吹き飛ばされてきた二人は、咄嗟に鎖の持ち主に能力を使っていた。
「神聖ッ!?」
「死霊ッ!?」
女子高生のような少女は、空中で体勢を整えながら神聖を全力で解き放ち、斬撃として標的に放つ。そしてその隙を縫って、魔術師風の男が複数の死神型の死霊が向かう。
「うそッ!?」
「なにッ!?」
だが、他のすべてを削って撃ち放った斬撃は鎖に粉々にされ、うねりくる鎖に死神たちもかき消され――
「「ッ!?」」
目にも止まらぬ速さで何かが通り過ぎ、男が頭を潰され、少女は背後から胴体を斬り裂かれ真っ二つになり消えていく。
「こんなもんか?大したことない奴らだ」
つまらなそうにそう呟く少女は
「お前はそうじゃないことを祈るよ」
観測者の方を見てそう言った。
(やべぇ……乱入者だ。それも最上位勢とか)
『秋晴 日和。船長とか情報屋とも言われてる、情報戦艦の長だね。この結界の影響で本来の性格と抑えていた分を加算されて出てきてるから、相当狂暴化してるよ』
先ほどの二人、神崎 アリスとカルネ・ネークロイツを瞬殺した秋晴は、鎖を持って観測者を見ている。どうやら観測者の事を強者と認めて様子を見ているようだ。それに対し観測者は、一歩間違えれば負けかねない相手に内心焦っており、どうしようか考えを巡らせていた。
「随分と暴れまわってるじゃねえか。狭間の住人。いや、秋晴 日和と言った方がいいか?」
「私は自分の情報を出すのは好きじゃねぇんだ。どこでどうやって知ったかしねぇえが、私の事を知る奴は生かしておけねぇな」
情報を重要視する秋晴は、自身の事を知る不特定多数を許さない。なので地雷を踏み抜いた観測者を許すはずもなく、今まで以上に目つきを尖らせる。
そして――
「おらッ!?」
「ッ!?」
目にも止まらぬ速さで振るわれた鎖は、回避したはずの観測者を吹き飛ばし、続けて威力と速度の増した追撃が観測者に迫る。
その威力は大気を斬り裂き大地を抉る攻撃であり、幾千万と残像を残しながら世界を壊していく。
(出鱈目すぎるぞ!!)
『相変わらずの腕力ね』
必死に逃げ続けているおかげで大した影響は出ていないが、反撃に回ることなど頭の隅にすら置けない猛攻に冷や汗すら出る余裕がなくなっていた。
『挑発なんてするから』
(動きが雑になると思ったんだよっ!てか話しかけるなッ!!)
雑になるどころか、確実に始末するために精度も出力も上がっていた。要は、ただ決意させただけに終わったのだ。
(どうするどうする!?今までの相手とッ!!?」
「反撃ぐらいしろよ」
突然目の前に現れた秋晴に、驚愕の表情を浮かべ
「逃げてばっかか?」
「く、クソッ!」
掴みから逃れるために強引に距離を取る。
「狭間の住人ですらないのに“一般流”を使えるのか。面白い奴だ」
「お見通しってか?」
咄嗟に斬撃をばら撒いて追撃を対処したことを見抜かれており、苦笑いを浮かべるしかない観測者。実は反撃の意味も込めていたのだが、全く足らなかったようですべて打ち消されていたりもする。
「中々遊べる奴だ。私の部下にならないか?」
「冗談よしてくれ」
「そうだな。お前程度ならいくらでも用意できる!」
瞬動により振るわれた鎖は、傍から見ると突然現れたかのように見えるだろう。だが観測を成功させた観測者からするとただ早いだけの攻撃であり、回避と接近を同時にこなせていた。
(こいつっ!?)
同じ瞬動であとは刀を振るうだけと言うところまで来ていた。だがその期に及んで秋晴が見せたのは、驚きでもど惑いでもなく
「面白い!!」
戦闘狂のような笑みだった。
「くっゾッ!ガハッ!!」
届かない位置に突き出された手で、秋晴は空間を掴み取る。そしてそれを強引に引き寄せ、鎖を持った拳で受け身も取れない観測者の腹をぶん殴る。それにより潰れるような感覚を体内で味わい、一歩遅れて横腹に鎖が直撃していた。
「なんだ無動も乱動も使えない、わけじゃないな。精度が低いのか。まぁなんでもいい」
転がりボロボロになった観測者を見ながら冷静に推察し、秋晴は鎖を振るう。
そんな中、観測者は……
(なんだ、くる)
迫りくる鎖を観測し、最大まで上がった思考速度はすべてをスローモーションにしていた。だが観測者には動ける力も構造も残っておらず、ただ死を待つだけと化している。
(何も、できない。一兆年も、生きて……観測機を、倒すために、戦い続けたのに……)
自分たちの世界を無茶苦茶にした元凶を倒すために、全力を尽くしていた人生。それがこの世界では一切通じず、遊び程度の意味合い程度しか持ち合わせていないという事実。
(あっちとは、宇宙とは質も桁も、違いすぎる……)
多元存在になり同じ土俵に立てたと思っていた。“一般流”を覚えて対等に戦えると思ていた。だが実際のところは、スタート地点に立っただけであり、使いこなせていたと思っていた“一般流”も単なる見様見真似で終わっていただけで、能力に至っては雑多ものにもほどがあった。
(終われ、ねぇのに……動かねぇ……。取り戻さなきゃ、ダメなのに……戻さなきゃ、いけねぇのに……)
速度も威力も増し続ける鎖が寸前まで迫ってくる。だがそれでも体はピクリとも動かない。
(もう、終わ――)
『いや頑張ってよ』
「ん?」
羊さんが話しかけ、それに反応した観測者は反射的に鎖をかわしていた。
「はぁはぁ……」
「起き上がるか。そうこなきゃね」
追撃をかけてあの場で始末することもできた。だが秋晴はそうせずに、期待の眼差しを向ける。
「フラフラだね。もう少し待とうか?」
「随分と、優しいんだな」
僅かな時間で回復をこなし、刀を構える。
それを見た秋晴はニコッとした。
「そうでもない。ただもうちょっと遊んでみたいと思っただけよ」
「後悔すんなよ?ふ~……“完全観測”」
観測者の目つき雰囲気が変わり、秋晴は楽しそうに
「へ~、絞ったか。さて、どこまでやれるか……楽しみだ!!」
鎖を振り回しながら高速で観測者に攻撃を仕掛けるのだった。
~おまけ~
・狭間の住人(多元存在)の性質について
他の存在とは比較にならないほどの密度を誇る多元存在の攻撃は、一撃一撃が凄く重い。とにかく重い。それは何気ない通常攻撃からであり、意識されるとさらに重みや鋭さが増す。この性質故に多元存在は、それ以外の存在に対し圧倒的有利に立ち回れる。攻撃面では回避以外のまともな対処法がほぼ存在せず、防御面ではあらゆる現象や干渉が異常なまでに効きずらい上に対処までしてくるので当然と言えば当然である。
なお多元存在同士の殴り合いでは、無意識や本能などで対処しているためそこまで感じることはなく、力を込められていてもちゃんと防げていたら大した問題にはならないだろう。だがちゃんと防げなかったり、急所や弱点に叩きこまれると観測者のようになる。
・完全観測について
観測者の大技みたいなもの。元は『あらゆる情報を完全に観測し理解する』という反則じみたものだったが、多元存在になってからは『周囲と対象の情報を漠然とすべてがわかった状態にする』というものに変わっている。これは多元存在の完全な理解が不可能なことと、性能が上がりすぎて一周回って感覚的なものになってしまったことが原因である。
なおこの技は、事前情報の量によって性能と負荷のかかり具合が変わる。
少し聞きたいのですが、当作品に出てくるキャラの強さは……?
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バケモノ
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凄く強い
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まぁまぁ強い
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普通
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弱い
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凄く弱い
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ザコ