入学式から三日が過ぎていた。その間に小競り合いのようなものがあったものの、二人の……というより大事にはならず、みんな平和な日々を送っていた。
「な、何もない……だと?」
「そりゃな。教育と教師の努力の賜物だろうよ。それに多少はあったみたいだけど学校側も大事にはしたくないだろうし」
昼飯を食べながら思っていた状況と違うとガックシしている少女に、先に食べ終わっていた男はまぁまぁと落ち着かせる。
「確かに力のぶつかり合いは感じてたけど、それって異能の検査とか訓練のせいじゃなかったの?私その時別のとこで仕事してたから見に行けなかったんだけど」
「そこで小競り合いがあったらしい。異能が使えるからって興奮したのかもな。というか今仕事抜け出そうとか考えただろ?やめてくれよ」
少女は、与えられた仕事はちゃんとこなすし問題を起こす気はない。だがそれは問題の発生や表面化しなければいいという考えで、そうならなければ割と勝手に行動するのだ。そして高すぎる能力が仕事を完璧かつ迅速に終わらせ、手伝いの名目で様々な場所に行っているのだ。
「あ~見たかったな。そっち行けばよかった。だけど面白い事が起きそうだ。例えば、どこかの名家とか身分差とか勘違いエリートとかがそれっぽい主人公に絡んで何か起こるとか、それかどこかの悪の組織的な何かが攻め込んで来るとか」
「こりゃダメだ。てか最後の物騒すぎるわ」
様々なイベントを期待していた少女に、男は呆れが混じりながら引いていた。
「ふん、暇すぎてありそうな展開をネットで調べたの。あと闇の組織とか秘密結社とかその逆の組織とかも普通にあるからね。昔短期バイトやってたし。まぁ戦闘員にさせてくれなかったからムカついて、全員まとめて総合建設業者とか警備会社にしてやったけど」
「そんなことまでやってたのか……」
信じているのかいないのか、疑うような目で少女を見る男。しかしどこか身に覚えがあるのか、恐らくそうだろうと思っていた。
「大丈夫、大株主にはなってるし悪さはさせないから。もちろん詳しくは教えれないし他言も無用だよ。商売はイメージが大切だからね」
「そうだよな。わかってるよ」
そういう部分は理解があるので、興味があっても聞きはしない。しかし株主うんぬんよりも、母さんを恐れて何もしないのでは?とは考えていた。
「む~何か変なこと考えてるな。別に恐怖で支配してるわけじゃないぞ。ちょっと終わらない仕事を与えてやっただけだよ。ほらこの世界物騒だろ?そういう仕事ならいくらでもあるからさ 」
(それがすでに恐怖なんだが……)
笑顔でそんな事を言う少女に若干の恐怖を感じながら、平静を装い頷く。男も含め、大半の存在は永遠と働いていられるほどの能力も精神力もないのだ。
「そういやアンタ。ここで仲良くなったやつとかいんの?友達とかさ?」
「普通にいないよ。いつも言ってるけど仕事場なんだからそういうことする場所じゃないだろ」
少女の質問に男は正論で返す。どうやらいつものことのようで、少々呆れ気味だ。
「友達いないと寂しいぞ。刺激が無くて息苦しくなる」
「仕事とプライベートを割り切ってるだけだよ。ちゃんと仕事はできてるし、別に関係が悪化しなきゃなんでもいいだろ」
親子の割に仕事への考え方が真逆のようで、楽しさややりがいを求める母親と、楽さと効率を求める息子で意見は違う。
「いや~昔っからそうだよな。ワタシにはムリだけどアンタにはできるんだよね。これが育ちの違いってやつかしら?ちょっと羨ましいわ」
「俺からすると母さんのコミュ力の方がすごいよ。誰とでも仲良くなって何でもできる。俺には合わないけど一種の理想形みたいなものでしょ」
両者とも受け入れるかどうかはさておき、否定はしない。それがどれだけムダな事かはわかっており、逆に理解しうまく付き合おうと考えていた。
「そう言ってくれるとありがたいな。隣の芝生は青く見えるってのはこのことか!」
「そうだね……っと、昼休憩ももう終わりだな。じゃ俺は先に仕事場にいくよ」
そこで休憩時間も終わりに近づき、男は昼からの仕事の為に先に片付け、準備のために少女と別れるのであった。