転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します 作:フィークス2号
「筋肉の……悪魔?」
「そう!オレ筋肉!契約して公安助ける!公安!公安の荒井助ける!マキマ様にそう言われた!あははは!」
荒井は目の前の悪魔の発言に困惑する。飲み会の最後の方で、デンジと話した時にその悪魔の話を聞いていたのだ。
話から荒井が想像した筋肉の悪魔は、女の子を操って騙して襲い掛かろうとし、その女の子すらも傷つけようとした下衆な悪魔であり、決して人様のために奉仕精神を見せるような悪魔ではなかった。
だが荒井を最も困惑させたのは、筋肉の悪魔が生きていることだった。聞いた話では筋肉の悪魔は死んでいるはずであった。だがこうして筋肉の悪魔は生きている。
「天童さん離れてください!こいつはヤバい悪魔です!デンジから聞きました……こいつは人を騙すだけの知能があります!」
荒井は筋肉の悪魔と天童の間に入り、腕を広げて天童を守ろうとした。
「荒井くん大丈夫ですよ。ウチ一応、君よりもデビルハンター歴は長いから簡単にやられませんって。
それにこいつが裏切ろうとしてても問題ありません、こいつは鎖に縛られてる。ただの鎖じゃない、マキマさんの悪魔の能力の鎖です。
だから何か企んでても、こいつは暴れられませんって。」
「そ、そうですか。すいません、取り乱しました。
……でも、オレが聞いた話だと筋肉の悪魔は死んだって話だったんですけど。」
「んー、報告だと『死ぬほど弱ってたけどギリギリ生きてた』って有りましたからね。そこら辺が伝言ゲームでちょいと変わって伝えられたんやと思いますよ?」
……伝言ゲーム。いやそんなずはない、俺は筋肉の悪魔を倒したというデンジから、その話を直接聞いたのだ。飲み会で絡んできたサメの魔人も、デンジが殺したと言っていた。
じゃあ、今俺の前にいるのは?荒井は目の前にいる、筋肉の悪魔を名乗る存在を見つめた。
「こいつは筋肉の悪魔ってくらいだから、君の筋力を増強してくれます。まぁ、こいつは元々死にかけだったから、強化できる筋肉量には制限があるけど。
それでもこれから契約する本命の悪魔が求めるスペックには十分届くはずですよ。」
天童さんは淡々と説明する。こうして俺の目の前に筋肉の悪魔がいる以上、おそらくデンジとサメの魔人の勘違いだろう。2人揃って勘違いするというのは珍しいことだが、決してそういうことが起こらないわけではない。
荒井は頭の中の疑問に対して、自分なりの答えを出して、目の前の悪魔に集中した。
「き、筋肉の悪魔、貴様は契約の代償として俺に何を求めるんだ?
お前の力を使うたびに、俺の寿命をやるとかか?」
荒井は毅然と質問しようとしたが、少し声が上ずっていた。
「対価は別になんでもいい!マキマ様に俺は助けてもらった!だから俺もマキマ様に恩返しする!お前を助ければそれが恩返しになる!
そうだ!お前が頑張って働けば、マキマ様が楽になる!お前がしっかり働くのが対価ってのはどうだ!?」
「あ、ああ。別に俺は構わないが……それでいいのか?」
「当然!代わりにしっかりとマキマ様のために働け!そうすれば俺もお前も上手くいく!あははは!あははは!あはははハハハハハハははは!」
狂ったようにマキマを崇め、どこまでも荒井にとって都合のいい契約を提示する筋肉の悪魔。
荒井は恐怖を感じ、自分よりベテランである天童に助言を仰ごうとした。
「え、何これ?怖〜……。ウチめっちゃマキマさんのこと怖くなったわ。」
だが、怯えていたのは天童も同じだったようだ。
そして最終的に荒井は『しっかりと働く』という甘すぎる条件で、筋肉の悪魔の能力を使うことになったのであった。
「いや〜荒井くん怖かったなぁ。筋肉の悪魔の見た目もそうだけど、マキマさんのこと崇めまくってるのがそれ以上に……。
あれってあの鎖のせいなんかなぁ?ウチ前にあの鎖で縛られたことあんねんけど、急に不安になってきたわ……。
ウチ大丈夫か?おかしくなってたりせえへん?」
「た、多分大丈夫だと思います。普段の天童さんのことは知りませんけど、筋肉の悪魔みたいに変な感じはしてないです。」
「そっかそっか、ありがとう。……念のために黒瀬にも、いやあいつも鎖で縛られとったな。じゃあスバルさんに普段のウチと比べて変じゃないか確認しとくか。
お、着いた着いた。今度はさっきみたいにホラー展開にはならんと思いますよ。いや、なかなかスプラッタな事が起きてるからさっき以上にホラーか?」
スプラッタという天童の発言に、荒井は少し恐怖する。といっても、さっきからずっと恐怖し続けている気がするが。
「ここが本命の悪魔の収容室ですか?」
「せや。なんでもわざわざここの悪魔が荒井君をご指名したとか……。
ほら、君のところのちっちゃい女の子、コビト……やったっけ?」
「コベニちゃんのことですか?」
「それそれ、なんでもその子を庇ったって話をここの悪魔が聞いて、それで君に興味を持ったらしいで?」
「……俺についての話を、その悪魔はどこで知ったんですか?」
「……マキマさんがその悪魔と雑談した時に、マキマさんが話したらしい。」
「……」
2人の間に沈黙が流れた。
「ま、まぁ前向きに考えましょう。マキマさんがなんかしとるんだったら、その悪魔もきっとやっすい対価で契約してくれますって」
「え、ええ、そ、そうですね。」
荒井は考えても仕方がないと諦め、収容室の中に入った。
そしてその収容室は部屋の奥半分が防弾ガラスで区切られており、ガラスの中は怪しげな色をした煙で包まれていた。
いや、それだけではない。部屋の中からバチッ!バチッという電気を流す音をはじめとした、さまざま異音がガラスの中から聞こえていた。
「この部屋は……一体?」
「ああ、いらっしゃい。えーと、あんたが荒井ヒロカズ君……であってるよな?」
「え?あ、ああ。俺が荒井だ。」
部屋の中から声が聞こえた。荒井はガラスの向こう側にいる声の主を見ようとするも、その姿はガラスの中を充満する煙で見ることができなかった。
「まず最初に自己紹介させてもらおうか。俺はガルガリ、暴力の悪魔だ。
わざわざ来てくれてありがとな、あんたが狐の悪魔との契約を解除されたって聞いてな。もしよかったら俺と契約しないか?」
「ぼ、暴力……!?」
荒井は咄嗟に身構えた。悪魔はその名が恐れられているほどに力を増す。暴力を恐れない人間など、この世にいるのだろうか?
「おっと待て待て。確かに割と物騒な概念の悪魔だが、別に俺は人を襲うのとか好きじゃないから安心してくれ。
むしろ暴力なんて好きじゃないぜ。ラブ&ピースだよな!ピース!」
「荒井君、安心してええで。この暴力の悪魔は、公安が捕まえてる悪魔の中でも理性的なことで有名なんや。」
「そ、そうなんですか。……質問なんですが、理性的な悪魔であるのなら、公安に協力してもらうことは出来ないのですか?
サメの魔人や血の魔人よりも落ち着いていますし、暴れ回って危険というような印象も感じません。
暴力というくらいなら弱くはないはずです。」
「あー、それはちょっと事情があってな。俺って今はこう落ち着いてるけどさ、元気がありすぎると暴れちまうんだわ。
そうならないように、この部屋を毒ガスで満たしたり、地面に高圧電流を流したりいろいろな方法で俺を弱体化して貰ってるけど、それが無くなるとな……。
そういう訳で、俺が直接外に出て戦うのは無理なんだ。すまん!」
暴力の悪魔は、自分が今とんでもない状況下に置かれてることをサラッと告白した。
「しかもこの暴力の悪魔はな?契約してその能力を使うと、その反動で入院する羽目になるんや。
戦わせられへんし、その上契約してもその職員は使い捨てになる。
そのくせコイツを収容するにも、アホみたいに高い設備が必要になって金ばっか嵩む。
だから今までタダ飯ぐらいで、気のいいだけの悪魔だったんやコイツは。」
「ハハハ、お嬢ちゃん手厳しいね。ま、事実だから反論できないだけどな。本当に悪いね。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」
笑いながら雑談する2人に対して、荒井は声を荒げて言った。
「暴力の悪魔を使ったら入院!?使い捨て!?俺はそんな悪魔と契約することになるんですか!?」
「ああ、大丈夫大丈夫!荒井君はさっき筋肉の悪魔と契約したんだろ?
俺の能力を使って入院する理由は筋肉を酷使しすぎるからだ。筋肉の悪魔と契約したなら、そこのデメリットはカバーできる。既にそのことは実験で実証済みだから安心していいぜ。」
暴力の悪魔は気さくに言った。
「いやー、これでようやく暴力の悪魔もタダ飯ぐらい卒業やな。これで暴力さんも気負いせずご飯を美味しく食えますね」
「あっはっは!俺元々この部屋にいるから飯とか食えないけど、まぁ罪悪感が無くなるのはその通りだな!」
「……普通の人みたいだな、まるで悪魔じゃないみたいだ。」
荒井は暴力の悪魔と天童のやり取りを見て、思わず呟いたのだった。
「おー、俺は割と感性は人間に近い筈だぜ。あんたの話を聞いて、他の人間みたいに普通にカッコいいって思ったしな。」
「お、俺の話?」
「ああ、聞いたぜ?咄嗟に同僚の女の子を二度も庇ったんだろ?それを聞いて、お前に興味を持ってな。
そういう優しくてカッコイイ人間には俺も長生きしてほしいから、契約を持ちかけたんだ。どうだ?弱体化しているとはいえ、あんたにとってこの力は有用な筈だ、悪い話じゃないだろう。
ま、あんたが別の悪魔と契約したいってなら諦めるが。」
荒井は少し悩んで結論を出した。
「わかった。暴力の悪魔、ガルガリ。俺はあんたと契約しよう。」
「ああ、よろしく頼むぜ。」
こうして、荒井ヒロカズは筋肉と暴力、二つの悪魔と契約することになったのだった。