バトラーズ〜召しませお嬢様〜Sweet School of Life*** 作:夏憐
朝1
ああ……やっぱりいいお天気だった。
絶好の入学式日和。
通りに咲く満開のソメイヨシノから、ピンク色の光がこぼれてる。
寮を出て学校へと向かう道すがら、同じ制服に身を包み同じ方向に歩いていく生徒たち。
みんなは一緒に式に出てくれる人がいるんだ……。
これも、私の中にある仕方がないことのひとつか……。
小さい頃に両親を亡くし、父の知り合いに引き取られた私にとって、ひとりでいるというのは日常だった。
もちろん、私を引き取ってくれたおじさんおばさんも、私を実の子供のように可愛がってくれたから、つらい幼少時代を過ごしたなんて記憶はない。
だからこそよけいに迷惑をかけたくなくて、邪魔にならないよう、お金がかからないよう徹底的に気をつけた結果。
よく言えば倹約家。悪く言えば…貧乏性?に、なっちゃったのよね……。
返却不要の奨学金プラス地方出身者のための寮を備えたこの学校に入学を決めたのも、大学受験に向けて春休みの間からから年齢をごまかしてバイトに励んでいたのも、そのせい。
バイト先の子達は自分たちのお小遣いのために働いてるから、帰りにファミレスやカラオケに行ってるみたい。
最初は声をかけてくれてたけど誰に誘われても断り続けた結果、今じゃ付き合いの悪い子と思われてる。
……これも仕方がないこと、か。
いっそ、もう1つバイト増やそうかな。消灯時間の点呼をクリアして、どこか別の所で深夜のバイトとかどうだろう。
そしたら、少しはお金に余裕も出る?
一度でいいから、お金の悩みなんて関係ない生活を過ごしてみたいな。
例えば───
??・1:
「お嬢様……!」
そうそう。お嬢様とか呼ばれる生活なんてあったら、素敵じゃない?
なんてね。そんなことあるわけ───
??・2:
「お迎えに上がりました、お嬢様」
えっ、お嬢様!?
……あ、そっか。さすが奨学金を出す学校なだけはあるよね。
もしかしたらどこかの社長令嬢が同じ学校に通うのかも。
タイミングよすぎて、びっくりしちゃったよー……。
でもいいなぁ……。車でお出迎えとか、人生で一度は経験してみたい。
私、タクシーですら乗ったことないもん……。
??・1:
「お嬢様、なぜ振り向いていただけないのです?」
??・2:
「お嬢様は、こちらに気づいていないのでは?」
??・1:
「これほど近くにいるのにか」
??・2:
「そのよう、ですね」
大きな溜息が聞こえる。
……さっきから呼びかけられてるお嬢様は、いったい何してるんだろ?
……ま、いっか。どうせ私には関係ない───
??・1:
「小鳥お嬢様っ」
??・2:
「こちらを向いていただけませんか、小鳥お嬢様」
───は!?
小鳥:
「ちょっ、あの、人違いも人違いですっ。私はお嬢様じゃ……!」
??・1:
「いいえ。狭山小鳥お嬢様に間違いございません。ちゃんと調べて、ここに伺っています」
小鳥:
「し、調べるって……!いったいあなた達、誰なんですか!」
ほんと、誰なのっ!?
私、興信所を雇ってまで調べられるほど何もしてないし、お嬢様とか呼ばれるなんて絶対人違いだよ……!
まさか、バイトしてるのバレて入学取り消しとかっ!?
??・1=右京:
「これは大変失礼しました。私は大隈家の執事、右京と申します。小鳥お嬢様のおじい様のご命令により、お迎えに上がりました」
??・2=紫堂:
「私は紫堂と申します。小鳥お嬢様のフットマン兼、ボディーガード。以後、お見知りおきを」
小鳥:
「いやです。お見知りおきしたくないです。なにかの間違いですっ!」
なにそれ、なにそれ!
執事とかフットマンとか、ボディーガード!?
普段の生活で滅多に聞かない単語が、ズラズラ出てきてる……!
右京:
「なぜそうも頑なに否定されるのです、小鳥お嬢様」
小鳥:
「だって、私におじいさんなんていません!」
右京:
「それは……」
小鳥:
「だいたい、両親は私の小さい頃にもう……」
右京:
「…………」
小鳥:
「生前から身内はいないって聞いてましたし、本当に何かの間違いです!」
やだ、こんな所にリムジンが停まってるだけでも目立つのに、男の人二人と高校生の女の子が言い合ってるのって……みんな見てるよーー。
紫堂:
「……どうされます、右京様」
右京:
「致し方ない……」
諦めてくれたかな。
それとも、ようやく勘違いだって気づいてくれた?
ああ、もう……。心臓に悪い出来事が起きちゃったよ。
私と同じ名前のお嬢様がいるのかな?
そんなの笑い話のネタにしかならない───
……って、え?
右京:
「紫堂は右を頼む。私は左だ」
紫堂:
「はい、右京様」
右京:
「申し訳ございません、お嬢様。時間がございませんので、不本意ではありますが、少々強引な方法をとらせていただきます」
紫堂:
「お嬢様、失礼いたします」
小鳥:
「……えっ!?」
ちょっ……な、なんで私、腕をガッシリ組まれてるの!?
右京:
「では、車までお運びいたします」
紫堂:
「どうせならお姫様抱っこという手もあるけど、さすがに人目がありすぎるしね」
小鳥:
「あ、ああああのー!」
右京:
「……申し訳ございません、お嬢様。紫堂は普段から少々口調が軽く。私の教育が至らないということで、今はお許しを」
小鳥:
「違います違います!そうじゃなくて、なんですかこの状況は……!」
ああ、もうっ。
周りの人も少しは助けてくれればいいのに、物見遊山……じゃなくて、ええっと……あっ、野次馬!
野次馬の人だかりばっかりで、誰も助けてくれそうもない。
どうにか腕を振り切って……って……ふたりともすごい力だよ!
……そうだ、すぐそこに校門が見えてるし、入り口に警備員さんとか先生とかいないかな───
(バタン)
……嘘ぉ……。
車……って言ってもすごいリムジンに閉じ込められちゃった……。
右京:
「出してくれ」
紫堂:
「かしこまりました。
……お嬢様、30分ほどのドライブです。どうぞ、そちらでくつろいでいてください」
右京:
「と、その前に、こんなところで誠に申し訳ございませんが、こちらにお着替え下さい。
学園に到着次第、状況の説明など詳しくさせていただきます。今しばらくお待ちくださいませ」
……渡されたのは制服一式。
って、ええっ!ここで着替えるの!?
それは……さすがに、ちょっと……。
右京:
「大丈夫です、お嬢様。窓はスモークガラスですので、外からは見えません」
や、えっと……外から見えなくても、あなた達が……。
渡された───と言うより押し付けられた制服を抱えたまま、口をパクパクさせてると……。
紫堂:
「ああ、申し訳ございません。気づきませんで…」
ミラー越しにバッチリウィンクを決め何かのボタンを押すと、するすると静かに運転席と後部座席の間に仕切りが出来た。
小鳥:
「あ、ありがとうございます……」
……だからっ、っちっがーーーうっ!や、違わないけど……。
そうじゃなくて!説明なんていらないから降ろして!……と叫びたいのに、もう無理。
ああ……学校が遠くなって……。
……学校が……。
学校……?
ああ!入学式……!無断欠席なんかしたら、せっかく奨学生で入ったのに、取り消されちゃうかも……!
どうしよう!?車を飛び降りる!?
でも、こんなにスピード出てるし!鍵はかかってるし……!
もうっ!これが夢なら、さっさと覚めて!
右京:
「お嬢様、お着替えはお済みですか?」
小鳥:
「ま、まだですっ!絶対開けないで下さいね!」
抱えていた制服を改めて見る。
……仕方ない、逃げられないならとりあえず行ってみよう。
それが憧れの白嶺学園のセーラー服だったから……なんて理由じゃ絶対ないんだから!