……ある日の事。私、電は、司令官さんと暁ちゃんと遅めのお昼ご飯を食べに食堂へやってきました。
最初に、配膳口に間宮さんの姿が、見られなかったのですが、少しすると調理場の奥から間宮さんが、姿を現しました。多分、ご作業中だったのです。
間宮さんによると、今日のお昼ご飯のメニューは、オムライスとの事。オムライスは、私も暁ちゃんも大好きなのです。
でも、続けられた間宮さんの言葉。
『コンロが使えないので調理が、出来ない』
それを聞いた暁ちゃんの瞳から光が消えていました。
……どんだけ、オムライスが楽しみだったのですか。
暁ちゃんの様子を見て謝罪の言葉を発する間宮さん。
暁ちゃんも、間宮さんに慌てて、大丈夫と返しているのです。少し気まずい空気が流れました。
そんな中、司令官さんが、言葉を発します。
なんと、司令官さんが、私たちのお部屋の調理場でオムライスを作って下さるというのです。
「司令官、オムライスを作れるの!?」
「間宮の様には、いかないが、一応出来るぞ?」
暁ちゃんが、喰い気味に司令官さんに詰め寄ります。
絶望していた所に光が、差し込んだのだから、解らなくは、無いのです。
気がつくと、暁ちゃんの瞳に光が戻っていました。
本当に、どんだけオムライスに執着してるのですか……
食材を間宮さんから頂いた、電たちは、お部屋へ足を運びます。間宮さんが、調理も申し出て下さったのですが、後々の事……夕飯の準備等を見越して、司令官さんが、やんわりと断りをいれていました。
間宮さんは、やる事が多いのですし、電たちのご飯の事だけで、拘束する訳にはいかないのです。
私たちのお部屋に着きました。
あ、私たちというのは、電と司令官さんの事なのです。
以前は、暁ちゃん、響ちゃん、
第六駆逐隊の4人が同じお部屋に居たのです。
ですが、その……電が、司令官さんの……その……
お、お嫁さんになってからは、司令官さんと電の二人が、同じお部屋で暮らしているのです。
ふ、夫婦だから、なんの問題もないのです!
……それは、その……電が、まだ子供っぽかったので
一緒になる時に、司令官さんが、周りから色々と言われたりもしたのですが……
……ゴホン!
話が逸れてしまったのです。
「司令官!ご飯は、どこに置いたらいい!?」
「とりあえず、テーブルに置いてくれるか。電も、その横に食材を置いてくれ」
「了解なのです」
暁ちゃんの喰い気味の問いに返事を返す司令官さん。
私も、司令官さんの指示通りに食材を下ろします。
司令官さんは、調理場のコンロにフライパンを二つ並べています。そして、玉子を割り入れる為のボウルも用意しています。
何時もなら、食材を切る包丁とまな板も準備されるのですが、今回は、あらかじめオムライス用に間宮さんが、準備して下さった、加工済み食材があるので問題有りません。
司令官さんが、調理を始めます。電は、司令官さんのすぐ横に立ってアシスタントなのです。
加熱したフライパンにバターを入れ、溶かし、刻まれた鶏肉を炒め出します。
鶏肉に大体、火が通った所で、刻んだ玉ねぎ、ピーマン、ニンジンも追加。
「ふわーっ……」
暁ちゃんが、思わず声を上げるのも解ります。
炒めた食材とバターの香りが漂ってきてとても食欲を刺激するのです。
「電、ご飯をくれるか」
「どうぞ、なのです」
フライパンの加減を見つつ、私に声を掛ける司令官さんにご飯を手渡します。『ありがとうな』と電に返してくれつつ、ご飯をフライパンへ投入する司令官さん。
ご飯を具材と共に更に炒めます。
塩コショウで、軽く味を付けたら、ご飯をフライパンの端へドーナツ状に避け、中心にたっぷりのケチャップを入れます。直にフライパンに触れたケチャップが、たちまち泡を立て出します。
以前に司令官さんに、聞いたのですが、チキンライスを作る時は、いきなりご飯にケチャップを掛けて混ぜないで、まずケチャップ単体を加熱するんだそうです。
そうする事で、ケチャップの酸味を弱めて甘味を強くするんだという事なのです。
受け売りだけどなと、言っておられた時の司令官さんの顔が、思い出されます。
そうこうしている内にケチャップとご飯を混ぜ合わせ、塩コショウで味を整え、仕上げに追いバターを入れて、司令官さんが、チキンライスを完成させていました。
バターとケチャップの凄くいい香り。
正直、これだけでも凄く美味しそうなのです!
ふと、暁ちゃんを見ると、口許からよだれを垂らしそうになって、慌てて手で拭っているのです。
……レディとして、それは、どうなのです?
気持ちは、解らなくはないのですが。
司令官さんは、玉子に取り掛かります。
ボウルへ、玉子を3個割り入れて溶き卵を作ると
加熱したフライパンへバターを投入。
バターが泡立つ中へ溶き卵を流し入れ手早くかき混ぜます。ある程度固まった玉子にチキンライスを乗せて、お箸と、フライパンの振りでご飯を玉子で包んでいきます。
「どうぞ、なのです!」
タイミングを合わせてお皿を渡すと、司令官さんが、オムライスをお皿に乗せます。仕上げにケチャップを掛けたら出来上がりなのです。
その作業を3度繰り返し皆のオムライスが、完成しました。
「いただきますっ!」
「いただきます、なのです」
「いただきます」
皆でいただきますの挨拶をして、遅い昼ごはんを食べ出します。暁ちゃんは、目をキラキラさせながら、美味しいを連呼しています。
電もスプーンをオムライスへ入れ、口へ運びます。
チキンライスと玉子のハーモニーが、口の中に広がるのです。美味しい……そして、なんだか幸せになる味なのです。
……そういえば、あの時も。
私は、司令官さんと初めて出会った日を思い返していました……
* * * * *
「今日は、いよいよ司令官さんが、着任される日なのです……緊張するのです」
初期艦研修を終えた電たちは、それぞれが各地に派遣されました。
電が、派遣されたのは、
横須賀や舞鶴、呉、佐世保といった所からすれば、小さく名前も聞かれないような鎮守府ですが、それでも
100人規模の艦娘が、活動出来る大きさです。
……と、いっても今の鎮守府にいるのは、電と酒保を受け持つ明石さんの二人だけ。
広い鎮守府の維持は、妖精さんのおかげでなんとかなっている感じなのです。
妖精さんは……妖精さんなのです。
電も詳しくは知らないのですが、司令官さんや艦娘のお手伝いをしてくれる、可愛く頼れる存在だと、研修では習ったのです。
いいお天気で、絶好の着任日和なのです……あ。
鎮守府の門前に軍のとおぼしき車が止まりました。
そこから、海軍の軍服を着た男性が、降りられたのです。男性を降ろした車が走り去ったあと、その男性は、辺りを確認したあとこちらへゆっくりと歩を進め出しました。きっと、間違いないのです。
司令官さんなのです!
そう思った電は、司令官さんへと、駆け寄りました。
「お待ちしておりましたのです!駆逐艦・電。司令官さんをお迎えにあがりましたのです!」
電は、司令官さんへ、元気に挨拶をします。
白い軍服と制帽を身につけた司令官さん。
スラッとして背が高くて、格好よいのです。
……?
司令官さんからは、怪訝そうな、視線を感じます。
……電は、何か失礼な事を言ってしまったのでしょうか?それとも、制服が、乱れているとか……
私は、いきなり司令官さんに嫌われてしまうんじゃ……
「……司令官……さん?」
嫌な考えがぐるぐると頭の中を回ってしまい
気がつくと声に出していました。
そんな私の言葉に『はっ』とした様な表情を浮かべられた司令官さんは、電へ向かって声を掛けて下さいました。
「すまない……えっと、電さんだったかな?どこか落ち着けそうな所で、話を聞きたいんだが」
「はい!すみません司令官さん。直ぐに鎮守府の中へ案内致します!」
「あー……頼めるかい」
「了解なのです!」
電を気遣うような、口調で話される司令官さんの声に、ほっとしました。
でも、直後に自分の失態に気づきました。
名乗ったあとに、すぐに司令官さんを鎮守府の中へと
ご案内するべきだったのです。
もし、厳しい方だったら、叱責が飛んできたのかもしれません。……優しそうな司令官さんで良かったのです。
そんな風に思いながら、司令官さんを見ると、手持ちの鞄が、目に入ります。
「お荷物をお持ちするのです!」
「いや、軽い物だから構わないよ。でも、気遣ってくれて、ありがとうな」
電を気遣って下さったのか、荷物を渡さないだけでなく、お礼まで言って頂けたのです。
艦娘研修中に他の子から、艦娘へ向かい、雑な……
場合によっては、手酷い扱いをする司令官さんも存在すると聞いていたのですが、少なくとも目の前におられる司令官さんには、そんな様子は見受けられないのです。
本当に良かったのです……
鎮守府の執務室へ司令官さんをご案内して、お話を伺う事となりました。
電は、用意して置いたお茶請けの羊羮とお茶を司令官さんにお出ししてから、席へとつきました。
司令官さんは、色々と電に聞きたい事があるとの事なのです。電にお任せなのです!
電は、張り切って司令官さんの質問に答えて行きましたのです。色々と尋ねられたことに頑張って答えて行ったのです!
でも……
どうして 、電が答えを返す度に
司令官さんは、悲しそうな、泣きそうな
まるで、道の解らなくなった迷子のような
そんな顔をされるのですか?
気がつくと、私は、泣きそうになっていたのです。
電が、司令官さんを苦しめたのでしょうか?
電が、司令官さんを悲しませたのでしょうか?
その思いは、言葉になって、電から飛び出しました。
「……電が、司令官さんを困らせしまっているのです?電が、司令官さんを苦しめているのです?」
「……っ!そんな事は……」
「じゃあ、どうして司令官さんは、泣いているのです…」
「……え」
司令官さんは、ご自分で気付かれずに涙を溢されていたのです。
それなのに。
悲しいはずなのに。
苦しいはずなのに。
司令官さんの目は、なんとか電の事を慰めようと
考えてくれている目をしていました。
あぁ……もうダメなのです。
ただ、ひたすらに、出会ったばかりの
底抜けに優しい司令官さんを
愛しく思ってしまったのです。
涙を流す司令官さんの頭を抱き抱えるようにした電も
泣いていました。
そうして、解ったのです。
《この人は、電の本当の司令官さんなんだ》って……
また、少しの時間が流れて。
電と司令官さんは、泣き止んで。
二人で、照れながら笑い合いました。
お腹の音が鳴り、どちらの音か解らないまま
食べ物を探しました。
見つけたそれで、司令官さんが、作ってくれた
少し不恰好な、オムライス。
それは、とても幸せな味がしたのです。
* * * * *
「ごちそうさま!ふー……司令官、美味しかったわ!」
オムライスを完食した暁ちゃんの満足そうな声が、きこえてくるのです。美味しかったのだと、よく解る声なのです。
気がつくと視線を感じて、顔を上げると司令官さんが、電を見ているのが、解ります。
「電は、オムライス、どうだった?」
そう問い掛けて来られる司令官さん。
私は司令官さんを見つめ返しながら、こう言うのです。
「……あの時と一緒で、とても美味しいのです」
本作品での司令官と電はケッコンカッコカリ済みです。
むしろケッコンカッコガチです。
司令官は、ロ◯コンでは、なく電病なだけです(真顔)