転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します 作:フィークス2号
公安特異退魔4課所属のデビルハンター、早川アキは上司のマキマによって東京デビルハンター本部に呼び出されていた。
最近作られた実験的な部隊である公安特異対魔4課がらみであることは想像できていた。
早川から見たマキマの印象は、甘さが目立つ上司。無論優秀なことには変わりない、数多くの悪魔を討伐しているし、悪魔によっては敵対的で危険にもかかわらず確保することに成功した悪魔も存在している。
だが、彼女は身内の人間であるデビルハンターにも本来は敵であるはずの悪魔のデビルハンターにも甘い。
彼女はよく身内の人間デビルハンターに対してよく飲み会で奢ったり、相談に乗ったりしている。早川の恋人である姫野も自分と付き合う前、自分と付き合う方法を何度か相談していたらしい。
ただ、早川が少し不満に思っている点は悪魔や魔人のデビルハンターに対しても甘いところだ。早川は家族を全員銃の悪魔に殺された。だから当然のことだが、悪魔に対して嫌悪感を持っている。
無論、公安で働く悪魔や魔人達が十分な成果を出している以上、自分が咎める権利などないのは承知しているので姫野に軽く愚痴る程度に済ませている。
だが悪魔はどれだけ成果を出そうが悪魔だと早川は考えている、マキマが悪魔や魔人に対しても相談に乗ったり食べ物を奢ったり、プレゼントなどをしていると聞いた時違和感を覚えたものだ。
だが今では早川の中では、マキマは悪魔だろうと人間だろうと関係なく甘い上司という評価で落ち着いている。悪魔に肩入れしすぎていると思っていたが、敵対的な悪魔を見逃したりせずしっかりと討伐している以上、自分が過敏に反応しすぎているだけだろう。
彼女は悪魔も人間も敵でなければ分け隔てなく優しくする、そう言う女性なのだと理解した。
「あ、きたきた。紹介するよデンジ君、彼の名前は早川アキ。
デンジ君より三年先輩のデビルハンターで優秀なんだ。」
部屋に入ると、そこにはマキマと金髪のチンピラがいた。
「とりあえず私は手続きとか上司に説明とか色々するから、その間に早川君とパトロール的なことでもして時間潰しててよ。
多分これから早川君と一緒に、仕事するだろうし今のうちに親睦深めといてね。」
「え……?マキマさんじゃなくてこいつと?」
「こいつなんて言っちゃダメだよ。早川先輩って呼ばなきゃ。
私は管理職で忙しいからね、これからは基本的に早川君と行動を共にするようになると思うから仲良くね。」
チンピラ風の男が、マキマと仕事ができないという話を聞いて狼狽える。
早川はこのチンピラ風の男に対して、早くも見切りをつけていた。
「お前とマキマさんじゃ格が違う。見回り行くぞ」
「やだー!マキマさぁーん!」
子供のように駄々をこねるチンピラ。大方マキマに優しくされて、何も考えずにデビルハンターを志したのだろう。遅かれ早かれ逃げ出すか死ぬか、万が一実力があっても民間に行くタイプの人間だろうと早川は感じた。
「デンジ君ファイトー!デンジ君の働きぶりが良ければきっと一緒に仕事できる時間も増えるよ!だから頑張ってね」
「頑張りまぁす!」
元気よく返事をしたデンジと呼ばれた男はそのまま引き摺られて部屋からアキと共に退出した。
とりあえずアキ君に頼むところまで終わったぞ!あとはデンジ君について上に報告して、アキ君にデンジ君の面倒を見てもらえるよう説得するだけだ!
ぶっちゃけ最後のアキ君の説得が滅茶苦茶ハードルが高い。原作では真マキマさんがアキ君を支配の力で洗脳してたから上手くいってた。でも私はその洗脳の力をアキ君には使ってない。
悪魔とか犯罪者とかには使うことはあるけど、少なくともそうじゃない人に使うことは滅多にない。
理由は簡単、個人的にそういう力を使うのに抵抗があるのと、岸辺先生が怖いからだ。
原作では公安襲撃編の際に、真マキマさんと岸辺先生が話をしてるシーンで、露骨に岸辺先生はマキマさんを敵視していた。そして刺客編に至っては真マキマさんを暗殺するメンバーにクァンシを勧誘しようとしていたし、物語終盤のマキマ編に至っては対マキマ班なるものを率いて真マキマさんにカチコミを仕掛けていた。
怖すぎる!怖すぎるわそんな展開!
原作の真マキマさんならともかく、偽マキマさんが生き残れるわけがない!
どういう経緯で岸辺先生がマキマ絶対殺すマシーンと化したのか、私にはわからない。
真マキマさんが公安メンバー襲撃をあえて見逃す、もしくはヤクザに公安を襲撃するように仕向け、岸辺先生の弟子とかを死なせまくったからキレたのかも知れない。あるいは支配の力で洗脳しまくって味方を増やしまくる真マキマさんを警戒したのかも知れない。
ポンコツな私には、心当たりこそ浮かべども、岸辺先生がブチ切れるラインがさっぱりわからないのだ。なので私は、原作で岸辺先生が洗脳の力を乱用することでブチ切れた可能性を考慮して、あまり洗脳を使っていない。まぁ、仮に岸辺先生が許したとしても、それを使って罪もない人の心とか記憶を弄るのは気が引けるしね……。
実は私は、この死屍累々のチェンソーマン世界で生き残る為に、岸辺先生に鍛えて貰ったことがある。無論、デンジ君やパワーちゃんと違って不死身でも半分不死身でもない為、手加減はしてもらった状態だった。だったんだけれども、それでも私はボロボロに負けまくった。あの時ほど自分のポンコツ具合をハッキリ自覚した時期はない。
あの岸辺先生にビビらず普通に話せてる原作の真マキマさんマジパネェっす。
原作の真マキマさんはどういうわけか、日本の総理大臣との契約で実質全日本国民を残機扱いできるようになっていた。
けど私はそんな凄い契約なんて結べてない、日本の終身刑以上の囚人を残機扱いできるレベルの契約だ。いや、それはそれで十分凄いしやばいんだけども……。
その程度の残機じゃ、岸部先生1人相手でも全囚人を1日で殺され尽くされる未来が見える。いや、半日持つかどうか……。
とにかく、私は岸辺先生を刺激しない為にも支配の力でアキ君にデンジ君の面倒を無理やりみさせる気はない。
どうにかしてアキ君にはデンジ君と同居して擬似家族になって、早川家三人で幸せな日々を過ごしてほしい。
でも私……そこまでアキ君に好かれてないんだよなぁ。アキ君は初期の頃割と悪魔嫌いだから、悪魔と仲良しこよししてる私にそこまでいい印象持ってないっぽい。まぁ、最悪姫パイこと、姫野後輩にも協力して一緒に頼んで貰おう。
そして私は、デンジ君が公安に入るために必要な書類を整理しつつ、支配の力で小動物の視界を借りて、デンジ君とアキ君の初顔合わせを覗き見するのだった。
路地裏で2人の若者が喧嘩をしている。1人はタックルやフックなどの多彩な攻撃を披露し、もう一方はひたすらに金的を繰り返している。
「あのなぁ!お前あれだろ、マキマに優しくされて勘違いした口だろ!」
アキは息を切らしながら言う。
「ああ!?んだよ!なにが言いてぇんだ!」
「言っとくがなぁ、あいつは別にお前だけに優しいんじゃねぇ。あいつは誰にだって優しくしてんだよ。自分に気があるとか恥ずかしい勘違いして、このままこの仕事続けてたら後悔するぞ!」
「どう言うことだよ!」
会話をしながら、2人は攻撃を続ける。
「マキマのやつは甘ちゃんなんだよ!それこそ相手が悪魔だろうと優しくするような!
お前一度でも異性として好きだとか言われたのか?ねぇだろ!」
デンジはその言葉を聞いて、少し心が揺らいだ。今までマキマさんは自分のことを好いていると思っていた。男としてみているかはともかく、少なくとも1人の人間としては好まれてると確信していた。
しかし、マキマは誰にでも優しいと言うアキの発言を聞いて、不安になったのだ。
「図星みたいだな……。」
「ああ〜。確かにまだマキマさんの口から言われてねぇな。
だったら話は簡単だ!テメェをボコして!マキマさんにあって!直接好きだって言って貰う!
言ってもらえなかったら言ってくれるまで活躍して、言って貰えば問題なしだぜぇ〜!!」
そう言うとデンジはアキの急所に、渾身の蹴りを叩き込みアキを倒した。
「やべぇ……やりすぎた」
「ふ、2人ともだいじょうぶ!?」
私は支配の力で覗き見してたので、何が起こったのかを知っているが、知らない体で尋ねた。
「先輩が金玉の悪魔にたま襲われました」「ごめんデンジ君なんの悪魔かもう一度言って」
「ウソです……こいつの嘘です……」
「……色々あったみたいだね。」
取り敢えず私は苦笑いで誤魔化しておく。
「実はデンジ君についての対応が決まって、新しくアキ君に面倒を見て貰うことに決まったんだ。」
「?」
「このチンピラをですか!?ウチにはめんどくさい奴らがただでさえ多いんですよ?これ以上俺の負担を増やそうとしないでください!」
アキ君は全力で拒絶する。そりゃそうだ、さっき喧嘩したばっかの気に食わない相手を自分の隊に入れたくはないだろう。でも部隊に入れるだけじゃなくて、その上これから同居もしてもらいたいんだよなぁ……。しかもパワーちゃんと一緒に。
「彼は戦闘面において、決して負担にはならないよ。彼は今まで非正規のハンターとして活動していて十分な実績があります。
彼は昨日、トマトの悪魔を倒した。復活して、二次災害を起こさないよう、依頼主に適切な死体の扱い方も指導しながらね。
そして昨日の夜、いや今日の未明と言ったほうがいいかな?彼はゾンビの悪魔とその悪魔に率いられたゾンビ達を全て討伐した。少なくともその悪魔が率いていたゾンビはね。」
「ゾンビって……マキマさんがわざわざ駆り出されたあの?」
「そうだよ。デンジ君が倒してくれたおかげでこんなに早く帰れたんだ。
そして今日の昼前、彼は筋肉の悪魔を討伐した。その時はちゃんと私もいて、ちょっとだけ手伝ったけどね。」
アキ君のデンジ君を見る目が明らかに変わった。そりゃそうだ、たった2日の間に三体も悪魔を討伐したんだ。しかもそのうち一つはわざわざ上司である私が駆り出されるレベル。
その上で、彼はアキ君と喧嘩した上で勝利した。どう考えても強いし、タフ過ぎる。
よかった、アキ君もデンジ君に興味を持ったみたいだ。アキ君は銃の悪魔を殺したがっている。その為にはとにかく、強い仲間が必要だ。実際原作ではデンジ君が銃の悪魔を倒すのに必要だと考え、永遠の悪魔戦で庇って傷を負った。敵からの攻撃じゃなくて、仲間からの攻撃で庇ったんだけどね。
しかし、姫パイからのアドバイス参考になるわ!アキ君にデンジ君の面倒見させるのにどうしたらいいかと尋ねたら、『デンジ君の実力を素直に教えてあげればいい』と言われた時は目から鱗だった。少し考えればわかることなのに、悩んでたのがアホらしい……。やっぱポンコツだわ私。
「コイツ……一体何者なんですか?」
「昨日まではただの非正規デビルハンター。
でも今は違う。彼は……」
私は少し間を空けて、溜めてから言った。
「『武器人間』。人でありながら、チェンソーの悪魔の心臓を宿した『武器人間』だ。」
「『武器人間』……マジっすか?」
「うん、今日私がこの目で確認した。といっても変身の際にデメリットがある。自らの体を切り刻みながら変身するんだ、そのせいで体に激痛が走るし血を消費する。
まだ分からないことが多いけど、取り敢えず悪魔や魔人の子たちと同じように、回復用の血を常備しておくべきだね。
無論持ち運べる回復用の血にも限りがあるし、無駄に変身させるのは避けたほうがいいかもしれない。」
少しアキ君は考えてから、溜息をついて言った。
「わかりましたよ、マキマさん。
マキマさんの言う通り、コイツはうちの部隊で面倒見ます。」
「ありがとうアキ君!
……申し訳ないんだけど、部隊だけじゃなくて家でも面倒見てもらえるかな。」
「え?」
「いや武器人間はすごい貴重だし、上の方も結構注目しててさ。
頑張ったんだよ?頑張ったんだけど……それでも公安辞めたり違反行動したら殺すって言われて……。」
アキ君が心配しながらデンジ君を見る。そしていまいち飲み込めてないデンジ君が質問した。
「それって……どう言うこと……?」
「……少なくとも私が出世して、上の人たちを黙らせて、デンジ君を守れるようになるまでは公安で頑張ろうってことです。」
そのあと私は、デンジ君に公安で仕事をするのに必要な書類をこなすように指示したり、ルールや規則などを説明し終わって別れることになった。
その際デンジ君が思い出したように私に尋ねた。
「あっ!すいませんマキマさん!聞きたいことがあるんすけど!」
「ん?何かな?仕事とかルールでまだ分からないことがあるならバンバン聞いちゃって」
「いや仕事とかルールとかも分かんないんすけどそれはどうでもよくて……」
「よくねぇよ」
アキ君が突っ込む。
「あの、俺のことす……」
そう言いかけてから、言い淀み、デンジ君が口を再び開いた。
「好きな人のタイプとかってあります?」
私は少し考える仕草をしてから答えた。
「うーん、元気があって」
「元気……」
「強くて」
「強い……」
「かっこよくて」
「カッコいい……」
「デンジ君みたいな人かな」
「デンジ君……?」
「俺じゃん……」
嘘は言ってない。私が好きなのは、元気で強くてカッコいいデンジ君なのだから。
いやデンジ君が元気なかったら全力で慰めるし、強くなかったら死ぬ気で守るし、カッコよくないとしたらそれはカワイイということなので全力で萌えるけどな!
よく考えたらデンジ君は好きだけど、デンジ君みたいな人は別もんだからそこまで好きじゃないや。ラーメンは大好きだけど、なんかラーメンっぽいソーメンのことはそこまで好きじゃない感じで。
てかアキ君が私とデンジ君のことをガン見してる。超見てる。目力で穴を開けられたら、とっくのとうに私とデンジ君に穴が空いてるよ。私とデンジ君でお揃いだね!
ちなみにアキ君とデンジ君が2人で帰る時、デンジ君が『マキマさんまたもう一回抱きてえなあ』とか言ったせいでアキ君の中での私の評価が、未成年に手を出す性犯罪者にまで落ち込んだ。誤解はすぐに解けたけどマジでビビったわ……。