転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します 作:フィークス2号
「わざわざ僕を呼び出すなんて珍しいね。一体どうしたの?」
気怠げそうに天使の悪魔、エンジェル君はマキマの執務室で尋ねた。
「重要な話があるから呼び出させてもらってね。
人目がある場所だと困るから。」
エンジェル君を呼び出したのは、これから起こる銃の悪魔戦を見越しての大事な話があるからだ。
「……やっぱり銃の悪魔討伐絡み?」
「うん、そうだよ。」
エンジェル君はそれを聞くと身構えた。
「ふーん。それで……マキマは僕に何をして欲しいの?」
「いや、天使君がするんじゃなくて私がするんだ。」
そう言うとマキマは小箱を取り出して、天使に渡した。
「この小箱は?」
「私の肉片が入ってる。もし私が銃の悪魔との戦いで死んでも、この小箱の中の肉片を食べれば、自分の能力を制御できるようになるよ。」
天使はそう言われて驚いた。もしこの中にある肉片を食べれば、天使がマキマや公安に協力する必要がなくなるのだから。
「ええっと……。いいの?」
「うん、今まで天使君は真面目に公安に協力し続けてくれたからね。」
「これ受け取ったら、逃げ出して銃の悪魔戦に参加しなくなるとは思わなかったの?」
「うーん。思うけど、やっぱりそれを決めるのは天使君であるべきかなって。
真面目に働いてくれてたんだし、大切な友人もいる、そんな悪魔を無理やり銃の悪魔の討伐に向かわせるのはよくないしね。」
マキマは笑顔で天使に向けて言った。
「本当にいいの?僕は死にたくないから、不参加を選ぶよ?
上の人たちにはどう説明するつもりなの?」
「ふっふっふっ。それについては人外職員取り込み政策の一環として、説明するよ。
『今後公安に雇われる人外職員は、銃の悪魔を倒すほどの功績がないと自由になれない。そう認識されては人外職員集めに支障が出る。だから銃の悪魔討伐に関わってない人外職員にも、十分な報酬を与えることで、今後公安に入る人外職員の心理的なハードルを下げる。』
こんな感じで説明するよ。
天使君は今まで真面目に仕事を務めてくれたしね。上の人たちを納得させるだけの功績はあるから気にしなくていいよ。」
それを聞いた天使は少し思案した後、ため息をついて言った。
「本当にマキマは口も頭も回るね。ポンコツなのと頭がいいの、どっちが本物かわかりゃしない。」
「ポンコツなのが本物だよ。ポンコツな頭で必死に考えて思いついた言い訳だし。天使君の功績があるからこそ、この言い訳が作れたんだよ。全部天使君の手柄だよ。」
「全く、人を褒めるのが上手いね。……銃の悪魔討伐は不参加にするよ。
でも、そのための武器作り。それには協力する。銃の悪魔が居なくなれば、その分悪魔に殺される人は少なくなるし、僕の武器で生き残れる職員も増えるかもしれない。」
「天使君……ありがとう。」
天使が自発的に武器作成に協力を申し出た事に対して、マキマは笑顔で感謝した。
東京都内にあるカフェ、丸福コーヒーにて岸辺と早川アキはいた。
「はいニャンボちゃん。」
そういうと岸辺は早川家から預かったケージに入った猫、ニャーコを渡した。
「……ありがとうございました」
早川は岸辺のニャーコに対する渾名から、岸辺本人がニャーコを預かっていた事を察して驚きつつも、早川はニャーコを受け取った。
「墓参りはどうだった?」
「悪魔と戦うよりも疲れました。今年は姫野が仕事で来れなかったから、静かになると思ってたんですけど。デンジとパワーのせいでいつもの2倍うるさかったです。」
「その割には嬉しそうだな。」
「20倍うるさい墓参りにならずに済んだので。あいつらもあいつらなりに成長してるんですよ」
早川は嬉しそうにそう言うと、二人がどう変わったのかを語り始めた。
そしてある程度語り終わった後、話は銃の悪魔に移った。
「岸辺隊長……俺たちが銃の悪魔と戦ったとして、どれくらい生き残れるでしょうか?」
「いつになく弱気だな。やはり闇の悪魔との戦いに思うことがあったか」
アキの声はとても静かで、憂に満ちた声だった。
「ええ、あの時はマキマが助けに来てくれたから誰も死にませんでした。
でもマキマが来なかったら?全滅していたっておかしくない状況でした。俺は手も足もでなかった。
俺たちが銃の悪魔と戦ったらどうなるのか……そう不安になりまして。」
「お前たちが戦った闇の悪魔は、銃の悪魔以上の存在だった。
力不足だと感じたのかもしれんが、気に病む必要はない。それに今回の作戦には4課だけじゃない、公安屈指の部隊が集まる。銃の悪魔相手にだって勝てるさ。
それに……そのお前が手も足も出なくて気に病んでる闇の悪魔、そいつから救ってくれたマキマだって参加するんだ。それじゃあ不安か?」
「そのマキマは信頼できるんですか?」
そう尋ねた瞬間、岸辺は静かにメモを取り出して筆談を始めた。
『マキマの話がしたいなら筆談で頼む』
アキは驚きつつも、筆談で応じた。
『何故です?』
『マキマは悪魔の力で小動物の耳を借りれるからな。おっと、メモも俺以外には見えないように気を使ってくれ。
俺は今、マキマが万が一暴走して人間に害をなした時に備える部隊を作っている。お前がマキマを疑うのなら俺の部隊に入るといい。
ところで……どうしてこのタイミングでマキマが信用できないと思った?闇の悪魔に助けられた直後なら、恩義を感じると思うが。』
『マキマがデンジの……ポチタのことについて色々隠しているからです。
そしてポチタの……チェンソーマン以外についても。
岸辺先生、クラカチットというものをご存知ですか?』
早川アキは岸辺にレゼとの戦いの後に説明されたこと、チェンソーマンとクラカチットなる存在との関係について語った時のことを話した。
チェンソーマンが望めば、そのクラカチットという恐ろしい爆弾が現実になるという話だ。
『クラカチットか……恐ろしい存在だな。』
『ええ、マキマは銃の悪魔討伐とは無関係でノイズになると言っていましたが。』
『マキマがお前にそう説明したなら、実際にそうなんじゃないかと思うがな。あいつの目的は仲間を守ることにある。
嘘をついていたとしても、お前を守りたかったんだと思うぞ。』
『岸辺先生はマキマを信頼してるんですね。』
『散々疑った後だからな。』
それを聞いた早川は驚いて岸辺の目を見た。
『そうだったんですか!?』
『ああ、レゼが暴れた時も市民を避難させて被害をゼロにして、対魔2課を全員ダメージを肩代わりした辺りで割と信頼した感じだ。』
『割と……完全に信頼した訳じゃないんですね。』
『あいつは意外とポンコツだからな。銃の悪魔討伐で仲間が死んで、その仲間思いの部分が悪い方向に発揮されるんじゃないかと少し不安でな。
俺が今作ってる対マキマ部隊は、復讐心でマキマがおかしくなったケースを念頭に作ってる。』
早川アキは岸辺の対マキマ部隊についての話を聞いて、改めて岸辺を見返した。
自分はマキマについて不信感を抱いても何もしていなかった。だが岸辺はそんな自分とは違い、自分が疑い始めるずっと前からマキマを警戒していた。そしてマキマの警戒を緩めた頃にようやく自分が疑い始めた。完全に周回遅れだ。
自分よりも遥かに優れたデビルハンターが、暴走しない限り大丈夫だと認めたのだ。早川アキはその言葉を聞き、安心した。
『わかりました……。岸辺先生は俺よりも遥かに色々考えてらっしゃったんですね。
ならマキマを無駄に疑うのはやめます。』
『疑うのは無駄じゃないぞ、おれの予想が外れてるかもしれんからな。で、対マキマ部隊に参加するか?』
『……対マキマ部隊が動くのは銃の悪魔討伐後なんでしょ?その頃俺は民間に行ってますよ。』
『ハァ……だよな。』
岸辺はため息をついた。
そして岸辺と話し合い、家に帰った夜中。早川アキは夢を見ていた。
大柄の悪魔がチェンソーを振り回し、何人もの悪魔を殺しまわっていた。殺し回っていた。殺し回っていた。ひたすらに殺し回っていた。
そしてその悪魔が殺した一体の悪魔の血が自分にかかった所で……早川アキは目を覚ました。
「未来の悪魔……姿を見せろ……」
右目を押さえながらアキは言う。
「未来最高!って言えば出てくるよ!」
「ふざけるな……今の夢はなんだ?」
早川アキは未来の悪魔に尋ねた。
「ふふふふふ……。あれはね、もうすぐくる未来だよ。銃の悪魔との戦い、その戦いで悪魔に最も恐れられる悪魔が地上に降臨するのさ。他でもないマキマの手によってね」
そう言うと未来の悪魔は姿を消したのだった。
一人残された早川アキ、その体は冷や汗でびっしょりと濡れていた。