転生したので、偽マキマさんはデンジ君を推します   作:フィークス2号

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8話 デンジ君へのお見舞いと月本さんとの契約

 

 

 日の傾いた警察病院の一室にて、1人の少年が目を覚ました。

 

 「ん……んん……マキマさん?」

 

 やっべ!デンジ君起こしちゃった!どうしよう……どうしよう。

 

 「あ、起こしちゃったかな?疲れてるのにごめんね。」

 

 私は起こしてしまったデンジ君に謝った。

 

 「あ、いや、別に大丈夫っす。どうせやることないんでただ寝るか、ここに置いてあるテレビ見るだけっすから。マキマさんはどうしてここに?」

 

 「デンジ君のお見舞いだよ、仕事で遅くなっちゃってごめんね。」

 

 「いや、きてくれるだけで超嬉しいっすよ。そういえばマキマさん、今日俺また悪魔倒しましたよ!」

 

 「聞いた聞いた!これで公安に入ってから2体目だね!いいペースだよ!」

 

 そして私はデンジ君の活躍を、デンジ君の口から直接聞いた。小動物の目を介して見てたけど、デンジ君の口から聞く戦いの話はそれに負けず劣らず、いやそれ以上に面白い。

 デンジ君の身振り手振りや、ちょくちょく挟まれるデンジ君特有の喋り方、デンジ節が小気味良くて結末や話の流れを知っていても、聞いてて飽きがこない。

 

 「そうそうマキマさん、パワーの奴夢バトルで野菜食わせるとか言ってたんで気をつけたほうがいいっすよ。……はぁ、夢バトル。」

 

 デンジ君は夢バトルの話になって、少し元気がなくなった。デンジ君的には、他のみんなと違って大きな夢を持っていないということを気にしているようだ。

 もちろん今のデンジ君はなにも夢を持っていないわけじゃない、女性の……その……胸を揉むという夢というか目標を立てているのだが、それでも偉い夢じゃないという自覚があるみたいでそこそこ悩んでいるようだ。今回の事件の話もデンジ君は恥ずかしいのか、自分の夢の内容についてはちょっとぼかしてた。

 

 「デンジ君、そんなに夢について悩まなくたって良いよ。

 確かデンジ君は少し前までは人並みの暮らしをするっていう夢を持ってたんだよね。」

 

 「ん……まぁ、そうっすね。もう叶いましたけど。」

 

 「でしょ?だったら胸を張ればいいんだよ!もう俺は夢を叶えてやったってね!」

 

 「そうっすか……?でも他の人に比べると、普通の暮らしを送るってその……ショボい気がして。復讐とか家族守るとか、そんな偉くなさそうっていうか」

 

 「でも、それはデンジ君がずーっと夢見てきたものだったんでしょ?ショボいか派手かなんて関係ないよ。

 それでも気になるって言うんだったら、『命を助けてくれた友達との約束を果たし続ける』。

 これから他の人に馬鹿にされたら、そう言ってやればいいんだよ!

 だってポチタ君とそう約束したんでしょ?デンジ君はポチタの心臓を貰う代わりに夢を見せ続けるって。ショボいショボくないだなんて言い方ひとつで変わっちゃうもんだよ。

 家族を守るだって結局は現状維持で何かを変えるわけじゃないし、復讐だって超悪くいえば嫌いなやつに嫌がらせしたいって事だし。」

 

 私は笑顔で言った。それを聞いたデンジ君は声を出して笑った。

 

 「ちょ、ギャハハ!マキマさん、嫌がらせってマジだ!ギャハハ!言われてみれば今のパワーの夢って超しょベーじゃん!」

 

 「確かに!でもパワーちゃんのことだからどんな手段で来るか……こりゃ私も気をつけないとね。」

 

 私との雑談でデンジ君は夢に関する悩みが吹き飛んだみたいだ。それからも私はデンジ君と話を続けて私の予定がギリギリになるまで話を続けた。

 

 

「デンジ君とお話しできてよかったよ。最後にお見舞いのプレゼントだけ渡して帰るね。」

 

 「プレゼント!!なんすかなんすか!?」

 

 デンジ君がすごいワクワクしながら聞いた。

 

  「はい、これ。すぐに退院できるかもしれないけど、暇つぶし用に買ってきたんだ。家でも時間があったら読んでみてよ。」

 

 「……本っすか」

 

 デンジ君が少し残念そうな顔をする。だがしかーし!本をプレゼントされても、そこまでデンジ君が盛り上がらないのは想定通りだ!デンジ君は読める漢字が少ないからね、そんなデンジ君でも大丈夫な本を私は用意したのだ!

 

 「はぁ……て、これ!漫画じゃないっすか!すげえ!」

 

 そう!私がチョイスしたのは漫画だ!デンジ君が読めるように小学生向けの漢字にふりがながついたタイプだ!しかも、ただの漫画じゃない。

 

 「えーと、『漫画でわかる日本歴史大全』に、『世界歴史大全』、『漫画なぜなに悪魔の知識』、あと『ワカッター!社会編』と『科学編』。こんなにいいんすか!?」

 

 私が選んだのは、子供向けかつ勉強になる学習漫画なのだ!デンジ君は原作で小学生向けの月刊漫画雑誌を読んでたし、教育番組だってみてるから気にいるんじゃないかと思って買ったけど、予想通りで安心した。

 

 「マキマさんありがとっす!いやマジでありがてェ!これが……マンガ……!」

 

 デンジ君は初めて読む漫画に大はしゃぎだ、そんなに喜んでくれるとこっちも嬉しくなる。

 

 「マキマさん、俺、これ絶対に大切にします!」

 

 デンジ君が本を抱きしめながら言う。

 

 「喜んでくれて私も嬉しいよ、ちょっと本の数が多いから、退院する時はうちの部下に車で運ばせるから、持ち帰りのことは気にしなくて大丈夫だよ。」

 

 私は笑顔で答えた。

 

 「ええ!?マジっすか!至れり尽くせりで悪いっすね」

 

 「いいんだよ、デンジ君は活躍したんだし。それじゃあしっかり休んで英気を養ってね」

 

 そう言うと私は病室から退室した。

 

 

 

 

 

 「マキマさん、その車で運ぶ部下って俺ですか?」

 

 付き人の月本さんが怪訝な顔で私を見る。

 

 「うん、明日は月本さんも予定空いてるよね。お願いしても大丈夫かな?」

 

 「空いてますけど……ま、いいですよ、マキマさんの頼みなら。」

 

 月本さんは笑顔でそう言ってくれた。

 

 「ありがとう、そうだ月本さん。ちょっとお話があるんだけどいい?」

 

 「ええ、いいですよ。なんです?」

 

 「ここじゃなんだから場所移そっか、長い話になるし。」

 

 そう言って私は警察病院の個室を借りて月本さんと話をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、マキマさん。話ってなんですか?」

 

 「……月本さん、単刀直入に言うけどこれから公安は襲撃を受けることになる。そしてその襲撃者は銃を使用してきて、大多数の職員が最初の奇襲で撃たれてしまうんだ。」

 

 

 私はもったいぶらずにこれから起こる運命を月本さんに伝えた。

 

 「……は?な、なに言ってるんですかマキマさん……じょ、冗談きついですよ」

 

 「冗談じゃないよ、これは事実だ。未来の悪魔の力で知り得た情報だ。公安対魔特異4課だけじゃない、1課も2課も、3課だって襲われる。そして人外職員、魔人や悪魔を除いてほとんど生き残らない。」

 

 実際私は具体的にどの日時で襲撃が起こるのかを把握するために、死刑囚を代償に未来の悪魔と契約した。

 

 「……………。」

 

 月本さんは何も言えずに、汗を流して黙り込む。困惑、不安、焦り、後悔、そして……恐怖。さまざまな感情が押し寄せているのだろう。私も悪魔に転生したおかげで、特に恐怖の感情はハッキリと感じられた。

 

 「……そ、それは、俺も襲われるんですか?その、その襲撃は防げないんですか!?」

 

 月本さんは救いを求めるように私に尋ねる。どうか生き残る術があってほしい、自分はどうにか助けてほしい。そう言う期待を込めて私に尋ねる。

 

 「うん、月本さんも襲われるよ。私と一緒に新幹線に乗っている時に刺客に何発も銃弾を私と一緒に撃ち込まれるんだ。腹も胸も、そして頭も撃ち抜かれるよ。」

 

 それを聞いた月本さんは顔が青ざめる。不安を煽って悪いけど、ここからさらに一旦絶望させて貰う。

 

 「この襲撃を防ぐ手立ては十分ある。」

 

 それを聞いた月本さんはごくりと唾を飲んだ。

 

 「でも私は防ぐ気はない」「何故ですか!?」

 

 月本さんは声を荒げて言った。そりゃそうだ、殺されずに済むかもしれないのにそんなこと言われたら冷静でいられる訳がない。

 

 「理由は簡単、ここで襲撃を防いでもすぐ次の別の襲撃が起こるんだ。襲撃犯はおそらく傀儡で、黒幕は別にいる。だから一旦襲撃させて言い逃れをできない状態を作ってから逆襲して次の手を打てないぐらいに叩き潰す必要がある。

 そうしなければ、公安は襲撃を防ぐことにリソースを割き続けることになって、最終的に体力が尽きてしまうからね。そしたら襲撃を防ぐどころか、最終的に悪魔の討伐にすら手が回らなくなるだろう。

 だから、ここで襲撃を受ける必要がある。」

 

 それを聞いて月本さんはがっくりと項垂れた。

 

 「マキマさん、俺は……いえ、私は……。」

 

 月本さんは必死に口から声を絞り出しながら言う。

 

 「悪いけど退職は受け入れられない、機密保持の為に今公安メンバーを辞めさせるわけにはいかないんだ。

 それに襲撃前にターゲットである公安を辞めても、何かの策略とかを疑って念の為に辞めた君を襲撃するだろうし辞めても意味ないよ。」

 

 私は念入りに月本君の逃げ道を防ぐ。悪いけど徹底的に追い詰めさせてもらう。私の計画を成功させる為には、月本君にも私の言うことにしたがってもらう必要があるからね。

 

 少しの沈黙が過ぎ去り、ようやく月本君は私に言った。

 

 「最後に聞かせてください、それは銃の悪魔を倒すのに役に立ちますか?」

 

 「立たないね。銃の悪魔が関わってるかもわからないし、この襲撃を防ぐ程度じゃあの悪魔を追い詰める決定打には到底ならないだろうね。」

 

 そう言うと月本君は絶望した顔をした。私の作戦はまずはここまではうまく行ったようだ。徹底的に希望をへし折り、絶望を突き付ける。

 そして、そこからだ。そこから希望を与えて、それに縋らせる。私が月本君を徹底的に追い詰めたのは、何も月本君が嫌いだからじゃない。むしろ関係が深い分、好きな人の部類に入る。

 だからこそ生きてほしいし、その為には私の思い通りに動いてもらう必要があった。私がやっているのは飴と鞭や、悪い警察といい警察に見られるタイプの交渉のテクニックだ。

 徹底的に追い込んだ後に、優しい希望を見せて、それで相手の心を掌握する。なんかこれDV彼氏みたいだな……。デンジ君に対して行ってるのも意図してないけど同じじゃないのか?そう考えるとすごい憂鬱になってきた。

 

 いや、今は月本君だ。とにかく月本君を説得するのに集中しよう。

 

 「でも、月本君。きみが無事に生き延びる方法が一つある。」

 

 それを聞いて、魂が抜けた表情をしていた月本君の顔つきが変わった。

 

 「ど、どうすればいいんですか!?」

 

 「悪魔と契約して、その襲撃の際のダメージを私に移すことだ。」

 

 「へ?」

 

 「もちろん、銃で撃たれた瞬間はすごく痛いだろうね。でもそのダメージはすぐに私に移るから、傷はすぐに治るよ。

 それとこのダメージを移す契約をするしないに関わらず、今している襲撃の話は悪魔の力で忘れてもらう事になるね。さっきも言ったけど情報漏洩が心配だから、君が襲撃を受ける直前まで身構えもできないから襲撃の際は相当辛いかもしれない。

 後ダメージを移す能力を持つ悪魔は、国家レベルでトップシークレットの悪魔だからどんな悪魔と契約したのか、それは襲撃が終わっても思い出せないようにさせて貰うよ。

 簡単な話じゃないと思うけど、今決めてほしい。少なくともここで契約すれば、一番死にやすい初手の奇襲とそこから10手ぐらいの攻撃は防げるはずだから、生存率は段違いだよ。……どうする?」

 

 私は一気に話して、月本君に迫った。私が話したの要するに、『これから悪魔と契約すれば、襲撃されても多分無事でいられるぞ。でも襲われるまでこの話のことは忘れるし、契約した悪魔については絶対思い出せないぞ』って事だ。

 死亡率100%から生存の可能性が生まれるのだ。月本君からしてみれば飛びつきたい話題のはずだ。

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。マキマさんにダメージを移す!?そんなことしたらマキマさんは……」

 

 あ、どうでもいい事に食らいついてきた。この話するとみんなここら辺に食いついて脱線するんだよなぁ。

 

 「それについては気にしなくていいよ。襲撃までに別の悪魔の力で撃たれても問題ないようにする予定だから。最悪その計画が失敗しても、私もその悪魔の力を使って、ダメージを喰らわないよう工夫するよ。」

 

 それを聞いて、少し落ち着いたのか深呼吸してから言った。

 

 「すいませんがそのお話、辞退させて頂きます。最近入った新人、荒井の奴はお袋さんの為に必死になって頑張ってるんですって。

 特に家族のためとかじゃなくて、ただデビルハンターへの憧れで入ったような俺なんかよりも、彼の方がよっぽど生き残るべきです。

 それに黒井の奴だって、マキマさんが新人を救ってくれたってすごい喜んでたんですよ……。『これでバディの伏さんも悲しまずに仕事できる』って。それであいつらが死んで俺だけ生き残ったら、あいつの喜びは一体なんだったんですか?じゃあなんであの新人は生き残ったんですか!?

 俺にはわかりません……。なんで俺が襲撃で死なないようにマキマさんに選ばれたのか……。 

 だから俺は辞退します。俺を生き残らせて、他の奴を死なせるぐらいだったら、俺を死なせてください。」

 

 月本さんが言う。

 

 「……?いや、別に誰も死なせるつもりないけど。」

 

 「え?」

 

 「ああ、ごめんまだ言ってなかったね。他の人と話すときはちゃんと言ってたんだけど、言うのが抜けてた。

 この契約の話は君にだけしてる訳じゃないよ。」

 

 汗水を垂らしながら月本さんが尋ねる

 

 「……それって、どう言う事ですか?」

 

 「私が1課2課3課4課の全員を回って、この契約の話をしてるって事です。

 なので襲撃の時はみんなのダメージが私に行って大変なことになるね。ハハハ……。」

 

 月本さんがドン引きの顔をしてる。

 

 「ごめんね。月本さんのことは大切だけど、だからといって月本さんだけを救うわけにはいかないんだ。だから契約できる人は全員助けさせて貰うよ。悪いね月本君、私にたった1人だけ選ばれた生存者じゃなくて。」

 

 「……マキマさん、それ大丈夫なんですか!?悪魔の力を借りるとはいえ、たった1人でそんな大勢のダメージを受けたら!それにそのダメージを無効化するための契約の代償だって!」

 

 私は胸を張って言う。

 

 「私は君の上司だよ?上司が体張るって言ってるんだ。部下である君はそんなこと気にせずドーンと任せておいてよ!

 まぁ……私も死ぬほど襲撃が不安だけどね。何せ全員のダメージがいくんだから相当痛いだろうし……。でも私は全体の状況を把握したり、いろいろ手回しが必要だから、襲撃を忘れるわけにもいかないんだ

 いやー、管理職は辛いよ全く。」

 

 私は笑いながらごまかす。

 

 月本君は少し考えてから言った。

 

 「わかりました、マキマさんには何度も助けて貰いました。

 私だけを守ると言うことでしたら、辞退して他の人を守って頂いた方が良いかと考えていました。

 ですがマキマさんがそう言うのであれば、安心です。恥ずかしい話ですが、また助けていただいてもいいですか?」

 

 「うん!大丈夫だよ。バーンと私を頼っちゃって!」

 

 私は胸を叩いて言う。

 

 「それじゃあ、その悪魔と契約させてください。と言っても……私に代償が払えると良いんですが。」

 

 「ああ、それなら大丈夫だよ。

 それじゃあ月本君、

 

 

 

 私と契約しようか。   」

 

 

 

 

 「は?」

 

 

 月本君はポカンと口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、運転お願いね。それと缶ジュースありがとう。」

 

 「……?」

 

 車で運転席に座る月本君が困惑している。

 

 「どうしたの?」

 

 「いや、別に、何か忘れてる気がして……。」

 

 支配の力で記憶を消したせいで、少し混乱しているようだ。

 ん?支配の力はなるべく使わないんじゃなかったか?同意の上で記憶を消すならノーカンノーカン!これくらいなら必要なことってきっとみんなも許してくれるよ!だからきっと岸辺さんも……許してくれるといいなぁ……。

 

 「え、あっはい。俺マキマさんに缶ジュース奢りましたっけ。」

 

 「いや、これは奢ってもらったんじゃなくて正当な対価として頂いたんだよ。ま、気にしない気にしない!」

 

 そう言うと私は、ダメージを移す契約の対価としてもらった缶ジュースを、チビチビと味わいながら飲んだ。

 

 

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