鎮守府日常奇譚   作:ALF

10 / 17
電視点です。
戦闘シーンっぽいのが、あってもフレーバー程度なので生暖かく流し見て下さい。









心の雨~あるいは雨の上がる時~

ピピピピピ……

 

 

「ふにゃ……いま、おきるのです……」

 

 

目覚まし時計のアラームを止めます。

 

マルゴーマルマル。

総員起こしの、1時間前に起床。

電の毎日は、ここから始まるのです。

 

電の隣には、まだ眠っておられる司令官さんが、おられます。司令官さんを起こさないように、ベッドを出て、洗面スペースへ。冷たい水で顔を洗って、意識をしっかりと覚醒させます。

 

 

そうした後、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップへ注ぎます。これを毎朝かかさず飲むのが電の習慣なのです。

昔どこかで牛乳は、栄養たっぷりで成長には欠かせない飲み物と聞いたことがあり、背が高く魅力的な女性になる為に今でも牛乳は、電の朝の友なのです。

 

……少しは、成長しているのでしょうか?

姿見に映る、代わり映えの無い自分の姿を見て、少し落ちこみます。

……素敵な女性に、少しは、近づけているといいな。

 

 

ん……汗をかいているのに気づきます。

入渠までしている時間は、ないですね。

幸いな事に、電と司令官さん、二人の部屋には簡易シャワーがあるのです。調理場といい、贅沢な設備ですが、今は有りがたく使わせて貰うのです。

 

 

……シャワーで汗を流してサッパリしました。

本当は、汚れ物をお洗濯といきたいのですが、流石にそこまでの時間は無いのです。

時刻は、マルゴーゴーマル。

制服に着替えて、身嗜みを整えたら、そろそろ司令官さんを起こす時間となります。

 

 

「司令官さん。おはようございます。もう朝なのです!起きて下さい、なのです!」

 

「……」

 

「むぅ……起きてくれないのです」

 

 

司令官さんは、意外と寝起きが、悪いのです。

あまり時間もないですし、仕方がないのです……あれをやるのです。起きない司令官さんが、悪いのです。

 

司令官さんの眠るベッドの上にあがります。そして司令官さんに顔を近づけて……

 

 

はむっ!

 

 

司令官さんのお耳をハムハムします。すると……

 

 

「っ!?なんだ!?」

 

「司令官さん。おはようございます、なのです」

 

「電……起こしてくれるのは、有りがたいが……耳は勘弁してくれ」

 

「お寝坊さんが、悪いのです。ほらほら、司令官さん。お顔を洗って下さい、なのです!」

 

「……母さんかよ」

 

「お母さんじゃ、無いのです。お嫁さんなのです」

 

 

ぶつぶつ言う司令官さんを一喝なのです。

本当に、寝起きだけは、グダグダ司令官さんなのです。

ちなみに、司令官さんが、お耳ハムハムに弱いのは、電だけが知っているのです。

その代わりに、司令官さんは、電の弱い所を…………こほん。

話が、それてしまってたのです。

 

 

 

『総員!起こーし!!』

 

 

 

マルロクマルマル。総員起こしの放送が入ります。

 

 

「よし、とりあえずは、朝飯かな」

 

 

総員起こしを聞く頃には、グダグダ司令官さんから、何時もの司令官さんになっておられます。

グダグダ司令官さんを知っているのも、電だけなのです。

 

「司令官さん。食堂に行くのです」

 

「そうだな。……そういえば、電は、今日はR方面への出撃だったか」

 

「はい。限定海域の調査出撃なのです」

 

「じゃあ、なおのこと、朝飯はしっかり食べなきゃな。行こうか、電」

 

「なのです!」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「羅針盤の乱れは、今の所無いみたいね」

 

 

 

艦隊旗艦の愛宕さんが、報告してくれます。

鎮守府を出立して約3時間。電たちは、R方面へとたどり着いていました。

 

旗艦の重巡洋艦・愛宕さん。

軽巡洋艦の五十鈴さん。

軽空母のガンビアベイさん。

駆逐艦の夕立ちゃん。

駆逐艦の暁ちゃん。

それに電を加えた6人が、出撃メンバーです。

 

 

「今の所はイ級くらいしか出会ってないっぽい!」

 

「そうなのよね。レディに恐れをなして、隠れちゃったのかしら?」

 

「なら、いいんだけどね。電。ガンビア。電探の反応はどう?」

 

「今の所は、感無しなのです」

 

「こ、こちらにも反応は、ありません」

 

「んー……じゃあ、とりあえず偵察機を飛ばしてみるわね~」

 

 

そう言うと愛宕さんは、偵察機を発艦させました。

今の所は、脅威と言える深海棲艦は、見つかりません。

このままなら楽なのですが、さすがにあり得ません。

 

 

 

 

「あー……中々のお出迎えみたいね。結構な数が向かってくるわ」

 

「愛宕さん、空母は、見える?」

 

「艦載機……白タコ焼さんが山盛りだけど、空母の姿はないわねぇ。飛行場姫の奴かしら?」

 

「どちらにせよ対空準備っぽい!」

 

「そうねぇ…各艦!輪形陣へ移行!対空攻撃準備!」

 

「了解なのです!」

 

 

 

見事なフラグ回収なのです。愛宕さんの偵察機が、敵の艦載機を発見しました。

 

 

 

「電探にも掛かりました……艦載機を出します!」

 

 

 

ガンビアさんが、ライフル型のカタパルトを構えて、艦載機を発艦させます。艦上戦闘機は、重要な対抗手段です。目視圏内……!

 

 

「Squadron……attack !!」

 

 

ガンビアさんの機体が白タコ焼と交戦を開始します。

相手の数が多い!!

 

 

「五十鈴にお任せよ!」

 

「よりどりみどりっぽい!」

 

「暁の出番ね!見てなさい!」

 

 

皆が対空攻撃を仕掛けます。でも追い付いていない!

司令官さんの言葉を思い出します。

『出し惜しみをして、悔やむくらいなら全力で行くんだ。後のことは、後で考えろ!」

行くのです!

 

 

「皆!射線を開けて欲しいのです!」

 

 

何故と聞かずに皆が電の前を開けてくれます。

……セーフティを解除。背面艤装から増設部が展開します。

 

「まずは、これなのです!」

 

白タコ焼に向け噴式ロケットが飛び掛かります。

次々に命中……でも足りない。

ターゲットスコープを引き出して照準合わせ……

 

 

……キューン!

 

 

砲身の回転音が鳴り出します……ただの対空砲と

思わないで欲しいのです!

 

 

「電の本気を見るのです!」

 

明石さんの魔改造を受けた重連装機関砲(ヘビーガトリング)が、電の声と共に火を吹きます。

反動が凄くブレを押さえるのが大変ですが、その時間単位殲滅力は、凄まじいのです。

砲身冷却のクールタイムに入る頃には、他の皆の攻撃と合わせて、白タコ焼を全機、撃墜していました。

……なんとかなったのです。

 

「対空電探に感無し……状況終了なのです」

 

「皆、お疲れ様。なんとかなったわね」

 

 

かなりの数の艦載機でしたが、こちらは、ほぼ損傷無しなのです。良かった……と思っていると。

 

 

 

「相変わらず、電の艤装の対空は、おかしいっぽい!」

 

「レディとしても凄まじいと思うわ」

 

「優秀な対空とは、思うわよ……過剰だけど」

 

「改造をしたのは、明石さんなのです……」

 

 

皆から電の艤装へのネタ混じりの突っ込みが入るのです。皆、酷くないですか?改造をしたのは、明石さんなのです。

なんにせよ、無事で良かったと、気が緩んでいたのです。

 

 

 

 

「……ソナーに反応!?3時の方向から雷撃!回避して!」

 

 

 

暁ちゃんの突然の声。

考えるより早く、体が動く。

 

 

直近で炸裂音。上がる水飛沫。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

耳に入る悲鳴。

見れば、ガンビアさんが、被弾している。

くっ……早く敵を補足しないと!

おそらく、相手は潜水艦なのです……どこに!?

 

 

 

 

 

「……そこ!五十鈴には、丸見えよ!」

 

「やぁ!」

 

 

素早く反応した五十鈴さんと暁ちゃんが爆雷を投射。

直後に上がる二つの大きな炸裂音と水飛沫。

……どうやら二人が、対処してくれたみたいなのです。

 

 

「……ソナーの反応は、消えたわ。ふう、良かった」

 

「暁ちゃん、五十鈴ちゃん、助かったわ。ガンビアさんの損傷は、どうかしら?」

 

「あいたた……、あ、はい。飛行甲板は、無事ですが、脚部艤装が、かなりの損傷。中破レベルかと」

 

「ふむ。じゃあ、母港へ帰還しましょうか♪」

 

「えぇ!?飛行甲板は、使えますし。あと少しくらいなら行けますよ?」

 

「あと少しは、もう危ない……よ?それに家の提督の方針は、知ってるでしょ?」

 

「『命を大事に』っぽい!」

 

「なのです」

 

「そうよ、ガンビアさん。レディは、引き際を間違えないのよ?」

 

 

大丈夫と言うガンビアさんに皆で言います。

無理はせずとも良いのです。

 

 

 

「了解です。……本当は、足がだいぶ痛くて、どうしようかと思っていたんです」

 

 

そう言って苦笑いを浮かべるガンビアさん。

 

 

「フフッ……さぁ、じゃあ皆、帰りましょうか♪」

 

「「「「「了解(なのです)(っぽい)!」」」」」

 

 

 

 

こうして電たちは、鎮守府へと帰投したのです。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

かぽーん

 

 

 

 

誰かの桶の音がします。只今、絶賛入渠中なのです。

 

 

鎮守府に帰投した電たちは、司令官さんに状況を報告しました。

海域に、駆逐艦の他、艦載機に潜水艦と様々な敵機が見受けられたと言うその報告内容に、司令官さんは、艦隊編成を熟孝しないといけないと仰いました。

そして、労いの言葉を頂いた後に、速やかに入渠して、ゆっくり休んでくれとも。

 

 

そういう訳で、皆でゆっくりと入渠(おふろタイム)なのです。

やっぱりお風呂は、気持ちが良いのです。命の洗濯とは、良く言ったものなのです。

隣では暁ちゃんも気持ち良さそうにしています。

平和なのです……向こうを見なければ。

 

 

非情な現実があるのです。

でも、目をそらしちゃ駄目なのです。

私は、気合を入れてから視線を動かしました。

 

 

 

「愛宕さん、相変わらず、凄いっぽい!胸がお風呂に浮かんでるっぽい!」

 

「本当に、何を食べたらそうなるのよ……」

 

 

夕立ちゃんが、言う通りに愛宕さんのお胸は、湯船に浮かんでいました。いつも制服から、はち切れんばかりのそれは、枷を外したことにより猛威を奮っています。

 

何を食べたら……などと言っている五十鈴さんも、かなりのレベルです。以前は、比較的スレンダーな部類だったのに……

 

 

「……はぁ、生き返りますね」

 

 

しみじみ言っているガンビアさんも、とても軽空母とは思えないお胸……流石の米艦(アメリカン)です。

ガンビアさん。性格は、電と似ている気がするのに……どうして電のお胸は似ないのでしょう……うぅ。

 

でも、ここまでの3人は、『艦種が違うから』と自分を騙せなくもないのです。けれど……

 

 

 

「そういう夕立ちゃんも、だいぶ大きくなったんじゃないの?」

 

「……ぽい?」

 

 

同じ駆逐艦の夕立ちゃんも、愛宕さんたちほどでは無いにせよ、大きめな、お胸なのです!

 

 

 

「んー……夕立、改二の艤装が、使える様になったくらいから大きくなったっぽい?」

 

「そういえば、私もそうだったわね」

 

 

 

 

そうなのですか!!

五十鈴さんもそう言っていると言うことは、改二こそが、救いなのですか!?

 

 

 

「暁も改二艤装は、使える様になっているけど、暁の暁は水平線のままなんだけど……」

 

「まぁ、個人差があるんじゃないかしら?」

 

 

 

落ち込む暁ちゃんに、愛宕さんが、フォローを入れています。そうでした、暁ちゃんは改二なのに、お胸は水平線のままなのです……改二は救いでは、ないのですか?まぁ、電に改二は来ていませんが。

 

……まさか、暁型は、お胸の成長に下方修正が、かかってたり!?あ、あんまりなのです……

 

 

「……電?大丈夫なの?顔が、青いわよ?」

 

「い、電ちゃん……本当に真っ青だよ」

 

「大丈夫っぽい?」

 

「電ちゃん。本当に顔色が、悪いわ…」

 

 

 

持つ者である4人が、電へ近づいて来ます。

電を心配して下さっていると理性では、解っているのです。でも、感情が、拒絶するのです。

あぁ、これが、胸囲の格差社会……

 

 

 

「……だ、大丈夫なのです。ちょっと湯あたりしたっぽいので、先に出るのです」

 

 

 

なんとか残った理性を総動員して、そう言うと、私は浴場を後にしました。

 

 

 

 

 

 

今日は、もう割り当て任務もありません。

お部屋に戻ろうかと思い歩いていると、司令官さんを見つけました。声をかけようと足を動かしかけて

 

 

 

 

「Hey♪テートクー♪」

 

「あぁ、金剛か」

 

 

 

 

金剛さんの声を聞き、咄嗟に隠れてしまいました。

……え、どうして隠れたんだろ。

 

 

 

 

「……で……デース♪」

 

「…なるほど。まぁ頼む……ところで……」

 

「それは……」

 

 

 

 

 

司令官さんと金剛さんが、お話するなんて、何時もの事なのです。お仕事のお話だってあるのです。

それなのに……金剛さんと笑顔で話す司令官さんを見たくなくて、私はその場から、逃げる様に立ち去ったのです……

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

……ここは?

意識はあるのです。でも体の感覚が、ありません。

私は……えっと。

視線を動かす事は、出来ます。

 

え……司令官さん?

 

どうしてそんな冷たい目をしているのです?

え……いらない?

何がいらないのですか?

 

え……どこへ行くのです?

待って下さいなのです!

 

……どうして動けないのです!?

 

司令官さん!電を置いて行かないで下さい!

行っちゃ嫌なのです!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……づま!電!」

 

「……え、しれ……い……かん?」

 

「ああ俺だ。大丈夫か電?凄まじくうなされていたけど……」

 

「あ……あぁ!嫌なのです!!居なくなっちゃ駄目なのです!!」

 

「ちょ、落ち着け、電!?」

 

「だんなさま!イヤなの!いなくならないで!!」

 

「電!!」

 

 

 

 

 

 

 

それは、翌朝の事でした

 

……意識が覚醒して暫く、状況がつかめなくってパニックを起こしていた私。司令官さんに抱き締められて、時間が経って……ようやく落ち着いたのです。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「はい……なのです。司令官さんお騒がせしました」

 

「それは、いい。気にするな。けど、一体どうした?」

 

「ちょっと、恐い夢を見ちゃったのです……もう大丈夫なのです」

 

「……今日の、対潜哨戒任務は、別の艦娘に交t」

 

 

 

司令官さんが、言おうとした言葉を聞いて私は叫んでいました。

 

 

 

「駄目なのです!電は、やれるのです!だk」

 

「解った!解ったから……落ち着いてくれ。頼む」

 

「……ごめんなさい、なのです」

 

 

 

 

私は、どうしてしまったのでしょう。

その後の私は、司令官さんから、否定の言葉を聞くのが恐くて、結局、言葉を交わす事無く出撃となりました。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま、なのです。あ、電は、ちょっと用事があるので、お先に失礼するのです」

 

「OKデース♪……電、何かありましたカ?私たちの方を見ていたようだったけれド?」

 

「なんでもないのです。失礼するのです」

 

 

 

 

 

 

……対潜哨戒任務は、なんとかこなす事が出来ました。

 

帰投後の報告のごたごたで、ちょっとあって、今日の秘書艦を務める金剛さんたちとお昼ごはんを食べる事になったのですが、その頃には、私も何時もの調子を取り戻していました。

 

食事中にどうしても、金剛さんや榛名さんの胸元が、気になり、視線を向けてしまっていたのを気付かれていて、金剛さんに心配を掛けてしまったのは、悪い事をしてしまったのです。

 

ちなみに金剛さんに用事があると言っていたのは、本当なのです。執務室を離れられない、司令官さんに軽食をお持ちするのです。

間宮さんに、おむすびと、水筒に入ったお茶を貰って、私は、司令官さんの元へ向かいました。

 

 

 

 

執務室に着いた私は、扉をノックします。

 

 

 

「どうぞ、入ってくれ」

 

 

 

返事を待って入室しました。

司令官さんの顔を見ても、大丈夫です。

ようやく、元の電に戻れたのです。

 

 

 

 

「電、お昼ご飯は終わったのか?何かあったのか?」

 

「ご飯は、食べたのです。それでこれは、間宮さんに頼んで、おむすびを……その、司令官さんが、ここから動けないから、お腹に入れられる物を」

 

 

 

司令官さんに尋ねられて、おむすびの事を話します。

 

 

 

「ありがとうな、電。さっそく頂くよ」

 

 

 

 

司令官さんは、電にお礼を告げて下さると、直ぐにおむすびを食べ始められました。

よほどお腹が空いていたのか、三つあった、おむすびはあっという間に司令官さんのお腹に消えました。

 

 

 

「司令官さん、どうぞなのです」

 

 

 

そう言って、水筒から温かいお茶を入れて司令官さんに渡します。それを飲んで、ホッと一息ついた感じの司令官さん。良かったのです。

……今なら、司令官さんに尋ねられるでしょうか?

 

 

 

「ごちそうさま。本当にありがとうな、電」

 

「どう致しまして、なのです」

 

 

 

司令官さんからのお礼の言葉に返事を返したのですが、司令官さんは、電が、司令官さんに何か尋ねたい事があると気付かれたのか、質問をしてこられたのです。

 

 

 

「電、何かあったのか?」

 

「……」

 

「……電?」

 

「……司令官さん、その少しだけお尋ねしたい事……」

 

 

 

意を決して言葉を告げかけた所で

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

「テートクー♪今帰ったヨ♪午後からも Let's workネ♪」

 

 

 

 

 

 

昼食を終えられた金剛さんが、戻られました。

司令官さんへの好意を浮かべた笑顔。

同性から見ても魅力的な姿。

再び、心の中に黒雲が、立ち込めます。

そんな私を見た金剛さんが、声をかけてこられますが

 

 

 

「Hum……?電、どうかしたのですカ?」

 

「いえ、なんでも無いのです。では、司令官さん。失礼しましたのです」

 

 

 

平静を装い返答するのが、精一杯で、執務室を出て行ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、電ちゃん」

 

 

 

廊下を進んでいると、聞き覚えのある声が、私を呼びました。名取さんです。名取さんなら相談に乗って貰えるし、秘密も守って貰える。理性は、そう声を上げます。でもやはり、感情が、否定するのです。

『魅力的な姿を持つ人に私の気持ちなんて解らない』

と言うのです。

私は名取さんに会釈をして、そのまま立ち去りました。

我ながらイヤな子だなと、自己嫌悪しながら。

 

 

 

 

 

 

……どれくらい、歩いたのでしょうか?

気がつくと、電は、鎮守府の門の前に立っていました。

 

……いっそ、鎮守府を離れたら、楽になれるかな。

そんな考えが、頭を(よぎ)ります。

でも、この門を出たら、きっともう司令官さんとは、いられなくなります。……それは、嫌なのです。

どうしようかと思っていると

 

 

 

「電ちゃん、こんなところで、どうしたんだい?」

 

 

 

そう、守衛さんに尋ねられました。

 

 

 

 

 

 

 

「はい。熱いから、気を付けて」

 

 

 

そう言って、守衛さんが、お茶を渡してくれます。

ここの守衛室の今の当番の人は、皆から『ご隠居』の愛称で呼ばれている人なのです。元は軍部の士官だったという話で、実際にそのお歳からは、想像出来ない様な注意力と観察眼を持っておられて、司令官さんも、それに何度か助けられていると聞いた事があります。

 

ご隠居様なら。

……思いきって電は、ご隠居様に全てを話しました。

 

 

魅力ある素敵な女性になりたいと思い努力している事。

中々その成果が、感じられない事。

周りにいる、たくさんの魅力的な女性に嫉妬に近い気持ちを持ってしまっている事。

それらの方々と自分を比較して不安を覚えてしまい、心が、不安定になってしまっている事。

 

……そして、そんな自分が、嫌な事。

 

 

 

 

 

全てを話し終えるまで、ご隠居様は、黙って聞いて下さりました。そして、静かに話し出されたのです。

 

 

「電ちゃんの言う、魅力的な女性が、どういう者かは置いておくとして……それは、電ちゃん自身が魅力的と思う姿では無くて『電ちゃんの想う誰かが、魅力を感じてしまうと、電ちゃんが、考えてしまう姿』なんじゃ無いかな?」

 

「……」

 

「努力の成果が出ないという事を、その結果、『想い人に自分が嫌われてしまうのでは?』と結びつけてしまったのでは、無いかな?」

 

「……なのですか」

 

「……人というのはね、理由のはっきりしない漠然とした不安を恐がるんですよ。だから、解りやすい理由を、持ってきて『これこれだから』と、自分を納得させるんです」

 

「電は、人じゃ……」

 

 

 

電の否定を潰すようにご隠居様が、続けます。

 

 

 

「電ちゃんは、人間ではなく艦娘ですが、間違いなく人ですよ」

 

 

 

 

 

そこまで、話されるとご隠居様は、お茶を啜られました。電もお茶を一口飲みます。

お茶は、すっかり冷めていました。

 

 

 

 

「……電は、どうしたらよいのでしょう」

 

 

ぽつりと呟きます。それに対し、ご隠居様は、

 

 

 

「提督さん、御本人に聞けばいいんですよ。『胸が大きい女性が、お好みですか?』とね」

 

 

しれっと、そう返します。

 

 

 

「……司令官さんの事だって解りますか」

 

「バレバレですね」

 

「うぅ……」

 

「電ちゃんの不安の原因は、十中八九、提督さんが、電ちゃんを嫌うかもしれないという事です。……話は、変わりますが、電ちゃんに質問です」

 

「……なんでしょう?」

 

「電ちゃんは、提督さんの事が、大好きですか?」

 

「えっと……」

 

「大事な質問です」

 

 

大事な質問。電は、司令官さんを……

 

 

「……大好きなのです」

 

「ふむ……では、逆に提督さんは、電ちゃんを大好きだと思いますか?」

 

「それは……」

 

 

 

今までの事を、思い返します。

 

(電が、可愛い過ぎるだけだぞ?)

(俺は、また一つ電の可愛い所を知れて嬉しかったぞ)

(愛しているぞ?)

 

毎回、私が恥ずかしくなるくらいストレートに伝えてくれた司令官さん。それに私は

 

(本当に司令官さんは、電の事が、好き過ぎるのです)

 

そう返していたのです。あぁ……そっか。

 

 

 

「きっと、司令官さんは……電の事が、好き過ぎるくらいに好きなのです」

 

「それでも、電ちゃんは、不安になったのでしょう?」

 

「……っ!それは、電が!」

 

「だったら、もっともっと、何度も何度も、電ちゃんが、不安を感じる暇もないくらいに、言葉で、態度で伝えて貰い……愛してもらいましょうよ。……提督さんなら、きっと、大丈夫ですよ」

 

 

 

もっともっと、何度も何度も、不安を感じる暇もないくらいに、言葉で、態度で伝えて貰い……愛して貰う。

 

 

 

「さぁ、年寄りの長話は、ここまでです。電ちゃんの大好きな提督さんに、全部をぶつけちゃいなさい」

 

「はい……なのです!」

 

 

 

こうして、道を示して貰った私は、守衛室を後にしたのでした。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

司令官さんに、全てをぶつけよう。

そう思った筈なのに、また恐くなった私は、海へと足を運んでいました。

港の端を行った所にある小さな砂浜。その更に端で、岩に座り、(たたず)んでいました。

そこへ、砂を踏みしめる音が、聞こえて、司令官さんが、やってこられました。

 

司令官さんは、電の横の岩に腰掛け、黙ったまま電と一緒になって海を見ておられました。辺りに響くのは、ただ、波の音だけです。

 

 

 

 

「……何も、聞かないのです?」

 

 

 

 

半時間ほどが過ぎた頃、気が付くと私は、口を開いていました。

 

 

 

 

「ん……その、俺も電から話を聞こうと思って、電を探していたんだが。……無理に聞き出していいのかなって思っちゃってな」

 

「……ここまで来ておいて、なんなのですかソレ?」

 

「ん……まぁ、ウン」

 

 

 

 

もうひとつ、ピシッと決められない、何時もの司令官さん。そんな姿を見ていると、電の口から自然と言葉が出ていきました。

 

 

 

 

「……司令官さんは、背が高くって、グラマーな体型の女性をどう思いますか?」

 

「……え」

 

「電は、毎朝欠かさずに牛乳を飲んでいるのです。すらっと背が高くて、グラマーな素敵な女性を目指しているのです」

 

「……うん」

 

「なかなか、効果は出ないですけれど、何時かは、電も魅力的な女性にって、頑張っているのです……」

 

「……あぁ」

 

「今日の出撃前に名取さんに会いました。任務の旗艦は、五十鈴さんでした。二人とも素敵なお姉さんです」

 

「……」

 

「任務から帰還後の執務室で、金剛さんと榛名さんに会いました。お二人とも電から見ても魅力的な女性なのです……」

 

「……電」

 

「司令官さん。改めて、お尋ねするのです。…………グラマーで大人っぽい女性をどう思われますか?」

 

 

 

司令官さんは、電を大好きでいてくれますか?不安にさせないでくれますか?

それを、まっすぐに尋ねるのが、恐くて回りくどい事を聞いてしまう。

それに、司令官さんの言葉が返る。

 

 

 

 

「その質問に答える前に、俺からも一つ聞かせて欲しい事がある」

 

「……なんでしょうか?」

 

「電が、魅力的な女性を目指しているのは、自分の為か?それとも……誰かの為か?」

 

「……それは」

 

 

 

 

あなたにずっと愛されたいから、あなたとずっと一緒に居たいから。それは、自分の、そしてあなたの、二人の為。

 

司令官さんが、続ける。

 

 

「俺の為……いや、電の中の不安を打ち消す為か?」

 

「……なのです」

 

 

それは、全てでは、無いけれど始まりだった。

だから私は、肯定する。そして、全てをぶつける。

 

 

 

 

 

「電は、司令官さんが大好きなのです。司令官さんが、電を大好きで居てくれるのも知っているのです。

でも電は、まだまだ子供っぽくて、司令官さんに見合う素敵な女性には、程遠くて……だから、たくさん、たくさん頑張っているのです。

鎮守府には、金剛さん、榛名さん、愛宕さん……たくさんの魅力的な女性が、いるのです。

そんな中で、電みたいな、ちんちくりんな子は、何時かは、見捨てられるんじゃないかって……不安で、恐くて、でも、イヤな子になりたくなくて…………」

 

 

 

 

全てをぶつけた(わたし)に司令官さんが、答を告げる。

 

 

 

 

 

「……電。さっきの質問への答なんだがな」

 

 

 

聞くのが……恐い。

 

 

 

「グラマーで大人っぽい女性だったか?ウン。魅力的だとは、思うぞ?」

 

「そう……ですか」

 

 

 

『そんな事ないぞ』と言って貰いたくて。でも、なんとなく無理かなと解っていて。言葉を聞いて、視界がぼやけだしたその時。

 

(わたし)の体が、地を離れ、司令官さん(大好きな人)の腕に持ち抱えられていた。……え?

状況が、理解出来ない。

お姫様抱っこ……え?

 

 

 

 

 

「し、司令官さん!?」

 

 

 

軽いパニックに陥る(わたし)司令官さん(私の愛する人)は続ける。

 

 

 

「けれど、俺の中での一番、魅力的な女性は電だから。背の高さも、グラマーかどうかも関係無い。電が、電である限りそれは、変わらない」

 

「旦那様……」

 

「だが、電を不安にさせてしまったのは、俺がそれをきちんと電に伝えられていなかったからだ。だから今まで以上に、俺は言葉で、態度で、電に伝える事にする。だから……」

 

 

 

言葉を切り、私に口付ける旦那様。そして唇を放すと(わたし)に言う。

 

 

 

 

 

 

「……俺から離れられるなんて、思うなよ?」

 

 

 

 

 

本当に、この人は……(わたし)の事が、好き過ぎるのです。でも、まだまだ、足りないのです。

だから……いつまでも、(わたし)と一緒に居て、離さないで下さい……ううん。

離れてあげないのです…………

 

 

そんな想いを乗せて、私は唇を重ね返したのでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




10000字越えました。
今回、着地点がぼやけていて難産でした。
ワンパターンでも良いのです。
ハッピーエンドが、好きなのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。