転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します   作:フィークス2号

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銃編
43話 作戦の後に


 

 

 

 

 世界からの刺客である不死身三兄弟、クァンシ達を捕縛して、サンタクロースを撃破した公安。

 圧倒的な成果を出したにも関わらず、東京デビルハンター本部ではその功労者であるマキマは憂鬱そうな顔をしていた。

 

 「おう、入るぞ……。辛気臭い顔してるがどうした?」

 

 部屋に入った岸辺は、マキマに近寄り声をかける。

 

 「ああ、岸辺先生。ちょっと今回の件で憂鬱な気分になってまして……。」

 

 「憂鬱?いつものように大成功だったと思うが?」

 

 「冗談やめてくださいよ……。今回は人形の悪魔により、少なくない犠牲が出ました。港の職員達……彼らは本来私たちが守るべき一般人だったのに。」

 

 そう言うとマキマはため息を吐いた。

 

 「お前何年デビルハンターやってるんだ?……いや、ここ最近はお前が絡む作戦だと死者はほとんど出てなかったな。

 特異4課も退職者は出しても死者は出さないことで有名だった。」

 

 「ええ……。私は他のデビルハンターのみんなみたいに頭のネジが硬い部分があるんです。そこを悪魔の力などのゴリ押しで、カバーしてなんとかやってきた感じですからね。

 こういう死者が出るとメンタルがやられちゃうんですよ。」

 

 「公安職員じゃなくて、全然関係ない人間でもか。」

 

 「ええ。公安職員だったらもっとダメージやられてますけどね。

 囚人や敵の犯罪者なら容赦なくいけるんですけど……。まぁ、そうやって容赦なく死なせられる人がいる時点で頭のネジは外れてないわけじゃないんですけどね」

 

 「……そうか。なぁ、マキマ。お前は公安やめたいか?」

 

 そう聞かれたマキマは驚いた顔をする。

 

 「え?うーん、苦しいけどやめたいわけではないですね。

 姫パイにアキ君、それにデンジ君達がいますし、なにより頼りになる先生がいますからね。

 ……でもデンジ君と結婚して寿退社したい!ってのはあります!」

 

 「……やれやれ。未成年に手を出すんじゃないぞ。」

 

 そう言われたマキマは焦りながら目を逸らし、わかりましたと頷いた。

 

 「……お前もう手を出したのか」

 

 「お、落ち込んでて胸をちょっと揉ませただけなので!許して!許してください!岸辺先生!」

 

 そのあとマキマは必死に、岸辺先生に対して拝み倒したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公安のある取調べ室。その部屋にてクァンシと岸辺、そしてスバルの3人だけが部屋の中にいた。

 

 「わざわざ私を女達から引き離してなんのようだ?岸辺」

 

 「なに、あの時のデパートの続きだ。お前にはマキマが万が一暴走した時の、備えになって欲しい。」

 

 「そういうことや。まぁ、そんなこと言うても、マキマと戦ってくれる人なんてほとんどおらんのやけどな。頼れそうな部下二人はしっかりマキマに入れ込んでもうたしなぁ。

 肝心のマキマも暴走するかわからへんし……。てかあのマキマが暴走するところが想像できへん。」

 

 それを聞くと、クァンシはため息をついて答えた。

 

 「私を懐柔しようとするのか?あのマキマに情けなく降伏した私を?」

 

 「ああ、口でなんでもすると言ったからって、本当に従うような女じゃないだろうお前は。」

 

 「ふん……まぁいい。ところで……暴走と言ったが、岸辺。お前はマキマの何を恐れてるんだ。」

 

 そう尋ねられた岸辺は少し間を置いた後に答えた。

 

 「そうだな……俺は今まであいつが何か企んでるんじゃないかと、不安に思い色々と考えを巡らせていた。だが調べた結果、その線はないとわかった。だがその一方で、俺は新しいもう一つの恐るべき可能性に気づいたんだ。

 

 その可能性は。あいつにとって「犠牲になっても良い存在」の範囲が広がることだ。

 あいつは他人を3種類に分けている。

 1.守るべき大切な仲間。

 2.仲間ではないが、力の限り守らなくてはいけない一般人。

 3.守る必要がないし犠牲になっても良い存在。

 3を具体的に言うと、『人間の犯罪者』『囚人』『人に害をなす悪魔や魔人その他諸々の敵』だな。

 ここで重要なのは3の存在だ。マキマは死刑囚を平然と契約の対価に使用するし、敵対したヤクザなどを仲間を守るために躊躇なく殺したりする。

 あいつは基本優しい人物だが、3に分類される存在に対してはその優しさを一切向けない。むしろ逆に、1と2を守るために積極的に利用し犠牲にしているくらいだ。

 俺が最近確信した、マキマの考え方がこれだ。」

 

 その説明を聞いたスバルは岸辺に尋ねる。

 

 「なるほど……それで3の範囲が広がるってのはどういことや?」

 

 「あいつはな。頭がイカれているようで、そんなことなく案外繊細なんだ。

 もし大切な仲間を大勢失ったりした場合、怒りの矛先が敵である3に向かうだろう……。そしてその3の存在が、個人や少数の犯罪組織じゃなくて……国家だったら?」

 

 それを聞いたクァンシは冷や汗を流しながら言う。

 

 「なるほど……岸辺、お前は銃の悪魔討伐の際に出る犠牲のマキマの怒りが、米中ソの国家とその国民に向けられることをお前は恐れてるのか。」

 

 「そうだ、俺が恐れてるのはそれだ。マキマが米中ソの3カ国の市民を3に分類し始めることだ。

 それが俺の考えるマキマの万が一の暴走だ。」

 

 スバルはタバコを一服し、椅子に大きく寄りかかりながら答える。

 

 「うーん、確かにマキマちゃん死刑囚とかに容赦しないからなぁ。

 外国人に対して死刑囚みたいな扱い始めたら、それは酷いことなるで。」

 

 「ああそうだ。最悪、二度目の世界大戦が起こるかもしれないな。

 無論、そんなことを望む奴はいないし、マキマにそんなことをして欲しい奴もいない。

 マキマの企みを止めるという考えで今まで動いていたが、その必要性は薄そうだ。しかしだ、マキマが万が一暴走したとしたら?マキマの力は絶大だ。万が一だとしても抑えるためには人手がいる。

 その手始めの人員としてクァンシ、お前に参加してもらいたい。どうだ?」

 

 少し考えた後、クァンシは岸辺の目を見つめて言った。

 

 「まぁいいさ。岸辺、私もその矛先を中国人ということで向けられるのはごめんだからな。

 バディのよしみだ、協力してやるよ。」

 

 こうして、クァンシは岸辺に協力することを宣言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある昼下がり、公安デビルハンター本部の屋上、一人のデビルハンター、コベニが悩んでいた。

 

 そんなコベニに対して宮城公安のデビルハンター日下部が声をかけた。

 

 「コベニさん……なんか悩んでいるのか?」

 

 「あ、日下部さん……ええ。ちょっとこのまま公安を続けていくべきか迷ってまして。」

 

 それに対して日下部はため息をつきながら答えた。

 

 「ああ、そうだろうな。実際私もあの闇の悪魔との遭遇は辛かった。運良く、あの場にいた全員の腕は手術で繋がった。

 だがそれは永遠の悪魔のおかげという部分もあるし、最悪両腕を失ってもおかしくない状態だった。

 いや……むしろ両腕を失うので済めば奇跡。死んでるのが普通の状況だった。それくらいのピンチだったからな」

 

 「え!?あの時ってそんなにやばかったんですか!?」

 

 「え?」

 

 日下部の言葉を聞いたコベニは露骨に青ざめた。

 

 「えーと、君は闇の悪魔戦での力不足について悩んでいたんじゃ……」

 

 「い、いえ……私は自分の車がぶっ壊されちゃったことを悩んでました。

 私たち……生きてる方が幸運だったレベルって……そんなにやばかったんですか!?

 ……やめます……この仕事……やめます!」

 

  引き留めようとしてトドメを刺してしまった日下部。彼はこほんと咳払いをして会話を続けた。

 

 「そ、そうか……。まぁ仕方がない。あんなことがあればな……。

 ところで車についてなんだが、被害の申請とかはしたのか?

 マキマさんのことだからきっと、補填のお金を出してくれると思うぞ?」

 

 「ほ?本当ですか!?日下部さんありがとうございます!教えてくれて助かります!」

 

 コベニは明るい顔をして、日下部に返した。

 

 「よかった……これで家族の送り迎えに使う車がまた手に入る」

 

 「ほう?その様子だと家族と仲はいいのか?」

 

 「……いえ、仲のいい妹がいたりしますが、両親とはあまり……。いえ、かなり悪いです。

 兄の学費を稼ぐために、デビルハンターか風俗かの2択を迫られたりして……。」

 

 「……そうか。そういう家族もあるのか。」

 

 日下部はしんみりと言った。

 

 「日下部さん……日下部さんにはどんな家族がいらっしゃるんですが?」

 

 「どんな……どんな家族か。そうだな、君の歳に近い親戚の子がいるな。まだ高校生で、デビルハンターに憧れを持っている女の子だ。その子は私に憧れてくれているんだ。

 だから……私はその子の為にも、もう少しだけこのデビルハンターを続けてみることにするよ。」

 

 日下部はコベニに微笑んでいった。

 

 「そうなんですか……日下部さん、頑張ってくださいね!」

 

 コベニは日下部に微笑み返した。


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