バトラーズ〜召しませお嬢様〜Sweet School of Life*** 作:夏憐
「ディナー」はそれはそれはスバラシイものだった。
10人ぐらいは余裕で座れそうな長いテーブルに、用意されたのは私の食事だけ。
壁際の燭台に火が灯って……それこそドラマでしか見た事ないような世界。
椅子を引いて座らせてもらうなんて、今まで経験したことなかったし……目の前のお皿の上のナプキンって……どうすんの?首から下げ……ないんだよね、確か。膝にかけるの?
ナプキン握り締めたまま固まってたら、横から右京さんが「失礼します」って膝にかけてくれた。
その後、「本日のディナーの説明をさせていただきます」って言われたんだけど……何とかプレ?……とか……ブッフ?……とか……キャル何とか……
すっごく丁寧に説明してくれてるんだけど、何がなんだか分からないし……。
それに一体何品あるの!?
もしかして「フルコース」ってやつなんじゃあ……?
思わず「今日は、なにかお祝いがあるんですか?」って聞いちゃったぐらい。
そしたら、「これが、大隈家では普通のディナーメニューになります」だって。
あれで普通!? ていうことは、毎日あれ!?
「ハンバーグに目玉焼き」で私は十分なのに。
それからも、スプーンを落としちゃったり、フォークで刺そうとして右京さんの服に飛ばしちゃったりして……
いたたまれないっていうか、本気で食事が喉を通らなくなっちゃって、ほとんど食べられないままゴチソウサマしちゃった。
右京さんには「もうよろしいのですか?」って聞かれたけど、「お腹一杯です」としか言えなくて……。
小鳥:
「ハァ……」
あの緊張感の中、毎日食事しなきゃいけないのかと思うと、さすがに落ち込みそう。
もうちょっと、気楽な雰囲気を作れたらいいのに―――
小鳥:
「せっかく美味しそうだったのになー……」
部屋まで送っていくと言う右京さんに「一人で戻れます!」って言って食堂を出てきたけど……。
??・7:
「……だ、誰かー!」
えっ?今の……なに?
??・7:
「……だ、誰かー!助けて……!」
廊下を歩いていると聞こえてきた誰かの叫び声?を探してたどり着いたのは。
……ここって大広間だよね。
───誰かいるの……?
まさか泥棒って事はないだろうけど……大きなドアを細く開けて中を覗くと、そこには大きな犬に押さえつけられて倒れている人が!
まさか、本当に泥棒!?だ、誰か呼ばなくちゃ!!
小鳥:
「だ、誰か……あのっ!」
龍哉:
「……杉浦……」
小鳥:
「えっ、あ、紫堂……弟さん?」
昼間、手の甲にキスされたことを思い出し、ひとりでに顔が赤くなる。
龍哉:
「その呼び方はつれないですね、お嬢様。どうぞ『龍哉』とお呼び下さい」
小鳥:
「いえ、それは無理デス」
は、恥ずかしい!!
今日会ったばかりの、しかも年上の人を呼び捨てなんて出来るわけないじゃない。
鉄太:
「無理やって。残念やったな、龍哉」
小鳥:
「藤……盛さんまで……」
鉄太:
「お、名前覚えてくれてたん?でもなーどうせなら『藤盛センパイ♪』とか『鉄太センパイ♪』とかって呼んでみーへん?」
龍哉:
「お前こそ、調子に乗るな」
鉄太:
「ぐはぁっ!」
うわっ。また脇腹に拳が……!
鉄太:
「お、本日2回目……って、紫堂兄弟のパンチは効くなぁ……」
小鳥:
「あ、あの……大丈夫ですか?」
龍哉:
「大丈夫ですよ、この通り鉄太は丈夫さが取り柄ですから」
そのわりに目に涙浮かべてるような……。
と、それより!この人たちは、どこから!?
私と同じように叫び声を聞いたからか、いつの間にか私の後ろから紫堂さんと藤盛さんが覗き込んでいた。
鉄太:
「あーあ……杉浦……またアレクに襲われてるわ」
龍哉:
「襲われると言うかなんと言うか……」
小鳥:
「あ、あのっ。あれはいったい……!」
鉄太:
「まぁ、よう見てみ?」
いったい、何が起きて───。
龍哉:
「あれはアルバイトの杉浦と言って、屋敷の番犬、アレキサンダーの世話をしているのですよ」
小鳥:
「はあ……そうでしたか……」
ドアを開けてよく見てみると、犬に襲われていたと思っていた人は襲われているんじゃなくて、その大きな体で圧し掛かられて顔中ペロペロと舐められていた。
どんな惨劇が起きているのか焦っていたぶん、なんだか気の抜けるような光景だわ……。
でも、今日ここに来て一番和ませてもらえたかも。
龍哉:
「おい杉浦、何をしている!」
祐樹:
「す、すいませーん。でも、アレク重くて……助けて下さいよー!」
鉄太:
「何やってんねん、お前はー」
祐樹:
「だって、こいつ暴れまわるし飛び掛ってくるしで、俺の言うこと全然きかなくって!」
言うことをきかないっていうより、遊ばれてるんじゃないかな……あれは。
祐樹:
「ああ、もう!アレク、いい加減おりろよ!重い!」
(ワンッ!)
祐樹:
「わんっ!じゃないってのー!紫堂センパイ、藤盛センパイ、見てないで助けてくださいー!」
小鳥:
「あはっ……」
やだ、なんだか可愛い光景……!おっかしい……!
龍哉:
「仕方ないな……アレク!Sit!」
祐樹:
「んなっ……!アレク、なんで俺が言ってもどかないのに紫堂センパイだとすぐどくんだよ……!」
それはきっとアレクが自分より偉い人が誰か、ちゃんと分かってるからなんじゃ……。
鉄太:
「おーい、いつまで転がってるん?」
祐樹:
「は、はいっ!はぁー助かりましたー……と、あれ?キミ……?」
小鳥:
「え……?あ!」
起き上がってっこっちを向いた杉浦って人は……教室で隣だった男の子だ!
「杉浦」って名前だったんだ。
龍哉:
「おや、お知り合いですか?」
小鳥:
「知り合いというか……隣の席の人で」
祐樹:
「はい、お隣さんの杉浦祐樹です」
鉄太:
「イバって言うこととちゃうやろ。つーか、お前はあっちでもこっちでも『お隣さん』作ってんのか?」
祐樹:
「えーいいじゃないですか、お隣さん。『人類みな兄弟』って言うし」
鉄太:
「ったく、その『お隣さん』になったせいで、俺はこんなアホに懐かれるハメになったちゅうのに……」
祐樹:
「『アホ』はひどいです、藤盛センパイ……」
ブーブー言う杉浦くんの頭をわしわし撫でてる藤盛さん。
可愛がられてるんだか、おもちゃにされてるんだか……。
でも───
小鳥:
「あはっ……ふふ……」
龍哉:
「あはは……『アホ』はいいね」
鉄太:
「そうやろ、そうやろ」
祐樹:
「もう、みんなして笑わないで下さいよー!」
龍哉:
「『アホ』じゃなかったら『ポチ』だ」
祐樹:
「俺は犬じゃないー!」
必死になってるところが可愛いなぁ、杉浦くん。
なんか、こう……構いたくなるというか、からかいたくなるというか……。
ひとしきり笑ったあと、紫堂さんが広間の時計を指差して
龍哉:
「それより、いいのか?時間」
祐樹:
「へ……?」
杉浦くんも同じ方向を向き、しばらく固まって……。
祐樹:
「あ、う、うわあぁっーヤバイヤバイ!マジでヤバイ!!それじゃ、俺はこれで!」
(杉浦、走り去る)
鉄太:
「ったく、せわしないやっちゃなー」
龍哉:
「……だね」
せ、せわ? 世話しない???
龍哉:
「さて、俺たちも帰るとしますか。お嬢様もそろそろ戻らないと右京さんに叱られますよ?」
鉄太:
「せやでー。怒った右京さんは怖いでー」
そう言って、藤盛さんは指で目を吊り上げて見せた。
小鳥:
「は、はいっ戻ります!」
一瞬「どっちの右京さん!?」って思ったけど、先生なわけないよね。
先生には夕食前にも叱られたし、なるべくなら今日はもう会いたくないんだけど……。
鉄太:
「ほな、おやすみー」
龍哉:
「おやすみ」
小鳥:
「はい、おやすみなさい」
ヒラヒラと手を振って広間を出て行く紫堂さんと藤森さんを、その場で見送ったあと私も部屋へ戻ることにした。
杉浦くんのドタバタのおかげで、ディナーの失敗をちょっと忘れられたかも……。
明日会ったらお礼言ってみよう。