あれからは何事もなく休日前夜まで過ごした小崎は、ぐったりとしている母親に話しかける。
「どうしたの?珍しい」
「いや……何と言うか。めんどくさい事になったというか。原因が分かったというか」
ソファーに寝転がる母親の隣に座り、背中をさする。
「大変なんだな。今回の相手は」
「そう、それ!大変なんだよ。逃げ足が速いというか。大切なところ見えてないというかさ」
一瞬テンションが戻りかけたが、嫌なことを思い出したのかまた下がる。
「でも大丈夫。そっちには行かせないようにするから。多分あっちも興味ないだろうし、あんたから手を出さなきゃなにも起きないと思うよ」
あくまで目的は麻希であり、息子である快人は標的外であるようだ。
「なんで?」
「なんでって……まぁあれかな。外から来た私が気に食わないんじゃない?それ除いても、これまでの行動とかもろもろ入れれば理由はいくらでもありそうだけど」
そう言って、昔を思い出す麻希。
「こっちに落ちてきてさ。最初はなんてことない平和な世界だと思ってたのよ。超能力もなければ魔法なんてもってのほかって感じの、特別感のない世界」
どこかつまらなそうだが、同時に悪くないと言いたげな表情になる。
「でもちょっと生活して、色んな場所行ってたらさ。出るわ出るわで驚いた。やっぱこうなるのかってね」
次は悪くないが物足りないと言った感じになった。
「それでワタシは気になっているところ全部行ってみたのさ。魔法に魔術に超能力、陰陽師に呪術師に霊術師とか、あとは秘密結社とか闇とか光とか悪とか正義とかの組織。それに怪人や魔法少女もいたな。そんで色々行ったりやったりして、気が付いたら今なわけよ」
サッと上げただけでもこれほどの所に関わっている。それもすべてにおいて善かれ悪かれ目立っているので、どこでどう印象を持たれているか分かったものではない。事実麻希を殺したがっている連中は世界中にいるだろう。要は候補が多すぎて、正確に誰なのか判別できていなかった。
「家に帰ってこないこと多かったもんね」
「それはごめん」
息子に目を着けられないように立ち回りながら、すべてを対処していた麻希は、家に帰らないことが多かった。
「まぁ気にしてないけど……」
最低限は会話はしていたしちゃんと愛情もあったので、快人もそれは重々承知の上でのことだ。
だが、どうしても一つだけ許せないことがあった。
「カジノの件は許さない」
「あれはホントごめん……」
海外にも行っている麻希は、その先でカジノで遊んだことがある。そこで勝ちまくってしまい、不正を疑われた挙句に、裁判などで一時口座から金の引き出しを停止させられたことがあった。一応無罪は勝ち取ったが、出禁&勝負の無効が決定し、ただ時間と労力が食われるだけの結果となった。
「ゲームはもうこりごりね」
「普通のゲームすればいいじゃん」
「だから難易度低すぎて面白くないの。あと本体もコントローラーが壊れるし」
ゲーム内容どころかシステム全部把握できるわフレーム単位で操作できるわの超人スペックでやればそうなるだろう。と言うか、そもそもゲーム機が持たないのだ。
「対人ならまだいいけど、パターンが決まってる相手は手応えがない。成長してくれないと話にならないじゃない」
「そんな相手この世界には限られてると思うよ」
それ以外にも理由はあるが、一番は直接戦った方が楽しいというのが大きい。しかし、麻希のいた世界と違って、この世界にはそんな超人そうそういないのだ。だからそういう相手を求めて色んな所に顔を出していたとも言える。
「まぁなんであれ、結局アンタはこっち側に来ちゃったけどね」
「まぁ俺も俺で物足りなかったし、なんか色々感じるというか見えるというかな」
麻希譲りで探知能力が高い快人は、子供のころからいろんなものが見えていた。最初は危なそうだからと避けていたが、年を追うごとに力が増して脅威に感じなくなり興味心が勝り、結局関わっていたのだ。
「アンタの友達も大概だし、この近所もね」
「表に出ないだけで案外多いからな」
小崎家の影響でその周囲がわかりやすかっただけで、特殊な人や現象は年々多くなっており、次々に発見されている。それでも騒ぎが起きないのは、異能を流行らせたお陰ともいえる。
「それで――……はぁ~、ちょっとごめん。なに?」
楽しく話しているその時だった。水を差すように麻希のスマホが鳴り、仕方がなく電話に出る。
「は?救援?魔王が?」
少し機嫌が悪くなり、眉をしかめる。
「なにが?」
「いやね。魔界に、魔界龍とかいう奴が現れて、魔界を暴れまわってるんだって。それで助けてくれって……。前に出禁にしたくせに」
魔界に限らず、異界や霊界に冥界や神界など、その他様々な場所から出禁を食らっている麻希。だが時頼こうやって救援要請があるのだ。
「まぁ、仕方がないと思うけど?」
「あ~分かってるよ。怖がられてるからね」
理解はしているが、不満は大きい。
「明日はアンタと遊ぼうと思ってたけど……ま、遊び相手ができたと思ってちょっと行ってくる。ついでに観光もね」
「そ、そう。お土産楽しみにしてるよ」
それを聞いた快人は、内心すごく安堵するのだった。