「やばい、上からも下からも出そうだ」
「上からはギリは分かるけど下って何だよ…」
「さっきから謎の震えと、発汗が止まらない…その上心臓が凄まじくうるさい…新種の病か…」
「緊張による作用が過度に出てる証だな。」
「よし、やはり手土産は高そうなクッキーとかに」
「クッキーが食べれるなら、かぐやちゃんは学校休まんだろ」
「そ、そうだな…なら……!ワインとか!!」
「未成年!そのやり方が正解なのは屈強なおっさんだけだ!」
「は!般若心経…!!!」
「悟り開くて……」
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事の発端は、前日へと遡る。
「雨…すげーな…ん?」
その日は午後から雨が降っていた。かなりの大雨で、電車やバスなんかは軒並み遅延、交通の便の大半が機能低下に陥っている中。一条緋色はそそくさと学園を離れ、家へと帰宅し、珍しく暇を持て余していた。部屋はよく言えば片付いていて、悪く言えば酷く殺風景な1LDK。そこに、部屋着で缶コーヒーを片手に外を見る。
歩行者はゼロ、車の光だけが走り去っていく通り、そこを1つの自転車が爆走していた。
「んぁ?!御行?!」
程なくして、自転車が自分のアパートの駐輪場へと止まり、すぐさま部屋のインターホンが鳴らされる。緋色はため息混じりに、インターホンを無言のまま切り、扉を開けてやった。
「濡れすぎ。ほれタオル。バイトか?」
「はぁ、はぁ…!そう、だ…悪いが制服は置いてく。それと、ケータイも充電させておいてくれ。」
「社畜根性に尽きるな。てか、昨日ケータイの充電しなかったのかよ」
「いや、朝は100%だったが…放課後生徒会室にいる間にいつの間にか切れてな、連絡もままならんから…今日泊めてくれ。」
「…充電が切れた…ねぇ……」
「ん?何か言ったか?」
「いや、別に…帰ってきたら飯頼むぞ」
「それくらい問題なし!行ってくる。」
「ほいほーい。親父さんには俺から連絡しとく〜」
そう言うと白銀はそそくさと着替えを済ませ、今度はカッパを着て完全防備で外へと出って行った。
そして、2人の他愛も無い会話の中で、緋色はある発言に引っかかっていた。朝に100%だった充電が0?確かに頻繁にスマホを使う若者ならありえない事では無いのかもしれない…がしかし!白銀御行に関しては、100%ありえない!!!
スマートフォン―――現代において進化に進化を重ねて、今では通信機器としての役割より、ゲームやSNSといった若者達がこぞって使う文明利器。なのだが、白銀御行はゲームは愚か、SNSに至るまで!若者離れをしている。
L○NE、Tw○tter、Inst○gram、そのどれもが中途半端!強いて言うならギリギリL○NEだけは使っている、他は時々覗くためのものでぶっちゃけあってもなくてもいい。そんな現代っ子離れした男が充電切れを起こすだけ、スマホを使うわけが無い。では、何故充電は切れたのか…
「…ふむ…内部バッテリーに素人紛いの工作…まぁ、見た目上の見分けは付かないが…十中八九…かぐやちゃんの仕業…じゃあ、何故こんな事をした?御行にスマホを使われちゃまずい出来事…連絡先なんて、家族と生徒会メンバーだけ…見られたくないものでも……あ」
考えてみればすぐ分かる。あの天才(バカ)のする事だ。御行をどうしようとしたのか分かってしまい、それと同時にほんの少しだけ恐怖した。
「御行くーん…これ、かぐやちゃん…待ってたんじゃない……??」
何て事を想像しながらもあえて白銀には伝えなかったが、次の日何とかぐやは風邪で学校を休んだ。
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そして、何やかんやあって現在。冒頭へ戻る
「しっかりしろ御行。俺たちはあのピンク頭を倒して今に至ったんだ…」
「ピンク頭て」
「あのなんちゃって発明家(笑)を打ち負かして!」
「発明家(笑)て」
「あのバカ博士を泣かして!!」
「バカ博士て」
「ヘンテコリボン星人を死にたくなったから星に帰らせたんだろうが!!!」
「うん、緋色。一旦ブレーキ」
どんどんエスカレートしていく悪口?に流石の御行もサイドブレーキを無理やり引いてやる。この男一条緋色は何故か藤原千花の事となると、いつにも増して棘が増す。やはり普段は猫を被っているだけあって、脱がせるとこのザマだ。
「なんて言ってる間に、見えたぞ…」
「………せめて…高級ゼリーにしとけば良かった…かな…」
「馬鹿なこと言ってないで…ほら、インターホン押すぞ」
「お、おう」
着いた先にはまぁなんとも立派な豪邸があった。これが別邸なのだから笑えない。本家はどれ程大きいのかとかく言う緋色も実際に中に入るのは初めてなので、正直なこと言うと心境はこんな感じである。
「お前はすごいな…こんな豪邸に来て物怖じしないんだから」
「馬鹿言え…見ろ」
「……震えすぎじゃない?」
(震えるに決まってんだろぉぉぉ!!!)
「え?おま、スマホのバイブレーション位震えてるけど…!」
「お前と同じで俺も一般人ってことだな…」
「いや、それじゃ説明出来ないくらい震えてるけど?!」
(当たり前だろぉが!!!言われるがまま着いてきちまったが、普通に敵地のど真ん中…!怪しい素振りは見せられねぇ…何かあれば計画はおじゃん。それどころか命すら危うい、もし、もしも…あの女に遭遇したら…)
「お待ちしておりました。」
「「!」」
「かぐや様のご学友の白銀御行様と一条緋色様ですね…」
「っ?!?!」
「め、メイドさんだぁ…」
「当主に代わり歓迎致します。―――スミシー・A・ハーサカと申します。」
声がした瞬間だった。背筋をゾワりと悪寒が走る。まるであの日の事を思い出させるかのように、そしてその姿を見た瞬間。一条緋色の脳裏にあの日の出来事がフラッシュバックする!!!
『抵抗はなさらないで下さい…じゃないと痛いですから』
「っ!!!」
あの日の出来事を鮮明に思い出す。初めての失敗、死と隣り合わせの戦闘、自分よりも強者との死合。一条緋色のトラウマ―――早坂奈央。その娘、早坂愛が今過去のトラウマと余りにも似つかわしい姿で出てきた。
その瞬間先程までの震えを消すべく、本能的に体が動く。
「は、初めまして。四宮のお見舞いに、って緋色?」
「ん?どうした?」
「どうしたって、お前がどうした?」
「ん?何が?」
「いや、何がじゃなくて…―――血ぃ!!!ですぎな!?!」
「ん?あぁ、メイドさんがあんまりにも綺麗で舌噛んじまった。」
「どういう事だよ?!」
「そんな事よりほら、かぐやちゃんの見舞い済ませちまおうぜ。」
咄嗟にとった行動とはいえ、やり過ぎたようだ。ほんの少し衝撃を与えれば言いものの、加減をミスして舌を深めに切るなどスパイとして失格。だが、この位ならバレまい。何故なら向こうのメイドさんも色々と隠しているのだから。
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「で、何で俺だけ別部屋?」
「あら、貴方もそれを望んでいたと思ったのですが…」
現在、何故かポンコツになっていた主である四宮かぐやとその想い人である白銀御行を部屋に残し、2人は別室にて寛いでいた。
「エスパーなんですかね?スミシー・A・ハーサカさん?」
「白々しい。普通に早坂で結構ですよ。」
「何でまた、変装してんだよ…」
「変装ではなく、正装です」
「こっちが表向きで、学校じゃ装ってると?」
「誰かさんと同じで」
「疑い深いね〜」
「疑いもしますよ。何に動揺してたんですか?」
「…なんの事やら?」
「無駄ですよ。ここは四宮の庭。辺り一面には監視カメラが無数に存在します。貴方の震えっぷりはこちらに筒抜けでしたから」
「ふっ、動揺もするだろ…その天下の四宮の庭に居たんだ。俺も御行同様に一般人何だぞ?」
隠し通せない事を知り、すぐさまシラを斬るべく口から出任せがスラスラと出る。逆にここまで綺麗に嘘を並べられると、賞賛を贈りたくなるレベルだ。
だが、こんな言い訳は通じない。緋色とて分かっている。相手は国家の心臓四宮。そこに仕えるスーパーハイスペックメイド。目を見ればわかる見透かされ、その先を覗こうとしている事が。
「………」
「……降参、降参…まぁ、正直に言うと…俺は四宮が苦手だ。」
「はい?」
「調べ、ついてんだろ?俺の過去について…」
「……詳しくは分かりませんでしたけどね…」
「…ガキの時、親の仕事の都合で海外に…」
「…四宮、ですか?」
「その通り!んで、飛ばされた先でたまたま戦争勃発」
「…え?」
「たまたまそれに巻き込まれて…たまたま両親が死んだ…そんだけ」
「…も、申し訳……」
「謝んな、早坂のせいでもかぐやちゃんのせいでもない。仕方なかった事。でもまぁ、うん…どっかで晴れてないんだわ。」
(どうだ?!この渾身の身内の死ネタ➕あたかも悲劇のヒロイン設定!間違っては無いし、嘘も言ってない!何だったら、俺は両親の事を殆ど覚えてない!)
事実である。この男、一条緋色は戦争に巻き込まれた際、両親を失い、1人で生きる時間が長かった。その間は常に命懸け、生きるか死ぬかの境界線を常に歩いてきた、その末今に至った、結構ハードな人生を送ってきた苦労人なのである。
「ま、今は親戚に引き取られて、そこそこの生活してるし…何ら問題なんかねーよ。御行もかぐやちゃんも優も…バカリボンもいる。」
「書紀ちゃんだけ不遇すぎません?」
「だから、早坂が気にする事は1つもない。けど、今の話。内緒にしといてくれ。頼む。」
(どうだ?!決まっただろう?!嘘と本当を混じり合わせた、スーパー気まずいストーリー!!!これでグッと来ないやつなんか…)
「辛く、なかったですか…?」
「………へ?」
「海外に飛ばされて、両親が…死んで……辛く、なかったですか?」
(あ、あれぇ?!?!これ、結構ガチな涙じゃない?!てか…)
「…あ〜…うん…辛かった、けど…早坂さ…お前の方がきついんじゃない?」
「……っ?!」
何故だろうか、涙を必死に我慢しようとする彼女の姿に忘れかけていた、幼い頃の自分を重ねてしまった。きっと彼女も、重ねたんだろう。違いはあれども、幼い頃から辛い出来事ばかりを繰り返し続けた彼女(緋色)―――過ちを繰り返し続けた自分(早坂)を
その瞬間、欺き続けてきた気持ちが晴れたかのように、彼女の頭に手を伸ばし、自然と撫でてしまった。
「最初は疲れきったやつだと思ってたよ。たまたま見ちまったにしろ…四宮かぐやに仕えるのが、キツイんだとばかり思ってた。でも、違った…本気で好きだから―――辛いんじゃないの?」
「………」
「キツかったらさ…何時でも言えよ…力にはなれるかわかんねーけど…愚痴くらいは、聞いてやる」
「…手…」
「…はい?」
「撫でる手…止めないで、下さい。」
「…はいはい……って待て、待て待て…」
「もう、なんです…」
「何時間たった?!」
「へ?3時…は!?かぐや様!」
「ぶっ?!が…?!やっ、ぱ…あの女の…娘…ね……」
本日の勝敗
「早坂!私、会長とどこまで?!」
「…はぁ…さあ…」
「はぁやぁさぁかぁ!!!」
「頑張ったのに!?俺、あの状況で、頑張ったのにぃぃ!!!!」
「…あれだよ、御行―――般若心経読もうぜ」
「悟り開くて」
男の負け