「あれが、四宮別邸だな。」
「あーあっこにターゲットのお姫様がいるらしいわ。さっさと終わらして、帰ん…」
「こんばんは。怪しいおじさん方」
時計の針が12を越えて、日を跨ぎ既に灯りを灯す家はない。月明かりに照らされるある屋上に2人の殺し屋がいた。方や眼鏡をかけた紳士的な長髪の男。方や腕までびっしりと彫られたタトゥーを覗かせる厳つい男。
そんな2人のすぐ後ろに、彼は現れる。長いコートに身を包み、ハット帽を被っている。終いには、何ともまぁ、怪しげな仮面までつけている始末だ。
「!四宮の家のものか?」
「……」
「いーや、同業だろあんた?」
「同業…では無いですね…ですが、似たようなものですよ。忠告します。今ここから去り、余生を静かに過ごすのなら…見逃し…」
「話がなげーんだよ。カスが…」
話を遮るかのように厳つい男が、仮面の男を殴り、コンクリートに沈める。ゴッっ!という凄まじい音が鳴る、あまりの勢いに、床が砕け、砂埃が舞っていた。
「殺してどうする!情報を吐かせ……―――お前、右腕は?」
「あ?―――は?グフッ?!」
「忠告、しましたよ?」
砂埃が晴れるころ、男の右腕が上腕から綺麗さっぱり無くなっていた。それに気づくと同時に、メキメキと気味の悪い音が鳴る。それと同時くらいに巨漢が沈む。
その光景に長髪の男は思わず汗をかく。その界隈のもの達ならば、誰しもが知っていた。自分の任務に害を及ぼすものを必ず始末する、恐ろしいスパイが居ることを。
そのスパイは、決まって仮面を被っている。その仮面はいつも違う。ピエロもいれば、日本の般若、そして顔にすらなって居ないものまで。そして、その仮面の下は、誰も見たことがない。
「貴様、まさか…!」
「四宮の者にバレなくて良かったですね?きっと…死よりも耐え難い苦痛を味わう事になる。でも、私はそんな事はしません。」
「か、【カオナシ】!?!」
「だから、―――忠告したのに」
長髪の男が冷や汗かきながら、こちらに銃口を向けようとする。その瞬間、仮面の男が視界から消えた。時間にしてコンマの世界。この2人は確実に腕利きの暗殺者。だが、どんな暗殺者でも関係ない。カオナシと呼ばれる男は、即座に長髪の男の背後に立ち、脳みそを揺らしてやった。
長髪の男はその場に白目を向いて倒れ、巨漢は壁にめり込んだままピクリともしない。そして仮面の男は、ようやくそれを外した。
「緋色だ。10分以内に〇〇ビルの屋上に着てくれ。始末の仕方は任せる。…あぁ、四宮のものには悟られていない。でも、修繕作業もある。迅速にかつ、丁寧にな」
仮面を外した男。いや、少年の名は一条緋色。何やかんやあって四宮かぐやを手に入れなくてはいけなくなった、可哀想な少年である。
「ふぅ…勘弁してくれよ…来週にはフランス校との交流会なんだからよ…ゴタゴタのせいでかぐやちゃんが来ないなんてなったら、無駄足だからな…」
そうして少年は再び仮面をつけてそのビルの上から姿を消した。
――――――――――――――――――――――――――
「ま、」
『間に合った〜』
「皆サマ大変オ疲レ様デシタ」
現在、秀知院学園高等部生徒会メンバーはボンクラ校長の無茶振りによりフランス校との交流会をの準備をたったの3日で完璧に整える事になっていしまった。そして、あれやこれやと紛争するメンバー達に何故か巻き込まれ、緋色は御行のサポート兼かぐやの負担軽減、藤原の後始末と、多忙な日程を過ごしていた。
そんな中で起きた。四宮かぐやを狙った裏社会の動き、正直緋色は一切休むこと無く、動き回っていた。そのせいで、だいぶ思考回路がバグっている。
「御行…あの校長ぶっ飛ばすか?」
「いや…そのうち勝手に飛ぶだろ…それより…盛り上がってるみたいで良かったよ」
「まぁ、な…でも、お前フランス語なんて話せんの?」
「付け焼き刃だがな…ま、何とかなるだろ。」
「お前な…あ、かぐやちゃん!」
「はい?」
「おう、四宮。楽しめているか?」
「えぇ、それなりには…ですが、正直フランス語は苦手で…」
「ふっ…コマンタレブーマドマアゼル、ジュマベルミユキシロガネ」
「おぉ、さすがです会長。」
「ま、何付け焼き刃だ。実践では使えんさ」
(さっきの俺とは大違いの対応だな。)
くだらない話をしながら、交流会の、様子を眺めていると、そこには何やら笑顔で交流を楽しんでいる四宮かぐやの姿があった。見つけるや否や、すぐ様彼女に声をかけ、こちらに呼んだが、緋色は気づいていた。
先程まで、ペラペラとフランス語を話していた。彼女が、何と…御行のフランス語を聞いて拍手をして褒めている。その上、自分は苦手とまで話していた。そんな様子をなんだか、面白く見守りたくなり、緋色は少し御行から距離を取り楽しむ。
「そんじゃ、俺は俺で楽しむから…頑張れよ」
「お、おい!緋色!」
呼び止める声を無視し、一条緋色は様々な人達と会話をし、少々楽しみながらも、なんやかんやこの数日…休む時間も無いことを思い出し、誰も居ないところを目指して、ベランダへと出た。
「ふぅ…さすがに…疲れた…」
「珍しいですね…」
「!」
「貴方がそんなに疲れてるなんて…」
「…早坂…だな。メイドのお前が、何してんの?」
「かぐや様の様子を見るのが勤めですので」
「自由がないのも辛いね〜」
「好きだから、見れるんですよ。貴方だってそうでしょう?」
「なんの、事やら?」
「嘘をつくのが下手ですね」
「上手い方だ…でも…俺なんかよりも嘘つきの前じゃ…バレるよな」
「好きで…嘘をつく人が……何処にいるんですか…?」
「……悪い…言葉が過ぎた…」
ある時、聞いちゃいけない内容を聞いてしまったらどういう反応をすればいいのか?嘘をつくのが辛くて泣いている女の子になんと言ってあげるのが正しいのか?
嘘で固められた人生を歩んできた自分に…辛く、苦しく、泣いてしまっている少女に何と声をかける資格があるのか。
「貴方は苦しく無いですか?」
「…生憎と…お前みたいに、主従関係じゃないからな」
「主従関係よりきついでしょ。―――親友、じゃないんですか?」
「あいつが勝手に言ってるだけ」
「の割には…嬉しそうですね…」
「……はぁ…ちっ…!羨ましいか?」
「!べつに…!」
『これより、社交ダンスの時間です。』
重く苦しい、空間を引き裂くかのようにそのアナウンスは流れた。空気を読んでいるのか読んでいないのか分からないが、ひとまず区切りを付けられる。
そのアナウンスと共に緋色は早坂の元へ手を伸ばす。傍から見れば、何とも紳士的な光景だろう。方膝をつき、頭を下げ、その手へ自ら手を差し伸べる。
「1曲―――踊ってくれませんか?」
「……仕方、ないですね」
「お手を…って?!」
「何て言うと思ったんですか?猿野郎」
「おま、そこは握れよ?!」
「無理、性病が移ります」
「バカ!俺は綺麗さっぱりそれとは無関係!」
「へぇー下半身で動いてるくせに、そこには自制心が働くんですね。」
「いつどこで誰と下心オープンにしてるつったよ?!」
「学園を歩きながら皆さんにアナウンスしてるのでは?」
「特殊性癖の奴らと一緒にすんな!」
突如、差し伸べた手を払われる。そんな事はあっていいはずがない。だって、あの雰囲気、あの感じ、あの現場!誰もが行けると思うだろう。それなのに、一般男子ならば心折れて、意気消沈し、病んでもおかしくない位の文句を付けられる。結局、言われるがままダンスを踊る時にただただ口論を繰り広げる2人であった。
「はぁ、もういい!俺は中に戻るからな!」
「そうして下さい。怪しまれる前に…」
「…あー!もう!!!」
「ちょ、何し…!」
「寒いんだろ…震えてる」
「…臭い」
「目の前でファブったよな?!」
「ふふ…冗談です。次の昼に返します。」
「そうしてくれ…」
気づくやつしか分からないが、早坂愛は寒かった。夏近いとはいえ、夜はまだ冷える。メイド服ともなれば流石に少し冷える。だが、中に入るとなれば四宮かぐやとの関係を疑われかねない。だからこそ、ここに留まる必要があったが、そんな事にさえこの男は気づいてしまう。
すぐ様学ランを脱ぎ、目の前でファブリーズをなどがかけた後、バサバサと少し振って、肩へと学ランをかけられた。その学ランは先程まで彼が来て合ったせいか、少し温い。
誤魔化すように早坂は悪態をつく。呆れながら緋色は言葉を返すが、彼は気づかない。早坂の頬が少し赤くなっている事を。
「じゃあな…」
「はい…」
「…風邪ひくなよ…」
「!…はぁ…熱」
その言葉は誰にも聞こえない。」
―――――――――――――――――――――――――――
「アナタ…」
「お前…」
『今、なんて言いました?/言った?』
「へ?」
『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎』
その後、白銀御行をボロクソに言っていたフランス校の女を四宮かぐやと二人で締める。という当たり前の光景を知るものは一人しかいない。
「お、俺は…女の子に…なんて酷いことを…?!」
「やっぱり…親友、なんでしょ?」
「う、うるせー!!」