酒呑み二本角の鬼が召喚されました   作:酒呑童子?

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残飯(比較による幻覚)とぶっとび(物理)授業

 トリステイン魔法学園の食堂は、学園の中でも一番背の高い真ん中の本塔の中にあった。

 

 食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいる。長さからして百人は座れそうだ。ルイズを含む二年生は真ん中のテーブルみたいだね。

 

 どうやらマントの色で学年が分けられているらしい。ルイズ達の机を正面に見て左隣のテーブルに座っている大人びた学生達は紫色のマントを羽織っている。三年生だろうかね?

 

 右隣の生徒達は茶色のマントだった。まだ幼さが残っている顔立ちの者が多い。恐らく一年生。

 

 朝食、昼食、夕食と学園の中にいる全ての生徒、教師はここで食事を摂っているらしい。

 

 一階の上にロフトの中階があり、そこで歓談に興じてる教師達の姿が見えた。呑むならそこらのガキンチョよりも教師と呑みたいね……

 

 どのテーブルにも豪華な飾り付けが施されている。流石は貴族の食卓と言った所か……まぁ、人数の割に量が多い気がするけどね。

 

 いくつもの蝋燭が立てられ、花が飾られ、果物がいっぱいに盛られた籠が乗っている。……あんまり酒に合いそうなものはないなぁ……

 

「このトリステイン魔法学園で教えるのは魔法だけじゃないのよ。メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けるのよ。だから食堂も貴族の食卓に相応しいものでなくてはならないの」

 

「ふ〜ん……そうは見えないけどねぇ……んで、私の飯はどこにあるんだい?」

 

「……あれを見ても怒らないでよ。これでも精一杯努力したんだから」

 

 ルイズはちょっぴり申し訳なさそうに床の一角を指差した。

 それにつられて見てみれば、そこには皿や器がいくつか載った、小さなトレイが置いてある。床に……

 

「床かぁ……ま、何も用意されないよりはマシか……」

 

 用意されていたメニューは、周りのおチビ達が食べているそれとは比べ物にならないほど貧相なものだった。

ルイズ曰く、貴族の食堂に入れる許可を取らせるのに予想以上に手間取ってしまい、肝心の食事の指定が間に合わなかったそうだ。ちゃんと次からは何とかしてくれるらしいけどね。

 

 

 小さな肉の欠片や野菜の切れ端などが浮いた簡素なスープに、焼き立てとは言い難い少々固そうなパンが二切れ、見慣れないイモや野菜をざく切りにして茹でたものがいくらか盛り付けられた皿と、水で薄めたワイン───あまり好みではないワインとはいえ、薄めて飲むものでもない酒を水で薄めるなんて、言葉に表せない程冒涜的なことをしてくれたじゃないか! 料理酒でもあるまいし……───が入った陶器のカップ。

 

あの無駄に豪勢な食事を見た後では、この食事達には申し訳ないが、残飯に見えてしまうだろう。

 

……まぁルイズの精一杯の努力を踏みにじるわけにもいかないし、食べますか。

 

「「「大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝致します」」」

 

ささやか……ねぇ。こいつらみたいな青二才のひよっこにゃ勿体ないぐらい豪勢な食事をささやかな糧……ルイズ以外の貴族ってのは頭のネジがすっ飛んで穴にガムでも詰まってるのかい?……とりあえず食べたはいいけど……おおよそ腹2分目といったところかな? 全然足りないね。

 

「う〜ん、食べ足りないね……ルイズ、厨房ってどこだ? ここから奪うにしても、酒に合いそうなものはないみたいだからね。直接たかりに行ってくるよ」

 

「……流石に今はダメよ。次の授業が終わったら教えてあげる」

 

「仕方ないねぇ……酒飲んで誤魔化すしかないか……」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 魔法学園の教室は大学の講義室の様な造りをしている。木の代わりに石を使って造ったと想像すると当たる。講義を行う魔法使いの先生が、一番下の段に位置し階段の様に席が続いている。ルイズと私が入ると、先に教室に来ていた生徒達の視線が一斉にこちらに向けられる。

 

 一瞬の沈黙の後、周りからクスクスと笑い声が起こる。先ほど会ったキュルケもいた。周りを男子生徒が取り囲んでいる。

 

 見渡すと様々な使い魔が教室にいた。その中には何処か見覚えのある使い魔もいた。

 

 キュルケのサラマンダー ──フレイムだったかな?──は椅子の下で寝ており、肩にフクロウやカラスを乗せてる生徒もいる。窓からは巨大な蛇がこちらを覗き込んでいる……見た目よりは弱っちそうだね。

チチっと鳴き声が耳元でしたので見てみると、ピンク色のネズミが器用な事に私の角に乗っていた。誰かの声がするとすぐさま角から飛び降り、走り去る。

 

でも、私の目を引いたのは、私の記憶には存在しない生き物達だった。

 

 六本足のトカゲがちょろちょろ歩き、巨大な目玉が浮かび、二つの首を持つワシが飛んでいる。戯れるのにはちょうどいいかな?

 

 私が興味深そうに見ている間にルイズが席の一つに腰掛ける。私はチビ萃香になってルイズの頭にちょこんと乗る。

 

 扉が開き、先生が入ってくる。中年の女性だ。紫色のローブに身を包み、帽子を被っており、ふくよかな頬が優しい雰囲気を作り出している。あの先生が酒を飲めるのか気になるね。

 

「皆さん、春の使い魔召喚は、どうやら大成功の様ですね。このシュヴルーズ、こうして春の新学期に様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 

その言葉にルイズが俯く。シュヴルーズと言う女性が私を見つめてルイズに話しかける。

 

「おやおや、変わった使い魔を召喚しましたね? ミス・ヴァリエール」

 

とぼけた声でシュヴルーズが言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。

 

「先生! ルイズの召喚したのは大きくなったり小さくなったりできるだけの亜人です!」

 

「しかも常に酔っ払っている飲兵衛です! どうせそこら辺から連れてきたんだろ?」

 

「ちょっと! 私はちゃんとスイカをサモン・サーヴァントで召喚したわよ!」

 

「嘘つくな!そんな事言ってるけど、本当は『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろ?」

 

 ゲラゲラと笑い声が響き渡る。うっさいねぇ……

 

「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『風邪っぴき』のマリコルヌが私を侮辱しました!」

 

 握り締めた拳でルイズが机を叩いた。ダンッ、と少し小さな音がした。

 

「俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」

 

「あんた、自分のガラガラ声聞いた事ないの? 馬鹿は風邪を引かないと言うけど、あなたの場合は風邪を引いてるのに気付かないだけなのかしら!?」

 

 マリコルヌと呼ばれた少し太っちょの男子生徒が立ち上がりルイズを睨みつける。シュヴルーズが手に持った小ぶりの杖を振ると、立ち上がっていた二人が突然ストンと席に座り込んだ。

 

「ミス・ヴァリエール、ミスタ・マリコルヌ、みっともない口論はお止めなさい」

 

 ルイズがショボンとうなだれる。今までの勝ち気で生意気な態度が嘘の様だ。付き合いの浅い私が言うのもなんだけど、らしくないね……?

 

「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではなりません。わかりましたか?」

 

「ミセス・シュヴルーズ、僕の風邪っぴきは中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」

 

 再びクスクスと笑い声が漏れる中、シュヴルーズは厳しい顔つきで教室を見回し、なにかをしようとしたが、それよりも先に行動した者がいた。

 

「うるさいねぇ……宴会でもないのに騒ぐなんて。それともあんたらは騒がないと魔法が使えなくなっちまうのかい? それだったら仕方ないね! ……いや、それが本当ならこの先生は落ちこぼれになっちまうな!なはは!」

 

そう言っていつの間にかサイズが元に戻っていた萃香は再びぐびぐびと酒を飲む。

 

「……私の授業が必要ないというのなら結構。そう思っている方がいるのならば、ここを立ち去るか黙るかのどちらかにしてください」

 

シュヴルーズの言葉に皆が押し黙り、彼女がこほん、と重々しく咳払いをしたあとに杖を振るうと机の上にいくつか石ころが現れる。

 

「私の二つ名は「赤土」。「赤土」のシュヴルーズです。「土」系統の魔法をこれから一年、皆さんに講義していきます。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」

 

「は、はい、ミセス・シュヴルーズ!「火」「水」「風」「土」の四つです!」

 

「その通り。かつて失われた系統魔法である「虚無」を合わせて全部で五つの系統があるのは、皆さんも知っての通りです。その五つの中で「土」はもっとも重要な系統であると私は思っています。それは私が「土」系統だからとか、単なる身びいきではありません」

 

シュヴルーズは今一度、咳払いをして見せる。うん、嘘を言ってはいないね。まぁ土……いや、ここは物と置き換えるべきかな?それが無いと何かと不便だしね。

 

「「土」系統の魔法は、万物の組成を司る重要な魔法です。この魔法がなければ金属を作り出す事も出来ないし、加工する事も出来ません。石を切り出して建物を建てることや、農作物の収穫も今より手間取るでしょう。この様に、「土」系統の魔法は皆さんの生活の中である意味一番密接に関係しているのです」

 

「今から皆さんには「土」系統の魔法の基本である、「錬金」の魔法を覚えて貰います。一年生の時に出来る様になった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいしましょう」

 

 

 シュヴルーズが目の前の石に杖を振り、なにやら呪文を唱えて見せた。

……うんにゃ、さっぱり分からん!

 すると石が光り出し、光がおさまるとただの石だったそれはピカピカと光る金属に変わっていた。

 でも光が鈍い……低純度の金……じゃないね。軽く能力で密度をいじってみたけど、素の密度がそこまで高くないし、構成している物質も純度が高いものだ。となると、ありゃあ真鍮かな?

 

「それって……もしかして、ゴールドですか!? ミセス・シュヴルーズ!」

 

キュルケが興奮した顔で身を乗り出す。

そんなキュルケにシュヴルーズは笑顔で首を振って見せた。

 

「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金出来るのは「スクウェア」クラスのメイジだけです。私はただの「トライアングル」ですから」

 

ん〜……確かスクウェアは英語で正方形だったよな?英語はそこまでだからあやふやだけど、トライアングルが三角形なのは分かる。ま、多分合ってるか。……んじゃ、ルイズはなんなのかね?

 

「ではミス・ヴァリエール。この石ころを錬金してみてください」

 

私が考え事をしていると、シュヴルーズがルイズに声をかける。すると、キュルケが困った表情で手を上げた。

 

「先生」

 

「なんです?」

 

「やめといた方がいいと思いますけど……」

 

「何故ですか?」

 

「危険です」

 

キュルケのキッパリした発言に、教室中の全員が頷いた。シュヴルーズだけが首を傾げる。私は何となくではあるが嫌な予感を感じて身構える。こういう時の勘は割とあてになる。

 

「危険? どうしてですか?」

 

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

 

「ええ。ですが、彼女が努力家という事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール、やってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ませんよ?」

 

「ルイズ……お願い、やめて」

 

 

キュルケが首を振る。健康的な褐色の肌をした顔が青白く変わっている。まるで、得体の知れない物に怯える者の様に。

そんな言葉を無視し、ルイズが立ち上がる。

 

 

「やります」

 

 

そして緊張した顔で教室の前へと歩いていく。どことなく、足取りが重い。

 隣に立ったシュヴルーズが優しくルイズに微笑みかける。

 

 

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、心の中に思い描くのです」

 

こくり、と可愛らしく頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げる。表情は真剣そのものだ。

 

そんなルイズとは裏腹に、次々と教室の生徒が椅子の下に隠れ始めた。まるで何かに怯えている様に見える。

 

そう言えば、あんまりルイズは人気がない様に見えるね。誰も彼もが「ゼロ」の二つ名で彼女を馬鹿にする。女子ならまだわかる。その容姿に嫉妬して、イジメの様に呼ぶのは古今東西どこの世界でもあるだろう。実際にルイズと対等か、それ以上の容姿の女子はあのキュルケくらいしか見当たらない。

 

しかし、男子はどうだ?キュルケと対等の可愛いさを持つルイズに言い寄ろうとする者がいてもおかしくないが、そんな様子はない。……もしや、胸の脂肪がそんなに好きなのかね?

 

ルイズが目を瞑り、短く呪文を唱えて杖を下ろす。

その瞬間、机ごと石ころが爆発した。いや、この場合は消し飛んだが正しいだろうね。周囲の物質の密度が一瞬測れなくなった。

 

爆風をモロに受けて、ルイズとシュヴルーズが黒板に叩きつけられる。誰かの悲鳴が上がった。全く、この程度で騒ぎだして情けない……まぁひよっこはひよっこだね。

 

爆風と音によって驚いた使い魔達が一斉に暴れ始めた。キュルケのサラマンダーが眠りを妨げられた事に腹を立てたのか、口から炎を吹き出す。翼を生やした犬が飛び上がってガラスを突き破り外へ出て行った。その穴から先ほどの巨大な蛇が入って来て誰かのカラスを飲み込んだ。

 

悲鳴が響き渡り、混乱に陥った教室の中、キュルケがルイズを指差して怒鳴る。

 

「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」

 

「ああ、もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」

 

「俺のラッキーが蛇に喰われた! 俺のラッキーが!」

 

 様々な文句や怒号が響く中、横たわっているシュヴルーズの姿が見える。

 時折痙攣しているので、死んではいないらしい。良かったよ。酒呑み仲間が危うく消えるところだった。

 

 ルイズはシュヴルーズの隣で既に起き上がっていた。煤で真っ黒になった姿は見るも無残だ。ブラウスが破け、華奢な肩が覗いてる。スカートは破れてパンツが見えていた。しかし、そんな姿の事も、大騒ぎの教室にも目もくれずにハンカチを取り出す。いや、もうちょい恥じらいをもちなよ……

 

手にしたハンカチで顔の煤を拭き取ると、淡々とした口調で言った。

 

「ちょっと失敗したみたいね」

 

その言葉に他の生徒から猛然と反撃を食らう。ま、当たり前か。

 

「どこがちょっとだ! 「ゼロ」のルイズ!」

 

「いつだって成功の確率ゼロだろうが!」

 

「んぐんぐ……ぷはっ! ゼロ……か。ある意味ピッタリだけど、あいつらは使い方を間違えているかもね……」

 

私は伊吹瓢の酒を飲みきりそう独り言を呟く。

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