転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します   作:フィークス2号

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11話 荒井ヒロカズの悩み

 

 

 

 都内にある森野ホテルにて悪魔が発生し、民間のデビルハンターが駆除に向かうも複数名が死亡。

 その後公安に駆除依頼がされて、公安対魔特異4課の早川隊計6名が対応にあたる。

 そして早川隊が突入してから3時間足らず、森野ホテル内にいた悪魔は駆除され、一名の欠員も出ることなく任務は成功に終わった。

 これだけ見れば大戦果も大戦果、どこからみても非の打ちどころない結果と言えるだろう。

 いや、自分も騙せないような嘘をついて自分を美化しようとするな。……俺が仲間を見捨てようとするなんて……少なくとも母さんは俺をそんな人間になんて育ててなんていないはずだぞ、ヒロカズ。俺は自分を心の中で叱った。

 

 「全く……俺は新人の中でも最年長だっていうのに情け無い。」

 

 俺は何度目かもわからないため息を、デビルハンター本部の休憩室でついた。思えば俺はダメなところばかりだった、早川先輩が連れてきた俺と同期の新人、デンジを一目見た時、俺はただのチンピラだと思ってガッカリした。

 あのマキマさんが目にかけている……そう聞いて最初はどんな新人なのかと思ったが、到底まともとは思えない振る舞いから信頼できないと思ってしまったのだ。無論、大ベテランであるマキマさんに『年上だから優しくしてあげてね』と言われた手前、口に出すことはなかったが。

 

 だが、デンジは俺やコベニちゃんなんかよりもよっぽどデビルハンターに向いていた。悪魔によってホテルの8階に閉じ込められた時、俺はただ恐怖することしか出来ずひたすら狼狽えていた。

 一方デンジはどうだ?閉じ込められ時間が止まっていると知った途端に彼がしたのは眠ることだった。俺はデンジのその行動に呆れたが、今考えればあれが最適解だったのかもしれない。体力も温存できるし、恐怖で悪魔を強化することもない。実際にデンジがあの悪魔と戦い続けられたのは、無駄な体力を消耗せずにしっかり休んでいたこともあるだろう。

 

 俺は早川先輩と一緒になって、悪魔を探した。だがそれはどちらかと言うと、俺の持つ恐怖や不安を紛らわす為だった。だか悪魔が見つからず不安がどんどん大きくなり、最終的に俺は部屋に引きこもりガタガタと震えて怯えることしか出来なくなっていた。

 それがいけなかったのだろう。俺の恐怖が状況を悪化させた。俺の恐怖が悪魔を強くして、永遠の悪魔を巨大化させてしまったのだ。

 あの場で悪魔を恐れていたのは俺しかいない。早川先輩は臆することなく悪魔を探し、姫野先輩は余裕を持って休んでいた。コベニちゃんは気絶していてデンジは寝ており、血の魔人は……なんか遊んでいた。あの状況で悪魔に恐怖する人間は俺しかいない。それを考えると自分が恥ずかしくてたまらなかった。

 

 酷いのはそれだけじゃない、あの後悪魔が契約を持ちかけてきた時だ。一度でも『そいつを殺して、外に出た後に対策を練ればいい』そんな言葉が口からでかけた。

 俺は自分の手で仲間を殺そうとしたのだ。しかも自分より年下で、まだ未成年の子供をだ。

 いくら口に出さなかったとしても、恥ずべき考えだった。

 

 そしてバディであるコベニちゃん、彼女を落ち着かせることが出来なかったのも問題だった。

 彼女は閉じ込められた状況で、自分以上に心理的に追い詰められていた。相棒である自分が彼女をしっかりと支えるべきだった。だが俺はそんな彼女を支えることが出来ず、パニックに陥らせてしまい、そのパニックに陥ったコベニちゃんに怯え……最悪の事態を招いた。

 

 俺とコベニちゃんの恐怖がさらに悪魔を強化したのだ。悪魔は8階を傾けるほどの力を手に入れ、俺たちを絶体絶命の危機に追い込んだ。

 そしてコベニちゃんはデンジを刺そうとして、遂に俺まで悪魔のいいなりになって、デンジを殺す為に押さえつけた。

 結果早川先輩がコベニちゃんに刺され、姫野先輩まで冷静さを失う結果になってしまった。

 

 結局あの永遠の悪魔はデンジがチェンソーの悪魔に変身して、三日三晩悪魔と戦い続けて討伐した。

 足を引っ張り続け仲間を殺そうとした俺とデンジ、その差がはっきりと今回の件で見えた。

 

 「俺は……自分が恥ずかしくて仕方がない」

 

 「だいぶ落ち込んでるね……荒井くん大丈夫?」

 

 声が聞こえて、そちらの方に顔を向ける。そこにいたのは公安対魔特異4課のリーダーであるマキマさんであった。

 

 「ま、マキマさん!?どうしてここに!?」

 

 「一仕事終えた新人を労おうと思ってたんだけど ……やっぱ相当落ちこんじゃってるね。はい、ジュース!」

 

 そういうとマキマさんは缶ジュースを俺に向かって投げ、俺はそれをキャッチした。

 

 「あ!しまった!」

 

 マキマさんは目を見開いて言った。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 

 「いや、ごめん。そのジュース炭酸だった……。ちょっと時間置いてから開けてね。」

 

 マキマさんは両手を合わせながら俺に謝ったあとに言った。

 

 「ま、荒井君は新人なんだしそんなに悩みすぎなくて大丈夫だよ。私だって新人の頃はミスしまくったしね。

 契約のおかげでなんとか今も生きてるけど、洒落にならないミスを私も新人の頃にしまくっちゃったなぁ。新人なんてそんなもんだよ。」

 

 マキマさんはそう言って笑いながら言った。

 

 「でも、俺はただの新人じゃないんです。俺はあの中で最年長の新人だった。なのに俺は、足を引っ張ることしか出来なくて……。

 デンジは凄いやつですよ、マキマさんが目にかけているのも納得です。あいつはただ悪魔に変身出来るだけじゃない、デンジはあの状況下でも恐怖に呑まれなかった。その上悪魔相手に何十時間もぶっ通しで戦い続けてた。もし俺が悪魔になる力を持っていても、同じことができるとは思えません。

 同じ新人なのに、俺とあいつじゃ大違いだ。」

 

 「いやまぁ、デンジ君と荒井君じゃあ新人は新人でもデビルハンターとしての年季が違うからねぇ。仕方ないよ。」

 

 「え?」

 

 俺はマキマさんに対して聞き返した。デビルハンターとしての年季が違う?どういうことだ?

 

 「デンジ君はね、公安に来る前からデビルハンターをやってたんだよ。非正規のだけどね。」

 

 「非正規のデビルハンター……ですか?どのくらいやってたんです?確かあいつ16ですよね、学校がそもそも許すんですか?」

 

 「デンジ君は学校に行ってないよ、行かずに借金を返すためにデビルハンターをしてたんだ。」

 

 「な!?」

 

 学校に行かずにデビルハンター?そんなことある訳がない、そんなことを許す親などいないだろう。仮にいたとしても行政が許さないに決まっている。

 

 「デンジ君はね、いろいろ複雑な環境に置かれててね。もっと小さい頃からデビルハンターとして働かされてたんだ。

 だから、君と同じ公安の新人だとしてもデビルハンターとしてはデンジ君の方が圧倒的に先輩なんだよ。だからデンジ君と自分を比較してもあんまり参考にならないよ。

 上を見るのはいいけど、それはちゃんと上を上と認識して初めて意味があるんだから。」

 

 マキマさんが語るデンジの境遇に絶句する。義務教育も受けられずにデビルハンターとして過ごす?

 

 「随分……苦労してたんですね彼。なのに俺は、そんなあいつに頼りっぱなしだった。」

 

 気分がどんどん暗くなる。

 

 「んー、荒井君は気に病みすぎだよ。

 君たちより先輩で一番長く働いてる姫パイだって、あの場ではデンジ君のスターター引っ張るくらいしかできなかったんだし。デンジ君抑えただけでそんなに落ち込んでたら、アキ君を刺しちゃったコベニちゃんはどうなっちゃうのさ?

 それにパワーちゃんに至っては、1人で全部のご飯食べちゃったんだよ?」

 

 「それは……」

 

 俺は言葉に詰まった。

 

 「結局荒井君が悩んでるのは、デンジ君に迷惑を掛けちゃったこと。そこの部分だよね?」

 

 「ええ、まぁそうですね。」

 

 「だったら後でご飯を奢るなり、なんかプレゼントしてあげるなりしてみたら?デンジ君結構そういう体験に慣れてないからすごく喜ぶと思うよ!その時についでに謝れば、快く許してくれるって!

 それにこれから新人歓迎会の飲み会があるんだ!前姫パイと一緒に話してたあれだよ。その時にお詫びの品を渡して謝ればなんとかなるよ!」

 

 マキマさんが親指を立てながら俺に言う。

 

 「そういう……もんですかね?」

 

 「そうそう!そういうもんだよ!もしそれで許してくれなかったら、それから改めて悩めばいいんだし、今回のミスだっていくらでも取り返しがつくんだからさ。

 この悔しさをバネに自分を鍛えて、次は役に立てるよう努力すればいいよ。」

 

 マキマさんは明るい笑顔で言った。

 俺みたいな新人に対しても、俺を元気付ける為にわざわざ声をかけてくれる。マキマさんについてこの公安でいろいろと話は聞いていたが、その噂通りの優しい上司だ。

 そんな上司が俺のことを励ましてくれるんだ、これ以上クヨクヨするわけにもいかない。俺は元気よく答えて言った。

 

 「ありがとうございますマキマさん。お陰で気分が楽になりました。次の機会に挽回できるように、全力で頑張ります!」

 

 「おお!いいねいいね!その調子だよ荒井君!でも、頑張りすぎて死んだりしないようにね。」

 

 「はい、死なないように気をつけます!」

 

 俺は笑顔でマキマさんに言った。

 

 「そうそう、荒井君。そんな気をつけてる荒井君が死なない為の大切なお話があるんだけど……ちょっといいかな?」

 

 マキマさんが俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。その声は先ほどまでの明るいものではない、口調こそ柔らかいままだが、声質が真剣そのものだ。

 

 「え、あ、は、はい」

 

 俺はごくりと唾を飲み、なんとか答……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやー、ジュースありがとねー。

 ってうおぉ!しまった!あー!あー!ああぁぁぁ〜〜〜……。

 ごめんね荒井君、せっかく貰ったジュースこぼしちゃった。」

 

 マキマさんが缶ジュースを開け、そこからジュースを溢れさせながら言う。

 

 あれ?なにかおかしくないか?

 

 「すいませんマキマさん、俺ジュースなんて奢りましたっけ?それと何か話してませんでしたっけ?」

 

 「ん?ああ、話を聞いたこととか色々含めて、お礼として荒井君がジュース奢ってくれたんだよ。

 うえ〜、ベタベタする〜。」

 

 「そう……でしたっけ?」

 

 「うん、そうだよ。それじゃ、荒井君も永遠の悪魔に関する報告のまとめ、頑張ってね!

 私はこれを処理してから行くよ。ああ、勿体ないなぁ。」

 

 「あ、気が利かなくてすみません。これハンカチです。」

 

 俺は少し遅くなったが、ポケットからハンカチを取り出してマキマさんに渡す。

 

 「おお、ありがとう!後でこのハンカチ洗って返すね。」

 

 マキマさんはいい笑顔で言った。

 

 「ははは……。マキマさんって結構茶目っ気がある方なんですね。それでは失礼します。」

 

 「うん、じゃーねー!」

 

 マキマさんに見送られて俺は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩室で1人残されたマキマ、彼女は荒井ヒロカズが部屋から出ていったのを見届けた後、ジュースを飲み干してメモ帳を取り出した。

 

 そのメモ帳には公安対魔特異4課、いや4課だけでは足りない数の人名がびっしりと書かれている。それは1課から4課の名簿であった。そしてそれらには線を引かれて名前が消されていた。

 線が引かれた人物は、ダメージを肩代わりする契約を終えた人物たちだ。

 

 (これであらかた契約し終わったかな……。いやー、長かった。後はダメージを気合いで耐えるだけだ!)

終わったかな……。いやー、長かった。後はダメージを気合いで耐えるだけだ!)

 

 そしてマキマはその名簿の中にある『荒井ヒロカズ』の名前を探し当てて、他の人物と同様に線を引いて名前を消した。

 マキマはそれから空になった缶ジュースを両手で平らに潰した後、その缶をゴミ箱にガコンと投げ入れて休憩室を後にしたのだった。

 

 

 




 気にしすぎと言いつつ、デンジ君を早く見つけられなかったことに悩みまくる偽マキマさん。ブーメランが刺さっておる……。
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