昼休憩から特に何事もなく時間が過ぎて、下校時刻に差し掛かっていた。そんな中殆どの仕事を終えた二人は、最後の片付けをしていた。
「何もなかったね」
「そりゃな。初日からそんなぶっ飛ばさないって」
それもそのはずで、初日など新入生への説明やこれからの準備ぐらいしかやることがないものだ。大半の生徒は才能や適性があり、それを開花させていくのが手順というものであり、詳しい能力検査もしていないのに問題など起こるはずがない。
一部には特別な者や生まれつき異能がある者たちもいるが、そういう者たちは一般の生徒とは別のクラスに集められているので、問題も起きにくいだろう。
「期待してたのか?」
「そりゃね。異能って面白そうだし、なんか見れると思ってたよ」
どうやら少女は異能が見てみたかったようだ。
「異能見たことあるだろ」
「異能な~。間近ではあんまりないからね。いつも画面越しとか遠目とか書類上でし見ないから、せっかくの機会なのにな~」
初日からぶっ飛んでいるのは少女のようで、男は呆れた顔をしていた。
「これからいつでもそんな機会はできるだろ。ほら、大会とか訓練とかもあるんだし」
「そうだね。興奮しすぎてたみたい」
能力開発や戦闘訓練、世間様への印象向上などなど、異能が浸透した世界でもやることが山ほどある。なぜなら、安定したとは言え未だにテロや革命、怪物たちが消えたわけではないのだ。むしろ表に出てくる頻度が減っただけで、個々での厄介さは増しているぐらいだ。
「……これからずっとここで働くのか。そう思うとなんだかな」
「どうしたどうした?早速不満か?」
なにか思うところがあるのか、男は呟くように小さな不満……と言うより不安をポツリと言う。
「いや……と言えば嘘になるが、飽きないかなって」
「その時は別の就職先を探せばいいんだよ。それに別に金に困ってるわけじゃないんだから」
少女ほどではないが、男も高スペックなのもいいところで大抵のことは出来る存在だ。そのため昔から、ある程度出来るようになると飽きて別のことをしだす事が多かった。無論それも社会に出たり、経験を積んだりでマシにはなったが、中に芽生える虚無感やつまらなさが消えた訳では無い。
「それは母さんの話だろ?俺は自分で稼がなきゃダメなんだ。いつまでもぶら下がってることなんてできねえよ」
「偉くなったな~、誇らしいぞ。でも苦しくなったらいつでも言ってな、いくらでも助けてあげるから」
今までは母親に頼る部分がお大きく、助けられたことなど数知れずという状況だった。だが男も大人になり社会人だ。いつまでも親にしがみつくのも嫌だった。しかし少女も男の親としてどこまでも見守る決意がある。
「ありがとう母さん」
「いいよ。私が一緒にいたいだけだから。逆に縛り付けてないか心配になる」
少女からしても男が独り立ちするのが正しいと理解はしていた。しかし唯一の血の繋がった家族を手放すことができずにいるのだ。
「ま……それはあるかもしれないけど、今のところは大丈夫だよ」
「まっ安心して、お前が嫌なら離れるし、それ以前にワタシの方が早めにくたばるだろうからさ。ハハハ!」
笑顔でそんなことを言ってくる少女に、男は苦笑いをしながら片付けを終わらせるのだった。