「Hey♪テートクー♪これで午前中の分の書類は、completeデース♪」
「提督。提督の承認印漏れのチェックも終了しました。全て大丈夫です」
「
何時も通りの書類仕事。今日はR方面作戦の進行状況の報告書まであり、中々の手間取る量だった。
本日の秘書艦は、金剛。
英語混じりの少し癖のある話し方をする明るい艦娘で勘違いされやすいが、仕事自体はしっかりとこなしてくれるし、金剛型姉妹の長女だけあって、色々と細かい気遣いも出来る優しい艦娘だ。
その金剛を探しに執務室へやってきて、手伝いをしてくれているのは、榛名。
金剛の妹で、比較的個性が強い金剛型姉妹の中では、落ち着いた奥ゆかしい雰囲気を持った艦娘だ。
もちろん業務なども真面目にこなしてくれ優等生的存在といえるだろう。
「No problem♪これくらいなら楽勝デース♪」
「榛名も大丈夫です」
姉妹揃って、こちらの礼にそう返してくる。
本当に頼れる艦娘たちだ。
「本当に助かった。特に榛名は、秘書艦でも無いのに手伝わせてしまって悪かったな」
「いえ、榛名でいいなら、何時でもお手伝いしますよ」
「本当に榛名は、頑張り屋さんだネ♪流石は自慢の妹デース♪」
「お、お姉様……」
優しい目をしながら、妹の頭を撫でる金剛。
気恥ずかしさと嬉しさをないまぜにした表情を浮かべる榛名。
なんというか、良い光景だ。優しい世界ってやつだな。
ふと時刻を見るとヒトヒトゴーマル。もうすぐ正午か。
「もうすぐ正午だ。書類仕事も終わったし、二人とも食事に行ってくれて構わないぞ。本当にありがとうな」
「Hum……もうそんな時間ですか。じゃあ、テートク♪私たち二人と一緒にLunch time と行きませんか?」
「提督が宜しければ、榛名もご一緒したいです」
金剛と榛名に昼の食事休憩を促すと、二人から食事へのお誘いが、合った。非常に光栄なお誘いでは、あるのだが……
「二人とも済まない。せっかく誘ってくれたんだが、そろそろ、鎮守府近海の対潜哨戒任務についた艦娘たちが帰投する予定時刻なんだ。帰投報告を受ける者がいないと不味いしな」
「Hum……?大淀に任せたらいいんじゃないですカ?」
「あぁ、何時もならそれでもいいんだが、今日は大淀は別業務で、大本営へ足を運んでくれていてな」
R方面作戦実行中は、大本営との連絡を密にする必要があるのだが、直接に大本営へ向かわないといけない案件もあり、鎮守府の総指揮を担う提督の代わりに大淀に向かって貰っているわけだ。
大淀には、申し訳ないが、仕方がない。
今度、間宮羊羮でも差し入れよう。
コンコンコン
執務室の扉を叩く音。続いて聞こえる声。
「提督。
「入ってくれるか」
俺の返答を聞き、任務についていた艦娘4名が入室してくる。
「報告します。旗艦・五十鈴以下4名、鎮守府近海対潜哨戒任務より帰投しました。海域において、潜水カ級並びに潜水ヨ級と複数回の交戦。同戦闘による艦隊内の損傷者は無し。以上となります」
「報告ご苦労……五十鈴、お疲れさん。何か海域内に変化は無かったか?暁、雷、電もよく頑張ってくれた」
「まぁ、何時もの通りね。特に変化無しよ」
「レディには、楽勝だったわ!」
「もーっと頑張ってもいいのよ♪」
「頑張ったのです」
旗艦の五十鈴から報告を受ける。形式ばった口調での報告は、する方も受ける方も大変だが、まぁ仕方がない。
その後に様子を尋ねつつ、労いの言葉を掛ける。
皆、頑張ってくれているし、何より損傷が、無くて良かった。艦娘は、入渠で損傷、負傷を回復出来るとはいえ、無傷に越した事は無い。
「五十鈴、暁、雷、電。任務お疲れさん。そしてありがとうな。報告は受けたし、いい時間だ。食事をとり休憩してくれ」
「じゃあ、司令官さんも……」
そう告げて、電とおぼしき声が聞こえかけた時に横から飛んでくる声。
「テートクー♪報告受領も済んだし、Lunch timeと行きましょうヨ♪もう、No problem でショ?」
「榛名も、ご一緒したいです」
「何、提督?金剛さんたちと約束していたの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
「だったら司令官。雷たちとお昼にしましょ?」
「Hey 雷!テートクとのLunch timeは、私たちが、先に言い出したのデース!割り込みはNo!なんだからネ!」
「でも、司令官は、約束していた訳じゃないって言ってたわ?だったら早い者勝ちって訳でもないでしょ?ねぇ司令官?」
金剛の声を皮切りに、俺が昼食を誰ととるかという言い争いが、始まった。いや、本気で止めて欲しいんだが。
「んー……雷。金剛も。」
「何?司令官?」
「Hum?」
「せっかくのお誘いなんだが、冷静に考えると、五十鈴たちの報告こそ終わったが、この後に不測の事態。緊急性のある事態が起こらないとも限らない。その時に判断や指示を仰がれる者が、執務室に居ないというのは、問題だと思うんだ」
実際問題、艦娘たちと昼食をとりに行っている間に緊急事態が発生し、報告を受けて判断するまでの数分間の差で……など笑えない話だ。
「え……でも司令官。そういうのは、大淀さんに任せたらいいんじゃないのかしら?」
「大淀さんは、大本営へ行かれて不在なんですよ」
雷から、先ほどの金剛と同じ疑問が出たが、榛名が答えてくれた。本当に、大淀の存在がいかに大きいか解るよな。
「レディは、そろそろお昼ご飯を食べに行きたいんだけど、構わないかしら?」
「そうね。五十鈴もお腹が、減ってきたし、暁と一緒に食堂へ行くことにするわ」
事態を眺めていた五十鈴と暁たち二人は、そう言って食堂へ向かって行った。
「まぁ……テートクの言う事も解らなくは無いデース。Hu……仕方がないネ。榛名、食堂へ行きまショ。雷たちも一緒にLet's go デース」
「はい、お姉様」
「確かに、司令官の言う通りね……了解よ。金剛さん行きましょ。電もほら、行くわよ?」
「……なのです」
色々と揉めかけたが、なんとか皆が食事に行ってくれたな。さて、仕上がった書類を纏めておくか。
* * * * *
皆を見送った後、細々とした緊急性の低い書類を処理していった。午前中に金剛たちと仕上げたのは、最低限、これだけは、こなさないといけない書類。今処理しているのは、それ以外という訳だ
懐中時計を見ると、時刻はヒトフタヨンゴー。
流石に俺も腹が減ってきた。
かと言って、ここからは、そうそう動けんしな。
執務机の引き出しに何か、あったかな……?
腹の足しになるような物を探してゴソゴソしていると、扉を叩く音。
今日の秘書艦の金剛が、戻ってきたのか?
「どうぞ、入ってくれ」
声を掛けると、扉が開いた。
入って来たのは、電だ。
「電、お昼ご飯は終わったのか?何かあったのか?」
「ご飯は、食べたのです。それでこれは、間宮さんに頼んで、おむすびを……その、司令官さんが、ここから動けないから、お腹に入れられる物を」
どうやら電は、この部屋から動けない俺の為に食堂から、おむすびを貰ってきてくれたらしい。流石は、俺の嫁さん。気が利くな。
「ありがとうな、電。さっそく頂くよ」
腹が減っていた俺は、電が貰ってきてくれたおむすびに手を伸ばす。……これは、コンブか。あまじょっぱい、コンブの佃煮がご飯とよくあうなぁ。
……ふむ、これは、おかか……醤油で和えられたかつおぶしが、実に上手い。これもご飯にぴったりだ。
最後は、梅だな。ん……中々に酸っぱいが、悪くない。
これまた、おむすびらしいおむすびだ。
三つあった、おむすびはキレイに無くなった。
満腹とは、いかないが、お腹も少しは落ち着いたな。
「司令官さん、どうぞなのです」
そう言って電は、水筒から温かいお茶を入れてくれた。
電の入れてくれた温かいお茶を飲む。ふぅ……落ち着くなぁ。
「ごちそうさま。本当にありがとうな、電」
「どう致しまして、なのです」
俺の礼に返事を返してくれた電だが、何か様子がおかしい……どうかしたんだろうか?
「電、何かあったのか?」
「……」
「……電?」
「……司令官さん、その少しだけお尋ねしたい事……」
バタン!
「テートクー♪今帰ったヨ♪午後からも Let's workネ♪」
俺の問いかけに、口をつぐんでいた電が、何かを言い出そうとしたタイミングで、扉を開けて金剛が、戻ってきた。偶然であって金剛に悪気がない事は解っているが、あまりにも間が悪すぎる。
「Hum……?電、どうかしたのですカ?」
「いえ、なんでも無いのです。では、司令官さん。失礼しましたのです」
そう言って電は、執務室を出て行ってしまった。
「Hum……テートク。私、電に何かしちゃったかナ?」
「いや、そんな事は、無いと思うが……」
「……さっきまで食堂で、電も私たちと一緒にLunch timeだったんですケド、その途中に私や榛名、それに五十鈴の方へ電が、何度か視線を向けていたんデース。悩みでもあるのかと思って、尋ねましたが、答は無かったですしネ」
「……」
やはり、何かあったんだろうか。さっき言い出しかけた事と関係があるのか……?
「…………」
「……テートク。電の事で何か、心当たりが有るなら、電の所へ行ってあげて下さいネ?」
「……心当たりというほどじゃ無いんだが」
「それでも、テートクの心に引っ掛かった何かが、有るんでショ?執務室のtelephone reception work は、私に任せておいて、とっとと行って下さいデース♪」
「……金剛」
「Hum……?」
「ありがとうな……行ってくる!」
「No problem デース♪ good luck & good love♪」
金剛に執務室を任せて、俺は電を探しに出た……
「あ、て、提督さん」
「あぁ、名取。悪い、今、少しだけ急ぎの要件が……」
「あの、ひょっとしたら、電ちゃんの?」
「……何か知っているのか?」
執務室を出て、廊下を進んでいると、名取に声を掛けられた。電を探している途中なので、断りを入れ行こうかとしたのだが、その名取から電の名前が出たのだ。
「あ……やっぱり電ちゃん、何かあったんですね」
「詳しい事は知らないんだが……」
「今朝、廊下で任務に出撃する五十鈴姉さんと出会ったんですけれど、その時に五十鈴姉さんと一緒にいた、電ちゃんが、私と、姉さんの方へ何度か視線を送って来ていて」
「……視線?名取と五十鈴を見ていたという事か?」
「は、はい。電ちゃん、私に何か用事でもあったのかなと思って、声をかけたんですけれど、なんでもないですって。その……気のせいかもしれないんですが、私が電ちゃんに問いかけるまでの電ちゃんからの視線が、結構強めで……」
今朝の出撃前に電は、名取や五十鈴を見ていた。
それも、見られた本人が気付くような、強さで。
「それで、ついさっきに廊下で電ちゃんとすれ違った時も、声をかけたんですけれど、電ちゃん、軽く会釈をして行ってしまったもので……。何時もの電ちゃんなら、きちんと挨拶を返してくれるから、朝の事と合わせて気になったんです」
「なるほどな……名取、ありがとうな。とりあえず電を探してみるよ」
「は、はい。では、私はこれで……」
名取から聞いた視線の話。さっき、金剛からも食堂で榛名や自分、あるいは五十鈴にも視線が向けられていたという話を聞いた。
やはり、なんらかの事情があるのだろう……
名取と別れた後、鎮守府内の建物の内外を見て回ったのだが、電の姿を見つけられないでいた。
流石に、鎮守府の外へとは出ていないと思うが……
念の為に鎮守府の門の所にある守衛室で、電の事を尋ねてみる。
「おや提督。どうかされましたか?」
「実は……」
ここの守衛室の守衛は複数人による交代勤務なのだが、今の当番の人は、皆から『ご隠居』の愛称で呼ばれている人だ。元は軍部の士官だったという話で、実際にそのお歳からは、想像出来ない様な注意力と観察眼を持っている。俺も、それに何度か助けられているのだ。
「電ちゃんかい?さっき、こちらへ来たけれど門からは出ないで引き返して行ったよ?」
「……どちらの方へですか?」
「鎮守府の港の端を行った所に小さな磯と砂浜が、あるだろう?そちらへ足を向けていたと思うよ?」
「ありがとうございます」
「……提督さん」
電の行き先と思われる場所を聞き出し、礼を言って、動こうとした俺に、ご隠居が話し掛けてきた。
そちらを振り替えると
「電ちゃんは、良い子だよ。詳しくは、解らないけれど、今は何かに悩んでるっぽいね」
「……」
「ひょっとしたらそれは、電ちゃん本人以外には、とるに足らない事かもしれんさ。だが、そうだとしても電ちゃんには、大きな事なんだよ」
「……はい」
「まぁ、電ちゃんの旦那である提督さんには、釈迦に説法かもしれんがね」
「いえ、助かります。では……」
電の悩み……か。それが、何かは俺には解らない。
それでも、俺は電の全てを受け止める。それだけだ。
俺は港の方へと足を向ける。
電に話を聞く為に。
* * * * *
「……しれい…かんさん」
港の端を行った所にある小さな砂浜。その更に端で、岩に座る電を見つける事が出来た。電は、一声出した後は、海の方を眺めたまま沈黙を続けていた。
俺は、そんな電の横の岩に腰掛け、一緒になって海を見る。辺りに響くのは、ただ、波の音だけ。
「……何も、聞かないのです?」
電の下へたどり着き半時間ほどが過ぎた頃に、電が口を開いた。
「ん……その、俺も電から話を聞こうと思って、電を探していたんだが。……無理に聞き出していいのかなって思っちゃってな」
「……ここまで来ておいて、なんなのですかソレ?」
「ん……まぁ、ウン」
上手い言葉が浮かばない。
そんな俺を見ていた電だが、苦笑を浮かべながら話し始めた。
「……司令官さんは、背が高くって、グラマーな体型の女性をどう思いますか?」
「……え」
「電は、毎朝欠かさずに牛乳を飲んでいるのです。すらっと背が高くて、グラマーな素敵な女性を目指しているのです」
「……うん」
「なかなか、効果は出ないですけれど、何時かは、電も魅力的な女性にって、頑張っているのです……」
「……あぁ」
「今日の出撃前に名取さんに会いました。任務の旗艦は、五十鈴さんでした。二人とも素敵なお姉さんです」
「……」
「任務から帰還後の執務室で、金剛さんと榛名さんに会いました。お二人とも電から見ても魅力的な女性なのです……」
「……電」
「司令官さん。改めて、お尋ねするのです。…………グラマーで大人っぽい女性をどう思われますか?」
あぁ、そうか。なんとなく電の悩み……いや、心配事は解った。だが、確証は、無い。だから尋ねよう。
「その質問に答える前に、俺からも一つ聞かせて欲しい事がある」
「……なんでしょうか?」
「電が、魅力的な女性を目指しているのは、自分の為か?それとも……誰かの為か?」
「……それは」
電は、魅力的な女性を目指して頑張っていると言った。
それ自体は、俺も良く知っている。
だが、先ほどに電の口から出たのは『俺が』グラマーで
大人っぽい女性をどう思っているか、という問い掛けだった。そこから導かれるのは……ちょいと俺の願望混じりだが
「俺の為……いや、電の中の不安を打ち消す為か?」
「……なのです」
予想は、当たっていた様だ。
そこから、俺は電の想いを聞いた。
努力しても、なかなか理想に近づけない自分。
周りに居る、多くの魅力的な女性たち。
自分が、何時かは見捨てられるのでは、という不安。
それらが、入り交じってしまった訳だ。
「……電。さっきの質問への答なんだがな」
ピクッと電が、反応する。
「グラマーで大人っぽい女性だったか?ウン。魅力的だとは、思うぞ?」
「そう……ですか」
やっぱりと言わんばかりの電の反応。だが、生憎と俺のターンは、まだ終わっていない。
俺は素早く電に近づくと、電を抱き上げる。
お姫さま抱っこと、いうやつだ。
うん。やっぱり電は、軽いな。
「し、司令官さん!?」
慌てる電へ、言葉を続ける。
「けれど、俺の中での一番、魅力的な女性は電だから。背の高さも、グラマーかどうかも関係無い。電が、電である限りそれは、変わらない」
「旦那様……」
「だが、電を不安にさせてしまったのは、俺がそれをきちんと電に伝えられていなかったからだ。だから今まで以上に、俺は言葉で、態度で、電に伝える事にする。だから……」
俺は、電の唇を奪ってから言う。
「……俺から離れられるなんて、思うなよ?」
電から返ってきた返事は、重ね返された唇だった……
電「何時もの台詞を言っていないのです!あと、司令官さんは、流石にくさすぎるのです!」
おかしい。もっとバルジとかのコメディなノリに走ってシリアルさんに頑張って貰う筈だったのに。
あ、糖分は、控えましたよ。