初めてのキスは…   作:kouga

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一条緋色は花火がしたい。

 

 

夏休み。

 

数多くのイベントが執り行われるスーパーフィーバータイム。学生たちにとって(青春を謳歌する者達)の超重要行事!!!ある者は、家族との思い出の1ページを作り、ある者は自分探しの旅をし、ある者(カップル)は大人への階段を、2段飛ばしどころか!一気にエスカレーターで登っていく!そんな素晴らしきイベント!

 

なのだが…

 

「松岡〇造並に暑いんだけど…」

 

「バイトしようぜ!」

 

「多分北極が解けて、シロクマさんが困っちゃうくらい熱くて、ダルいんだけど…」

 

「バイトしようぜ!!」

 

「実は統計で…松〇修造をクールダウンさせれば、地球の温度は5度下がる事が立証されてんだよな…」

 

「バイトしようぜ!!!」

 

「でも松〇修造を始末したところで、直ぐに第2、第3の松岡が生まれるんだよな…こいつみたいな……」

 

「バイト!し!よ!う!ぜ!!!」

 

「おめーの事言ってんだよ御行!!!!!何で夏休み開始から半月の間!!!相も変わらず男の!しかも!お前の顔しか見てねーんだよ!!!!!」

 

「ば、バイト…しよう、ぜ…???」

 

「もうヤダ…このバイト星人…」

 

 

あろう事か!夏休み開始から!!半月が過ぎていた!!!もちろん、生徒会の中でも、過ごし方に付いては少し話があった!何とあろう事か、彼らは自らの力であの藤原千花を倒したのである!それだけは賞賛するのだが、肝心の夏休みの予定は何一つ、決めていなかった。

 

 

「はぁ…四宮、今何してんだろ…」

 

「聞けよ、本人に…」

 

「それもそうだな…し、の、み、や、い、ま…って乙女か!!!」

 

「!うっぜぇぇぇぇっ?!?!」

 

「うるさいぞ、緋色。ここは賃貸。それにこの時期だ。他所様の迷惑になるような奇声を上げるなよ…」

 

「ここ俺んちな?つーか…お、ま、え、に!!言っっってんだよ!!!」

 

「はぁ…夏バテか…お前は気楽でいいな……そういえば、圭ちゃんが家の作り置き持って来るって言ってたな…」

 

「バテてんのはお前な?そんでもって…気楽な頭でいんのもお前な…圭ちゃ、妹さんのは…有難く貰うけど…」

 

「?随分他人行儀だな?」

 

「あのな〜あの子…相当、俺の事嫌いだぞ?」

 

「!!!…確かに…」

 

「はぁ…ただでさえ、お前は夏休みが始まってから俺の家に入り浸り…家族業にカマかけてる…そして…向こうからすれば俺の世話をしに来てると勘違い…はぁ…俺が世話してんのに…」

 

「そういえば圭ちゃん、この間…金属バットに緋色の写真貼ってブンブン振り回してたな⋯」

 

「?!おい、今、え?!殺る気なの?!暗殺なの?!その段階までいってんの?!」

 

「いや…暗殺じゃない…」

 

「は、なら良か…」

 

「金属バットに無理やり釘打ち込んでたから…多分撲殺だ!!!」

 

「殺意が凄い…」

 

 

一条緋色。何やかんやありがらも、今日この日まで命を繋ぎながら、どうにかこのバカ(御行)とあのアホ(かぐや)をくっつけようと躍起になっていたスーパー苦労人兼スパイ。

先も言った通り、この夏休みの間ほとんど欠かさず白銀御行は一条緋色の家に入り浸っている。原因は言わずもがな四宮かぐや。

そう、白銀御行は四宮かぐやとの過ごし方について懇切丁寧に調べあげ、正直緋色も完璧なのでは?と思えるほどのプランを練にねっていた!!!そう―――あくまでも四宮かぐやに誘われた場合にのみ発動するプランを!!!

その結果!!!何も、なかった…

 

その為、現在はもう何度目?と聞き返したくなる程に見慣れた光景が部屋に広がっている。緋色のリビングにあるソファにうつ伏せに倒れ携帯を睨みつける白銀。そして、そのソファーを背もたれに適当なテレビを見ている緋色。そんな2人を他所に夏の風物詩ともいえる風鈴がチリンと鳴り、より一層2人(御行)の気持ちを落とさせて行く…

 

 

「はぁ…ん?ていうか今日け、ん゛っん…妹さんピンク姉妹とかぐやちゃんと買い物じゃねーの??」

 

「あーーーーー…………あ、そういえば…何だが四宮に用事が出来たって…」

 

「用事、ねぇ〜」

 

「はぁ…夏休み…早く終わんねーかな…」

 

「おいおい…あと少しの我慢だろ?行くんだろ?夏祭り、生徒会の連中で」

 

「…確かに、な」

 

「さっさと告った方が早いんじゃねーの…?」

 

「………それじゃ、ダメなんだよ…」

 

「?何が?」

 

「対等でいるためには、四宮の隣に立つためには…それじゃダメなんだ。」

 

「だったらさっさと言わせてみせろ、天才(バカ)」

 

「ぐっ…あぁ…必ず。その為にも…」

 

「ん?」

 

「バイト!してくるぜ!!」

 

「ほんとにヤダ…このバイト狂い……」

 

 

普段目が死んでる分、僅かにキラキラした瞳で親指をグッとしながら白銀御行はこちらの思いなど気にもせず、愛車(自転車)に跨り、それ時速何キロなの?というスピードで緋色の家を飛び出して行った。

1人になった部屋にはやたらと煩いセミの鳴き声と時折聞こえてくる心地よい風鈴の音。一条緋色はそんなひと時を楽しみながら、テレビに顔を向けると、ある1つのケータイが鳴る。普段使いしているスマホでは無い。それは、、、

 

 

「……四宮かぐやが本邸に向かった。あぁ、京都。偵察はやめておけ…あそこは別邸と違ってネズミ一匹許さない。監視も外せ。」

 

 

組織の方から連絡があった。こちらの調べ通り、四宮かぐやは京都にある本邸へと呼び出しをされていた。そこは、スパイである緋色からすれば地獄のような場所だった。四宮かぐやの住む別邸でさえ、本音を言えば忍び込むには些か胃痛の耐えない場所。だが、本邸は違う。忍び込むことは愚か、聞き耳立てることすら許されない場所。

 

 

「…バカ言うな、あそこには早坂を始め…手練の護衛が蔓延ってる。その上…あの女よりやべーのが…間違いなく、早坂正人がいる。」

 

 

早坂正人―――あの早坂奈央の夫。現四宮家当主、四宮雁庵直属の傍付きにして、紛う事なき【本物】。

 

こちらとてこの齢にして様々な場数を潜り抜けてきた。荒事など片手であしらえる程に訓練を積み、その辺の賞金首程度なら、五体満足で無力化し依頼主の元へ届ける事が出来る。そう、一条緋色はすごく強い。いや、正直言うとめちゃくちゃ強い。そりゃ大層な二つ名が付くくらいだから、当然かもしれないが、そんな男がどう足掻いても勝てない。それが、あの男である。

 

 

「本邸は崩せない…尻尾は握らせるな、目の前の餌に飛びつくな。俺たちは、スパイだ…」

 

(そう、俺はスパイだ。あいつらは道具だ。だから…)

 

「頼むぜ…御行。さっさと堕としてくれ…」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「……もしもし?」

 

『お、やっと出たな』

 

「…日付、変わるんですけど」

 

『細けーこと言うなや…』

 

「うら若き乙女に対してこんな時間に電話をかけるのが、細かい?ですか??」

 

『あ、待て!俺が悪かった!だから怒んなよ…』

 

「…はぁ…要件は?」

 

『花火、しようぜ』

 

「…はい?」

 

 

遡ること数時間前前。

 

 

[ごめんなさい。今日は行けなくなってしまいました。本当にごめんなさい。]

 

ひとつのメールが

 

[みんなと花火が見たい。]

 

1つの呟きが

 

「緋色。」

 

「んあ?んだよ…御行」

 

「四宮に花火を見せたい。力を貸してくれ。」

 

「!…はいはい…で?俺は何を?」

 

「あぁ、四宮の家に様子を見に行ってくれ」

 

「自転車でも40〜50分はかかるんだけど?」

 

「お前なら10分で着く。」

 

「何をどうやったら車で20分の道を10分で行けんだよ?!」

 

「頼む!四宮に…花火を…皆と見る花火を見せたい!」

 

「!!…ちょっと待ってろ」

 

「緋色…」

 

「10分もいらねぇ。5分後、L〇NEする。」

 

「!頼む。あとはこっちで手配する。」

 

「あいよ。そんじゃまぁ…走るか!」

 

 

事の発端は四宮かぐやからのメールだった。それは今日の花火大会の不参加を意味するメール。そのメール1つで、生徒会の連中は動いてしまった。白銀御行は動いてしまった。走り出す自転車、その間に届く通知、普段頑固な男の癖に、こういう事を素で行えてしまう。

恋愛は戦、好きになった方が負け。互いに認めないくせに、互いに意識し合い、そして助け合う。白銀御行は四宮かぐやの為に自らの野望(恋)では無く、四宮かぐや呟き(願い)を叶えたいと動いてしまった。そんなことをされれば、緋色とて重い腰を上げない訳にはいかない。

 

 

「別邸までの、最短ルートは…!」

 

 

走る、走る、走る。屋根から屋根を伝い、音すら鳴らさず突っ走る。人の目にも止まらぬ早さで、一条緋色は駆け抜けた。スパイとして生きてきたこの数十年の中で、何故か心は1番踊っていた。だが、一条緋色は気づかない。いや、それが何なのか分からない。

 

 

「はぁ、はぁ!」

 

(任務とはいえ、ガキの色恋に本気になりすぎか?)

 

「いや…違うな」

 

(ガキの色恋を見たくなってる自分がいる。)

 

「本気、だもんな!」

 

(大丈夫!これもスパイとして大切なあれだから!あのーあれ…あれだよ。)

 

「くそ…さっさと付き合えやぁ!!!」

 

 

一条緋色は気づかない。自分の本心に。

 

そうしている間に、別邸の傍へと到着した。すぐさま屋根を下り、四宮かぐやの部屋を確認する。すると、そこには四宮かぐや…に変装したであろう早坂愛がいた。

 

 

「!…もしもし、御行!」

 

『なんだ?』

 

「かぐやちゃんは部屋にいねえ!多分タクシーでそっちに向かってる。」

 

『…この渋滞なら…』

 

「あぁ!多分大通りで降りてる!そっから…」

 

『最短ルート…裏路地、辺りか?』

 

「多分な。片っ端から当たれ!最悪タクシーの運転手に手当り次第聞け!」

 

『けど、花火は…』

 

「見せるんだろ!お前のかぐやちゃん頼りのプラン!!!思い出せ!!!」

 

『…千葉…』

 

「!あるんだろ?さっさと見つけろ!」

 

『あぁ。石上会計!タクシー手配してくれ!藤原書記は周辺の運転手に聞き込みを!』

 

『了解です。』

 

『まっかせて下さい!』

 

『緋色。』

 

「あぁ?」

 

『サンキューな』

 

「とっとと行け、天才(バカ)」

 

 

耳に当てていたケータイからプープーと音が鳴る。遠くの方からそれをかき消すように花火が響く。けど、花火はまだ、終わってない。若人達の夏はまだ、終わっていない。

 

 

そして、その花火を羨ましそうに眺めていた。

 

 

「花火…見れたかな…かぐや様」

 

「……」

 

 

彼女の夏も、まだ…

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「で?なぜ公園??」

 

「あ?ここ以外でヤったら怒られんだろ」

 

「!!!死ね…変態…」

 

「何で今どきのお前らは、意味わかんねー脳内変換するかねぇ〜?!?!」

 

「下半身で歩く、公然わいせつ物」

 

「人の事を罪状みたいに読み上げんな!!!」

 

「冗談ですよ」

 

「……本当は?」

 

「99%本気です。」

 

「ギリギリ1%は何?じゃなくて!!!ほれ…!」

 

「………???」

 

「何呆けてんだよ?」

 

「えっと、あの…何ですか?これ…」

 

「え?いや…花火、じゃねーの??」

 

「…まぁ、見た事くらいはありますけど…やった事は…」

 

「はぁ?!ねぇーのかよ!俺もないけど…火をつければいいんだろ…」

 

 

中間に戻る。2人は、ある公園へと赴いた。なんのこっちゃ知らんが、近頃は花火をできる公園は少ないらしい。だからこそ、別邸から最も近く、花火OKの公園を見つけたのだが、あろう事か、緋色がコンビニで購入したこの手持ち花火なるものを!ふたりともしらなかった!!!

 

一条緋色は過去に花火をした記憶が脳内のだいぶ後ろの方にある。打ち上がる煌びやかなものでは無い、手に持ってわちゃわちゃするファミリーパックみたいな物である。それを購入して、少しは気が紛れると思っていた。だが…

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「どーやって、楽しめば?」

 

「いや、まぁ…普通はこれが…楽しいんじゃね??」

 

「……はぁ…」

 

「……うん…」

 

 

あろう事かこの2人、年齢にはそぐわない程に達観していた。それもそのはず。方や、日本の心臓、そのヴァレットであり、幼い頃からあの四宮かぐやと英才教育を施され、プラスアルファを施されたスーパー苦労人。

そして、もう1人。スパイでありながら、戦争を経験し、あまつさえ色んな経験をしてきた男。この2人により生み出されたこの花火の時間は…まさに地獄であった。

 

 

「いや、うん…悪い」

 

「何が、ですか?」

 

「つまんないだろ?」

 

「いえ、燃える火を見ると何だか落ち着くので…」

 

「うん…それはお前の心が荒ぶってる証な」

 

「かもしれません。ですが…―――本当に、落ち着くんです。」

 

「!あ、えと…その…」

 

「何ですか?歯切れの悪い…」

 

「あ〜何だ…線香花火、しない?」

 

「先に落ちたらお願い事を聞かなきゃいけない…ってやつですか?」

 

「そうそう」

 

「下心、見え透いてますけど?」

 

「はぁ?!お前に欲情なんてしねーよ!」

 

「どーだか」

 

「はぁん?!いくら美人で可愛くて!俺の前でだけ素直な顔見せるからって!調子乗ってんじゃ…」

 

「…え…?」

 

「………いや、あの……なしなし…ほら、火ぃ付け…あ…」

 

「……落ちました、ね?」

 

「……落ちた、な…」

 

 

地獄再び!あろう事かスパイ兼苦労人の一条緋色がほんの一瞬見せた乙女な表情の早坂愛にノックアウトされかけた。その時の表情は、さながら恋する乙女のようで、こちらを向きながら、戸惑いがちに放った…え…?は不覚にも一条緋色を魅了するほどに魅力的で初々しい反応だった。

一条緋色はおかしかった。この男は、何十人もの女性や、時には男性とも交わった中である。それなのに、今更こんな初歩的な微笑みで倒されるような男でない。そのはずだったが、なんと隠し切れないほど動揺してしまい、結果火花が落ちた。

 

 

「……帰るか…」

 

「…はい…」

 

「「……」」

 

「ねぇ」

 

「あぁん?」

 

「手が、寒い…気がします…」

 

「…夏、なんだけど…」

 

「夏でも、夜は冷える…」

 

「……花火してたのにか?」

 

「関係ないでしょ。ほら…」

 

「……だぁぁ…!あったか…お前の手…」

 

「暑すぎ…貴方の手」

 

 

セミの鳴き声がうるさい。花火の余韻に浸った周囲のこえがうるさい。

 

でも、1番うるさいのは

 

 

「はぁ…」

 

「たはぁ…」

 

「「うるさ…」」

 

 

この胸を響かせる、心臓の音だった。

 

 

 

本日の勝敗―――引き分け

 

 

 

 

 

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