バトラーズ〜召しませお嬢様〜Sweet School of Life*** 作:夏憐
小鳥:
「ふう……」
入学式も無事終わり、教室へ来てはみたものの……。
な、な、なんか、見られてるような気がするんですけど!?
私、どこかヘン? そう言えば、車を降りたときに紫堂さんが───
紫堂:
「お嬢様、リボンが曲がっております。私がを結びなおして差し上げましょう」
小鳥:
「え、あのっ」
紫堂:
「さ、出来ました。うん、可愛い」
小鳥:
「あ、あ、あ、ありがとうございます!」
───って、あっという間にピシっと完璧に左右対称に結びなおしてくれたのよね。男の人ってこういうの苦手だと思ってたんだけどな……。
リボンの端に指を絡ませながら思い当たる節を探してはみたものの、特にはない……と思う。
しいて言うなら、この学校ってエスカレーター式だから私みたいな外部生は珍しい……とか。
小鳥:
「……ま、いっか……」
窓際の席だったのを幸いに、視線を避けるように校庭の桜を見てると、全速力で校庭を突っ切る人───!?
って制服着てるから朝練ってわけでもないだろうし、第一他には誰も校庭に出てない。
もしかして同じ1年生だったりして!?
小鳥:
「うわー朝から元気だなー」
その男の子は、何度か転びそうになりながらも校舎へたどり着いたみたい。
ふふっ、見てるだけでこっちも元気になるぐらいの走りっぷりだったわ。
女生徒:
「ねぇアナタ、お名前は?」
小鳥:
「?」
ふいに背後から話しかけられて振り向くと、女の子が3人……。声を掛けてきたのは真ん中の髪の長いコかな。
名前聞かれたけど、えーと……これは「お友達になりましょ」って雰囲気じゃない……よね。
小鳥:
「あ、あ、あの?」
女生徒:
「高等部では外部生は取らないと聞いておりましたのに、よほど強いコネをお持ちなのね」
小鳥:
「……え?」
誰に言うでもなく、すごく憂鬱そうにその子はつぶやいた。
そっか、「珍しい」なんてもんじゃない、外部生って私一人なの!?
でも、だからってどうしてこんなに睨まれてるんだろう?
女生徒:
「ねぇ、私くしの話、聞いてらっしゃるの?」
小鳥:
「あ、はい。聞いてますけど……私にも何が何だか……」
(ガラッ)
担任:
「全員、指定された席に着くように」
女生徒:
「……」
タイミングよく先生が来てくれたおかげで、その子も自分の席に戻ってくれてホッとした。
担任:
「先ほど学年主任から言われたからわかってるとは思うが、改めて自己紹介しておく。
今年一年君たちの担任をすることになった───」
男生徒:
「遅れてスミマセン~~~!!!」
生徒:
「!?」
自己紹介しようとする先生に向けられてた視線が、いっせいに横にスライドして今入ってきた生徒に向けられる。
小鳥:
「あ……」
さっき校庭を走ってた男の子だ。やっぱり1年生だったんだ。
ずいぶん走ってきたんだろう、まだ汗ばむような気候じゃないのにジャケットを脱いで小脇に抱え、ハアハア息を切らしてる。
担任:
「……早く席に着いて」
男生徒:
「はーい」
その子はあまり悪びれた様子もなく、自分の席を確認するとすたすたと席に着いた。
小鳥:
「……って、隣!?」
男生徒:
「お隣さんだね、よろしく」
小鳥:
「はぁ……」
何だか、私今日はロクな返事してないな……。あーあ、せっかく気合い入れて朝出てきたのに。
男生徒:
「あれ?元気ないね?どうかした?」
小鳥:
「え、あの、別に……」
近くで見ると、瞳がキラキラしててより一層やんちゃ少年って感じ。この人はあんまり「お坊ちゃま」って感じがしないな。
男生徒:
「ふーん、おとなしいんだね。この学校ってさ、お坊ちゃま~とかお嬢様~とかって人ばっかでさ、あんまり騒いだりしないんだな」
朝っぱらから全力疾走してた人に比べたらみんなおとなしいと思うよ───とは思ったけど、さすがに口には出せないな。
その代わり口をついて出た言葉は───
小鳥:
「やっぱりそうなの!?」
この人もそんな風に思ってるんだ。って事は、この人はお坊ちゃまじゃないの?
と、ビックリして大きな声出しちゃった!
担任:
「そこ、静かに」
小鳥:
「……はい」
男生徒:
「はーい」
またもや反省してなさげな口調で彼は答える。
男生徒:
「怒られちゃった」
そう言ってペロっと舌を出す仕草は、同級生と言うより年下っぽい。
男生徒:
「『やっぱり』ってどういうこと?」
先生に怒られないよう、私たちは小声で話を続けた。
小鳥:
「んーとね、アナタが『お坊ちゃま~とかお嬢様~とかって人ばっかでさ、あんまり騒いだりしない』って言った事」
男生徒:
「そうなんだよ、キミもそう思わない?俺さ、中学の終わりにここへ転校してきたばっかで、ホントビックリしたんだ。
前いた中学は『小学校卒業したらみんな通います』って感じの公立だったから、授業中に私語なんて当たり前だし、早弁したりサボったりさ、みんなしてたんだよねー」
小鳥:
「そ、それは思いっきり『普通の公立中学』だね」
早弁は私もしたことないよ。って、思ったけど男の子なら「当たり前」なのかも。成長期だもんね。
男生徒:
「だろー?けどさ、この学校入ってみたら、だーれもそんな事しないの!
挙句、挨拶は『ごきげんよう』なんだぜ?信じらんねー!」
小鳥:
「だよね。そんな気がする」
男生徒:
「そうなんだよー。ホント、前の学校が懐かしい」
そう言って彼はちょっと遠い目をした。
男生徒:
「あれ?でもキミ、『お嬢様』じゃないの?さっき『普通の公立中学』って言ったよね。お嬢様が『普通の公立中学』なんて知ってるの?」
ふと思いついたように再び彼は話し出す。
小鳥:
「違う違う……私はお嬢様なんかじゃ……えと、違……わない……のかな」
男生徒:
「どういうこと?」
小鳥:
「私もよくわかんない。今日ここに連れてこられたばかりなんだもん」
私はオーバーに肩をすくめて見せた。
否定したいけどできない、説明したくてもできない。だって私自身がイマイチ納得できてないし理解できないんだもの。
男生徒:
「ふーん。ま、いいかそんな事」
と言って、彼は私に屈託のない笑顔をみせた。
男生徒:
「そう言えば、キミ名前は?」
小鳥:
「狭山小鳥……です」
男生徒:
「小鳥かー。可愛い名前だね。ま、俺のほうがちょっとだけ先輩だから、わかんない事あったら何でも聞いてよ」
小鳥:
「うん、ありがとう」
年下っぽいのに、そんな風に先輩面されると何だかこそばゆいよ。
(キーンコーン)
担任:
「じゃあ今日はこれで」
あ、終わっちゃった。
どうしよう、ここしばらくの日程について先生が説明をしてたみたいけど、話に夢中で全然聞いてなかったよ。
男生徒:
「んじゃ、俺バイトあるから。また明日」
小鳥:
「うん、また明日」
彼に向かってヒラヒラと手を振って見せる。聞こえたのかどうか、あっという間にまた走って行っちゃった。
小鳥:
「ん?バイト?」
そう言えば名前聞いてなかったな。でも……。
この教室に来たときにはすごく心細かったのに、彼のおかげで少しは明日が楽しみになってきたかも。
小鳥:
「んと……ところで、私はこれからどうすれば?」
入学式に、と追い立てられて応接室から送り出されたものの、終わったらどうすればいいのか聞いておかなかったな。
勝手に帰るわけにも行かないし……と、どうやって帰ったらいいのかもわかんないよ。
担任:
「狭山さん」
小鳥:
「……え、は、はいっ」
担任:
「ちょっとこちらに」
とっくに出て行ったと思っていた先生に声を掛けられる。
小鳥:
「は、はい……」
さっき話も聞かずにしゃべってたの、怒られるのかな。そう思いつくと、さっさと帰った彼が恨めしい。
小鳥:
「新学期早々呼び出しなんて……ダメじゃん、私」
荷物を置いていこうか迷ったけど、取り合えず帰りの支度をして先生についていく。
ちゃんと話聞いてなかったけど、先生の名前ってなんだっけ?見たところまだ若そうよね。20代後半ぐらい?眼鏡掛けてて真面目そう。背は結構高め…180センチはあるかな。
並んで歩きながら、横目でちらちらと盗み見る。
担任:
「ん?何か?」
先生は急に立ち止まって私の顔を覗き込んできた。
小鳥:
「い、いえ、別に……」
じっと見られるのが恥ずかしくて慌ててうつむいてしまった。眼鏡のせいで冷たい感じがしてた瞳は、思ったより優しくてちょっとドキっとしたんだもん。
慣れない校舎の中のどこをどう歩いたのかわからないまま、連れてこられたのは職員室───じゃなくて
小鳥:
「ここって……」
担任:
「失礼します、お連れ致しました」
コンコンとノックして入った部屋は、私が最初に連れてこられた応接室じゃない!
中では右京さんと紫堂さんが、ソファーに座って優雅にお茶を飲んでいた。
紫堂:
「小鳥お嬢様、いかがでしたか新学期初日は?」
小鳥:
「はぁ……まぁ」
正直疲れました……とは言えず、曖昧な返事を返す。
右京:
「ご苦労だったな、真治」
担任:
「いえ……」
右京さんと先生って知り合いなの?
右京:
「さ、お嬢様帰りましょう。『鈴蘭屋敷』へご案内します」
そうして私たちは、先生に見送られてここへ来るときと同じすごいリムジンに乗って「鈴蘭屋敷」へと向かった。
一人称「わたくし」を「私くし」と書くのはそういうクセですのでよろしくお願いします。