小崎は生徒を背負ったまま、奥に逃げ延びていた研究者の元へと来ていた。
「これはどういうことだ?」
「いや、そのですね」
白衣を着て眼鏡をかけている少年に、生徒を近くのソファーに寝かしながらそう話しかけた小崎。それに対し少年は目を泳がせながら苦笑いをする。
「研究所も素材も、お前の要求するものは用意していたはずだが?契約書にそこら辺も全部書いてあっただろ?」
「ご、ごめん……」
どういう事情であれ、約束を破り生徒にまで危害を加えた目の前の少年を許す気がない小崎は、少々真面目に話していた。その圧に押されて、謝ることしかできない少年。
「詳しく事情を話してくれ。ことによっちゃ、大ごとになるぞ」
「そ、それだけは……やめてください。話しますから」
そう言った少年は、弱々しく話し出す。
「ちょっとした出来心だったんです。その生徒の検査をした時に、精霊との繋がりが歪だったので、どうしてだろうな~と」
少年は研究者である。それも裏世界で働いていた、元犯罪組織の天才研究者と言われていた人物だ。得意分野は精霊や悪霊などを人を統合させることで、強大な力を持った戦闘員を製造することである。
「だからちょっと手を加えて、ね。もちろん合意の上でね!それでスムーズにしたんだ。いや、流石にそれだけでああなるとは思ってなかった……ホントだよ!多分抑圧されてた感情に作用したんだろうけど、それも結果論的に分かったことだ!」
必死にそういう少年は、ホントに訳が分からないといった感じになっていた。だが初めてのことに興奮しているのか、抑えてはいるものの少し滲み出している。
「今までの失敗作は急に暴れだしたりとか、会話すらできなかった奴らばっかだったのに、今回はそうでもなく安定してそうに見えたんだ。それで油断して、脱走を許してしまった。鎮静剤も催眠ガスもする暇もなかった。効いたかどうかも怪しいしね。やっぱ分野が若干違うから調整が難しいね」
余裕を取り戻してきたのか、悠長に話し出す少年。
「自然の霊と生物の霊が同じわけないだろ。そもそもお前が元居た業界とはその定義すら違う」
「そ、そうだよ!失念だった。データが似通ってたから試しにしてみたんだけど、やっぱ構造とか性質が違ったかな。もっと細かく見とくべきだった。でも大丈夫、今回で大方のデータがそろったから……いやごめん……」
反省会だったのを思い出し、顔を下に向ける。それを見た小崎は、ため息をつき
「はぁ~。やっぱ実験が足りなかったか?」
「はい……人体実験ができないと正確なデータが取れなくて、つい……」
裏世界の高い技術力は、あまたの犠牲の上で成り立っている。それも積極的に行われるため、特にこういう分野では表世界の比ではないのだ。
「それでも許すことはできない。ちゃんと上に報告する。これからのためにもな。だが大ごとにしないからそこだけは安心しろ。こっちだって世間の目があるからな」
「……ありがとうございます」
大ごとにならなそうならもみ消す。現場ではよくあることだ。面倒ごとが増えるだけだし、自分たちの首を絞めるに終わる。そもそも縛ったところで時間と共にそんなものは風化するので、厳重注意して形だけ整えておく方が費用対効果はよい。記憶に残っていなければ意味がないのだ。
「じゃそういうことで、次からは気をつけろよ。じゃなきゃわかってるだろうな?」
「わかりました……」
そうして少年はトボトボと片付けをしに行き、クギを刺し終わった小崎は報告と生徒を保健室に連れていくために、生徒を背負って去るのだった。