レチアが部屋に行き、ベッドで寝転がってムンムン言っていると、部屋に誰かが入って来ていた。
「レチア。少し話がある」
「……麻希さん……」
少し期待していたようだが、それを振り払い麻希さんの方を見るレチア。
「ワタシの息子に告白じみた事したみたいね」
「そうだけど~。振られちゃったけどね~」
悪気のなさそうなのんびりした口調で、そう言うレチア。
「でしょうね。まぁ、息子はあの人に似ていい男だけど~。結構鈍いわよ~」
「ふ~ん。てっきり前みたいに忠告しに来たのかと思ったよ~」
私の息子なんだからそうなるのは当然 と言う麻希さん。それに対し、昔向けられた忠告ではないのか と少し安心するレチア。
「もうそろそろワタシも子離れしないとな~ってね。あの子が未熟なのが気がかりだけどね」
「じゃあ貰ってもいいって事?」
それを聞いたレチアは、食い気味に期待の目線を向ける。
「邪魔しないってだけよ。まぁあの子もモテモテだし、アンタに傾くかどうかは知らないけどね」
「それでもいい。希望は見えたから~」
満足して嬉しそうなレチアを見て、もういいか、と思った麻希は、本題に入るために真面目な顔をした。
「で、こっからは真面目な話。悪魔界の方はどう?何か違和感は?」
「違和感だらけ、大きく干渉されてないから、気にしなくていいよ」
少し真面目になり、怠惰が抜ける。理由は簡単だ。麻希さんが明らかに疲れているからだ。隠してはいるが、怠惰として悪魔としてそう言うのはハッキリと分かる。
「そうもいかない。だから、アンタもわかってると思うけど、悪魔界には行かせてもらう」
「別にいいよ。でも無茶しないでね。貴方も悪魔界も長くはないだろうし」
落ち着いて、そして悲しそうにそう麻希さんに伝えた。
「そうなのか。悪魔界も、原初であるアンタも、どこもそうか……」
「うん。やっぱ無理はいけないね。最近は上手く寝れないや」
レチアは、原初最後の生き残りである。あの悪魔界を根本から支える、魔界龍と同じ立場の最高責任者。だからこの状況は、どこまでも苦々しく思っていた。
「原初の、私の兄妹たちはみんな、全員いなくなっちゃった。私たちしかあの世界を支えられないのにね。ホント、何も言えないよ」
「でしょうね。悪魔界がなくなったら、殆どの悪魔も滅びる。特にあの世界出身の悪魔はそれは避けられない」
悪魔界は、この世界で悪魔たちの故郷であり、存在定理である。本来この地球に刻み込まれていたそれは、膨れ上がった負荷を分散するために悪魔界と言うものに分かれてしまっていた。他の世界も同じだ。
「2000年だったっけ?それよりも前だったかな?私が生まれたのは。傲慢と強欲と憤怒のお兄ちゃんに、怠惰の私、暴食、色欲、嫉妬の弟と妹たちが出来たの」
昔を思い出すかのように語り出すレチア。
「私はずっとダラダラしてて、みんなと楽しく生きて、悪魔たちも増えていって、人間とか神とかとも争って……」
懐かしかった。いつも夢に見る。今でも忘れないほどに。
「気が付いたら一人ひとりいなくなって、知らない悪魔界が出来てて、貴方が来た」
これがレチアが知っている歴史だ。寝ている間が多く細かい所は把握していないが、大きなところはちゃんと分かっている。
「逆行が使われているのは、20年にも満たない範囲。だけど、繰り返す度に並行世界を巻き込む。そして一つとなった世界は、最適化のために他の付属世界を生んだ」
「分かってる。私が生きた世界はもうどこにもない。それも分かってるよ」
ムダな所を省かれ、最適化された世界に歴史などない。現在を基準とした過去が形成されるだけだ。矛盾を突かれないために記録も記憶も調整される。程度の差は知れているが、それを認知し過去を知るのは、取り残された者か世界に匹敵する者だけである。
「どこが変わったかよね?全部教えるよ」
「そうしてくれると助かるわ」
そうして二人は、詳しい事を詰めるために話し合いを続けるのだった。