転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します   作:フィークス2号

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デンジ君特有のあの喋り方の再現が難しいすぎる……。
デンジ節をマスターするにはどうすればいいんだ……。


2話 デンジ君と筋肉の悪魔

 

 

 「いやー、しかし君が無事そうでよかったよ。ゾンビ達相手に一晩中戦ってたんでしょ?偉いね!」

 

 「え!あっ、いやーそれほどでもないっスよ!デンジ君こう見えてめちゃくちゃ強いっすから!」

 

 私は車の中で私の推し、デンジ君と楽しくお話をしていた。デンジ君は上半身裸だったので、今は私のスーツを着せてある。

 しっかしそういえばデンジ君、ポチタと合体した時何故か上半身裸だったんだよなぁ。着替え持ってくればよかったかな?いや、流石にそこまで手際いいとおかしいか。

 

ぐ〜

 

 デンジ君のお腹の中から、腹の虫の音が聞こえた。

 

 「俺ん腹の音っす……」

 

 気まずそうにデンジ君が答えた。

 

 「あーそっか。一晩中ゾンビの悪魔相手に戦ってたもんね、仕方ないよ。

 よーし、それじゃあ次のパーキングエリアで一緒にご飯食べよっか!」

 

 「すいません……俺カネないんすけど……」

 

 デンジ君が気まずそうに言う。デンジ君って育ちの割に凄い良識あるよね……。

 『すんません!俺かねないんで奢ってもらっていいっすか!』とかいってたかろうとしないし、食べ終わった後で『実は金ないんでお会計頼みます!』とか不意打ちで言い出して金払わそうともしてこない、よく考えるとめっちゃ良い子だよね。

 てかそういえばデンジ君って一話でポチタと『今日のメシ食パン一枚だぜ』とか言ってたなぁ……。

 

 可哀想!

 デンジ君かわいそうすぎるよぉぉぉ!

 お腹いっぱいご飯食べさせてあげるのが、この私の義務だ!

 

 私はそう決意してデンジ君に向けて言った。

 

 「大丈夫だよ!私が奢るから好きなだけ食べていいよ!私結構いい給料貰ってるし!

 それに、デンジ君はゾンビの悪魔を倒してくれたからね。そのお礼……にしては些細すぎるけど、それも兼ねてご飯くらいおごらしてよ。

 いやー、本当にデンジ君のおかげで助かったよ、あの悪魔を野放しにしてたら大変なことになる所だった。お手柄だよ、デンジ君。」

 

 そう言っては私は、デンジ君の頭を撫でながら言った。取り敢えずゾンビの悪魔を倒した功績だと言っておけば、デンジ君も気に病まず美味しくご飯食べれるだろう。

 いや別にデンジ君は気に病むタイプではないか……。でもまぁ、褒められて嫌な気になる人はいないだろうし、私は原作のマキマさんとは違い、褒めて褒めて褒めまくって伸ばすタイプなのだ!

 いやーしかし、ちゃっかりデンジ君の頭撫でちゃってるけど、やっぱり頭ゴワゴワしてるなぁ……。ワイルドな感じがあってこれはこれでいいけど。やっぱデンジ君尊いわぁ……。

 

 

 しかしなんか忘れてるような……あ、筋肉の悪魔おるやん。

 

 

 

 高速道路のサービスエリアにて、デンジ君は何を頼むか凄いおおはしゃぎしている。そりゃそうだ、今まで極貧生活で過ごしてた状態だったんだもん。

 でもこれからデンジ君には筋肉の悪魔を討伐して貰わなきゃならない。

 私はこの世界に転生してから原作の展開にどう向き合うのかを考えてきた。そして私が思い至った方針、それは基本的に原作の流れを踏襲しつつも、生存者や犠牲者をなるべく減らすというものだ。

 

 原作の流れを踏襲する理由は2つある。まず一つ目は今後どういう事態が発生せるのかを予測しやすい状況を作り、対策をしやすい環境を整えるためだ。下手に原作ブレイクして予想できない事態になったらまずい、本当にまずい。私はあまり優秀じゃない、支配の悪魔であるマキマさんボディのおかげで前世の私と比べれば、滅茶苦茶仕事とかバリバリできるようになった。

 それでも私は原作のマキマさん並みにスペックが高いとは思えない。仕事では何度かミスをして悪魔を逃したり、京都のお偉いさんからその件で叱られまくったり散々な目にあってる。

 

 それだけじゃない。私はチェンソーマンの眷属とされる悪魔達をコンプリートできていない。『セラフィム』『ドミニオン』『ヴァーチェ』、この三体の悪魔、もしくは魔人がどこにいるのかさっぱりわからない。いや、原作では特に出番がなくて何やってたかわかんないけど……。でもこの三人は裏で重要な仕事をしてたりしたかもしれないし、放置しておいていいのか?という疑問がある。

 しかも原作マキマさんがポチタ版チェンソーマンを倒すために召集していた悪魔でも魔人でもない存在。通称武器人間(87話のサブタイトルから察するに)達も居場所が1人もわかってない。サムライソード(ヤクザの孫)、レゼ、クァンシ、この原作にメインの出番があって、何処の国の出身なのかわかってるメンバーでさえもだ!

 特にサムライソードに関しては死ぬ気で探した。サムライソードであるヤクザの孫がどこにいるのか分かれば、芋づる式にデンジ君の居場所も分かるからね!

 そうすればデンジ君を武器人間になる前に保護できて、原作開始前にデンジ君の物語をハッピーエンドで終了させられただろうに……。

 

 話が脱線したけどまぁ、こんな低スペな私が原作知識というアドバンテージを失ったら、この過酷すぎるチェンソーマン世界で死ぬこと100%だろう。死ぬのが私だけならいいけど、最悪デンジ君を巻き込んで死にかねない。それだけは避けねばならない!

 

 

 そして二つ目の原作の流れをなぞる理由だが、それはデンジくんのレベルアップだ。デンジ君はこの先多くの悪魔と戦うことになると思う、それは一部の後の二部とかでもおそらくそうだろう。

 デンジ君は何度も悪魔と戦っているが、基本的に敵はその度に強くなっている。私が考えるにデンジ君は戦いの中でも成長してるんじゃないかと思う。原作であった修行回と言えるシーンは岸辺さんとの特訓で殺されまくった時だけだし、その特訓と持ち前のセンスだけでデンジ君が強くなったとは少し考えにくい。

 だから多分、今までの悪魔達との戦いを糧にして強くなってるんだと思う。原作の流れを外れてしまうと、そのデンジ君の成長の機会が奪われてしまって途中で死んでしまいかねない。

 心苦しいけど、デンジ君には悪魔と戦いつつこの世界で生き抜く力を手に入れて貰おう。

 

 

 でもやだなぁぁぁぁ!

 デンジ君には安全に平和に生きてほしい。

 許してくれ、デンジ君。

 偽マキマさんである私には君を守り切るだけのスペックがないんだ……。

 

 

 「たっ、たっ……!助けてくれっ!」

 

 おっと、取り乱した。声が聞こえて私は意識を外に向けると、頭から血を流した男が走ってやってきた。

 

 「だ、大丈夫ですかあなた。血が出ていますよ。すぐに手当を受けた方が……」

 

 「娘が!俺の娘が悪魔に森へ拐われたんだ!そ、そんな暇はない!」

 

 「そうでしたか……。しかしご安心ください、私は公安のデビルハンターの者です。詳しくお話ししてもらえますか?」

 

 「あ、あんたデビルハンターなのか!?しかも公安の……?頼む!娘を助けてくれ!」

 

 興奮する男を宥め、安心させてから私はデンジ君に悪魔の討伐をお願いすることにした。

 

 「デンジ君、急なお願いで悪いんだけどさ。この人の娘を助けるために悪魔の所に行って欲しいんだ。」

 

 「えええ、俺頼んだのうどんなんすけど……。てかなんで俺が行くんすか?」

 

 「大丈夫大丈夫、ちゃんと新しいうどん頼んであげるよ。

 デンジ君に行って貰う理由なんだけど、君のそのチェンソーの悪魔?に変身する力を確認したいからなんだ。君の力について、場合によってはこっちの方でも色々と対応しなきゃならないかもしれないからね。

 君にとって不満があるのは十分承知してるよ。君に本来こんな仕事をする義務はないからね。でも上手くこなせたらウチで……公安で正規のデビルハンターとして私と一緒に働けるよ。」

 

 私はデンジ君に向けて職の保証や私と一緒に働けることをちらつかせて、原作通りに討伐に向かうよう促す。デンジ君は美人好きだし、私は中身はともかくガワは滅茶苦茶可愛いマキマさんだからデンジ君も乗ってくれる……と思う。

 原作なら原作マキマさんと出会ったその瞬間に、デンジ君の公安就職は決まってて悪魔討伐に向かうのが割と自然な流れだったのだが、私としたことが……。

 一緒にデンジ君とお話しするのが楽しすぎて、公安にスカウトするのをすっかり忘れていたのだ!

 

 ポンコツすぎるだろ私!

 そこ忘れちゃダメでしょうが!

 

 

 

 「悪魔がよぉ……!」

 

 デンジ君が厳つい顔で言う。

 

 「うん」

 

 「女の子をよお!!さらうなんてよォ!!」

 

 「おお!」

 

 「んなこと許せないぜ!!デビルハンターとして許せるわけねえぜ!マキマさん!そこで待っててください!そん悪魔俺がマッハでぶっ殺してやるんで!」

 

 デンジ君は凄いノリノリで了承してくれた。

 

 「ありがとうデンジ君、すごい助かるよ!

 あ、でもねデンジ君。公安のデビルハンターは民間と違って、悪魔の討伐だけじゃなく確保も行ってるんだ」

 

 「確保……っすか?なーんか、めんどくさそうっすね」

 

 「確保っていっても別に凶暴な悪魔を生け捕りにする必要はないよ。話が通じて協力できそうな悪魔……君の友達だったポチタ君をイメージしてくれればいいかな?そういう友好的な悪魔を連れてきて欲しいって話なんだ。

 

 公安(だけに限らないけど)は君がポチタと協力していたように、友好的な悪魔と協力して活動してるんだ。だからもし森の中にいる悪魔が友好的な悪魔なら、無理に変身をして殺す必要はないよ。

 その悪魔が話が通じるなら説得して連れてきてくれれば、私が上手く解決してみせるよ。話が通じるなら、女の子を拐ったのにも理由があるかも知れないし、優しい悪魔なら助けてあげたいしね。

 まぁ……君が変身して戦う所を見られないのは残念だけどね。」

 

 「ポチタ……みたいな悪魔」

 

 「うん、でも悪魔は基本的に人間に敵対的だからね。友好的に見せかけて凶悪だったり、ヤバそうな見た目で見た目通りにヤバい悪魔がゴロゴロしてるのが現実だよ。

 ポチタ君みたいな優しい友好的な悪魔は少数派だね。君も非正規とはいえ、デビルハンターとして活動してたから分かると思うけど。

 今回の悪魔は明確に子供を拐ったって証言があるから、十中八九ヤバい方の悪魔だと私は思う。もしかしたら、君を騙そうとしていい悪魔のふりをして油断させてから君を殺そうとするかもしれない。

 判断はデンジ君に任せるけど……くれぐれも気をつけてね。」

 

 「うっす!つまり、よさそーな悪魔だったら生きたまま連れてくる!わりー奴ならその場でぶっ殺す!単純でわかりやすいっすね!任せてくださいよマキマさん!」

 

 そう言うとデンジ君はVサインをした後に森へ走りながら入っていった。

 

 

 よーし、じゃあ私も筋肉の悪魔にバレないようについて(ストーキングして)いくか!

 原作だとデンジ君は筋肉の悪魔をやさしい悪魔だと騙されて、痛い目に遭ってたからなぁ。

 じゃあなんで優しい悪魔云々の話をして騙されるリスクを増やしたんじゃいってなるけど、その話をしたのはぶっちゃけデンジ君の好感度稼ぎのためだ。デンジ君にとってポチタという存在はとっても大切な友達だ。そのポチタの存在を認めて、肯定してあげる事でデンジ君とより仲良くなれるだろうという打算が私の中にあってこの話をした。

 

 てかそもそも私、マキマ(中身別人の偽物だけど)も支配の悪魔だからね!デンジ君の中で悪魔=悪ってなると私の正体が万が一バレたとき、大変なことになる。別にバレなきゃいいんだけど、私ってほら、ポンコツだからさ……。隠し切れる自信がない。

 

 悲しい。

 まぁ原作ではデンジ君、筋肉の悪魔に騙された後も普通に勝ってたから大丈夫でしょう。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 大切なポチタを失い、公安のデビルハンターマキマに保護された少年デンジ。彼は張り切って森の中を進んでいた。

 彼の中にあったのは一つ。マキマの期待に応えることであった。

 

 (絶対に悪魔を殺すか連れてくるかして、マキマさんと一緒に働く!

 今までずっと汚ねぇとか臭いとか言われてきた。でもマキマさんはそんなこと気にせず優しくしてくれたし、俺の話も聞いてくれるし、その上滅茶苦茶いいツラしてて……好きだ。

 

 それにマキマさんはポチタのことを、ちゃーんといい奴だって分かってくれた。他の悪魔と違って優しい奴だって。

 ……もしもっと早くマキマさんと俺たちがあってたらどうなったんだろうな。マキマさんは変身とかできない俺にも優しくしてくれんのかな?

 でも……ポチタのことだけは助けてくれそうだな。もし俺たちがもっと早く会えてたら、今でもちゃんとポチタは生きれたのかな。……ポチタ)

 

 「ポチタ死んだの思い出しちまった…‥はあ……」

 

 デンジがため息をつき、うずくまると『あははは』という少女の笑い声が聞こえた。

 

 「「あ」」

 

 声の方に向かうと、女の子が小さなオレンジ色の一つ目の悪魔と戯れており、その女の子とちょうど目があった。

 

 「お願いです!この悪魔さんを許してあげて!」

 

 少女は続ける。

 

 「私のパパ……イヤなことがあると私を殴るの。

 今日も駐車場で殴られてたら……この悪魔さんが助けてくれて……!

 だからお願い!殺さないで……」

 

 少女が縋るような目でデンジを見つめる。

 デンジは先ほどマキマとの会話を思い出した。

 『君の友達だったポチタ君をイメージしてくれればいいかな?』『友好的な悪魔なら、無理に変身をして殺す必要はないよ。』

 

 (そっか……この悪魔はいい奴なんだな。マキマさんだって、ポチタみたいないい悪魔もいるって言ってたもんな。)

 

 デンジは少女に向けて笑顔を向けていった。

 

 「安心して大丈夫だぜ、そういうじじょーなら殺さねーからよ。

 俺も悪魔とダチだったからわかるんだ…悪魔にも気のいい悪魔がいるって。

 その悪魔が殺されないように何とかしてくれる人がいるからさ、俺について来てくれよ。

 親父さんとの問題も……多分その人が何とかしてくれると思うしよ。」

 

 デンジは明るく言った。

 『その悪魔が話が通じるなら説得して連れてきてくれれば、私が上手く解決してみせるよ。話が通じるなら、女の子を拐ったのにも理由があるかも知れないし、優しい悪魔なら助けてあげたいしね。』

 

 デンジの頭の中で、自信ありげで頼りになる表情を浮かべたマキマの顔が思い浮かぶ。

 

 (この娘が親父に殴られてて、それを止めるためにこの悪魔は攫った……。こりゃ十分ちゃーんとした事情だよな!

 マキマさんはめっちゃ優しいし、この娘も悪魔も助けてくれるはずだ)

 

 「あはっ……いいの……?」

 

 少女は安堵の表情を浮かべて尋ねる。

 

 「いいっしょいいっしょ!」

 

 「あはははは!」

 

 

 そうデンジが答えると、少女は笑いながらデンジの手を掴んだ。

 

 「あはは……」

 

 「あははハははハはハはハ

 あはははハハ八ハ八八八八ハハ」

 

 そう少女が高笑いすると、デンジは巨大な筋肉質の腕に持ち上げられた。

 

 「はい!俺の勝ち〜〜!」

 

 「はは……はあ?んじゃコリャア!?」

 

 先ほどまで小さかったはずの赤い一つ目の悪魔は、巨大で複数の目を持つ巨大な肉肉しい化物へと変貌しており、女の子は笑顔にも関わらず辛そうに頭部から血を流し苦しんでいるように見えた。

 

 「俺は筋肉の悪魔だから触れてる筋肉は自由自在ってわけ!」

 

 困惑するデンジは、頭の中でマキマの言葉を思い出していた。

 

 『今回の悪魔は明確に子供を拐ったって証言があるから、十中八九ヤバい方の悪魔だと私は思う。もしかしたら、君を騙そうとしていい悪魔のふりをして油断させてから君を殺そうとするかもしれない。』

 

 (クソ!クソ!クソ!マキマさん言ってたじゃねーか!言われてたのに騙されるなんて糞ダセェ!)

 

 「俺は筋肉の悪魔だから触れた筋肉は自由自在に操れるってワケ!お前に死ぬ前にいいもん見せてやるよ!」

 

 そう言うと筋肉の悪魔は掴んでいるデンジの腕に力を込めて捻り潰そうとした。

 

 「デンジ君危ない!」

 

 しかしその瞬間、どこからともなく長い鎖に繋がれた手錠が投げられて、筋肉の悪魔の両腕が鎖に絡められ、締め付けられた上で手錠が掛けられた。

 

 「な、なんだこの手錠!?ウデに力が入らない!?」

 

 筋肉の悪魔の両腕は、手錠で縛られた影響か力が抜け、デンジは解放されて地面に着地した。

 

 「その声は……マキマさん!?」

 

 「デンジ君助けに来たよ!でもまだ終わってないよ!気をつけて!」

 

 手錠の鎖の先を辿ると、そこには赤毛の公安のデビルハンター、マキマがいた。彼女は踏ん張りながら、手錠の鎖を引っ張りなんとか必死に筋肉の悪魔を拘束しているようだった。

 

 「ク、クソ女がぁ!今すぐ俺を離せぇぇ!邪魔しやがって!まずはテメェから先に捻り潰してやる!」

 

 筋肉の悪魔は身を捩りながら激しく抵抗し、マキマは徐々に引っ張られていく。

 

 

 「オイテメェ……俺を忘れてマキマさんに手出しすんじゃねぇ!」

 

 筋肉の悪魔から解放されたデンジは胸のスターターを引っ張り、チェンソーの悪魔へと変身する。

 

 「な、あ、へ?オ、オマエ悪魔だったのか!?なら協力しよう!だ、騙したこと怒ってるのか?

 お、お、お、落ち着け!ま、まずはこの女を先に殺してから話し合おう!」

 

 危機に陥り混乱した悪魔がデンジに交渉を持ちかける。

 

 「うるせぇ!こっちはマキマさんにオメーに騙されたクソダサいところ見られてイラついてんだよ!

 話し合う!?まずはクソ悪魔のテメェが死ぬのが先だぁ!」

 

      ギジャア!

 

 デンジのチェンソーがあっという間に筋肉の悪魔を切り裂き、バラバラに切断する。

 

 「シャア!ぶっ殺してやったぜぇぇぇ!

 で!話はあっか!?ねぇな!ヨォシ!」

 

 木っ端微塵になり地面に散らばった悪魔に対し、話はあるかと一方的に問いかけた後話を打ち切り、清々しい表情を浮かべるデンジ。

 悪魔を倒し、やりきった安心感からかデンジはふらついてしまう。

 

 (ヤベェ……フラフラする。そうか、変身する時身体切り刻むから血が出てて血が足りてねぇのか)

 

 デンジがそのまま倒れそうになる直前に、マキマは彼を受け止めた。

 

 

 「デンジ君大丈夫!?」

 

 「だ、大丈夫っす。そういえばマキマさんはどうしてここに?」

 

 「そりゃ君の活躍を見るためだよ。言ってたでしょ?君の力を確認したいって。

 待ってて、えっと確か……あった!はい、これ血。飲めば回復できるはずだから。」

 

 マキマはカバンからストローの刺さった輸血パックを取り出し、デンジの口元に持っていきそれを飲ませた。

 

 「……ごめんねデンジ君。ゾンビの悪魔と戦ったばかりなのに無理させて。変身するだけでこんなに血が出るだなんて想定してなくて。本当に痛そう……」

 

 マキマは申し訳なさそうに、悔しそうにポツリとつぶやいた。

 

 「大丈夫っすよ!俺は無事っす!マキマさんがあいつの動きを止めてくれたから俺無事なんで!ちょっと自分を切って貧血になったくらいなら……」

 

 「そう言う問題じゃないよ!」

 

 マキマは叫ぶように言った。

 

 「治るからって、傷がなくなるわけじゃない!苦しんだ事実は変わらない!

 変身するだけでこんなに血が出るだなんて、こんなに苦しそうだったなんて知らずに私は軽い気持ちで……。」

 

 

 

 徐々にトーンの下がるマキマの声、彼女の目から涙がこぼれ落ち、抱き抱えられるデンジの服を濡らした。

 

 「マキマさん……」

 

 ポチタ以外の誰かに心から心配される。それはデンジにとって初めての体験だった。誰かが自分のことを思って、泣いてくれている、大切に思ってくれる。

 デンジはどんな対応をすればいいのか、どんな顔をすればいいか分からなかった。

 

 「ん……んん」

 

 筋肉の悪魔に操られていた女の子が、うめき声をあげた。

 

 「……やべぇ、あの子のことすっかり忘れてた」

 

 「……。あぁ、そうだね。とりあえずあの子をお父さんの下に連れてかないとね。

 デンジ君、貧血の調子はどう?少し治った?」

 

 マキマは涙を袖で拭うと何事もなかったように取り繕い、デンジの体調を確認した。

 

 

 「は、はい!大丈夫です!」

 

 「そっか、それは良かった。それじゃあ行こっか」

 

 そう言うとマキマは女の子を担ぎ、デンジを連れてサービスエリアに向かった。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 デンジ君……マジで苦しそうだった。

 てか私は馬鹿か、変身する時に自分の体を切り刻んで痛いだなんて、作中でもはっきり言及してただろ。

 

 私は当然のことを忘れていた。人は傷付いたら苦しむ。

 漫画の中だと割とデンジ君の負傷とかは軽く流されてるけど、それは周りのメンツが特殊だからだ。パワーちゃんをはじめとする魔人、悪魔勢は元々人間と感性が違うし、血を飲めば回復すると言う性質上、負傷に関する認識が甘い。

 そして人間のデビルハンターだが、彼らも公安という民間で対処できない悪魔を担当する地獄のような環境にいるため、感性が一般とは違っている。我らが隊長岸辺先生曰く、『頭のネジが外れてるやつほど向いている』とおっしゃられている。

 そんな岸辺先生がおっしゃるデビハンに向いていなくて、デンジ君と交流のある常識的なキャラは公安対魔特異4課のコベニちゃんと荒井君ぐらいである。

 コベニちゃんはパワーちゃんが苦手で基本デンジ君のことを怖がってて積極的に関わらないし、荒井くんはサムライソード率いるヤクザの襲撃ですぐに死んでしまう。

 その結果作中内に常識があり、デンジ君が戦いでボロボロになっても身を案じる人が誰もいないのだ。

 そのせいで漫画の読者という視点では、この異常すぎる状況に気づくことが出来なかった。

 未成年の少年が戦いで、ボロボロになり四肢を欠損しようとも、どれだけ血を流そうとも、その事に対して特に気にせず話が展開していくという状況に……。

 漫画だからこそ、『そういうものか』と私は思ってしまっていた。だが現実としてこうはっきり認識すると、『そういうものか』では済ませない。

 

 1番の問題はデンジ君自体がこの状況を全く異常だと認識してないことだと思う。あの優しくて比較的に常識的(銃の悪魔関係を除く)な早川君ですら、デンジ君が戦闘でボロボロになるのを基本案じないのは、やっぱり当の本人であるデンジ君が全く気にしてないからだろう。

 デンジ君はヤクザの下でデビハンやってた時期に、金が足りなくて腎臓も目も睾丸すらも売りに出してるから、その分身体欠損に関する心理的な抵抗感が薄いのかも知れない。

 いやそれ以前に、今まで過ごしてきた環境が酷すぎて、自分がいかに異常な状況にいるかを把握できていないんだろう。

 でも……自分が異常な状況にいると自覚すること、それは今のデンジ君にとって果たしていいことなのだろうか。

 デンジ君はもう武器人間になってしまった。原作では、永遠の悪魔を皮切りにサムライソードやレゼ、そして各国の刺客たちに狙われることになる。

 そんな辛い未来が待ち受けているのに、今の状態が異常だと知ってしまうと、ただただ苦しいだけなんじゃないだろうか。

 

 私はどうすればいいのか、その答えを足りない頭で必死に考えながら森を歩き続けた。結局、どうすればいいのか結論は出なかった。

 

 

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