レチアが来てから数日が経ち、五月も中旬が過ぎようとしていた。
「ふ~平穏平穏」
廊下の掃除を終えてモップを洗う。そして気配を探り、中庭に意識を移した。
(レチアは静かに寝てるな。悪魔たちも大人しいし)
なぜレチアがいるのかと言うと、一人だと暇だと言って勝手に学園に付いて来ようとしたので、客人として招く事にしたのだ。
(抑えた怠惰のお陰で事件も起きずに済んだのは助かったな)
レチアが適度に怠惰を振りまていくれるお陰で、学園の中にいる者たちは少し大人しかった。これにより毎日何かの事件で騒がしい学園は、普通の学校のように大人しくなったのだ。
「これだと、ずっといてくれると助かるんだがな。まぁ無理か。遅くても今月中で帰るって話だし」
レチアはああでも悪魔界の王の一人だ。今回は麻希の襲来のせいで地球に逃げて来たが、本来なら悪魔界にいなければいけない存在である。
(こうやって大人しくしとけばいいのにな。事ある毎にちょっかいかけて来なきゃ、普通に感謝できるんだがな)
この数日間、レチアは快人にアタックしまくっていた。それはもう、偶然を装ったり、強引に誘ったりだ。しかしされている当の本人は、一切気づかずにのらりくらりと受け流されていた。
(レチアも子供みたいな事をするな、本当……)
しかしレチアは下手だった。快人からすれば、昔やって来た延長線上にしか感じられず、そして狭間の住人は好意は感じるが恋愛には疎すぎた。
「ん?」
そんなことを考えながら次の場所に行こうと移動していると、二人の女性、セイスドとダイヤズと出くわしていた。
「あ、快人!前はよくも仕事押し付けてくれたわね!悪魔相手に何の対価も無しにいられると思うっ!ぐえっ!?」
「やめなさい、セイスド。前にお礼はしてくれたでしょ。それにしても今度もまた大きなのを相手してるみたいで」
炎の槍を生み出し速攻で攻撃を仕掛けようとしたセイスドだが、ダイヤズに襟首を引っ張られ倒れる。
「そちらこそ相変わらずで。まぁこっちは大したことはないよ」
「相変わらず強い人。悪魔の王を相手にそう言えるのはあなたたちぐらいでしょうね」
「やめろ放せ!」
暴れるセイスドを摘まみ上げながらそう言うダイヤズ。
「知り合いだし、大人しい部類の悪魔だからね」
「悪魔とは思えないわね。みんなこんなのとばかり」
「変な目で見るな!そう言うあんたもエルフとは思えないぐらい戦闘狂だったじゃん!」
こういう悪魔が目立つので酷い印象を持たれがちだが、実は大人しい奴も案外いる。悪魔に共通するのは契約順守なとこぐらいだ。
そしてエルフはと言うと……
「エルフは温厚そうに見えるだけでそうでもないもの。魔界暮らしを舐めないでね」
「それを言うなら悪魔界だって同じだ!」
エルフは魔界の森に住まう種族の一種だ。長寿で美男美女、温厚で争いを好まない……ように見えるが、事自分たちの縄張りを守るためなら、あらゆる手段を行使する森の狩人だ。まぁ大抵の場合は防衛メインなので、昔のダイヤズのように積極的に戦おうとする者は少ないが。
「まぁまぁ二人とも。もう昼休みだし、そこら辺でね。あとあの時のお礼代わりにお菓子作って来たのでどうぞ。ちゃんと家族分もありますから」
「私の夫と娘に寂しい思いをさせたんだ。同然だな!」
「ありがたくいただくわ。きっと夫も娘も喜びます」
因みに二人とも既婚者で幼い娘を持つ一児の母だ。なので、仕事を押し付けてしまった事を少し悪いと思って、手の込んだ菓子折りを渡す事にしていた。そうしてそれを渡すために快人は、二人の家族自慢の話を聞きながら休憩室に向かうのだった。