「……ふぅ」
処理を続けていた、書類の山をようやく片付け終わり、思わず息を吐く。
懐の懐中時計に手を伸ばし、文字盤へ目をやる。
マルマルサンゴー……既に日付が変わってから半時間以上が過ぎている。
流石に疲れたなと思いつつ視線を横へ向けると、そこには、執務机に突っ伏して安らかな寝息をたてる少女の姿があった。
「
声を掛けてみるも、反応は無し。静かな室内には、変わらず電の寝息をたてる音だけがする。
(まぁ、無理も無いか)
先週に大本営から下された限定任務の処理に追われ、ここ数日は俺と電の二人共に書類仕事にかかりきりだったのだ。
俺ですらクタクタなのに、いくらがんばり屋とはいえ、まだあどけなさの残る少女である電には、さぞかしキツかった事だろう。
俺は、電の背中に、自分の着ている軍服の上着を掛ける。6月に入ったとはいえ、この時間の冷え込みは馬鹿に出来ない。いくら
本当なら、電を起こして部屋に戻って休むように言うべきなのだろうが、今の電を無理に起こすのは忍びない。
そう、思いつつ、伸びをすると、気配が動く。
「ふにゃ……ここは……?」
半ば寝ぼけながら周りを見渡す電と目が合う。
「おはよう、電」
「……しれい…かん?……!」
俺の掛け声に、意識が覚醒したのか、電が、慌てて立ち上がる。
「し、司令官さん!ご、ごめんなさいなのです!お仕事の途中なのに、電は寝ちゃってたのです……」
そう言ってシュンとする電の頭に手を当てて、柔らかな髪を撫で、問題無いと告げる。最初は、ひたすら申し訳なさそうにしていた電だったが、ゆっくりと頭を撫で続けながら、大丈夫と繰り返すと、ようやく落ち着いたようだ。
「目が覚めたのなら、部屋に戻って休みな。もう日付も変わったし、ここのところの激務で疲れているんだろうし……な?」
そう、電に声をかける。
「はい……司令官さんは、どうするのです?」
「俺も、書類を纏めたら休むさ。だから電は……」
「じゃあ、司令官さんが、纏め終わるまで待っているのです」
俺の言葉が終わる前に電の返答が割り込む。
「終わったら、一緒にお部屋に帰って休むのです……いいですか……旦那様?」
少し顔を赤らめながら告げてくる電。
そんな顔で、最愛の少女からお願いされて断れる筈も無い……電が、可愛すぎるのが悪いのだ。
「……旦那様。また、おかしな事を考えているのです」
「おかしな事とは、酷いな。俺は、電が可愛すぎると思っているだけだぞ?」
ストレートに告げる俺の台詞に、少しだけ呆れを見せながらも、嬉しそうな表情を向けてくる電。
「本当に……旦那様は、電の事が好きすぎるのです」
「嫌か?」
「そんな事は、ないのです。だって……」
「だって?」
その先は解っているが、あえて台詞を促す。
電自身の言葉で聞きたいからだ。
「電も旦那様の事が大好きなのです!」
そう言って真っ赤になる電。俺は、我慢出来ずに電を抱き締める。『ぷしゅー』という音が聞こえそうな位に更に赤くなり、はわわわと慌てる電。何時までも初なその反応が、愛おしくて仕方がない。
少しすると、電もこちらを抱き締めかえしてくる。
この時間がずっと続けばと思わなくもないのだが……
「……さて、休もうか?」
「はい……なのです」
名残惜しそうな電から、体を離し、代わりに手を繋いで二人で執務室を出る。深夜の鎮守府の廊下は、ぼんやりと灯る常夜灯の明かりがあるだけ。
そんな中を電と二人で自分達の部屋へと歩を進める。
「旦那様……」
「……ん?」
「……何時までも一緒なのです」
「……あぁ」
『
約10年程昔に、突如現れて、海上を占拠する事となった『
それと時を同じくして現れた、かっての大戦での護国の象徴であった、艦の記憶を宿した『艦娘』という存在。
その艦娘を指揮し、海を人の手に取り戻さんとする
『提督』という存在。
提督と艦娘が、深海棲艦に対抗する為の基点となる場所。それが、鎮守府である
人と艦娘、そして深海棲艦の関わりは、今も尚続いており、終わりを見出だす事は出来ない……
これから語られるのは、そんな状況下での
とある鎮守府の艦娘達と司令官との
なんという事の無い日常を綴った物語である。