広い心でお読み下さい。
それは、大淀の言葉から始まった。
「提督。明日、明後日の土日で連休を取って頂きます」
「連休?誰が休むんだ?」
「提督に休んで頂くんですよ!」
「……え」
提督は鎮守府における最高責任者であり、提督の決裁が下されないと行えない事も多い。
その為、そうそう休むことはできないが、上が休まないと下も休めない……ようは、艦娘たちに気を使わせてしまう為、なるべく俺も休暇をとるようにしている。
俺が休む日は、大淀や妙高といった、しっかりとした艦娘たちが、提督代理として業務をまわしてくれる。
むしろ、俺がやるよりしっかりした仕事をしてくれる気がする……うん。頼りになるな。
とは、言えども連休となると決裁等が滞りそうだが、大丈夫なのか?そんな俺の内心を読んだかの様に大淀は、口を開く。
「提督の決裁が必要な書類は、全て終わらせてありますし、明日、明後日の鎮守府内の監督体制も整えてあります。それよりも、提督。提督は何連勤中ですか?」
「え?……8連勤くらいじゃないのか?」
「14連勤!2週間連続勤務です!!いいですか提督!
確かに休む事無く、日々、真面目に執務に勤しんで頂けるのは有難いです。でも、2週間連続勤務は長過ぎです!提督のお体もですが、提督がずっと働いておられると艦娘も休み辛いんです!だから、たまには2連休くらいとって下さい!いいですね!?」
「お、おぅ」
……半分キレ気味の大淀の迫力に負けて、俺は連休をとる事となった。業務は、大丈夫だと言うし任せよう。
せっかくの連休だし、電と出掛けたい所だが、今回は、突発的な休みで、電は、遠征任務の予定が、入ってしまっている。一応連休を取る旨を電に伝えると
「そういう事もあるのです。司令官さんもたまには、ゆっくりなさって下さいなのです。それに明後日は、電もお休みですから、司令官さんと一緒に居られるのです」
……電は、健気にそう言ってくれた。
本当に、俺には、もったいない、嫁さんだ。
もちろん、誰にも渡さんが。
……しかし、本当にどうしたものか。
考えながら、廊下を歩いていると
「あら、司令官。難しい顔してるけれど、何か困り事でもあったの?
通りかかった雷に、そう言って声をかけられた。
電の姉である雷は、電と同じく、ともすれば幼く見られがちな外見と違い、世話焼き気質で、実際に中々に頼りになる。
電が、比較的大人しく、引っ込み思案気味なのに対して、雷は、物怖じせずにグイグイ来る。
非常にコミュニケーション力が高い艦娘だ。
更に、家事能力も高く、【艦隊これくしょん】のプレイヤー陣から《ロリおかん》などと言われていたのも納得な艦娘だと言える。
「……司令官、何か妙な事考えてない?」
「考えてないぞ」
ノータイムで、答える。雷は、勘も鋭いのだ。
「……まぁいいわ。それで、本当にどうしたの?」
ふむ……ちょうどいいし、参考意見として雷の意見を聞いてみるか。そう思った俺は、雷に事情を説明した。
「お休みなら、電と……あー、そういえば電も明日は、私たちと一緒に遠征任務ね」
「そういう事だ」
「明後日は、電もいるからいいとして、明日は……
まぁ、それならたまの一人を満喫して、ゆっくりするのもいいんじゃないかしら?趣味の時間を過ごすとか」
…………趣味なぁ
「……司令官って、無趣味?」
「…………そんな事はないぞ」
「……今の間が、物語ってるわね」
まぁ、のんびりしたらいいと思うわと、言って
雷は、廊下を再び歩いて行った。
……まぁとりあえず、何か菓子でも仕入れるか。そう思って、酒保へと足を向けた。
* * * * *
「あら提督、いらっしゃい。この時間にこられるのは、珍しいですね?」
俺が、酒保へ入ると明石が、声をかけてくる。
時刻はヒトキュウサンマル。何時もは、書類仕事の真っ最中の時間だから、明石の言う様に珍しいだろう。
「…まぁ、たまには、そういう日もあるさ」
「ふむ……まぁ、ゆっくり見ていって下さいね」
そう言うと明石は、会計場の椅子に戻って、端末を触り出した。……俺も商品を見るか。
とりあえず、菓子をいくつかと、インスタントの袋麺の5食パックを手に取る。
菓子も袋麺もストックしておくと何かと助かるからな。まあ、どちらも食べ過ぎは、良くないが。
……お。確かこのチョコは、電が好きな奴だな。
これも買って置こう。
あとは、炭酸の飲み物かな。アルコールは……まぁいらんだろう。
呑みたくなったら、鳳翔さんの店に行ってもいいし。
「明石、会計を頼めるか」
「はいはい」
返事をして会計作業に入る明石を横目に、レジ周りを見渡す。元居た日本のコンビニや、スーパーでは、レジ周りに新商品や、なんかが、よく置いてあったものだ。
何か珍しい物は……ん?
レジ前の一角に、透明な袋に入った小さい物が積まれていたのに気づいた。袋の中には、色々な色をした物が入っているようだが……。
「これは……ブロックか?」
置いてあったのは、小さいブロックの詰め合わせの様だった。ブロック塀のブロックでは、無く、玩具の方のブロックだ。なんで、こんな物が?
「あら、提督。それに気づくとはお目が高いですね」
「ネタは、いいから。これはなんだ?」
明石は、『やれやれ』とばかりのポーズをとってから
説明を始めた。
「提督は、開発を行う時に失敗すると、謎ぬいぐるみが、出来るのをご存知ですよね?」
「その呼び方は初めて聞くが、知っているな」
「実は最近、特殊な妖精さんと知り合いまして、その妖精さんが、謎ぬいぐるみを別の物へとリサイクルしてくれるんですよ」
「つまり、そのリサイクル品が、このブロックだという事か?」
「そういう事ですね」
特殊な妖精さんというのは、気になるが、突っ込むとロクな事にならない気がするので、スルーだ。
気を取り直して、ブロックを見る。何種類かあるようだが……これは、組み立てセットか?
「これは、《豆ブロック》と名付けました。一袋で一つのモチーフを作れるようになってるんですよ。ちなみにですね、【ネコ・イヌ・ウサギ・ウシ・ブタ・クジラ・チョウチンアンコウ・ダイオウグソクムシ・消防車・瑞雲】の10種類が、ありますよ」
「後半4つが、いきなり斜め上なラインナップなんだが……特に、瑞雲ってなんだ」
「意見聴衆で『やはり瑞雲は、外せんだろう』という強い意見が、ありまして……」
「うん。察した」
「という訳で、提督もお一つどうですか?」
「ふむ……」
突っ込みどころは多いが、面白そうではある。
それに、明日の予定は、未定のままだ。暇潰しに買うのもありだろう。
どれを買うか……ネコは、電が好きそうだし押さえるとして、他は……
「ちなみに、ブタは肌色ですよ。キューブのピンクのブタなんて認めません!」
「お前は、何を言ってるんだ……」
とりあえず、明石をスルーして選ぶ……ん?待てよ?
ブタは肌色?……クジラが紺色で、ウサギが白でおまけで頬にピンクを使ってある。
茶色は、チョウチンアンコウアンコウから持ってこれるし、消防車は赤だ。
……行けそうだな。
「それで、提督。豆ブロックは、いりませんか?」
「じゃあ、全種類を一つずつ貰えるか」
「ありがとうございます♪」
売れると思っていなかったのか、明石は満面の笑みを浮かべている。まぁ、俺も思い付いた事があるしWin-Winというやつだろう。
こうして、色々と買い揃えた俺は、酒保を後にした。
* * * * *
明けて、土曜日の休日。
時刻はマルナナゴーマル。
俺は、遠征へ向かう電を見送り部屋へ戻る。
さて、やりますか。
俺は、昨夜に酒保で購入したブロックを持ち
テーブルへ向かい椅子に座り組み立て作業に入る。
まずは、ブロックに慣れる為にネコからやってみるか。
組み立て開始から40分程で、ネコが完成する。
ブロックで出来ているのに可愛らしい姿だ。
大きさも、手のひらに乗るくらいのサイズ。
悪くない物だな。
さて、本番だな。
俺は、ブロックの入った、いくつかの袋を開けて作業へと取り掛かった…………
「……んさん。しれ……さん」
誰かの声がして、肩をゆらされた……俺は……
「司令官さん。こんな所でうたた寝していると風邪をひいちゃうのです」
「…いな…づま?あれ…」
「電なのです。司令官さん。ただいまなのです!」
満面の笑みを浮かべて帰還を告げる電。
どうやら、俺は眠ってしまっていたようだ。
「おかえり、電。遠征、お疲れ様だったな」
「はい。遠征は、大成功なのです♪」
「頑張ったな。ありがとうな」
報告してくれる電を誉めて、頭を撫でる。
電は、目を細めて『えへへ』とばかりの表情を浮かべる。しばらく電をなで続けてから、手を放すと、電が尋ねてきた。
「司令官さん。今日は、ゆっくり出来ましたか?」
「あぁ、一日中、ゆっくりさせて貰ったぞ」
「それは、とても良かったのです♪」
まるで、自分の事の様に喜んでくれる電。
「っと、そうそう。電にちょっとしたプレゼントだ」
「……なのです?」
そう言って、ブロックで組んだネコを渡す。
「ふにゃー……可愛いネコさんなのです。
司令官さん。これは、どうされたのです?」
「あぁ、酒保で売ってた奴を組み立てたんだ。
気に入ってくれると嬉しいんだが……」
「とっても可愛いネコさんで、おまけに司令官さんが、電の為に作ってくれたのです!とっても嬉しいのです!司令官さん…ありがとうなのです!」
電は、気に入ってくれたようで良かった。
そう言えば、もう一つ作ってたのが……
途中で、寝ちまったからな。えっと、どこへ……
「……司令官さん。これは…」
「あっ」
作っていた、もう一つは電の手に持たれていた。
「その……これって、電……なのですか?」
「……んと、上手に出来なかったけど、どうしてもやりたくなってな。今日の半日使って作ってた」
なんというか、本人を前に照れくさかったが、嘘はつきたくなくて、事実を話した。
昨夜に酒保で、見つけたブロックの色を見て、出来るかなと思って、試行錯誤を繰り返して完成させたのだ。
どうしても照れくさくて、そっぽを向いていたら
不意に背中から抱き締められた。
「……本当に旦那様は、電の事が好きすぎるのです」
「……そうだよ……悪いか?」
少し気恥ずかしくて、ぶっきらぼうに言ってしまう。
そんな俺に電は……
「ちっとも悪くないのです。だって……」
「……だって?」
「電も同じくらい、旦那様が好きなのです……」
そう返して、唇を重ねてくるのだった。
糖分過多なのは、認める。
だが、後悔はしていない。