漢字表記(電)が、淡海鎮守府のいつもの電です。
※次話に合わせて、一部追記しました。
「司令官さん。お日様が出てきたのです」
「お、本当だなぁ。これなら少しは観光っぽい事も出来るかな?」
「舞鶴鎮守府での研修が、早めに終わればいいですね」
……話は数日前に
大本営からの指示文章が淡海鎮守府に届いた。
内容は『鎮守府への着任から3年を経過した提督は、横須賀・舞鶴・呉・佐世保・大湊のいずれかの鎮守府施設において鎮守府の状況報告並びに運営研修を受講する事。その折は、初期艦娘を同行させる事。日時、及び研修鎮守府については、別紙参照の事』
というものだった。
それで、指定された日である今日、研修へ参加するべく、電と一緒に指定された鎮守府へ向かっている訳だ。
家の場合だと、研修先は舞鶴鎮守府である。
鎮守府の所在地から最も近い鎮守府だからなのだが、実際に移動にかかる時間だと、横須賀鎮守府までの必要時間と半時間程しか変わらない。
これは、移動に一般の公共交通機関を使用するからだ。
そして、所謂、東海道・山陽ルートを外れると、交通の便は一気に悪くなる。
俺の元いた世界のそれと、今いる世界のそれ。
どうやら、交通事情等は、極端に元の世界と変わっていないようだ。
深海棲艦の出現により、沿岸地域の都市は、一時期、壊滅寸前にまで追い込まれたが、幸いな事に鉄道インフラへの被害は小さく、開戦から9年が経った今ではほぼ以前通りの状況となっているらしい。
(流石に沿岸部の駅は路線ごとの移動を余儀なくされたとの事だが)
……俺たちは、淡海鎮守府の最寄りのO駅から列車に乗り、京都駅へ向かい、そこから特急列車に乗り換えて舞鶴へ向かう算段だ。
ちなみに服装は私服。いつものシャツにチノパン、ジャケットという奴だ。やはり、軍服で公共交通機関というのは悪目立ちが過ぎる。
電は艦娘の制服だが、普通のセーラー服だし、そこまで目立ちはしないだろう。
なお、集合場所は東舞鶴駅で、集合時間は、本日のヒトフタサンマル。そこから舞鶴鎮守府へ向かう車両へ搭乗となるが、そこまでは各自が公共交通機関を利用する事という指示。
まあそれぞれの鎮守府まで迎えを寄越すのも非効率的であり仕方ない……のか?
深く考えても仕方ないのだが。
東舞鶴駅へ俺たちの乗っている特急列車が、到着するのは、ヒトフタマルイチの予定。あと1時間程か。
ふむ……
「電。ちょっと早いが、お昼ご飯にするか?」
「はい、司令官さん。電も少しお腹が減ってきているので、賛成なのです」
「よし……電は、どっちがいい?」
そう言って、駅弁を二つ取り出す。
特急列車に乗り込む前に京都駅で買っておいた物だ。
「司令官さんが、先に選んで下さいなのです。電は、残った方でいいのです」
「電が、好きな方を選んでいいんだぞ?」
電は、駅弁を食べた事が無く、駅で色々と並ぶ弁当を見ながら目をキラキラさせていたからな。ただ、目移りし過ぎて選べないから、買う弁当は俺が選んでくれと頼まれたのだが。
「えっと……実はお弁当の包み紙に書かれた名前からでは、電にはどちらがいいのか、よく解らないのです。それで司令官さんに先に選んで貰おうかなって……」
そう言って『えへへ』とばかりに笑う電。
そういう事なら……
「じゃあ、二つの弁当を開けて、中身を見てから選ぶといい。なんなら、お互いに分けっこしてもいいしな」
「あ、お弁当を分けっこするのは賛成なのです!両方が美味しそうでも困らないのです!」
「はは……じゃあ、開けてみるか」
列車の座席前にある折り畳みテーブルを拡げて弁当を置き、それぞれを開けてみる。
一つ目は全体の3/4程は、ご飯の上に牛肉がギッシリと敷き詰められており、残り1/4には大きなだし巻き玉子が切り目無く、一本丸ごと入っているという大胆な弁当。おそらく甘辛く煮付けてあろう牛肉と一本丸ごとのだし巻き玉子……うん。俺の趣味だ。
二つ目は全体が碁盤の目に区切られており、それぞれに趣向を凝らした煮物・焼き物・揚げ物・ご飯等々が入った、見た目にも楽しそうで美味しそうな変わり種幕の内といった所だ。なんとなく電が好きそうかなと選んでみた弁当だ。
さて、電はどちらを選ぶかなと思っていると
「その……司令官さん。わがままを言ってもいいのでしょうか?」
「……別に構わんが、どういう事だ?」
「碁盤の目に区切られて色々入っているお弁当が、いいのですが……その……お肉のお弁当に入っているだし巻き玉子が、すごく美味しそうで……その」
「あぁ……じゃあ電は、碁盤の目のお弁当にして、だし巻き玉子をはんぶんこしようか?」
「そ、それだと司令官さんのお弁当が、少なくなってしまうのです!だし巻き玉子は、少し分けて貰えれば」
「大丈夫。俺も電の弁当の碁盤の目から少し分けてもらうし。なにより、電……だし巻き玉子、たくさん食べたいだろ?」
「あぅ……」
お見通しとばかりに言うと、顔を赤くして恥ずかしがる電。うん。本当に俺の嫁さんが、可愛すぎる。
「まあ、なんにせよ食べようか。時間なんて、すぐに経つしな」
「……なのです」
そうして、俺たちは、しばしの旅行気分を楽しみつつ舞鶴へと向かった。電は、たっぷりとだし巻き玉子を食べられて満足だったみたいだ。うん。
* * * * *
東舞鶴の駅で列車を降り駅の改札を出る。
時刻はヒトフタヒトゴー。確か北口に迎えが来ると聞いていたが……ん?
駅前のロータリーにスーツ姿でメガネを掛けた男性がいる。それだけなら、どうという事はないのだが、その隣に立っている見覚えのあるセーラー服の少女。
それを同じく見つけた電が、俺に小声で伝える。
「司令官さん。あそこに電と同じ姿の子がいるのです」
「あぁ。十中八九、研修に付き添う艦娘だろうな」
電とひそひそ話をしていると、向こうもこちらに気づいたのか、俺たちの方へ近づいてくる。
「失礼。舞鶴鎮守府での研修の方でしょうか?」
「……はい。あなたは?」
「……申し遅れました。私は小浜泊地の船木と申します。こちらが、同行のいなづまです。
「ご丁寧にどうも。淡海鎮守府の水無月です。隣にいるのが、同行の電です」
「小浜泊地所属のいなづまです。よろしくお願いいたします」
「淡海鎮守府所属の電です。どうか、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
「えっと、船木さん。迎えの車は……」
「私たちも今しがた着いた所でして……あれですかね」
言われて視線を向けると、車体の窓がスモークになっているマイクロバスが、停車しているのが見てとれた。
おそらく、アレだろう。もし違うなら、どこの誘拐グループだという外見ではあるな。
そんな事を思っていると、マイクロバスの扉が開いて、一人の女性が、降りてきた。長い黒髪にヘアバンドを付けメガネを掛けた姿……うん。大淀だな。
「舞鶴鎮守府所属の軽巡洋艦、大淀と申します。本日の研修のお迎えに参りました」
「ご丁寧にどうも。淡海鎮守府所属の水無月です」
「小浜泊地の船木です。よろしく頼みます」
「……確認しました。水無月大佐、船木大佐ですね。軍服は、ご持参下さっておいでかと思います。車内に簡易更衣室がありますので、着替えをお願いします。着替えを終えられましたら、同行の艦娘と共に座席に着いて下さい。何かご質問は、ございますか?」
「今日の研修参加者は、私たちだけでしょうか?」
俺も疑問に思っていた事を船木大佐が、尋ねてくれた。
「いえ。もうお一方。鳥羽泊地所属の海堂大佐が参加予定ですが……」
「おい、デン!集合時間過ぎてっぞ!急ぎやがれ!」
「デンじゃないのです!イナヅマなのです!それに遅れたのは、司令官さんが、列車に乗り間違えたからなのです!」
「うるせえよ!いいから走……お?」
騒がしいやりとりと共にハーフパンツに派手な半袖シャツの男が駆けてきた。見覚えのある少女……艦娘と共に。
「……大淀って事は、軍の迎えか?」
「……失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「鳥羽泊地の海堂だ。そっちのがイナヅマ」
「ありがとうございます。鳥羽泊地の海堂大佐ですね。舞鶴鎮守府の大淀です。そちらのマイクロバスにご乗車下さり、中で軍服へとお着替え下さい」
「わかった。デン行くぞ!」
「だから、イナヅマなのです!」
なんとも騒がしく、最後にやってきた海堂大佐は、バスに乗り込んだ。付き添いのイナヅマも、こちらへと会釈をしてから、その後を追った。……ふむ。
「……では、我々も乗り込みましょうか。いなづまさん。行きますよ」
「そうですね。電、行こうか」
「はい司令官さん」
「了解なのです」
マイクロバスに乗り込んだ俺たちは、指示通りに軍服に着替えて、それぞれに同行の艦娘と席に着く。
ついでに、改めて簡単な自己紹介を行った。
「鳥羽泊地の海堂だ。階級は大佐。今日は、初期艦を連れてこいって事なんでイナヅマを連れてきた」
「鳥羽泊地に所属のイナヅマなのです。よろしくお願いします」
「小浜泊地の船木です。階級は同じく大佐ですね。同行は、いなづまです」
「小浜泊地のいなづまと申します。どうか、よろしくお願いいたします」
「淡海鎮守府の水無月です。俺も階級は、大佐ですね。同行は、初期艦の電です」
「淡海鎮守府所属の電なのです。よろしくお願いします、なのです」
皆が、一通り自己紹介を済ませた所で、海堂大佐が、口を開いた。
「しっかし、3人揃って初期艦がイナヅマかよ。紛らわしくてしかたねえな」
「確かに同じ顔で、同じ声ですからね。解りづらくは、ありますね」
海堂大佐のそれに、船木大佐も苦笑しつつ同意する。
まぁ、他の所の艦娘は、仕方ないが……
「まあ自分の所の電は、見分けがつくけれど、確かに他所のは、解らないですよね」
俺が、そう言うと二人が『なに言ってんだコイツ?』というような顔で口を開いた。
「は?今は自分の横にいるし、喋れば解るが、ぱっと見で見分けなんてつくかよ?」
「私もしばらく話せば、解るでしょうが、外見では無理と思いますよ?」
「え……いや、他所のはともかく自分の所の電は、解るんじゃ?」
「無茶言うなよ。私服姿とか髪型変えてるとかってんならともかく、いつもの上げ髪で制服のイナヅマを見分けられるかよ」
「同型艦ですからね。絶対とは言いませんが、相当に難しいですよ」
「いなづまも、難しいと思います」
「イナヅマも、鏡を見ているみたいなのですし、厳しいと思うのです」
「な?当の本人たちも、こう言ってるぜ」
「は、はぁ……」
確かに同型艦だけど、自分の所の電は、解ると思うんだがなぁ……
「舞鶴鎮守府へ、到着しました。受付を済ませて指示に従って下さい」
そんな事を思っていると大淀から声が、掛かった。
舞鶴鎮守府へ、到着したようだ。
車を降りた俺たちは、受付をすませると提督組と艦娘組に別れて研修を受ける事となった。
海堂大佐と船木大佐は、研修が行われる部屋へ先に歩を進めたようだ。
俺は、並んで立っていた電たち3人のうちの左側の一人。家の電へ視線を向けて言葉を交わしてから後を追った。
「じゃあ、電。また後でな」
「はい。司令官さん。また後でなのです」
「え……なんで」
「本当に見分けが……」
……鳥羽と小浜の艦娘二人が何か言ってたような気がしたが、気のせいだろう。
* * * * *
「ふぅ……やっと、終わったぜ」
「まぁ、この程度の時間で終わるのなら御の字ですよ」
「明日も、マルナナサンマルから研修ですけどね」
「げ!マジか……」
「……きちんと予定に書かれていた筈ですが?」
時刻はヒトハチサンマル。ヒトヨンマルマルから始まった研修は、多少の休憩を挟みつつ約4時間に渡って行われた。
それぞれの鎮守府・泊地の現状報告から始まり、資源管理・艦隊運用・戦術概要etc……とにかく、内容が濃い。
最初に報告を求められたそれぞれの鎮守府・泊地の所属艦娘の内訳から、それを前提とした具体的な問題を出されたりするのだ。
途中でのまるで、TCGのような艦娘カードデッキ(それぞれの所属艦娘と同じ艦娘のカードで構成されている)を用いた、模擬戦闘指示など、良く言えば型破りだが実戦的、悪く言えば『軍部それでいいいのか』な研修もあった。
ただ、船木大佐も海堂大佐も至極、真面目に取り組んでいたし、この世界の軍部では普通の訓練の一環なのかもしれない。……知らんけど。
しかし、研修が3人だけってのは、おかしいと思っていたが、まさか俺たち以外の3年前に着任した連中が、全員揃って退役しているとはな。流石に予想外過ぎる。
まぁ何にせよ、本日の研修は、終了。
今夜は舞鶴鎮守府内の施設で宿泊。夕食は、鎮守府内の食堂で出されると聞いている。
ひとまず、鎮守府内の休憩所にある自販機で飲み物を買い、どうしたものかと三人で話していると、同じく研修を終えた電たちが、こちらへと……あれ?
「えっと、家の電は一緒じゃないのか?」
「あ、淡海の電さんはお手洗いによるとの事なのでした。もう来られるかと……」
「……本当になんで、電ちゃんが居ないのが、解るのです?」
「あ、司令官さん!」
電が、いない事に気づいて聞いた所に、ちょうど電が戻ってきたようだ。そちらへと歩を進める。
「電、お疲れ様」
「司令官さんもお疲れ様なのです」
戻ってきた電を労いながら頭を撫でる。電は、目を細めながら、気持ち良さそうに『えへへ』という表情を浮かべている……あぁ、研修の疲れが、癒されていくな。
ふと、背後に視線を感じて振り返ると呆れたような、理解し難いというような、そんな顔をした4人。
艦娘の2人は、『うらやましい』という感情もうかがえるかな?
「あぁ、悪い。つい、いつもの癖で……」
「はわわ……電も、つい。ごめんなさいなのです」
電と二人で謝罪を告げると
「いや、そこじゃねぇよ……」
「ご自分の艦娘と仲がいいのは、良いことではありますが……」
「電さんいいなぁ……」
「……うらやましいのです」
艦娘2人が、小声で何か言ったのは聞こえなかったが、海堂、船木の2人が、俺たちに呆れているのは、よくわかった。
「まぁ、いい……それよか飯行こうぜ!腹が減っちまった!ほれ、デン!行くぞ!」
「ご飯は賛成なのですが、デン呼びは止めてほしいのです!……というか淡海の司令官さんを見習ってほしいのです」
「あん?何をブツブツ言って……」
「なんでもないのです!」
よほど腹が減っていたのか、俺たちへのそれを置いて海堂大佐とイナヅマは、騒がしく食堂へと向かっていった。にぎやかなもんだ。
「船木大佐、俺たちも晩飯に行きましょう。海堂大佐ほどじゃありませんが、腹が減ってますし。電、行こうか?」
「了解なのです」
そう言って電と手を繋ぐ。
「そうですね。じゃあ、いなづまさんも行きましょう」
「はい。あ……」
いなづまに声は掛けたが、先に食堂へと歩きだしてしまった船木大佐。
返事の後に、空を切った手を見つめる小浜のいなづまの残念そうな表情に思う所が無いわけでは無かったが、これは俺が口出しする事では無いしな……
少しして、自分にいなづまが、ついてきていない事に気づいた船木大佐が、後ろを振り返り声を掛けてくる。
「いなづまさん、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないのです」
そう言って、船木大佐の元へ小走りで駆け寄るいなづまが、少しだけ寂しそうに見えた。
* * * * *
「この造り、旨いな……皮のコリコリがたまらない」
「焼き魚の方も、脂がのっていて最高なのです!」
時刻は、ヒトキュウイチマル。俺たち6人は、舞鶴鎮守府の食堂で、夕食をとっていた。
俺たちの他にも、食堂には、夕食をとっている舞鶴鎮守府の艦娘がちらほらと見受けられた。まぁ時間も時間だし、当然だな。
今夜のメニューは、旬と思われるタチウオの塩焼きと、数切れだがタチウオの造りまでついていた。それにご飯と味噌汁。
タチウオの造りなんて、初めて食べたがコリコリした皮の食感、そして身と皮の間に凝縮されたような旨味がたまらない。
焼き魚の方も脂がよく乗った身の旨さは、電が言うように最高だった。
まさか、研修の飯でこんな旨い物が食えるとは……
舞鶴鎮守府の間宮も流石だな。
電と二人で、美味しいなと食事を楽しんでいると、海堂大佐が、声をかけてきた。
「なぁ、水無月大佐。お前さんと、お前さんところの電。距離感が、おかしくないか?」
「……どういう事ですか?」
「あー……とりあえず、その丁寧口調をやめてくれるか?オフの時間くらいは、もう少し砕けてくれんと、むず痒くってしょうがねぇ。あと、大佐もいらん。海堂でいい。俺も水無月って呼ぶから」
「……了解。で、改めてどういう事だ?」
まぁ、本人が砕けてくれって言うんだからいいんだろ。
「いくら電が、初期艦で付き合いが長いっつっても、司令官と艦娘、言ってみりゃ上司と部下だろうが?お前さんたちの接し方は、どう見ても上司と部下のそれじゃねえんだよな」
「まぁ、確かに上司と部下って感じじゃないのは、認めるが。海堂の所も、結構砕けた感じじゃないか?デン呼びだし?」
「そりゃ、3年も一緒だと砕けもするぜ。それに、デンは、デンだしな」
「司令官さん!デンは、デンってなんなのです!」
鳥羽のイナヅマが、すかさず突っ込んでくる。
いいコンビだな。
「水無月大佐。距離感は、私も思いました。それにご自分の所の電さんを間違えずに見分けられている事も」
「あー、船木大佐も階級抜きの呼び捨てでいいですよ?あと、口調も」
「口調は、私の場合は、これが普通な物で。ただ、階級抜きは了解しました。あと、私も呼び捨てで構いませんよ」
船木大佐も、声をかけてきた。海堂も船木も、揃って距離感をおかしく思ったって事か。んー距離感……ね。
「だー!イナヅマ、こっちの事は今は置いとけ。今は水無月と電の話だ。お前も気になるだろうが?」
「うっ!……それは、確かに気になるのです」
「だろうが?で、水無月。距離感の事は、どうなんだ?」
「んー……まぁ、考えられるとしたら、電が、嫁さんだからかな?」
「は?嫁艦って、ケッコンカッコカリをしてるからって事か?」
「ケッコンカッコカリは、確かに艦娘との絆を深めて、位階上限を拡張してくれますが……」
「いや、確かにカッコカリもしているが、嫁艦で嫁さんなんだが?」
「はい。電は、司令官さんのお嫁さんなのです」
「「「「……はい?」」」」
俺と電以外の4人の声が、見事に重なった。
「ちょ、ちょっと待て!じゃあ、ナニか?お前ら二人は、上司と部下じゃなくて夫婦って事か?……つーか、艦娘だよな?」
「……カッコカリによって、形式的には、夫婦のようなものだということでしょうか……しかしそれだと距離感の説明が……」
「え、よ、嫁さんって聞こえたのです!い、電ちゃん!どういう事なのです!?」
「え……司令官さんのお嫁さん?え?え?」
……皆が大騒ぎだな。舞鶴の艦娘たちも、こっちをチラチラと見てるし。
「えっと……司令官さん。だいぶ、大騒ぎになっているのです。どうするのです?」
「どうするって、言ってもなぁ……お、電。この香の物も旨いぞ。ほら、あーん」
「(ぱくっ……モグモグ)美味しいのです……って、そうじゃなくてなのです」
「って……口元にご飯粒。子どもじゃないんだから」
「あぅ……司令官さんが電から、それを取って自分の口へ運ぶとかは、恥ずかしいのです……」
「まぁ、いいだろ」
電とやりとりをしつつ、また頭を撫でる。『はぅぅ』と言いながら顔を赤らめる電。うん。やっぱり俺の嫁さんは、可愛いな。
「……なぁデン。色々と細かいツッコミ入れたいが、やればやるだけ自分が疲れる気がするのは気のせいか?」
「司令官さん。奇遇なのです。イナヅマもそう思うのです。あと、いい加減にデン呼びは止めてほしいのです」
「……あれだけ自然にいちゃつけるなら、同じ顔で同じ声でも見分けられて当然なのかもしれませんね……」
「あのお二人は、そもそも『いちゃついている』と思っていない気がするのです……」
気がつくと、周りの騒がしさが落ち着いていた。
皆が、納得してくれたのか?
そう思って海堂たちの方を見ると、皆が同じ様に疲れた顔をしている。まぁ今日の研修は、ハードだったし仕方ないよな。
「あ、あの司令官さん……そろそろ撫でるのは、止めて下さいなのです」
そういや、ずっと電の頭をなで続けていたな。
悪いと言って、頭を撫でるのを止める。電の顔はすっかり、ゆで上がった様になっている。
っと……皆が疲れた顔をしているしな。時刻もフタマルヒトマル。明日も研修だし、そろそろ解散かな。
「今日の研修は、中々にハードだったし、皆だいぶ疲れた顔をしているように見えるな。明日も研修だし、そろそろ解散にするか?」
「確かに皆さん、お疲れに見えるのです。お部屋に戻って、休まれた方がいいと電も思うのです」
俺が、やんわりと解散を提案すると、電も俺のフォローをしてくれた。俺だけが言うより説得力が、あるし助かるな。
「……いや、研修も大変ではありましたが、疲れた原因は、それでは無く……」
「船木……水無月は、無自覚にやってるだろうしな。言うだけ無駄だぞ」
「あの、電ちゃん。淡海鎮守府では、司令官さんといつもこんな感じなのですか?」
「淡海鎮守府でも、似たような感じなのです。電たちのお部屋で二人きりだと、司令官さんともっと……なんでもないのです」
「え……電さんと司令官さんは、一緒のお部屋なのですか……一時的にとかでなく?」
……ん、なんか話が、ずれてないか?
「はい。電と司令官さんは、同じお部屋で暮らしているのです」
ガタガタッ!
なんか、向こうで椅子が倒れた音がしたが……大丈夫か?お、舞鶴の雷が、電を起こしているな。怪我とかは、無さそうだ。……ん?
振り返ると、先ほど以上に疲れた顔の4人の姿。
「み、水無月。お前……その……ロr……幼い容姿の子が好みなのか?」
「特にそういう趣味は、無いが?」
「ですが、電さんとカッコカリを済ませて同じ部屋で暮らしていると……」
「そりゃ、電とは夫婦だし一緒に暮らすのは、当然だろ?それと、誤解が、あるようだが、別に幼い容姿の子が好きとかじゃないぞ?俺は電が大好きなだけだぞ」
「淡海の司令官さん、ストレートすぎなのです……」
別に普通なんじゃ……そう思い電の方を見ると、そこにあったのは
「旦那様、恥ずかしいのです……」
これ以上無いくらいに顔を赤くした電の姿だった……
* * * * *
皆と別れて今夜の割り当て部屋へ入った。
時刻はフタヒトフタマル。俺は、疲れたであろう電に先にシャワーを浴びて休むように告げてから、今日の研修の資料を見返し、レポートを仕上げている。
……食堂では、あの後に俺のロリ◯ン疑惑は晴れたが(舞鶴の電に憲兵を呼ばれかけた。そもそも、なんでそんな疑惑が出たんだ?)皆が一様に疲れた顔をしたままだったのが気になった。鳥羽のイナヅマは『口から砂糖を吐きそうなのです……』とか、言ってたし。
「……司令官さん。まだ掛かりそうなのです?」
シャワーから出た電が、俺にレポートについて聞いてくる。一応は、これで仕上がっていると伝えると
「司令官さんも、シャワーを浴びてきて下さい。明日も研修ですし、早めに休む方がいいと思うのです」
電が、そう告げてくる。
そうするかと俺が、動きかけると、ふと思い返したかのように電が口を開く。
「他の場所の司令官さんたちは、イナヅマさんも、いなづまさんも、見分けられていない様だったのです。……司令官さんは、どうして、電の事を見分けられるのです?」
「どうしてって……逆に、なんで海堂と船木が、見分けられないのか不思議なんだが?自分の電を見分けられるなんて当たり前だろ?」
「……当たり前なワケないのです」
「え?……すまん。良く聞こえ無かったんだが」
聞き返した俺に、近付く姿が一つ
「……旦那様が、電の事を好きすぎるって言っただけなのです」
顔を赤らめ瞳を潤ませる電。未だ水気の残った濡れ髪のまま抱きついてくる
俺は、電と唇を重ねた…………
今回は、研修なので甘さ控えめ。
以下、チラシの裏
電
>淡海鎮守府の艦娘。本編のヒロインにして、ご存知、バカップルの片割れ。旦那様LOVE。
イナヅマ
>鳥羽泊地の艦娘。司令官からは妹のように思われているのを知っている。何時もデン呼ばわりされるのを嫌な反面、自分だけが特別に扱われている感じもして、絶対的に否定しきれない。
いなづま
>小浜泊地の艦娘。司令官から妹のように思われているのを知っている。その立ち位置は、嫌ではないが、常に『いなづまさん』と呼ばれているのに距離感を感じており、本当は呼び捨てにして欲しいと思っている。
>淡海鎮守府の司令官。本編の主人公にして、お馴染みバカップルの片割れ。電病患者。
>鳥羽泊地の司令官。初期艦は、イナヅマ。
荒めな口調と雑な性格がよく顔を覗かせるが、根は善人。イナヅマの事は、からかい甲斐のある妹と思っている。戦艦を主軸とした戦術を好む。座右の銘は『力こそパワー』嫁艦は扶桑。
大艦巨乳主義。
>小浜泊地の司令官。丁寧な口調で話し、穏やかな性格をしている。メガネ。いなづまの事は、妹のように思っている。船木の性格もあり、さん付けでいつも呼んでいる。戦術については、冷徹な部分があり、轟沈こそさせたりはしないが、艦娘を駒とする事も必要ならば躊躇わない。嫁艦は、瑞鶴。ロリ◯ンでは、無いが