転生者の生存記~このイカれた過酷な世界で~ 作:バトルマニア(作者)
軽く凹み焦げたようになった地面で、ボロボロになって倒れ伏す水科の姿がそこにはあった。
「いや~、普通に無理だわ」
あれから格段に強くなった水科は、一週間ほどでメリーさんに認められて普通の修業に戻っていた。恐らくは最低限のことが出来るようになったら、適当にほっぽりだされたのだろう。
「アリスさん普通に強いわ」
そして言われた通り暇なときに色んな奴に戦いを挑み、勝ったり負けたりを繰り返して実力を高め、自信を取り戻して二級中位と言われるアリスに勝負を挑んでこのざまである。
「だからやめとけって言ったのによ」
「お前にはまだ早かったな」
倒れる水科を見下ろす小嶌と鉱納はそう言う。二人はやめとけと止めたのだが、水科はそれを無視して戦いを挑んでいた。
「いやだからってここまでかよ、やべぇな二級って奴は」
「そりゃな。俺でも食らいつくのに精一杯なんだぞ」
「お前はやっと三級中位か上位辺りを名乗っていいぐらいに強くなっただけだからな」
技量が身体能力に追い付いてそこらの三級よりも強くなった水科だが、言ってしまえばそれだけなので勝てる通りは微塵もない。
「そうか、やっぱ等級一つ違うだけでな……」
「相性もあるだろうけどな」
「アリスさんは安定して強いし、なにより雷はお前の能力と相性悪いだろ」
等級一つ違うだけで、特化でもしていないと勝てる点など一つもない。その上相性が悪いとなると勝負になるだけすごい方だ。
「雷にしちゃ繊細過ぎないか?なんで俺の爆水逸らしたり分解してんの?爆発の抑制とかわけわからん」
「それはアリスさんが凄いんじゃなくて、お前が雑すぎるだけだろ」
「見えやすいか遅すぎるかどっちもかだな」
火力よりな能力だからと言って、繊細な動きができないわけではない。そりゃ専門者や同格以上に勝るのは難しいだろうが、格下相手に後れを取るような使い方はしないだけの話だ。
「てかお前な。無暗矢鱈に能力使いまくるなよ。周囲の事も考えろよ」
「近所迷惑だろ。もう俺たちじゃお前を楽に止められねえんだぞ」
「す、すまん。つい熱くなるとだな……」
一年ほど経っても水科の能力の使い方は豪快なままだった。勿論小出しにしたり、細かく動かすこともできるが、咄嗟に使ったり強くすると規模が大きくなるのだ。
「今回だってアリスさんが気を使ってくれなかったら何棟もビル壊れてたからな」
「お前と周囲が壊れる程度で済んだの運がよかったな」
「いや、マジですまん……」
申し訳なく思う反面、こればっかりは仕方がないと開き直る気持ちもあった。今の水科の実力では、二級相手に足場でも崩さないと勝負にもならないのだ。最悪距離を詰めて、特に動かずにその場で勝負がついてしまう。
「……そういや二級であそこまで強いと一級とか想像つかんな」
「一級とか戦闘狂の集まりだから出会わんことを祈るか、穏便に済ませるように動くしかないな」
「中心行けば何人かで会うかもしれないけど、無暗にケンカなんて仕掛けない方がいいぞ。目付けられたら大変だからな」
つい疑問に思ったことを口走り、二人はそれに答える。
「まぁ話によると、一級以上の奴らにとってマジになるのは同格以上だから、ちょっとケンカしかけても遊ばれて終わるだけって聞いたな」
「上に行けば行くほど自由で寛大になるからな。不意打ちされる程度じゃ面白がるか、怒っても表面上だけな場合が多いし、ちょっと小突かれて終わりだろうよ」
「まぁ桁違いに強いってことは分かった」
二級も大概だが、一級以上と比べると一般人と言っても差し支えないだろう。その分野で一級と言われている者たちは、見た目や外ズラで分かりづらくとも、例外なく精神異常者のようなものだ。
「とりあえずだ。ちゃんと能力使えるようになるまで使い方制限しろよ」
「ここには建築家も修理屋も少ないんだぞ。あんなん使われまくったらすぐに更地になるわ。施設壊れたらもっと大変なことになるぞ」
「そうだな。ちょっと能力の使い方考えなきゃダメだな。どうしようか……」
当たり前に落とし込む、慣れると言うのは案外難しいもので、だからこそ水科もそれから目を逸らして来た。だが流石にここまで言われて無理ですは言えないので、改善のために考え出す。
「ま、そう言う事だ。でなんだが、今から飯食いに行くんだがお前も来るか?」
「あのラーメン屋だ。前にも行ったことあるだろ?どうせなら一杯ぐらいならおぐってやるよ」
「もちろん行くに決まってるだろ。さっさと行こうぜ、腹減っちまった」
そう言うと水科は飛び上がり、元気を取り戻すのだった。
~おまけ~
・二級と一級の差
二級は才能か努力で誰でもなれるが、一級はそうもいかない。言ってしまえば、努力も才能も経験も技量もと、ほとんどすべて持っていなければいけないし、なにより精神性が異常者に見えるほどの奴しかいない。
戦闘者であれば永遠と戦えるし、学者の類であれば知識欲などの塊、職人であればその分野で最低でも一級品の仕事は当たり前レベルの奴ら。そしてなにより、それが大好きなのだ。