バトラーズ〜召しませお嬢様〜Sweet School of Life*** 作:夏憐
小鳥:
「朝の準備は、これでひと通り終了かな」
といっても、制服に着替えて顔を洗っただけなんだけどね……。
最初、部屋の中にタンスを探したんだけどなくて、じゃあどこに制服があるのよって思って、廊下に出る扉じゃないところを開けたらそこはウォークインクローゼットだった。
ただし、絶対クローゼットサイズじゃない部屋。
その部屋の隅に見覚えのある制服一式が揃えられてて、無事に着替えを済ませることが出来たってわけ。
小鳥:
「……で、どうすればいいんだろ」
朝ごはんとかどうするんだろう?
あ、確か新崎さんが来てくれるとか右京さん、言ってたような―――
(コンコン)
小鳥:
「あ、はいどうぞ!」
さつき:
「おはようございます、小鳥お嬢様。朝のお世話を―――……あら?」
小鳥:
「え?」
新崎さんは不思議そうに私を見つめていた。
え?制服に着替えただけなんだけど、なにかヘン?
寝癖付いてるとか!?
さつき:
「ご自分で着替えられたんですか?」
小鳥:
「もちろんです」
だって、制服着るだけだし。
さつき:
「お召し物のお世話も、私がさせていただくことになっているんですが……」
小鳥:
「それ、着替えを手伝うってことですか!?」
さつき:
「もちろんです」
そ、即答……それはもうキッパリと、当たり前だと。
え!?「ちょっと背中のファスナーが届かないから」とかじゃなくて、ただ服を着るって事を一から十まで!?
小鳥:
「そ、それはさすがに……!私、自分の着替えぐらい自分でします!これ以上、仕事が増えないほうが新崎さんもいいですよねっ」
さつき:
「…………」
あれ?黙っちゃった……。
小鳥:
「……私、変なこと言いましたか?」
さつき:
「いいえ、まったく」
またしても即答。……じゃあ、今の沈黙っていったいなんだったんだろ。
さつき:
「お嬢様は、本当に普通のご家庭でお育ちになったんですね」
小鳥:
「は、はい。だから、お嬢様の仕組みがちっとも分からなくて……」
さつき:
「……っ……」
あれ?必死に笑いをこらえてる?怒らせてるわけじゃないのは一安心だけど。
小鳥:
「あの……仕組みじゃなかったら、なんて言うんでしょう……しきたり?決まりごと?」
さつき:
「いえ。……べ、別にそれでもよろしいんじゃないですか?ええ……ほんと……お、お嬢様の仕組み、で……」
小鳥:
「新崎さん?」
様子がおかしい。声も震えてるし。
さつき:
「あ……も、ダメ……」
小鳥:
「え?」
さつき:
「あは……あはははは!やだもう、おっかしー……!」
とうとう堪えきれなくなったのか、涙を流して爆笑する新崎さん。
大うけされちゃった……。
あ。でも、今の感じ、普通の友達同志の会話みたいだったよね!
出来れば、そのままでいて欲しいんだけど……。
お願いしてみようか。
小鳥:
「あの、新崎さん」
さつき:
「はい、なんでしょうか。お嬢様」
小鳥:
「……あのー、良ければ、さっきみたいな口調でいて欲しいんですけど」
未だに肩を震わせながら涙を拭いつつ、なんとか平静を装う新崎さんにお願いしてみる。
さつき:
「え……?」
小鳥:
「その……皆さん仕事だって分かってます。でも、堅苦しい口調ばかりで息が詰まりそうで……」
さつき:
「あー……」
小鳥:
「せめて新崎さんだけでも……」
難しい顔しちゃった。
やっぱりこんなお願い、図々しい?無茶を言うなって逆に怒られちゃうのかな。
小鳥:
「今みたいに、ふたりの時だけでいいんですけど……」
さつき:
「……本当にいいんですか?後で後悔とかしません?」
小鳥:
「するわけありませんっ」
さつき:
「ホントにホント?」
小鳥:
「うんっ!」
さつき:
「…………」
小鳥
「…………」
期待を込めつつ見つめ合ったまましばしの沈黙……。
さつき:
「……了解!」
小鳥:
「良いの!?」
ダメかと思ったぁー良かったよ……。
このお屋敷で唯一の味方を見つけたような気持ちになる。
さつき:
「……と言うか、私も上流階級の世界って堅苦しくって苦手なの……!」
そう言って話してくれたのは新崎さんの家のこと。
曰く、白嶺グループ系列の偉い人の遠い親戚で、この仕事に就いてまだ3年目ぐらい。
大学で遊びすぎて就職出来なかった新崎さんは、コネを駆使してこのお屋敷に入ったらしい。
だからか、たまの休みに実家に帰るとお父さんは「大隅家の皆様にご迷惑はかけてないだろうな!」ってうるさいんだって。
小鳥:
「そうだったんだ!えーと、新崎さん……」
さつき:
「さつきでいいよ!」
頼りになるお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいなぁ。
小鳥:
「じゃあさつきさんで。さつきさんも、苦労が絶えないんだね……」
さつき:
「ううん、そうでもないよ。私、要領はすっごいいいし。仕事だって、いたって普通にクリア出来てるもん」
うん、そんな気がする。前向きな人っていうか気楽なタイプっていうか、羨ましい性格かも……。
さつき:
「とりあえず、何かあったらいつでも私に相談してね。他の使用人のこととか、お屋敷のことに関しても、知ってる限り教えてあげます!」
小鳥:
「ありがとう!」
(コンコン)
さつき:
「あ、きっと右京様だよ。今の、内緒にね?」
小鳥:
「う、うんっ」
頼もしい限りです!ありがとう、さつきさん!!
(コンコン)
小鳥:
「は、はいっ、どうぞ!」
右京:
「お嬢様、ご機嫌はいかがですか?」
流石に着替えてるところに入るのは躊躇したのか、私の返事を聞くまで右京さんは外で待っていたみたい。
小鳥:
「……た、たいへん結構です……」
右京:
「それは何よりでございます。……新崎、お嬢様のお着替えは問題なく終えられたのだな」
さつき:
「はい、右京様」
うわぁ……さつきさん、もう仕事モードに切り替わってる。
すごいなぁ。逆の立場だったら、私の性格じゃこうはうまく出来ないよね。
さつき:
「それでは小鳥お嬢様、私はこれで失礼いたします」
小鳥:
「はい。また……」
……あ、ドアの前で軽く手を振ってくれてる。
笑顔で返事になったけど、伝わったよね。