なら。
「〝魔剣〟ッ!!」
「――――!!」
「持って来なさい
「――――――――は、ははッ、あはははははッ!!」
もはや堪える術はなし。
適う道理は此処に在らず。
刃が走る。
肉が破れて千切れて飛び散る。
それも構わずクリスティアナは駆けた。
――交錯は一瞬。
「――――――――、」
息はひとつ。
荒い、汚い、とてもじゃないが生きたとは思えない呼吸。
腕がひしゃげて、足は砕けて、身体はところどころが抉れたように破れていて。
――それでも、倒れない。
崩れる影はひとつにとどめる。
それが勝者の、せめてもの成すべきコトだ。
「――――、――――ッ」
少女の身体が地に落ちる。
碧色の瞳は空を見上げた。
なればこそ、示すはひとつ。
天に高く。
誰よりも力強く。
なによりも真っ直ぐに。
――――拳を、振り上げる。
「――――――――――ッ」
勝者は――――――
》意地
男の子の標準装備(注:彼女らは良いところのお嬢様です)
》拳
お察し。
》反動
もはや立つコトなんてできるはずがない、意識があるなんておかしい、命が残っているのが奇跡以外の何物でもないぐらいの重傷。ほぼ血の詰まった肉袋状態。それでも勝利を掲げるその瞬間だけはひとつも痛みなんてないのです。
たった一合の斬り合いに一話全部使う最早なんのジャンルなのか意味不明な小説はここッ!!(白目)