鎮守府日常奇譚   作:ALF

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電視点です。


私だけの時間~あるいは電と司令官~

『間もなく、2番線に列車が参ります。危ないのでホームの内側へお下がり下さい……』

 

 

 

列車到着のアナウンス放送が流れます。視線を送ると踏切の音が聞こえる方、緩やかなカーブの影からこちらへと向かってくる列車の姿が、見えてきたのです。

列車をもっとよく見たくて、ついホームから線路よりへ乗り出してしまうのです。そして自然と口が開き声をあげてしまいます。

 

 

 

「うわぁー……」

 

「ほら、電。気持ちは、解らんでもないが、危ないし列車到着の邪魔になるからな?」

 

 

 

はっ!?……いけないのです。初めて見るホームから見る列車に魅入られてしまったのです。私は、司令官さんに謝り、ホーム内側へもどりました。

司令官さんは、苦笑を浮かべながらも、自分も子供の頃はそうだったと言って、電の行動を否定されませんでした。

司令官さんは、やっぱり優しいのです。でも、さっきの電の行動があまり褒められたものでは無いのも事実。

少し反省なのです。

 

ホームに入った列車が停止して、『プシュー』という空気音と共に扉が開きます。司令官さんと一緒に扉の脇に避けて、降りる方を待ちます。列車に乗るときのマナーだと司令官さんに教えて貰っているのです。

 

幸い、列車はそこまで混んでおらず、電と司令官さんは、二人がけの席に座る事が出来ました。

 

 

 

「電は、列車に乗るのは、初めてだよな?」

 

「はい。外から見たことは何度もあるのですけれど、乗るのは初めてなのです」

 

 

司令官さんに返事を返しながら、動き出した列車の窓から外の風景を眺めます。何時もは外側から線路を走る列車を見ているので、車窓から見る景色は、少しだけ新鮮なのです。

 

 

そもそも、なぜ私が司令官さんと列車に乗っているのかなのですが、事の始まりは数日前に大本営から送られてきた指令文章にあるのです。

 

 

『鎮守府への着任から3年を経過した提督は、横須賀・舞鶴・呉・佐世保・大湊のいずれかの鎮守府施設において鎮守府の状況報告並びに運営研修を受講する事。その折は、初期艦娘を同行させる事。日時、及び研修鎮守府については、別紙参照の事』

 

という内容でした。

 

私と司令官さんが、淡海鎮守府に着任してから3年が経ちましたが、この3年という期間で他所の鎮守府・泊地では色々とあったらしいのです。

家の鎮守府は、目立った戦果をあげている訳ではありませんが、司令官さんと私たち艦娘が一緒に頑張って、いくつかの海域を解放したりと頑張ったのです。

 

もちろん家とは比べ物にならないような戦果をあげておられる鎮守府もたくさんあるのですが、その反面3年を待たずに退役されている司令官さんも多いと聞きます。

 

単純に軍務に向いておられなかったという方もおられるのですが、戦果を求め、最初から無理な運営をし初期艦を轟沈させてしまい、そのショックから辞めてしまうという例も複数人見られたという事です。

……轟沈は、したくなくても、させたくなくても起きる可能性はあるのです。電も、あの時は……

いけないいけない。ついつい考えこんじゃうのです。

 

そういえば、中には司令官を辞められた後にトレーナーになる方もおられるという話も聞いたことがあるのです。……なんのトレーナーさんなのでしょうか?

 

話が、逸れたのです。それで、司令官さんに同行する指定を受けているのが、秘書艦では無く初期艦である事なのですが、これは着任から3年間の鎮守府の様子を書類上の記録だけでなく初期艦の記憶とも合わせて鎮守府の状況を精査する為らしいのです。

ただ、鎮守府によっては、初期艦を放置している事もあるらしく、その辺りも含めての今回の研修なのだろうと司令官さんは、言っておられました。

 

初期艦を放置……電の司令官さんは、着任の時から電を大事にして下さって今に至るのですが、もし電が放置されるような事になっていたら…………うぅ、考えたくないのです。

 

 

 

「電。気分でも悪いのか?あんまり顔色が良くないけれど……初めての列車だし、乗り物酔いかな」

 

「だ、大丈夫なのです!」

 

 

いけないのです。司令官さんを心配させちゃってるのです。私は気分を切り替えるように車窓を見ました。

ちょうど列車が鉄橋を渡る所で、その下を流れる川が湖へと繋がる所が見えました。

遥か古よりこの地を支え見守ってきた母なる淡い海です。見慣れたそれ。でも車窓から眺めるそれは、やっぱり新鮮でした。

 

 

 

「まぁ、電がそう言うならいいんだが……」

 

「嘘はついていないのですよ?」

 

「……そっか」

 

 

 

司令官さんは、一応は納得して下さったようです。

電は、すぐに色々と顔に出ちゃうので気を付けないといけないのです。

 

 

 

 

 

『間もなく、京都に到着します。乗り換えのご案内を……』

 

 

 

 

そうこうしている内に列車のアナウンスが流れました。間もなく京都駅に到着なのです。

 

 

 

「じゃあ、降りるか。乗り換える特急の発車時刻までは余裕を見ているし、京都駅でお昼ご飯用に駅弁を買おうか」

 

「駅弁……駅で売っているお弁当なのですか?」

 

「あぁ。京都駅は、大きい駅だし沢山の種類の駅弁があると思うぞ」

 

「……楽しみなのです!」

 

「だな……じゃあ降りるぞ」

 

 

 

お弁当の話をしたあと、司令官さんと手を繋いで列車を降ります。降りた京都駅のホームは、人で溢れていました。鎮守府近くのO駅とは、大違いなのです。

少しの間、待っていると、ようやく人の流れが落ち着いたので、司令官さんと移動を開始しました。

駅弁……楽しみなのです!

 

 

 

 

 

京都駅で、東舞鶴へ向かう為の特急列車が発車するまでの待ち時間で電と司令官さんは駅弁屋さんへよりました。

駅弁屋さんは、特急列車の出発ホーム近くにあって、ある程度ならお弁当選びに時間がかかっても、列車に乗り遅れる心配が少ないのです。

 

お弁当屋さんに入る前の電は、お弁当選びに自信があったのです。あらかじめ、司令官さんに沢山の種類があると聞いていましたし、心積もりが出来ていたからです。

けれど、それは慢心でした。『沢山』のレベルが違ったのです。

電の中では、『5種類くらいかな?10種類もあったら困っちゃうのです』という想像だったのですが、現実は想像を軽く越えた『30種類』の駅弁。

電は、お店に入ってずらっと並ぶお弁当を見た瞬間にフリーズしてしまいました。

 

サンドイッチ、幕の内弁当、おむすび弁当などという定番から押し寿司、ちらし寿司、釜飯などのバリエーション。お弁当箱からはみ出そうな大きなお肉の乗ったお弁当、ローストビーフがたっぷりのったお弁当、碁盤の目のような格子状のお弁当箱に色々と入った物、お肉と大きなだし巻き玉子が入った物etc……

 

凄いのです。ただひたすらに凄かったのです。

どれもが美味しそうで、とてもじゃないですが、電には選ぶ事なんて出来なかったのです。

こういう時は……司令官さんにお任せしちゃうのです。

 

司令官さんは、食べることがとても好きで、食べ物に関して司令官さんに頼って、失敗した事がないのです。

おまけに、電の好みをしっかりと解ってくれているのです。つまり、ここで電が迷ってお弁当を選べず時間切れになるより司令官さんクオリティに頼るのが正解なのです!他力本願?艦娘は司令官さんに頼っていいのです!

 

 

 

「あの、司令官さん……」

 

「お、電は欲しい駅弁が決まったのか?」

 

「いえ……実は、その……お弁当の種類が多すぎて目移りしちゃって、決められないのです。それで、司令官さんに選んで貰おうかと……」

 

「選ぶのは、構わないが……電は、それでいいのか?」

 

「はい。司令官さんなら美味しいお弁当を選んで下さるのです!」

 

「ふむ……じゃあ、期待に応えられるようにするか」

 

 

 

素直に司令官さんに告げると、司令官さんは、しばらくお弁当を見渡してから、二つのお弁当とお茶を買って下さいました。流石は、司令官さんなのです。

そうして、お弁当屋さんを後にした、電と司令官さは、特急列車に乗り込んだのでした。

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

京都駅からの約1時間半の小旅行気分を楽しんだ電と司令官さんは、東舞鶴駅へ到着しました。

初めての景色を車窓から眺めながら、司令官さんとのおしゃべりを楽しみ、美味しいお弁当を食べて……とっても良い時間だったのです。

 

 

改札を出た電と司令官さんは、駅の北口へと向かいます。司令官さんによると、ヒトフタサンマルに舞鶴鎮守府からの迎えの車が来るという事です。

今の時刻は、ヒトフタヒトゴー。駅のロータリーで、周りをぐるっと見回してみます。

……あれ?

車ではないのですが、気になるものを見つけました。

スーツ姿でメガネを掛けた男性がいます。それだけなら、どうという事はないのですが、その隣に立っている見覚えのあるセーラー服を着た女の子。

茶色の長めの髪を赤い髪留めで後ろで纏めて上げた髪型をしていて……

 

 

 

「司令官さん。あそこに電と同じ姿の子がいるのです」

 

「あぁ。十中八九、研修に付き添う艦娘だろうな」

 

 

 

 

今回の研修では、初期艦が同行する事となっていますし、他所の鎮守府の電が、やってきてもなんの不思議もないのですが、やはり驚きます。司令官さんと、その事を小声で話していると、向こうもこちらに気づいたのか、電たちの方へ近づいてきました。

 

 

 

「失礼。舞鶴鎮守府での研修の方でしょうか?」

 

「……はい。あなたは?」

 

「……申し遅れました。私は小浜泊地の船木と申します。こちらが、同行のいなづまです。

 

「ご丁寧にどうも。淡海鎮守府の水無月です。隣にいるのが、同行の電です」

 

「小浜泊地所属のいなづまです。よろしくお願いいたします」

 

「淡海鎮守府所属の電です。どうか、よろしくお願いいたします」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

声をかけてこられたのは、やはり他所の司令官さん。

小浜泊地というと、舞鶴鎮守府からは、比較的近い所なのです。同行されているのは、いなづまさん。やはり電と同型艦の艦娘でした。丁寧な挨拶をして下さったので電も出来る限り丁寧に返しました。……おかしくないですよね?

挨拶を済ませたあと、司令官さんは、船木さんに迎えの車の事を尋ねようとされました。

 

 

 

「えっと、船木さん。迎えの車は……」

 

「私たちも今しがた着いた所でして……あれですかね」

 

 

 

司令官さんと船木さんの視線を追うと、車体の窓がスモークになっているマイクロバスが、停車しているのが見てとれました。うぁ……怪しさ爆発なのです。

おそらく、アレなのです。もし違うなら、どこの誘拐グループだという外見をしているのです。

 

そんな事を思っていると、マイクロバスの扉が開いて、一人の女性が、降りてこられました。長い黒髪にヘアバンドを付けメガネを掛けた姿……家の鎮守府でも見慣れている大淀さんなのです。

 

 

 

「舞鶴鎮守府所属の軽巡洋艦、大淀と申します。本日の研修のお迎えに参りました」

 

「ご丁寧にどうも。淡海鎮守府所属の水無月です」

 

「小浜泊地の船木です。よろしく頼みます」

 

「……確認しました。水無月大佐、船木大佐ですね。軍服は、ご持参下さっておいでかと思います。車内に簡易更衣室がありますので、着替えをお願いします。着替えを終えられましたら、同行の艦娘と共に座席に着いて下さい。何かご質問は、ございますか?」

 

「今日の研修参加者は、私たちだけでしょうか?」

 

 

私も疑問に思っていた事を船木大佐が、質問なされました。

 

 

 

「いえ。もうお一方。鳥羽泊地所属の海堂大佐が参加予定ですが……」

 

 

 

 

 

「おい、デン!集合時間過ぎてっぞ!急ぎやがれ!」

 

「デンじゃないのです!イナヅマなのです!それに遅れたのは、司令官さんが、列車に乗り間違えたからなのです!」

 

「うるせえよ!いいから走……お?」

 

 

 

 

騒がしいやりとりと共にハーフパンツに派手な半袖シャツの男性が駆けてこられました。見覚えのある姿……艦娘と一緒に。

 

 

 

「……大淀って事は、軍の迎えか?」

 

「……失礼ですが、お名前をお伺いしても?」

 

「鳥羽泊地の海堂だ。そっちのがイナヅマ」

 

「ありがとうございます。鳥羽泊地の海堂大佐ですね。舞鶴鎮守府の大淀です。そちらのマイクロバスにご乗車下さり、中で軍服へとお着替え下さい」

 

「わかった。デン行くぞ!」

 

「だから、イナヅマなのです!」

 

 

 

なんとも騒がしく、最後にやってきた海堂大佐は、バスに乗り込まれました。正直、外見からでは司令官さんだと想像出来なかったのです。

付き添いのイナヅマさんも、こちらへと会釈をしてから、バスへと向かわれました。

それにしても、同型艦が3人というのも凄いのです。

それとも、今日は初期艦が電である鎮守府・泊地の研修日なのでしょうか?

 

 

 

「……では、我々も乗り込みましょうか。いなづまさん。行きますよ」

 

「そうですね。電、行こうか」

 

「はい司令官さん」

 

「了解なのです」

 

 

 

司令官さんの声に返事を返して、電もマイクロバスへ乗車したのでした。

 

 

マイクロバスに乗り込んで、すぐに司令官さんたちは、車内の簡易更衣所で軍服に着替えられました。

そのあとで、それぞれに同行の艦娘と席に着かれます。

電も司令官さんの横へ座りました。それから、改めて簡単な自己紹介をすることになったのです。

 

 

 

「鳥羽泊地の海堂だ。階級は大佐。今日は、初期艦を連れてこいって事なんでイナヅマを連れてきた」

 

「鳥羽泊地に所属のイナヅマなのです。よろしくお願いします」

 

「小浜泊地の船木です。階級は同じく大佐ですね。同行は、いなづまです」

 

「小浜泊地のいなづまと申します。どうか、よろしくお願いいたします」

 

「淡海鎮守府の水無月です。俺も階級は、大佐ですね。同行は、初期艦の電です」

 

「淡海鎮守府所属の電なのです。よろしくお願いします、なのです」

 

 

 

 

皆が、一通り自己紹介を済ませた所で、海堂大佐が、口を開かれました。

 

 

 

「しっかし、3人揃って初期艦がイナヅマかよ。紛らわしくてしかたねえな」

 

「確かに同じ顔で、同じ声ですからね。解りづらくは、ありますね」

 

 

 

海堂大佐のそれに、船木大佐も苦笑しつつ同意されます。司令官さんも、同じお考えかなと少し寂しく思いましたが、同型艦の子たちは、同じ顔で、同じ声。見分けがつかなくても仕方がないのです。

……けれど、視線を向けてみた司令官さんの顔は、『不思議な事を言っているな』と語っているように見えました。

 

 

 

「まあ自分の所の電は、見分けがつくけれど、確かに他所のは、解らないですよね」

 

 

 

 

司令官さんが、そう言われると海堂大佐も船木大佐も揃って『なに言ってんだコイツ?』というような顔をされました。私も、司令官さんの言葉の意味を完全には理解出来ませんでした。同型艦の中の(わたし)を見分けられるという事でしょうか?

 

 

 

「は?今は自分の横にいるし、喋れば解るが、ぱっと見で見分けなんてつくかよ?」

 

「私もしばらく話せば、解るでしょうが、外見では無理と思いますよ?」

 

「え……いや、他所のはともかく自分の所の電は、解るんじゃ?」

 

「無茶言うなよ。私服姿とか髪型変えてるとかってんならともかく、いつもの上げ髪で制服のイナヅマを見分けられるかよ」

 

「同型艦ですからね。絶対とは言いませんが、相当に難しいですよ」

 

「いなづまも、難しいと思います」

 

「イナヅマも、鏡を見ているみたいなのですし、厳しいと思うのです」

 

「な?当の本人たちも、こう言ってるぜ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

海堂大佐、船木大佐に加えて、イナヅマさんといなづまさんにまで、そんな事はないと言われて、司令官さんは、不承不承(ふしょうぶしょう)という感じで話を切られました。司令官さんは、同型艦であっても、きちんと見分けがつく……つまり、(わたし)他所の電(よそのこ)を見分けられるという事で……?

もしも、そうなら……嬉しいのです。

 

 

 

 

 

「舞鶴鎮守府へ、到着しました。皆さん、受付を済ませて指示に従って下さい」

 

 

 

 

そんな事を思っていると大淀さんから声が、掛かりました。舞鶴鎮守府へ、到着したみたいなのです

 

車を降りた私たちは、受付をすませると研修を受ける部屋を指示されました。どうやら、司令官さんたちと艦娘たちとは、別々での研修の様です。

 

電たちは、司令官さんたちを見送ってから研修室へ向かおうと3人で並んでいました。

海堂大佐と船木大佐が、研修が行われる部屋へ先行される中、司令官さんがこちらを見て、(わたし)の顔を見ながら声をかけてこられます。

 

 

「電。お互いに研修頑張ろうな」

 

「頑張るのです!」

 

「じゃあ、電。また後でな」

 

「はい。司令官さん。また後でなのです」

 

 

 

え……なんで

 

本当に見分けが……

 

 

 

 

司令官さんを見送って、じゃあ私たちも研修にと思い、他の2人を見ると、何故か少し驚いたような表情(かお)をしていました。

 

 

 

「じゃあ、電たちも研修に……2人共どうかしたのです?」

 

「あの、電さん。淡海の司令官さんは、電ちゃんの事を他の同型艦の子達(わたしたち)と見分けられるのですか?」

 

「イナヅマたち3人が、並んで立っていて、声もあげていなかったのに、迷うこと無く電ちゃんに視線を合わせて話しかけていたのです。淡海の司令官さんが、言ってたのは本当の事だったの?」

 

「……んと。電も司令官さんの前で同型艦の子達(ほかのこたち)と居たのは、今回が初めてでよく解らないのです」

 

「そうなのですか……」

 

「まぁ、同型艦の子が集まる機会なんて、そうそうないし、解らなくても仕方ないのです」

 

「……なのです……あ、研修の時間!?」

 

「「忘れてたのです!?」

 

 

 

とりあえず、2人からの疑問への答は、解らないまま、電たち3人は、研修室へ急いだのでした……

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「以上で、本日分の研修を終了します」

 

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 

ようやく、本日の研修が終了となりました。

ヒトヨンマルマルから、休憩を数回挟みつつ、約4時間の研修。長かったのです……

 

最初は、私たちの鎮守府・泊地においての司令官さんと初期艦の着任から今日までの活動についての聞き取りが行われたのです。電たちが、講師の方からの質問へ回答し、それを講師の方が記録書類と照らし合わせ、内容に齟齬が無いかチェックして行くという物でした。

 

その後が、本研修。『鎮守府の適正運営、資源管理について』『遠征、出撃における編成および適切な装備について』『各戦闘陣形の効果と特徴etc…………

 

研修では、舞鶴鎮守府の妙高さんが、講師を勤めて下さったのです。研修内容は、素晴らしいの一言に尽きるのですが、如何せんガチガチに詰め込まれた大量の研修内容に、電たちはついていくだけで必死でした

 

司令官さんたちも、同じレベルの研修だとすると、大変な目にあっておられそうです。

 

 

 

「最後となりますが、本日分の研修内容、あるいはその他の事でも構いませんが、質問等がありましたら発言をお願いします」

 

 

 

時刻はヒトハチマルゴー。一応の終わりを告げた後に、妙高さんが、そうおっしゃいました。

……研修内容とは、直接は関係ないのですが、気になる事はあります。私は、妙高さんに質問を投げ掛けてみました。

 

 

 

「淡海鎮守府の電です。質問よろしいでしょうか?」

 

「はい。どういった事でしょうか?」

 

「今日の研修の参加者は、淡海・小浜・鳥羽の3ヶ所から、司令官3名・艦娘3名の計6名のみでしたが、着任から3年経過研修を受けられる方は、他におられなかったのでしょうか?」

 

「……今回の研修は、3ヶ所計6名のみの参加です」

 

 

 

……少なすぎなのではないでしょうか?舞鶴鎮守府統括範囲は、近畿地方と中部地方の一部であり、提督適性のある方が比較的少ないという事を差し引いても、少ないと思えるのです。

同じ疑問を持ったのか、隣から声が上がりました。

 

 

 

「小浜のいなづまです。3年前の舞鶴鎮守府統括の鎮守府・泊地への着任となった司令官の人数をお聞きしたいのですが」

 

「……着任されたのは、10名です」

 

「他の7名の方は、別の日に研修を……?」

 

「…………いいえ。7名への研修はありません。」

 

 

 

 

いなづまさんの質問への妙高さんの回答は『10名』

多くは、ありませんが舞鶴鎮守府統括範囲で考えれば納得出来る範疇なのです。

では、『残りの7名は?』……当然の疑問を続けられる、いなづまさん。それに対し妙高さんは、少し言いよどんだあと、別日程の研修は無いと答えられました。

 

3年前に着任した司令官と艦娘は研修を受ける必要がある。司令官3名が研修に参加している。残る7名への研修は、行われない……どういう事でしょうか?

明らかに矛盾しているのです。

 

 

 

「鳥羽のイナヅマです。では、残りの7名の方は、何故研修を受けられないのでしょうか?」

 

「…………残りの7名は、既に退役されています。よって、研修は必要ありません」

 

「……え」

 

「質問の受付は、ここまでとします。明日の研修は、この部屋でマルナナサンマルより行います。遅れないように」

 

 

 

イナヅマさんの問いに答を返した妙高さんは、これ以上の問い掛けに応じる事は無いと言わんばかりに、必要事項だけを伝えると退室されました。

 

 

 

「……退役。軍を辞めておられる……」

 

「10名中7名……多くないですか?」

 

「電も、そう思うのです。けれど……」

 

 

 

その退役の理由を知るのは、難しいと解ったのか、皆に沈黙が、訪れます。少なくとも興味本位で知ろうとしては、いけない……そんな気がします。

 

 

 

「……司令官さんたちも、研修が終わる頃なのです。探しに行くのです」

 

「……ですね」

 

「ウン……行くのです」

 

 

私は、強引に話を終わらせました。他の2人もそれに乗ってくれました。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、イナヅマさんは、司令官さんにデンちゃんって呼ばれているのです?」

 

「なのです!何回言っても直してくれないのです!」

 

「でも、親愛の証しというか、気が置けない感じで、少しうらやましいのです。私なんて司令官さんとお会いして3年経つのに『いなづまさん』呼びなのです……距離を感じるのです……」

 

「でも、小浜の司令官さんは、家の司令官さんみたくガサツじゃなくて、いいと思うのです!イナヅマの司令官さんももう少し考えて欲しいのです」

 

「イナヅマさん……()()じゃなくて()()()()の司令官さんって……大胆なのです」

 

「え!?そ、そういう意味じゃないのです!!」

 

 

 

研修のあった部屋を出て、司令官さんたちを探しながら他の2人と、おしゃべりします。

同型艦の子達とで(いなづまどうしで)話す機会は、そうそうないので、楽しいのです。

……というか、自分の発言で顔を赤くする、いなづまさんも、指摘されて慌てて言い訳するイナヅマさんも可愛いのです。思わず、生暖かく見守りたくなるのです。

 

 

 

「……電ちゃん。『自分は問題ない』みたいな表情(かお)をしてるのですけれど、どう考えても淡海の司令官さんと電ちゃんの仲が一番怪しいのです!」

 

「確かに、そうなのです。同型艦(わたしたち)と電さんを、見分けられる司令官さんという時点で、おかしいのです」

 

「そんな事を言われても困るのです……」

 

 

 

思わぬところから、飛び火してきたのです。

どうしたものでしょうか…………にゃ!

……ふにゃ……お手洗いに行きたくなってきたのです!

意識したら、余計に……まずいのです!

 

 

 

 

「……電ちゃん、どうしたのです?」

 

「なんだか、急に焦った様なお顔なのです?」

 

「そ、その……お手洗いに」

 

 

 

恥ずかしいけれど、このまま我慢して艦娘(ひと)としての尊厳を失う訳にはいかないのです!

そうして私は、お手洗いに向かったのでした……

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

「この造り、旨いな……皮のコリコリがたまらない」

 

「焼き魚の方も、脂がのっていて最高なのです!」

 

 

 

 

時刻は、ヒトキュウイチマル。

……私がお手洗いを出たあと、司令官さんと合流した電たちは、皆がお腹を空かせていたのもあり、夕食をとる為に、舞鶴鎮守府の食堂へと向かう事となりました。

 

合流の時に、ついつい何時もの調子で司令官さんと接してしまい、軽い騒動になりましたが、まぁ取り立てて言う程の事では、無かったのです。

…………なでなでは、文化なのですよ?

 

まぁ、そんなこんなで夕食なのです。

 

私たちの他にも、食堂には、夕食をとっている舞鶴鎮守府の艦娘がちらほらと見受けられました。まぁ時間も時間だし、当然です。

 

今夜のメニューは、旬と思われるタチウオの塩焼きと、数切れですがタチウオのお造りまでついていたのです。それにご飯とお味噌汁です。

 

タチウオのお造りなんて、初めて食べたのですがコリコリした皮の食感が、面白くて美味しいのです。

 

そして焼き魚!脂がよく乗って、ジューシーな身の美味しさが最高なのです!

まさか、研修のご飯でこんな美味しい物が食べられるなんて……

舞鶴鎮守府の間宮さんも流石なのです!

 

 

司令官さんと二人で、『美味しいのです』と食事を楽しんでいると、海堂大佐が、司令官さんに声をかけてこられました。

 

 

 

 

「なぁ、水無月大佐。お前さんと、お前さんところの電。距離感が、おかしくないか?」

 

「……どういう事ですか?」

 

「あー……とりあえず、その丁寧口調をやめてくれるか?オフの時間くらいは、もう少し砕けてくれんと、むず痒くってしょうがねぇ。あと、大佐もいらん。海堂でいい。俺も水無月って呼ぶから」

 

「……了解。で、改めてどういう事だ?」

 

 

 

言われてすぐに口調を改める司令官さんは、流石の適応力なのです。……でも、距離感?

 

 

 

 

「いくら電が、初期艦で付き合いが長いっつっても、司令官と艦娘、言ってみりゃ上司と部下だろうが?お前さんたちの接し方は、どう見ても上司と部下のそれじゃねえんだよな」

 

「まぁ、確かに上司と部下って感じじゃないのは、認めるが。海堂の所も、結構砕けた感じじゃないか?デン呼びだし?」

 

「そりゃ、3年も一緒だと砕けもするぜ。それに、デンは、デンだしな」

 

「司令官さん!デンは、デンってなんなのです!」

 

 

 

鳥羽のイナヅマさんの素早いツッコミ。

お二人共に仲が良いのです。

 

 

 

「水無月大佐。距離感は、私も思いました。それにご自分の所の電さんを間違えずに見分けられている事も」

 

「あー、船木大佐も階級抜きの呼び捨てでいいですよ?あと、口調も」

 

「口調は、私の場合は、これが普通な物で。ただ、階級抜きは了解しました。あと、私も呼び捨てで構いませんよ」

 

 

 

 

船木大佐も、声をかけてこられました。お二人に指摘されるというのは、やはり電と司令官さんの距離感は、おかしいのでしょうか?

ふと、海堂大佐とイナヅマさんの方を見ると、まだ『デン呼び議論』中なのです。

 

 

 

 

「だー!イナヅマ、こっちの事は今は置いとけ。今は水無月と電の話だ。お前も気になるだろうが?」

 

「うっ!……それは、確かに気になるのです」

 

「だろうが?で、水無月。距離感の事は、どうなんだ?」

 

「んー……まぁ、考えられるとしたら、電が、嫁さんだからかな?」

 

「は?嫁艦って、ケッコンカッコカリをしてるからって事か?」

 

「ケッコンカッコカリは、確かに艦娘との絆を深めて、位階上限を拡張してくれますが……」

 

「いや、確かにカッコカリもしているが、嫁艦で嫁さんなんだが?」

 

「はい。電は、司令官さんのお嫁さんなのです」

 

 

 

司令官さんに合わせて、私も口を開きます。

電が、司令官さんのお嫁さんなのは、ただの事実でしかないのです。

 

 

 

 

「「「「……はい?」」」」

 

 

 

 

 

……?……皆さんは、どうして固まっているのです?

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待て!じゃあ、ナニか?お前ら二人は、上司と部下じゃなくて夫婦って事か?……つーか、艦娘だよな?」

 

「……カッコカリによって、形式的には、夫婦のようなものだということでしょうか……しかしそれだと距離感の説明が……」

 

「え、よ、嫁さんって聞こえたのです!い、電ちゃん!どういう事なのです!?」

 

「え……司令官さんのお嫁さん?え?え?」

 

 

 

 

……皆が大騒ぎなのです。イナヅマさんたちは、電に向けて『どういう事?』ってアイコンタクトを試みてきているし……どうしたものでしょう。

 

 

 

 

「えっと……司令官さん。だいぶ、大騒ぎになっているのです。どうするのです?」

 

「どうするって、言ってもなぁ……お、電。この香の物も旨いぞ。ほら、あーん」

 

 

 

司令官さんに問い掛けますが、当の司令官さんは、マイペースで食事を続けられて……え?

あーんですか?……あーん……ぱくっ……もぐもぐ

 

 

 

「……美味しいのです……って、そうじゃなくてなのです」

 

「って……口元にご飯粒。子どもじゃないんだから」

 

「あぅ……司令官さんが電から、それを取って自分の口へ運ぶとかは、恥ずかしいのです……」

 

「まぁ、いいだろ」

 

 

 

 

司令官さんは、『電の口元のご飯粒取り&パクっ』(皆の前では恥ずかしい事)をしつつ電の頭を撫でてこられます。

はうぅ……なでなでは嬉しくて気持ちいいのですけど、流石に皆の前での一連の流れは恥ずかしいよぅ……

 

 

 

 

「……なぁデン。色々と細かいツッコミ入れたいが、やればやるだけ自分が疲れる気がするのは気のせいか?」

 

「司令官さん。奇遇なのです。イナヅマもそう思うのです。あと、いい加減にデン呼びは止めてほしいのです」

 

「……あれだけ自然にいちゃつけるなら、同じ顔で同じ声でも見分けられて当然なのかもしれませんね……」

 

「あのお二人は、そもそも『いちゃついている』と思っていない気がするのです……」

 

 

 

 

 

 

うぅ……皆に色々言われているのです。

なのに、司令官さんは、電の頭を撫で続けたまま、何かに納得したような表情(かお)をされてます。

……絶対、それは勘違いなのです。

と、とにかく司令官さんに、なでなでを止めて貰わないと、電が茹で上がっちゃうのです!

 

 

 

 

「あ、あの司令官さん……そろそろ撫でるのは、止めて下さいなのです」

 

 

 

 

私の声に、ようやく司令官さんは、なでなでを止めて下さいました。金剛さんじゃ無いですけれど『時間と場所(じょうきょう)』をわきまえて欲しいのです。

 

……ふと、イナヅマさんたちの方を見ると、皆がぐったりしていました。今日の研修は、ハードだったので仕方ないのです。

 

 

 

 

「今日の研修は、中々にハードだったし、皆だいぶ疲れた顔をしているように見えるな。明日も研修だし、そろそろ解散にするか?」

 

「確かに皆さん、お疲れに見えるのです。お部屋に戻って、休まれた方がいいと電も思うのです」

 

 

 

司令官さんが、皆の疲れを感じとったのか、やんわりと解散を提案して下さいました。電もフォロー発言をしておくのです。それに皆さんが反応します。

 

 

 

 

 

「……いや、研修も大変ではありましたが、疲れた原因は、それでは無く……」

 

「船木……水無月は、無自覚にやってるだろうしな。言うだけ無駄だぞ」

 

「あの、電ちゃん。淡海鎮守府では、司令官さんといつもこんな感じなのですか?」

 

「淡海鎮守府でも、似たような感じなのです。電たちのお部屋で二人きりだと、司令官さんともっと……なんでもないのです

 

「え……電さんと司令官さんは、一緒のお部屋なのですか……一時的にとかでなく?」

 

 

 

話の流れで淡海鎮守府での事を少し話します。

続く、いなづまさんの質問への答も素直に答えました。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

「はい。電と司令官さんは、同じお部屋で暮らしているのです」

 

 

 

 

 

ガタガタッ!

 

 

 

 

……向こうで椅子が倒れた音がしたのですが……大丈夫なのです?あれ、舞鶴の雷ちゃんが、舞鶴の電ちゃんを起こしているみたい。怪我とかは、無さそうなのです……?

振り返ると、先ほど以上に疲れた顔の4人の姿がありました。海堂大佐が、司令官さんに向けて口を開きます。

 

 

 

 

「み、水無月。お前……その……ロr……幼い容姿の子が好みなのか?」

 

「特にそういう趣味は、無いが?」

 

「ですが、電さんとカッコカリを済ませて同じ部屋で暮らしていると……」

 

「そりゃ、電とは夫婦だし一緒に暮らすのは、当然だろ?それと、誤解が、あるようだが、別に幼い容姿の子が好きとかじゃないぞ?俺は電が大好きなだけだぞ」

 

「淡海の司令官さん、ストレートすぎなのです……」

 

 

 

 

あううううう……し、しし、司令官さん。

本当に状況を考えて……あうううううう

……『どうかしたのか?』とばかりに(わたし)を見る旦那様に私は……

 

 

 

旦那様、恥ずかしいのです……

 

 

 

顔を赤くして小さく返すのが、精一杯でした……

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

他の皆さんたちと別れて今夜の割り当て部屋へ司令官さんと二人で入りました。

 

時刻はフタヒトフタマル。

私は、『疲れているだろうし、先にシャワーを浴びて休むようにな』という司令官さんの言葉に甘えさせて頂いて、シャワーを浴びています。(ぬる)めのシャワーは、疲れも一緒に流してくれるようなのです。

 

私は体を洗いながら、色々な事に思いを馳せます。

……この3年で、軍を離れた7名の司令官さんたち。

一緒にいた初期艦の子たちは、どうなったのでしょう?

同型艦の子(いなづま)もいたのでしょうか……

 

もし、その7名の司令官さんの内の一人が、(わたし)の司令官さんだったら?

 

今日、いなづまさんとイナヅマさんに出合って、電が、電の司令官さんに出会えた偶然が、どれだけ好運な事だったのかが、良く解りました。

そして、司令官さんが、電の旦那様である事の掛け替えなさを……

 

 

 

……シャワーを出て、司令官さんの元へ戻ると、司令官さんは、レポートと格闘中でした。

 

 

 

 

「……司令官さん。まだ掛かりそうなのです?」

 

 

 

 

電の問い掛けに、司令官さんは、仕上がったと返されます。それなら……

 

 

 

「司令官さんも、シャワーを浴びてきて下さい。明日も研修ですし、早めに休む方がいいと思うのです」

 

 

 

 

『そうするか』と司令官さんが、動きかけます。

あ……そういえば。

私は、気になっていた事を司令官さんに尋ねました。

 

 

 

 

 

「他の場所の司令官さんたちは、イナヅマさんも、いなづまさんも、見分けられていない様だったのです。……司令官さんは、どうして、電の事を見分けられるのです?」

 

「どうしてって……逆に、なんで海堂と船木が、見分けられないのか不思議なんだが?自分の電を見分けられるなんて当たり前だろ?」

 

 

 

 

 

 

…………本当に旦那様(このひと)は。

それを当たり前なんて、言えるのは、旦那様(あなた)だけなのです……

本当に(わたし)は、どれだけ幸せなのだろう。

 

 

 

……当たり前なワケないのです

 

 

「え?……すまん。良く聞こえ無かったんだが」

 

 

 

聞き返す最愛の人(だんなさま)に、すっと近づいた私は何時もの台詞を口にする

 

 

 

「……旦那様が、(わたし)の事を好きすぎるって言っただけなのです」

 

 

 

言いながら、旦那様に抱きついた私は……

 

 

言葉では、無く重ねられた唇で返事を貰った…………

 

 

 

 

 

 

 




なんか凄く長くなりました(当社比)
久々の糖分補給となれば、幸いです。
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