クゥすみで記憶喪失ネタが書きたかったので、それをここで書きます。少しずつゆっくりと続けていけたらと思っています。よろしくお願いいたします。
世界で一番幸せになりたいだなんて、そんな高望みはしないから、ようやく手に入れた確かな幸せだけは壊してしまわないようにと、とにかく丁寧に扱ってきたつもりだった。
私は、可可が隣にいてくれればそれでよかった。
可可の恋人でいられれば、どんな時も幸せだった。
だから、私はその場所を大切にしてきたというのに。
何の覚悟もなく取った友人からの電話で、私の人生は一変してしまった。
『すみれちゃん、落ち着いて聞いて。可可ちゃんが、病院に運ばれていったの』
その日、可可はかのんとショッピングに出かけると言っていた。
「恋人の私をほっといてかのんとデートに行くの?」とわざとらしく拗ねたように言った時、可可は「今度のデートはすみれの好きな場所のどこにだって付き合ってあげマスから!」と調子良く言ったのだった。
私は、当然のように次の日曜日には可可とデートができると思い込んでいた。
だから、可可が事故にあっただなんて、そんなのちっとも信じられなかった。
「……どこの病院?」
なんとか声を絞り出し、かのんから病院の名前を聞き出した私は、すぐに走り出した。
病院に着き、受付の女性に事情を話せば、可可が一時的に身を置いている病室へと案内してくれた。道すがら、「唐さんの容態はそこまで悪くはありません。ですから、どうかお気を確かに」と激励された。
聞けば、可可は既に目を覚ましているらしい。とりあえず最悪の事態にはならなかったことを知り、少しだけ肩の荷がおりた。
病室に近づくと、かのんの声が聞こえてきた。「よかった、本当によかったよぉ〜!」と涙声で話すその声に、私はいよいよ安心しきってしまった。
病院に搬送されたと聞いたから、よほどひどい事故だったんだと想像したけれど、そこまで無惨なものではなかったらしい。
部屋を覗くと、ベッドの上で頭に包帯を数周分だけ巻いた可可が、かのんに向かって元気そうに笑っていた。
「可可ちゃん死んじゃうかと思ったよぉ〜!」
「かのんは大ゲサすぎデス。可可はこの通りピンピンしてマス!」
明るい笑顔を見せている可可に、私は胸を撫で下ろした。
2人に近づくと、かのんが先に私に気がついた。
「あ、すみれちゃんっ! 可可ちゃん、さっき目を覚ましたんだよ〜!」
目尻に涙を湛えながら言うかのんに、私は「そうみたいね。本当によかった」と返した。
恋人の無事に、私は少しだけ舞い上がってしまったのだろう。
「まったく、可可ったら心配かけて……恋人の私を置いて死んじゃうとか、絶対に許さないわよ?」
そんなセリフを、恥ずかしげもなく言えてしまった。
けれど、次の瞬間、私は可可の表情に違和感を覚えた。
可可は、私を見ながら首を傾げたのだ。
「……可可?」
不思議に思って名前を呼ぶと、可可はすぐに笑顔を作って、かのんにこう言った。
「こちらの方は、かのんのお友達デスか?」
それは、とても冗談を言っているようには聞こえなかった。
事故の後遺症か、可可は私のことを忘れていたのだった。
そのことがはっきりと分かった瞬間、私の中の時間が止まった。