準備を終え仕事に取り掛かった男は、慣れた手つきで清掃をこなし、自身の担当区画を掃除していた。
「備品の点検もよし、どこも壊れた場所もなし。こっちはもう終わったから、次はあっちだな」
清掃をしながら問題がない事を確認しながら仕事をしていく。
「にしてもホント広いな。この学園。ま、いろいろ詰め込んでるから当然だが」
普通の学校設備に加え、様々な異能関係の設備が盛りだくさんの異能学園は、それなりに広く一区画の維持管理も大変であった。そこを専用で雇ったプロの用務員で管理するのだ。
「俺や母さんみたいに、隅々までやるわけじゃないからそうでもないのかもな。まぁ俺から見ても母さんは異常だが」
普通は、男やあの少女の様に常に大掃除レベルで掃除する事は無い。年に数える程度であろう。だがこの二人はそれでは早く終わり暇になるからと、新品同然に整備しているのだ。なお男は無理だが、少女はそれでも他人を手伝う余裕がある。
そんな事を考えながら時間が経ち、 屋内の掃除を終えた頃には帰りのチャイムが鳴り響いていた。
「っとこれでこっちも終わり、あとはここらの外回りと……なんだ?」
片付けをしている途中、何かを感じ取ったのかその場で立ちどまり、神経を研ぎ澄まさせる。
「生徒?何でこっちに?」
今いる男の担当場所は、基本生徒は立ち入らない場所だ。そんなところに数人の気配を感じ、不思議に思いながら様子を見に行く。
「四人か。それもあの立ち位置、なんか嫌な予感するな」
様子見で隠れ、気配を探り人数と立ち位置を確認する。すると三人が一人を囲むようにして立っており、なにやらよくない気配を感じ取っていた。
(ん~顔と名前は把握してたけど気配はしてなかったな。誰かわからん。変なことされても面倒だし、注意ついでに把握しとくか)
何であれトラブルが起きれば男もただでは済まない。なぜなら自分の管轄内だし、放置するわけにもいかなく、何より後処理が面倒なのだ。だから問題を起こされる前に止めなければならなかった。
「おい君たち。こんなところで何してるんだ?」
「なんだおっさん」
リーダーぽい男子生徒が男の方を見て、明らかに敵意ありげに睨んでいた。
「おっさんって……まぁいいや。ここは生徒でも許可なく入っちゃダメなところだぞ。あとお前、今異能使おうとしただろ?それも人に向かって。それの注意だよ。大事になるからやめなさい」
異能の使用は違法行為だ。それも意図的に害意があった場合更に罪は重くなる。男はそう注意したが……
「知らねえよ!俺に指図するな!」
「あ~どうしよ」
忠告を無視して、異能である炎の力を手に宿していた。それに困った風に呆れる男。
「あ~、君たちは使うなよ。これ以上……」
「無視してんじゃねえ!」
「「「っ!?」」」
無視した男にムカついたのか、リーダーは炎弾を作り出しぶつけようと撃ち出す。それに驚いた取り巻きの二人と標的だった男子生徒は何もできずにただ見ている事しかできない。
しかし――
「は?」
男は煙でも払うかのように炎弾を片手でかき消し、何事もなかったように再度説得をしだす。
「え~だからやめろって、今ならまだ黙っててやるからさ。探知されて誰か来ても間違いだったことにすればいいし、な?」
大事になると面倒だし時間が取られるとしか考えていない男は、少し威圧をかける。
「お、俺を誰だと……っ!?」
「知ってるさ。一応生徒の顔と名前は全部頭に入れている。それでもここじゃただの一生徒だ。多少は仕方がないだろうが意図的に使うもんじゃない。それぐらいわかってるよな?学び舎に余計なもん入れこむなよ」
建前とは言えここでは皆一生徒でしかない。学び成長することが目的である施設に、権力などという余計な物は必要ないという事だ。
「わかったら大人しくしとけ、もうそろそろ人が来る」
異能を検知したのか、何人かの教員がこちらに向かって来ていた。それに気づいた男は、四人に大人しくしておくよう指示し、その後すぐに教員が到着する。
「動くな!異能の不正使用を感知した。そこの用務員、状況説明を頼む」
「そこの男子生徒ですよ。まぁ大した事はしてないので多めに見てやってください」
そう言いながら状況説明をしていく男。それに青ざめるリーダーだったが、大事にしないように少々嘘は混じっている。まぁ大したことでないのは確かなので問題ないだろう、と男は思っていた。
「なるほど、今回は多めに見るが……次はないぞ」
「「「は、はい!」」」
無事説明も終わり、最後に教員に怒られ反省する三人。それは教員に怒られているからなのか、後ろで男がニコニコしているからなのかわからないが、一人は被害者になりかけた人なので気まずそうにしていた。
「じゃ自分は仕事に戻りますね」
「ああ、協力感謝する」
そうして生徒と教員は帰って行ったのだった。