多少変則的な書き方をしています。
「……あれ、もうページが無い」
私が毎晩つけている日記。
今日の分を書き終え、ページを捲るとノートの背表紙が見えた。
「暁
「レディとしての毎日のケンサンをつづった記録よ」
私は、そう言ってノートの表紙を見せる。
「あぁ、日記帳ね。暁
「レディとしては、自分の日々の行動を書き記して、よりよいレディを目指すのは基本ですもの」
「……まぁ、日記自体は悪い習慣じゃないものね」
雷の反応が微妙に引っ掛かるけれど、レディはおおらかな気持ちで受け流さないとね。
……それはともかく、明日にでも明石さんの所で新しいノートを仕入れないと。
明日の分は、書けるだろうけれどその次は、厳しそうだし。
私は自分の机の上に並ぶ日記帳を見る。いつの間にか数を増やしたそれは、レディとしてのケンサンを続けてきた日々の長さであり……そして、色々な思い出の記録でもある。
私は、間もなくそのストックに加わる終わりかけの日記帳のページをたどり、記録の中の記憶に思いを馳せた……
* * * * *
【◯月◯日 今日は、司令官にお手軽オムライスの作り方を教えてもらった。先日、司令官に作って貰ったオムライスが、凄く美味しかったから、作り方を教わろうとしたけれど、少し難しいから、もう少し簡単なのを……と言って教えてくれた作り方だ。それでも少し難しかったけれど、なんとか完成させられた。司令官も美味しいって言ってくれたわ。自分が作った物を美味しいって言って貰えるのって、とっても嬉しい!】
「お、来たか暁」
「暁ちゃん、いらっしゃいなのです」
「司令官、電も。今日はよろしくね」
時刻はヒトマルマルマル。
今日の私は、司令官たちの部屋を訪ねていた。
一緒にオムライス作りにチャレンジする為だ。
先日の食堂でのオムライス騒動の流れで、司令官が暁たちに作ってくれたオムライス。
特別な訳じゃないけれど、すっごく美味しかったわ!
これは、レディとしては、作り方をマスターしなきゃと思って、別の日に司令官に話してみたんだけど……
司令官いわく、先日のオムライスは、材料の下ごしらえや、調理の工程などを含めて、ある程度は料理の経験がないと難しいかもしれないって言われたの。
暁だって、レディの端くれ。少しはお料理だって出来るもの。それを司令官に言うと、『どんな物が作れるんだ?』って尋ねられた。
ふふん、レディを舐めないでよね。目玉焼きとゆで卵と炒り卵が、出来るわ!ご飯があったら、おむすびだって作れるんだから!
それを伝えると、司令官は
『この間作ったオムライスは、少し暁には、難しいかもしれん。明日は俺も電も休みだし、暁も休みだろ?もう少しお手軽なオムライスの作り方を教えるから一緒にやってみるか?』
って言ってくれたのよ。
レディとしては、多少は歯ごたえが、ある方がやりがいがあるんだけれど、せっかく司令官が提案してくれているのを断るのも悪いし、レディらしい気配りを発揮してお願いすることにしたわ。
それに、お手軽って事は作りやすいって事でしょうし、習っておいて損はないものね。
……べ、別に失敗するのが、恐いからとかじゃないし。
まぁ、ともかくそんな経緯があってで今に至るのよ?
エプロンを着けて、きちんと手を洗う。
見れば、司令官と電も同じようにしている。
私と電は、お料理の邪魔にならないように、長い髪をまとめている。電に借りた髪留めを使っていて、電とお揃いのヘアスタイルだ。
ちょっと新鮮では、あるわね。
ダイニングテーブルには、卵。それとケチャップを含めた調味料各種が置いてあった。あと、お米と変わった形の陶器製と思われるポット。
食事のあとで飲むお茶用なのかしら?
あと、お米はあるけれど、ご飯が無いわね。
それに、ケチャップライスに入れる具材も見当たらないし……?
疑問に思っていると、司令官がボウルと計量カップを持ってきた。
「あ、司令官。今日のオムライスって具は入れないの?ご飯も見当たらないし……」
「もちろん、具は入れるぞ。ご飯は、今から炊く」
「え……今から炊くって、炊飯器なんてあったっけ?」
「一応、調理場の方にあるけど、今日使うのはコイツだぞ」
そう言って私に見せたのは、陶器のポット。
「こいつは、『炊飯マグ』って言ってな、1合分のご飯を電子レンジで炊ける物なんだ。今日はこれを使ってみようかと思ってな」
「電子レンジって、冷めた物を温め直したりするやつよね?ご飯なんて、炊けるの?」
「『まぁ百聞は一見にしかず』だ。やってみようぜ」
まあ、確かにやってみないとね。調理場の流しへ移動した私は、司令官に教わりながら、初めてお米を研いだ。
幸い、1合分のお米は量が少なくて、ゆっくりとやれば初めてでも問題なく研ぐことが出来た。
研いで水を変えてを数回繰り返して、お米の研ぎ汁の色が、ほぼ透明になったらOK。
研いだお米を、炊飯マグに入れて、決まった量のお水を入れる。そして30分以上の時間、吸水させるんだって。
最近の普通の炊飯器だと吸水させなくても上手に炊けるらしいけれど、電子レンジで出来るこのマグは、吸水が必ず必要だと司令官に教わった。
司令官が、マグを買ったばかりの時に、大丈夫だろうと吸水させずにレンジで炊く行程へ移ったら、お米に芯が残って酷い目にあったらしいわ。
やっぱり横着はダメって事ね。
「司令官さん。持ってきたのです」
「ありがとうな、電」
電が持ってきたのは、魚肉ソーセージと冷凍のミックスベジタブル。これが、今日の具材かしら?
「魚肉ソーセージは、柔らかくて、包丁を使うのが苦手でも比較的切りやすい。それに生でも食べられるから、仮に火の通りが甘くても問題ないしな。ミックスベジタブルは、ニンジン、グリンピース、コーンが入っていて、彩りも良く使いやすいからな。今日はこの二つをケチャップライスの具に使うぞ」
「ふむふむ」
「暁からしたら、物足りないかもしれんが、そこは『お手軽オムライス』だから勘弁してくれ」
「大丈夫よ司令官。レディは、基本の大事さを解っているもの」
そもそも、私は包丁を使うのも初めてだしね。
正直、司令官が切りやすい材料を用意してくれた事にホッとしてるし。
司令官が、包丁を使い、まな板の上の魚肉ソーセージを縦に半分に切り、その半分を更に横に半分に切る。
そのあとで、5ミリくらいの幅に切ったソーセージをお皿に移した。
「じゃあ、暁も同じように切ってくれるか?」
司令官は、そう言ってセラミックの刃の包丁を渡してくれる。ちょっぴり子供扱いが、気になるけれど、暁はレディだから、おおらかな気持ちで許してあげるんだからね?……えっと、包丁を使う時はネコさんの手っと……
少し、時間が掛かったけれど、上手に切れたわ。
初めてにしたら上出来じゃないかしら?
司令官も『いい感じだ』って褒めてくれたし。
「お、そろそろ30分になるな。じゃあ、先に炊飯マグをレンジにセットしようか」
司令官に声を掛けられたので炊飯マグを持って、電子レンジの方へ。蓋をしたマグをレンジに入れて、500wで5分間っと。時間をセットしてスタートを押す。
起動音がして電子レンジが、動き出す。
本当に電子レンジって不思議よね。なんで、熱くなるんだろ?
5分間が経過した。熱くなっているマグに触れないようにして、再度レンジをセット。今度は200wで5分だ。
「じゃあ、コンロの方へ行くぞ。まず、ガスの元栓を開ける。次にコンロのここのレバーをしばらく押していると火がつく。火がついたら、このツマミで火の強さを調整する。じゃあ、暁。やってみようか」
「わ、解ったわ!」
だ、大丈夫よ!だってお料理は、した事があるもの!
ガスコンロは……響にまかせてたけれど、大丈夫よ!
司令官に聞いた手順通り。ゆっくりとやる。
ガスの元栓をあけて、レバーを下ろして点火……ついた!で、このツマミで火力調整……うん出来た!
ところで、疑問なんだけど……
「司令官。火を消すときはどうすればいいの?」
「最初に火をつけたレバーがあるだろ?それをもう一度押してみな」
……わ、消えた!不思議ね。
その時、レンジが出来上がりを告げるアラーム音を鳴らした。
マグをレンジから出さなきゃいけないと思って、慌てたんだけど、そのまま10分蒸らすから大丈夫と電が教えてくれた。なら安心ね。
「じゃあ、本番だな」
そう言って司令官は、コンロの上にフライパンを置いた。まず、フライパンに少し油を入れる。そのあとで、魚肉ソーセージとミックスベジタブルを一緒に炒める。
火が通ったらケチャップを加えてしばし炒める。
どうやら、そういう手順らしい。
「い、行くわよ!」
コンロにフライパンを置いて、油を少し入れる。そして、火をつける。すぐにチリチリと油の熱くなる音が聞こえてくる。魚肉ソーセージとミックスベジタブルをフライパンに入れて炒める。
司令官に聞いて火加減を調整する。ミックスベジタブルが、解凍され、更に加熱される。魚肉ソーセージも焦がさない様にこまめに動かす。うん。いい感じね。
「じゃあ、暁。フライパンの具材にケチャップを入れて更に炒めてくれるか。量は……うん、そんなもんだな」
司令官の指示に従って、フライパンの具材にケチャップを加える。結構多い量を入れるのね。フライパンの中がケチャップ一色になっちゃってるわ。
……本当に大丈夫?
「司令官、ケチャップの量が多すぎないかしら?」
「あぁ……うん。そう見えるけれど、今回の作り方だとそのくらいの量はいるんだよ。俺を信じてやってくれるか?」
「べ、別に司令官を疑ってるわけじゃないのよ?」
うん。もうケチャップは入れてしまってるし、信じるしかないわね……それは、それとして凄く良い匂いがしてくるわ!熱されたケチャップの甘い香りね!
「よし、暁。そんなものだし、火を止めてくれるか」
「解ったわ……消したわよ」
フライパンの火を止めてレンジの方を見ると電が、炊飯マグをダイニングテーブルへ移していた。
あと、ラップに包まれたご飯も出していた。
なんか、熱そうにしているわ……冷やご飯を温めたのかしらね?
「暁。炊飯マグから、炊きたてご飯をボウルに移してくれ。電もレンジで温めた冷やご飯を別のボウルへ頼む」
「了解なのです!」
「ご飯をボウルへ移すのね」
ダイニングテーブルの上で、炊飯マグの蓋を開ける。
うわぁ!本当にご飯が炊けてるわ!
電に手渡された、しゃもじ代わりのスプーンで、炊きたてご飯をマグからボウルへ移す。ほわっとあがる湯気。
炊きたてご飯は、このままでも美味しそう!
そこへ、司令官が炒めた具材の入ったフライパンを持ってきた。あれ?ご飯を持って行くんじゃないの?
「暁。匙を使ってフライパンから具材をケチャップごとボウルへ入れてくれるか。だいたいフライパンの中身の1/3くらいの量かな」
「え?ご飯と具材を炒めるんじゃないの?」
「うん。今回のケチャップライスは、『混ぜ込みケチャップライス』なんだ。ケチャップライスを作る時のご飯を投入してからの加減って意外と難しくって、 焦がしてしまう事もあるんだよ。この混ぜ込みタイプだとその心配が、ないからな」
へぇー……いろんなやり方が、あるのね。
流石のレディも知らなかったわ。
なんにせよチャレンジよ!……えーっと1/3くらいっと。それで、具材をケチャップごとご飯と混ぜる……こんなものかしら?
となりを見ると、電が同じようにフライパンの中の具材をケチャップごとボウルの中でご飯と混ぜている。
うん。確かにお手軽ね。
しばらく混ぜて出来たのは、キチンとケチャップライスだったわ。やるわね、司令官。
え?仕上げにバター?少しだけバターを入れて良く混ぜて完成よ!
「じゃあ、いよいよ卵だな。暁、卵を2個ボウルへ割り入れて良く混ぜて溶き卵を作ってくれるか」
「了解よ!」
2個の卵をボウルへ割り入れて混ぜる。
……え?卵を割れたのかって?
失礼ね!それくらいは、へっちゃらだし……
「よし。じゃあ、こちらの小さいフライパンにバターを落として火にかける。
バターは……うん、そんなもんだ。バターに泡が出てきたら、溶き卵を入れる。入れたら、焦げない様に菜箸でかき混ぜ続けて……うん。上手いぞ暁。そうそう、そのまま……よし!火を消して蓋をする!」
司令官の指示に従って、必死で行動する。
バターに泡が、出てきた……溶き卵を入れて、お箸で焦げない様に混ぜる。だいぶ固まってきたわ……って、火を消して蓋!?
出来たけど…まだ固まりきって無かったわよ?
電の方を見ると『大丈夫なのです』と聞こえてきそうな顔をしている。そうね、ここまでも司令官を信じてきたんだし。うん。
「よし。じゃあ、仕上げだ。暁。フライパンの蓋を取って卵の上に、ケチャップライスを乗せてくれるか?食べたいだけ入れて構わないが、入れすぎると最後が難しくなるから気をつけてな」
言われた通りに蓋を取る……あれ。卵がいい具合に固まっているわ?
「フライパンの余熱で卵を固めたのです」
電が、そう教えてくれた。なるほどねぇ……
あ、ケチャップライスを乗せるのよね。……うん。
これくらいかしら?
でもどうやってこれを、お皿に移すのかしら?
私が、疑問に思っていると、いつの間にか別のフライパンで卵を焼いていた司令官が、こうするんだと、やり方を見せてくれた。裏向きのお皿をケチャップライスに乗せてお皿を押さえながら……フライパンごと逆さにするの!?
司令官が、フライパンを持ち上げるとそこには、お皿に乗った、出来たてのオムライス……凄いわ!
早速私もやってみる。お皿を押さえながらフライパンを……お願いっ!
おそるおそるフライパンを持ち上げると、そこには、出来上がったオムライス。
「やった!出来たわよ!」
「あぁ。頑張ったな、暁」
「暁ちゃん、やったのです!」
思わず、声をあげてしまった私に、司令官と電が労いの言葉を、掛けてくれる。
「と、とーぜんよ。暁は、一人前のレディなんだから!……でも、二人とも……ありがと。
……お礼はちゃんと言えるし」
少しだけ、喰い気味に言う私を見て、二人は微笑ましい者を見るような顔を浮かべていたけれど、私は、初めて自分で作り上げたオムライスが、嬉しくて、ちっとも気にならなかった。
そのあとで、皆で一緒にオムライスを食べた。
もちろん美味しかったけれど、それ以上に私が作ったオムライスの味をみてくれた、司令官と電が、二人そろって『美味しい』と言ってくれたのが、ちょっぴり気恥ずかしくて、でも凄く嬉しくて……
お腹以上に心が、満たされた気がした。
* * * * *
「ちょっと!暁
「ごめんね。今消すわ」
「……暁
失礼な妹ね!……でも、まぁいいか。
「レディには、そんな日もあるのよ。じゃあ、明かりを消すわね」
怪訝そうな顔を浮かべている
頭に思い出されるのは、日記という記録から呼び出された楽しかった記憶。
明日も、更なるレディを目指さなきゃね。
そして……明日も素敵な一日でありますように。
そんな事を思いながら、私は夢の世界へ旅立った……
私の中での暁は、色々と空回りするけれど、根は素直で頑張り屋の良いお姉さんというイメージです。