鎮守府日常奇譚   作:ALF

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今回の話では、独自設定(でっちあげ)の嵐が巻き起こります。糖分もかなり控えめです。
轟沈ではありませんが、近い表現があります。
以上、ご注意下さい。
色々含めて広い心でお読み下さい。
なお、作者は『ハッピーエンドが大好き』です。


淡海鎮守府~あるいは司令官と電~

「あ……雨、あがりそうなのです」

 

「本当ですね」

 

 

執務室の窓から外を覗いていた、電が声をあげる。

それを聞いた、電の横にいた大淀も外を見る。

 

7月に入り、梅雨明けが宣言されたはずなのに、むしろ梅雨の期間よりも、ここ最近の方がよく雨が降っている気がする。

四国の方では、空梅雨(からつゆ)による水不足も懸念されるような状況だと聞いていたが、ここしばらくの雨模様で、多少は貯水率も回復するだろう。

 

淡海鎮守府(おうみちんじゅふ)のある、この辺りは淡海(あわうみ)のお陰で水不足の心配は、ほぼほぼ無いのだが。

雨もたまのそれなら風情があるのだが、梅雨時のジメジメは勘弁して欲しい。ましてや、梅雨明け宣言してからの連日の雨模様によるジメジメとか、論外である。

 

少しして、大淀がこちらを向いて声をかけてくる。

 

 

 

「提督。もうすぐヒトフタマルマルになりますし、なんでしたら電さんと昼食をとってきて下さい」

 

「それなら、大淀と電で行ってきてくれても構わないぞ。大淀も、お腹が減っているだろう?」

 

 

 

大淀にそう返すと、半ば呆れたように苦笑を浮かべた大淀が口を開く。

 

 

 

 

「私は、まだ大丈夫ですし、提督と電さんで行ってきて下さい……なによりそんな風に言っていると提督が、電さんに嫌われちゃいますよ?」

 

「お、大淀さん!電は、そんな事で司令官さんを嫌いになったりしないのです!」

 

 

 

大淀の冗談混じりの気遣いに、電が素で返している。

家の嫁さんは、やっぱり可愛いなぁ。

 

 

 

「……提督。ニヤけた顔をしてないで、さっさと行ってきて下さい。電さん。頼みますね?」

 

「大淀さん、ありがとうなのです!司令官さん。行くのです!」

 

「了解。大淀、すまないが後を頼む」

 

 

 

大淀の厚意に甘えて、俺たちは昼食をとりに執務室を出て食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

……電と食堂へ向かう途中、廊下で曙と出会った。

フィッシングベストを着て肩からクーラーボックスを下げ釣竿入れを持った姿だ。

 

 

 

「あら、クs……提督。電と一緒にどこ行くの?」

 

「あぁ、今から昼飯を食べに食堂にな」

 

「曙ちゃんは、釣りに行くのです?」

 

「ウン。雨も上がったし、鎮守府の裏磯でアジでも狙おうかなって。釣れなかったら、湖の方まで足を運んで、ブラックバスでも釣るわ」

 

「アジ釣りにバス釣りか……ここの鎮守府ならでは、だなぁ」

 

「確かに()()()()()()()()()()()()()()()なんて淡海鎮守府くらいよね。本当に、特地ってだけの事はあるわよ」

 

「……曙ちゃんは、淡海鎮守府(ここのちんじゅふ)が、嫌いなのです?」

 

「あー……電、勘違いしないでよね?私はむしろ淡海鎮守府(ここのちんじゅふ)は好きよ。七駆のみんなと一緒だし、土地柄も悪くないし」

 

 

 

曙が、電と話すのを聞きながら考える。

本当に、淡海鎮守府(ここ)は特殊な場所だ。

 

日本で唯一の()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……司令官さん。あれから、もう3年になるのですね」

 

「……そうだなぁ」

 

 

 

曙を見送った電が、戻ってきて俺に話しかけてくる。

あの梅雨空の海で起こった、ただ一度だけの出来事(きせき)

 

 

 

 

俺は、3年前の梅雨時を思い返した…………

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

俺が、淡海鎮守府に着任して1週間。

ここの数少ない面子である、俺・電・明石の3人でなんとか最低限の環境を整えた。入渠ドック・開発工廠・建造ドック・執務室(指令室)という本当に最低限だ。

 

そうして今日、ようやく大本営から、任務管理兼大本営との連絡を受け持つ『大淀』と食堂を受け持つ『間宮』が淡海鎮守府に着任してくれた。

 

これで、指示系統の心配が無くなり、飯も心配が無くなった。自炊は、出来るが手間がかかるしな。

 

とにかく、ようやく余裕が出た俺は、鎮守府内と鎮守府周辺を見て回ることにした。

今までは、そんな余裕が一切無かったのだ。

 

電と明石と連れ立って、鎮守府内を順番に回る。

 

 

 

「……へぇ、こんな所に小さい(ほこら)が、あるんだな」

 

「はい。海に出る艦娘が、無事に帰れるように『航海安全』の神様を祀っているんですよ」

 

 

 

祠を見つけた俺に、明石が説明してくれる。

確かに海に出る艦娘のいる鎮守府らしい物だな。

俺たちは、祠に軽く参り、再び歩を進める。

 

 

 

 

「海の香りがするのです」

 

 

 

 

電の言う通りに海……潮の香りがする。

潮の香りが強くなる方へ足を向けると海に出た…………なんだ、この違和感?

 

小さな磯という感じの岩場と繋がる砂浜。

そこから鎮守府の建物の方へ視線を送ると()()()()()()()()……壁?

視線を戻すと岩場の奥にも壁。その壁を目で追うと、ある場所で90度曲がって壁が続いている。その壁は別の場所でまた90度曲がって海岸まで延びていた。

 

『箱庭の海』

 

俺の頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。

 

 

 

「……どういう事だ?」

 

「司令官さん、どうかされたのですか?」

 

「……電は、海の中に延びている壁に違和感を覚えないか?」

 

「壁?…………はわわ!?ほ、本当に海に壁……」

 

 

 

今、気づいた電が慌てる中、無言で佇む明石。

俺よりも先に着任した電。そうして、それよりも早くにいた明石。

全く慌てていない明石は、この箱庭の海の事も知っている気がする。

 

 

 

「……明石。この箱庭の海は一体なんだ?」

 

「箱庭の海……上手いこと言いますね。提督」

 

「茶化すな……それとも話す気がないか?」

 

「そんなに凄まなくてもお話ししますよ。……話すよりも見てもらう方が解りやすいですね。提督、電ちゃんと一緒についてきて下さい」

 

「明石さん、どこへ行くのです?」

 

「鎮守府の外ですよ」

 

 

 

そう言って歩きだす明石。俺も電と共にその後を追った。鎮守府の入り口の門の側にある守衛室に見える姿。

 

 

 

「おや、外出ですか?」

 

「えぇ。提督に鎮守府周辺(このあたり)を案内しようかと思って」

 

 

 

顔見知りなのだろう、明石は守衛さんの問いに軽く答える。門を出てしばらくの間、明石について歩を進める。

箱庭の壁の外側にも水はある。かなり遠くまで水が見える。まぁ、海なら当たり前か……だが、潮の香りが薄い……いや、これは?

俺は水際に近づき水を掬う……間違いない。

 

 

 

「……淡水?」

 

 

 

箱庭の壁の真横。壁で隔てられていても、繋がっている海ならば、そこにあるのは当然ながら海水の筈だ。ところが俺が掬った手のひらの水は淡水。

もう一度視線を上に向けて、湛えられた水を見る。俺が海だと認識した大きさなのだから、池などという物ではなく、少なくとも湖だろう。

つまり壁を境に海と湖が隣り合っているという事になる。少なくとも通常の環境ではない。

壁の内側に海水を満たしているだけという可能性も0ではないが、波もあったし(人工的に起こしている可能性はあるが)、何よりそんな事をする意味が解らない。

思考の海に捕まりかけていた俺に明石が声をかけてくる。

 

 

 

「正解です、提督」

 

「ここの鎮守府……いや、そもそもここは、日本なのか?」

 

「日本ですよ……というか提督。湖と周りの景色に見覚えありませんか?」

 

「司令官さんは、ご存じなのです?」

 

 

 

明石の言葉に、もう一度周りを見る。海と見間違う湖、それと見覚えのある湖岸の風景…………マジか?

 

 

 

 

淡海の海(おうみのうみ)……琵琶湖……って、滋賀県かよ」

 

「えぇ。改めて、提督。日本で唯一の海に面していない鎮守府……『淡海鎮守府』へようこそ」

 

 

 

俺のいた世界と違う世界であると、解っているつもりだったが、なまじっか見知った風景と同じ中にある『淡海鎮守府(イレギュラー)』が、改めて俺に今の時間が夢でも(まぼろし)でも無く、現実であるという事を叩き付けてくるのだった…………

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

「はぁ……納得は出来んが、理解はした」

 

「い、電には、難しすぎるのです……」

 

「まぁ、荒唐無稽すぎる話ですしね。むしろ理解して下さった提督の柔軟な思考に感心しますよ?」

 

「確かに提督の思考は杓子定規に固まっておられないですね」

 

「艦娘の存在っていう前例が、あるから今更ではあるしな。そういう物と思うしかないだろ……」

 

「確かにそうですね」

 

「ふにゃー……」

 

 

鎮守府の執務室に戻り、俺・電に大淀と間宮を加えて、明石から一通りの話を聞いた。何て言うか、この世界線の無茶苦茶さを思い知った。それとご都合主義を。

 

 

 

……この世界線でも過去に大戦がありその当時の海軍施設跡を利用して対深海棲艦基地である鎮守府・泊地が整備された。

9年前の開戦後、鎮守府・泊地は、日本全国で最多時には108箇所が建設され稼働していたという。しかし、司令塔であり前線基地である鎮守府は、深海棲艦の1番の標的となり徐々にその稼働数を減らしていった。

 

開戦から数年が、経過して艦娘の正しい運用法が軍部に周知浸透したため、なんとか現在に続く膠着状態に落ち着いたが、現在における稼働鎮守府数は、開戦時点の1/3以下である30箇所となっているという状況だ。

それでも、膠着状態を維持し、仮初の平穏を享受する事が出来ているのは、横須賀・呉・佐世保・舞鶴といった開戦初期からの精鋭鎮守府の力が大きい。

 

そんな中で108箇所に含まれない、109番目の鎮守府が、存在していた。その鎮守府は、封印されたかの様な状態で存在し特殊な条件下でのみ鎮守府としての機能が解放される為、対深海棲艦拠点としては、使用出来なかったという。

厳密には、深海棲艦出現前に、突如現れた謎の施設。

言うならば、『0番目の鎮守府』。それが、淡海鎮守府だった。

 

開戦当時の元帥であった東雲元帥が、夢枕に立たれた超常の存在により、深海棲艦が出現するであろう事を神託として授かったと現在では、伝えられている。

神託の中で、元帥が、超常の存在から伝えられた土地に忽然と現れた謎の建築物の存在も元帥の神託話に多少なりとも信憑性を持たせたのかもしれない。

 

事の真偽はさておき、実際に、開戦時点での東雲元帥の指揮判断が、無ければ初戦で軍は壊滅していただろうと伝わっているくらいなので、全くの無関係なそれでは、ないのだろう。

 

元帥の、夢枕に立った存在。

琵琶湖の北にある竹生島(ちくぶしま)にある

都久夫須麻神社(つくぶすまじんじゃ)

そこに祀られている『市杵島比売命(イチキシマヒメノミコト)

太古の水の神、海神でもあり航海安全……ひいては海の平穏を護る神である。

 

そう考えると海の平穏を脅かす存在である深海棲艦に関しての神託が下された事も納得できなくもない。

 

日本最古の湖であり、原初に海と認識された淡海。その存在する地……淡海(おうみ)

この地に生を受け、この地で育った者が、海の平穏の為立ち上がろうとする……それが、淡海鎮守府の解放条件だったらしい。

 

それで、偶然に条件に当てはまった俺が現れ、再び元帥の夢枕に市杵島比売命が立ち、そこからの鶴の一声で現状に至る……らしい。

 

 

……いや、ご都合主義にも程があるよな。

確かに滋賀県生まれの滋賀県育ちだけど、この世界と違う世界のなんだが……いいのか?

そもそも、海の平穏の為に立ち上がったって……誰かと勘違いしていませんかね?

 

……うん。深く考えても仕方ないな。

ちなみに箱庭の海も俺の存在の認識により鎮守府と共に解放されたらしい。

(ご丁寧にも、俺以外の者が無理に侵入する意思をみせただけで、再度の封印状態になったとか)

 

 

 

 

「まぁ、深く考えても仕方ないな」

 

「そういう事ですよ」

 

「そういう事なのです……?」

 

「難しい所ですね」

 

 

 

実際の所、考えてもどうにもならんしな。

間宮も、直接的な影響がないからか、会話に入らず微笑んでるし。

 

 

 

「あ、明石。一つだけ教えてくれ」

 

「なんですか、提督?」

 

「深海棲艦の相手をするにしろ、遠征で資源を回収するにしろ、海に出なきゃならんだろう?」

 

「そりゃ、そうですよね」

 

「だが、知っての通りにここの鎮守府は、海に面していない。どうすりゃいいんだ?」

 

「ふふん……ご心配なく!実は鎮守府の地下に大平洋……三重のあたりに出られる地下水道があるんです!そこから出撃する事が、出来ますよ!」

 

「……地下にあるのは、まあいい。三重まで繋がっているのも、取り敢えずおいとく。だが、ここから大平洋まで少なく見ても6~70kmはあるだろ?艦娘が、ある程度の速度を出せるにしても、遠すぎないか?」

 

「ふふふん♪甘いですよ提督?そこは、妖精さんの協力によるリニアボートが設置してあって、片道わずか5分で到着出来るんですよ!」

 

「…………妖精さん……そうかぁ」

 

 

うん。超常の存在の仕事だと、そういう事もあるのか。

深く考えない……。

 

明石のドヤ顔を見ながら、俺は、理論的に理解しようとするのを諦めた…………

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

俺が淡海鎮守府に着任してから2ヶ月が、経った。

荒唐無稽だろうが、納得出来なかろうが、俺が、ここの鎮守府の司令官である事は、変わらない。

なんとかして、鎮守府の運営をして行くしかないのだ。

 

大淀から、現在の戦況等の大本営からの情報を確認したところでは、現状において、深海棲艦の襲撃は散発的なものがほとんどで、組織だった襲撃は行われていないという事だった。そのおかげ(?)で、なんとか鎮守府のやりくりを出来ている訳だ。

 

家の鎮守府は、ぶっちゃけたところ、何をするにも艦娘が足りないの(ひとでぶそく)である。

 

明石は、工廠と酒保の業務。大淀は、大本営との連絡と鎮守府運営の補佐。間宮は、食堂の業務。

この3人は、それぞれが、大事な役割を勤めてくれているが、戦力としては数えられない。

(大淀は、大本営の認可が下りないと艤装展開が出来ないらしいし、明石は工作艦であり戦闘向きではない。間宮の戦場は、食堂である)

 

現状の淡海鎮守府所属の艦娘は、9名。

 

【駆逐艦】 電・雷・響・暁

 

【軽巡洋艦】名取・五十鈴・大淀

 

【工作艦】 明石

 

【給糧艦】 間宮

 

となっている。この内、明石・大淀・間宮の3人は、前述の通りに戦力としては数えられない。

実質6名で回しているのだ。

ならば、建造を……となるのだが、この世界では、大本営の認可が下りないと建造が出来ないのだ。

具体的には、着任から3ヶ月が、経過しないと建造認可が下りない。

(過去に新任者が、艦娘を粗雑に扱い、気に入らないと解体し新規建造という流れを繰り返した事例があったらしい)

 

ゲームでは、駆逐艦くらいなら十分に揃えられたのだが、現実は非情である。

 

取り敢えずの現状では、軽巡1人と駆逐艦を2~3人で、鎮守府近海……近海?

ゲームで言う所の1-1を回っている感じだ。

 

幸いな事に、この世界ではゲームと違い特定ポイントでなくとも燃料などの資源を入手出来る事があり、倒した駆逐イ級などからも弾薬や鋼材を手に入れられたりするという。

それに大本営からの支援(微々たる物だが)を合わせる事によってなんとか鎮守府運営が、なりたっている訳だ。

 

 

 

 

トントン

 

 

 

執務室の扉がノックされる。入ってくれと告げると、任務から帰還した艦娘たちが入って来る。

 

 

「旗艦・五十鈴以下3名。帰還したわ。響が中破。その他の損傷は無しよ」

 

「皆、お疲れ様。響は入渠してくれ……しかし、中破させられたって事は、雷撃でも喰らったか?」

 

 

 

響たちも、なんだかんだで、着任から1ヶ月以上が経ちそれなりに戦闘経験を積んできている。それに伴い練度も多少は、上昇しているし、そうそう中破する事も無くなってきていたのだが……

 

 

 

「うん。司令官、駆逐イ級を数体倒して帰投しようとした所をやられたんだ。梅雨空で雨による視界不良が、あったとは、いえ油断した。私の注意不足だよ」

 

「司令官!あれは、仕方ないのよ!イ級を倒して、周囲確認も行ってから帰投しようとしたら、砲撃を喰らったんだもの!あれは、レディでも喰らってしまうわ!」

 

「……砲撃?……五十鈴、戦闘中にイ級以外の艦影は見られたか?」

 

「いいえ。電探にも感は無かったわ。もちろん雨による影響があったし、絶対とはいえないけれど……」

 

「解った。なんにせよ、今日は皆休んでくれ。響は早めに入渠するんだぞ?」

 

「了解だよ。司令官」

 

 

 

 

 

五十鈴たちが退室した執務室で、考えを巡らせる。

雨天で風も出て時化(しけ)ていれば雷撃は、相当に判別しづらくなる。だが、喰らったのは、砲撃。

砲撃戦距離で電探に全くの感無しは考えづらい。だが駆逐イ級はもちろん、軽巡ホ級でも目視出来ない距離から攻撃出来るような射程は、もっていないはず……

 

 

 

「……提督。響さんの中破の事をお考えですか?」

 

 

 

思考の海に沈み始めた時、不意に大淀から声をかけられた。いかんいかん。大淀にも気を……大淀の意見を聞いてみようか。ゲームでも大淀は、頭脳派の代表というイメージだったし。

 

 

 

「あぁ。砲撃を受けたという事だが、どうにも解らなくてな……大淀は、何か想像出来るか?」

 

「うーん……確かに砲撃を受けるような距離なら、五十鈴さんの電探が、感知しそうですし。範囲外からの砲撃は、考えづらいですし……」

 

「電探の感知範囲外からなぁ…………範囲外から?」

 

「……提督?」

 

「……大淀。五十鈴の電探の基礎探知範囲は、軽巡ホ級の最大射程より広いよな?」

 

「少し、お待ち下さい………………お待たせしました。そうですね。五十鈴さんの電探の基礎探知範囲の方が広いです」

 

「うん。じゃあ、この海域で観測されている深海棲艦で軽巡ホ級以上の射程をほこる艦は、存在しているか?」

 

「いえ。鎮守府近海海域においては、駆逐イ級・駆逐ロ級・軽巡ホ級の3艦種のみが、観測されています」

 

「ふむ……最後にもう一つだけ。こちらの探知範囲外からの砲撃を繰り出してこれる可能性が、ある艦種はどんな物がある?」

 

「この海域では、観測されていませんが……重巡あるいは戦艦なら可能です」

 

 

 

大淀は、俺に伝えてくれた後で、『現状戦力でそんなのが出没したらお手上げですけれどね』と言っていた。

俺も、違いないと返した事で、大淀も参考程度に俺が話を聞いたと思ってくれたようだった。

 

 

俺の取り越し苦労なら問題ないが、予想が当たっていたら…………明日以降を考えると打てる手は、打っておくべきだな。俺は、大淀に席を外す旨を伝えて、明石の元へ向かった…………

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

……ここは、どこだ?

意識が覚醒して、すぐに自分がいる場所が、普通でない事に気付く。そして何故か、ここは夢の世界だと理解出来た。夢と解って夢を見る。明晰夢という奴か。

 

今の自分の状況……足下に地面が、感じられず回りは真っ暗。普通ならパニックを起こしそうなものだが、不思議と不安は、感じなかったのも夢だと理解しているからなのだろう。

 

とは言え、現状のままでは、どうしようもないなと考えた時、唐突に目の前に光が現れ、声が発せられた。

 

 

 

 

『淡海の子よ。始まりの地へ、よくぞ参られました』

 

 

 

 

光の強さが弱まり、そこに見る事が出来たのは、古めかしい装束を纏った美しい女性だった。ひょっとして、この女性は……

 

 

「……市杵島比売命(イチキシマヒメノミコト)……ですか?」

 

『えぇ……(さかい)の向こうの淡海より来られた子よ。』

 

「!……違う世界から来たって知って!?」

 

「……ごめんなさい。今の私に与えられた時は僅か。多くの尋ねたい事があるでしょう……しかし、今は、一つだけを伝えさせて下さい」

 

「……はい」

 

 

 

 

正直、聞きたい事だらけだ。だが、市杵島比売命の慈愛と共に悲しみを湛えた目を見てしまった俺は口を閉じるしか無かった。

 

 

 

 

『……今、淡海(あわみ)潮海(しおみ)も怨嗟の渦に飲まれようとしています。淡海の子よ、出来るだけで構いません。海を怨嗟から救って下さい。今の私の行使出来る力は、僅かな残滓のみ……ですが、あなたの魂からの、想いを、願いを感じた時。残滓をもってそれを叶えましょう……』

 

 

 

 

ただ一つだけの放たれた言葉。その言葉を最後に、光は消え去り、俺の意識も闇へと沈んで行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、提督さん。が、頑張ります!」

 

「司令官。じゃあ行ってくるわね」

 

「司令官さん。行ってくるのです」

 

「あぁ、3人とも気をつけてな……っとそうだ」

 

 

 

梅雨の合間のぽっかりと晴れた皐月晴れの今日。

名取・雷・電の3人が、出撃する。

 

 

俺は、今朝、目覚めた時に昨夜の夢を思い出していた。

このタイミングで夢に現れた市杵島比売命。

『魂の想い、願いを感じた時に救いの力を』という言葉。

正直、フラグでしか無いよな……

 

俺は、昨日に響が中破させられた事を受けて、明石に頼んでいた物を朝一番で受け取ってきた。

それを出撃する3人に手渡す。

 

 

 

「司令官さん、これは?」

 

「まぁ、念のための御守りみたいな物だ。邪魔にはならないと思うが、きちんと身に付けておいてくれ」

 

「司令官も、心配性ね。でもせっかくだから付けていくわね♪」

 

「りょ、了解です!」

 

「ありがとう、なのです」

 

 

 

皆が、()()()を身に付けたのを確認して、俺は、もう一度口を開く。

 

 

 

「皆も知っているとは思うが、昨日の鎮守府近海への出撃で、響が中破させられた。幸い今日は晴れていて、視界は悪くないが、梅雨時だし、海の上では急な天候の変化もありえる。イレギュラーな事態が起こる可能性にも留意して十分に気をつけてな。もし予期しないような事が起こったら、損傷が無くても即時撤退で構わない……本当は、もう1人多く出撃させたいんだが……」

 

 

 

艦隊編成が、3人と4人では任務中の安定度が大きく変わる。撤退時も撤退成功率が高くなる。

 

 

「司令官さん。流石に心配しすぎなのです……それに暁ちゃんも響ちゃんも昨日の出撃の疲労が抜けきっていないのです」

 

「そういう事よ司令官。疲労が残った状態での出撃は、かえって艦隊の足並みを乱す元となりかねないもの」

 

「と、特に響ちゃんは、中破後ですし!」

 

「まぁ、雷様にどーんとおまかせよ♪」

 

「私も気合いを入れますね!」

 

「……すまんな。皆、頼んだ」

 

「了解なのです……それに……」

 

「……それに?」

 

「電たちが危ない時は、司令官さんが助けに来てくれるのです……ふふ」

 

 

 

冗談めかして電が、言う。

 

 

 

「そうね!司令官が来てくれるわね♪」

 

「おいおい……俺をなんだと思ってるんだ」

 

 

 

雷も電の冗談に乗っかって言ってくる。

名取も微笑みを浮かべている。

さて、後は任せるしかないな。

 

 

 

「全員出撃……気をつけてな」

 

「「「了解(なのです)!!!」」」

 

 

 

時刻は、ヒトマルイチゴー。俺は出撃する皆を見送りながら、電の言葉を思い返していた……

『司令官さんが、助けに来てくれるのです』か。

俺にそんな力があればな……いかんいかん。

無い物ねだりをしても仕方がない。俺が、今出来る事をやるだけだ。

 

 

 

 

トントン

 

 

 

 

出撃する3人が執務室を出て少しすると、執務室の扉が叩かれた。入室を促すと、五十鈴・暁・響の3人が入って来る。

 

 

 

「提督。今日の出撃は、本当に3人で良かったの?」

 

「司令官。正直、昨日の様な事態が起こり得る可能性があるのなら、出撃人員を増やすべきだと思う」

 

「暁も、危険だと思うわ!」

 

 

 

3人ともに、出撃人数に問題は無いのかと言ってくる。

反応としては当然のものだろう。

 

 

 

「皆の言う事は、理解出来る。俺も当初は4人での出撃を考えていたしな」

 

「だったら、なんで3人で?暁は、十分に出撃可能よ!」

 

「うん。暁と五十鈴は昨日の出撃での()()()()()()()()()な」

 

「……累積疲労ね」

 

「正解だ。目に見えない疲労で、パフォーマンスの落ちた者を出撃させても、かえって艦隊の足を引っ張る事になりかねない。でも一番の理由は、不確定要素が多すぎる事なんだ」

 

「なるほど……昨日起こった事が、今日同じように起こるとしても、相手の規模が、読みきれていない以上、艦娘1人の増員が無意味になる可能性が、高い……司令官は、そう結論を出したんだね?」

 

「……今でも正しい判断なのか、解らないんだけどな」

 

 

 

それでも、選択するしかないんだよな。

それが、司令官の責任だ。……本当に重いなぁ。

 

 

 

「……司令官!暁たちは、何時でも出られる状態で待機しておくわ!……あって欲しくないけど、何かあったらすぐに呼んでね!」

 

「暁に、言われちゃったけれど、そういう事よ?」

 

「その時には、迷わず出撃を命じて貰うよ」

 

「……皆、頼む」

 

「さぁ、皆さん。食堂で甘い物でも召し上がって、鋭気を養って下さい。間宮さんに連絡を入れておきますから」

 

「あら、気がきくわね……じゃあ提督。よろしくね」

 

 

 

大淀が、休憩を促してくれて、連絡用の端末を持った3人は食堂に向かった。

 

願わくば、全部が取り越し苦労であってくれよ……

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

「 ……降りだしたか」

 

 

 

朝からは、皐月晴れの空だったが、変化しやすい梅雨時の空は、またもや雨を降らせ始めた。

時刻は、ヒトヨンイチゴー。予定では、そろそろ帰投前の連絡が入る時間だが、ここまでに定時連絡以外が入っていないということは、大きなトラブルには、巻き込まれていないという事だろう。『便りが無いのは良い便り』って奴だよな。自身の不安を誤魔化すようにそんな事を考える。

 

 

 

 

「提督、お昼も、召し上がっておられませんし、少し休まれて下さい。……電さんたちの事を心配されるのは、解りますが、そんなに気を張り続けておられては、持ちませんよ?」

 

「……あぁ。大淀にも心配させてすまない。だが、まだ皆を見送ってから4時間も経っていないし、俺は大丈夫だよ。大淀こそ、一息入れてくれ」

 

 

 

俺を気づかって、声を掛けてくれた大淀にそう返す。

そんな俺を心配そうな表情(かお)で見る大淀。

 

 

 

「私は、艦娘ですから平気です。けれど提督は……」

 

 

 

 

ザザ…ザー……

 

 

 

 

「……通信ですね。帰投前連絡でしょうか。はい。こちら大淀です」

 

『ザザ……こちら名取!現在、重巡リ級と遭遇!撤退行動中ですが……きゃっ!』

 

「名取さん!大丈夫ですか!?」

 

『電ちゃん!?』

 

電は大丈夫なのです!それよりも救援を!

 

砲撃、また来るわ!きゃーっ!

 

 

 

通信越しでも聞こえる炸裂音。名取の悲鳴じみた叫び声。かすかに聞こえる電たちの声。

俺は、自身の端末を手にとり、通信に割り込み叫ぶ。

 

 

 

「すぐに救援を送る!回避に撤して耐えてくれ!」

 

『て、提督さん!?りょ、了解です!』

 

 

 

名取からの返答が返る。艤装の通信機能が、作動したままなのか、砲撃音が通信越しに時おり聞こえる。

……冷静になれ。興奮してちゃ、的確な指示を出せない。

 

 

 

「大淀。直ちに救援艦隊を派遣。旗艦・五十鈴ならびに暁、響の3名を出撃させてくれ。兵装はBで。名取からの通信ログからの最終位置情報を五十鈴へ送ってくれ。暁、響には携行用高速修復剤を持たせるように指示。

急いでくれ!」

 

「了解!…………五十鈴さん、大淀です……」

 

 

 

大淀に、伝達事項を伝えた俺は、続けて明石に連絡をとる。

 

 

 

 

『……はいはい明石です。提督、どうされましたか?』

 

『第一艦隊からの救援要請が、入った。第二艦隊を向かわせる。明石は、リニアボートの準備を!」

 

『……っ!了解です!』

 

 

 

明石への通信を終える。

 

 

 

「提督!五十鈴以下3名への出撃指令を終えました!」

 

「ご苦労……あとは、祈るしかないか」

 

「そうですね……」

 

 

出撃準備を終えた五十鈴たちが、リニアボートで海域に着くまで5分。そこから合流まで……上手くいって10分……信じるしかない。

 

 

 

 

少しして、俺の端末に通信が、入る。

……明石から?

 

「明石、どうs……」

 

『提督!リニアボートが!ボートが動きません!』

 

「え……?」

 

『機械的な、故障部分はないんですよ!?なんで、動かないの!?』

 

 

リニアボートが、故障……?

……焦るな、冷静になれ!

 

明石は、『機械的な故障は無い』と言っている。

リニアボートの原理……明石は、確か『……妖精さんの協力で』……!

 

「明石。リニアボートに関わってる妖精さんに尋ねてみてくれ!」

 

『妖精さん……!了解です!』

 

 

 

これでなんとかなってくれ……

 

 

 

『駄目です、提督……妖精さんがリニアボートに力を込めようとしても妙な力で邪魔をされるって言っています……』

 

明石さん、動かないの!?皆が!!

 

……艤装を展開して水路を直接向かう

 

『響さん無茶言わないで!……っと、提督。

妖精さんが言うには『くろいちから』がどうとか。……どちらにせよ、これじゃ救援に向かう手段が!』

 

 

 

 

……唐突に、通信が繋がったままだった名取の艤装の通信機から炸裂音が聞こえる。次いで叫び声が。

 

 

 

『いなづまー!?』

 

『電ちゃん!』

 

 

「名取さん!?状況を教えて下さい!名取さん!!」

 

 

『電!電!』

 

『っ!雷ちゃん!また砲撃が……きゃー!」

 

 

 

大淀が叫び声を上げる。返ってくるのは、通信越しでもハッキリと聞こえる雷の叫び声。名取の悲鳴。

 

 

 

「名取さん!?提督!このままでは、皆が!!」

 

『提督…このままじゃ』

 

 

悲鳴じみた大淀の声。明石の諦観の混じった声。

 

 

 

目の前にあるのは、このままでは、電たちが失われてしまうという冷たい現実。

俺は、叫び出したい衝動を抑え必死に頭を回転させる。

何かないか?電たちを救う為の手段は!?

神頼みでもなんでもいい!何か…………神頼み?

 

 

唐突に甦る記憶。

 

 

 

 

 

(『あなたの魂からの、想いを、願いを感じた時。残滓をもってそれを叶えましょう……』)

 

 

 

 

 

夢の中の市杵島比売命の言葉を思い出す。

他に手が、思い付かないなら……

僅かでも可能性が、あるなら……それにすがって足掻いてやる。

俺が、連れてこられた、この世界での初めての絆。

それを……失くしてたまるか!!

 

 

 

電を助ける!

 

 

 

(やっと、魂の叫びが、聞こえたよ)

 

 

 

 

「え?」

 

 

頭の中に声が、聞こえたと同時に、俺は自分の体が、どこかへ跳ばされるのを感じた……

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

突如として、体の感覚が戻る。それと同時に体をうつ強い雨。

 

 

 

「ここは…………」

 

 

 

見覚えのある景色からして、鎮守府の敷地内か?

 

雨に濡れながら、前を見ると、そこには見慣れた祠。

 

そして、宙に浮かぶ、二つの光を放った姿。

古めかしい装束を纏った……妖精さん?

 

 

(来たね。淡海の子)

 

(呼ぶのが遅いです。淡海の子)

 

(アタシはイチキ)

 

(ワタシはウガ)

 

((都久夫須麻に祀られたモノの分御霊(わけみたま)))

 

「お前たちは……って、そんなことより俺は!」

 

(時間が無いのは解ってる。だから端的に言う)

 

(イチキの水を統べる力とワタシの怨嗟を祓い穿つ力を貸します。水上を駆け抜け、相手を倒せる力)

 

(それと、一度だけ、魂分(たまわけ)……彼岸から此岸へ連れ戻す力を使えるようにする)

 

「……代償は?」

 

(無いわよ。反動はくるけれど、死にはしないわ。一部とはいえ神の力を借りるのだし、安いモノでしょう?)

 

 

 

俺は、頷きで了解の意思を返す。『じゃあ行くよ』というイチキに少し、待ってもらい端末を大淀へ繋げる。

 

 

 

『提督!?今どこに!』

 

『説明は、後だ」

 

 

 

俺は、大淀に、リニアボートが動くようになったら第二艦隊を出撃させるように指示を出す。

 

 

 

『……ご指示は承りました。提督は、どうされるのでしょうか?』

 

「ちょっと、電たちを助けてくる」

 

『え?』

 

 

 

通信を終え、イチキとウガに頷く。

 

 

 

 

((跳ぶよ))

 

 

 

 

俺は再びの、跳ばされる感覚を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が戻る。周りは海……本当に海の上に立っているな…………っ!これは、消えそうな命の!?

 

 

(あそこに何かいる)

 

 

 

イチキが示す方には、傷ついた雷と名取。

そして、()()()()()()……

 

そこへ、近づく赤黒い光を纏ったヒトガタ。

 

 

 

(黒い……怨嗟に飲まれた魂)

 

 

 

ウガの呟きは、脇へと消え

 

俺の中の何かが、キレた

 

 

 

 

 

 

 

足に力を込め水を蹴る。足下の海が()ぜ、俺の体は、瞬間でヒトガタの前へと距離を詰める。

意識を集中すると拳が、(みどり)の輝きを帯びる。俺は、その輝きをヒトガタへぶち込んだ。

 

物理法則を無視したかのように赤黒い光の塊が、吹き飛んで行く。

 

 

 

(鎧袖一触です)

 

 

 

ウガの呟きを流し、俺はヒトガタにとd……違う!

そうじゃねぇだろうが!!

 

俺は電たちの方へ足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督……さん」

 

 

名取が、俺の姿に気付き、力の無い声を上げる。

……そこに広がっていたのは、酷い有り様だった。

名取の制服はボロボロで、艤装の単装砲も歪んでいる。

雷も制服が破け、艤装の盾ももげてしまっている。

二人とも中破状態。

そして…………

 

 

 

「……いなづま、返事をしてよ。いなづま……」

 

 

 

ずぶ濡れで、電の手をとり呼びかけ続ける雷。

 

電は、海の上に、眠っているかのように仰向け(あおむけ)に倒れていた。

ボロボロの制服は、流れた血で赤黒く染まり、艤装は、原型を留めていない。

それは大破の一言で済ませられる状態では、無かった。

 

 

 

 

「え……なんで!?手が掴めない?いなづま!ダメよ!いなづま!?」

 

「電ちゃん!」

 

 

 

 

悲鳴のような声を上げる雷。

その前に横たわる電の体から(みどり)の光の粒子が、宙へと舞い上がり始め、それと同時に電の体が透き通り海へと沈み出した。

 

 

 

 

「いなづま!?沈まないで!?いなづまー!!」

 

 

 

 

半狂乱になり、叫ぶ雷。その肩に手をかけ、電の前から動かす。

 

 

 

「誰よ!?電が!……え?…………しれい……かん?」

 

 

 

 

雷の横を抜け電の前にしゃがむ。イチキの声がする。

 

 

 

(今ならまだ、魂分(たまわけ)が、間に合うわ。でも、魂分は、文字通りに貴方の魂の欠片を分け与えて、相手を彼岸から此岸へ連れ戻す(すべ)。貴方の魂は、この先ずっと、どこかが欠けたままとなる……本当にそれで、いいのね?)

 

「それで、電が救えるなら安いもんだ」

 

 

俺は、意識を集中する。電の言葉が、甦る。

(『司令官さんが、助けにきてくれるのです』)

沈もうとする電に手をかけ……叫ぶ。

 

 

 

戻って来い!電っ(いなづまっ)!!

 

 

 

俺は全力で、海の中から電を引き上げ抱きしめる。

自分の中から、何かが電へと移る感覚。

それと同時に、電の体に色が戻り、碧の光の粒子も消え去った。

 

 

 

 

「……しれい……かん……さん」

 

 

 

 

目覚めた電の頭を撫で、雷へと電を託す。

本当は、電といたい所だが……

 

向き直ると、目に入るのは、傷つき怨嗟の赤黒い光をより一層強くしたヒトガタ……重巡リ級eliteの姿。

 

 

 

(ワタシの力で怨嗟に捕らわれた魂を解放してあげて)

 

 

 

ウガの言葉に頷きで返して、リ級へと向かう。

 

 

 

 

ドウシテ オマエタチワ イキテイル

ドウシテ オマエタチワ シズンデイナイ

シズンデ シズンデ シズンデ

シズメ シズメ シズメ シズメシズメシズメ……

 

 

 

イチキとウガの力を通じてリ級の怨嗟の声が、頭に響く。

 

 

 

深海棲艦(おまえたち)にも思っている事があるんだろうけど……俺にも譲れないモノがあるんでな!!」

 

 

 

リ級の放つ砲撃を碧の光の刃で払い、そのままリ級を祓い穿つ。怨嗟に捕らわれた魂は、静かにその姿を海へと沈めて行った……

 

 

 

 

 

「みんな!無事なの!?」

 

 

 

 

声がした方を見ると暁たちの姿が見えた。

気がつくと、降っていた雨も止んでいる。

 

……なんとか一段落か。

 

 

(お疲れ様……と言ってあげたいけど、貴方は今から頑張ってね)

 

(揺り戻し……力の反動が、来るわ。死ぬほど痛いわよ)

 

 

 

え?そう言えば、そんなk……!!!!

 

瞬間、声も出せ無いような痛みが……gあ!!!?

口にnあに…血が、吐きd…さr………

 

 

 

司令官さん!!

 

 

 

 

フッと光が消え、意識が消える瞬間。

遠くに俺を呼ぶ電の声が、聞こえた気がした…………

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は、本当に『司令官さんが、死んじゃう』って思っちゃったのです」

 

「……すまん」

 

 

あの後、俺が気付いたのは鎮守府の医務室だった。

聞いた話では、俺は吐血した後、倒れ、さらに水中へ

沈んでいく所だったというのだ。

もう少しで、深海提督になる所だったぜ……

 

 

「電を助けにきて、司令官さんが居なくなるなんて、絶対にイヤなのです」

 

「まぁ、アレは『只一度の奇蹟(しょかいげんてい)』だから大丈夫だ。そもそも、俺は普通の人間だからな。無茶なんて、出来んさ」

 

「……司令官さんなら、やりかねないのです」

 

 

 

電にジト目で、見られる……解せん。

 

 

 

 

「でもまぁ、あの時の俺は、結構格好良かっただろ?」

 

 

 

 

場の空気を変えようと、おちゃらける俺。

それを聞いた電は、微笑みながら俺に近寄り『少し、しゃがんで下さい』と言ってきた。

言われたように、しゃがんだ俺の頬に触れる、温かく柔らかな感触。

 

少し顔を赤らめて、素早く離れた電から出たのは

 

 

 

 

「……電の旦那様は、何時だって格好良いのです」

 

 

 

 

これ以上ない誉め言葉だった……

 




だいぶ、長くなりました。
それなのに糖分が足りてない…………
今話は、ノリがアレですが、どこかで、淡海鎮守府の自前設定含めた色々に触れておかないといけなかったので書いてみました。戦闘っぽいのとか、設定回りが雑でザルなのは、仕様ですのでお許し下さい。
以下チラシの裏。



都久夫須麻神社(つくぶすまじんじゃ)

琵琶湖の北、竹生島にある神社。御神体は、島そのもの。
本作では、市杵島比売命(イチキシマヒメノミコト)と宇賀弁財天が、祀られている設定。


市杵島比売命(イチキシマヒメノミコト)

古い水の神で航海安全・豊漁の女神。市杵島姫命と記される場合もある。海神の面もある。本作では、市杵島比売命と宇賀弁財天が混ざったような存在。今話の時間軸後、本体は長い眠りについた。
水無月をこの世界に呼んだの……かもしれない。


【宇賀弁財天】

俗に言う弁天様とは、少し違い8本の腕を持つ女神。
それぞれの腕に宝珠、剣、戟などを持つといわれる。
本作では、市杵島比売命と混ざったような存在。


【イチキ】

市杵島比売命の分御霊(わけみたま)
一人称はアタシ。外見は古めかしい装束を纏った妖精さん。髪が長い。水を統べる力を持つ。普通の妖精さんと違い、水無月にしか姿が見えず声も聞こえない。


【ウガ】


宇賀弁財天の分御霊(わけみたま)
一人称はワタシ。外見は、古めかしい装束を纏った妖精さん。髪が短い。怨嗟を祓い穿つ力を持つ。普通の妖精さんと違い、水無月にしか姿が見えず声も聞こえない。
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