今日も今日とて学園のトレーナー室に出勤した芝崎。いつもは食傷する始業時間だが、先日ウマ娘たちのおかげで煮凝りのような気持ちが清算され、この数日は非常に爽快な気分で仕事に取り組めている。
そんな彼が一日の最初に行う業務はメールのチェックだ。
メールアプリ内には芝崎宛に理事長秘書の駿川たづなや生徒会から、書類締め切りなどの伝達事項が毎日送られる。またチームのアドレスには、学外からのインタビューの依頼や、イベント出演の依頼など。たった一夜だけでも、目を通すのに苦労するような量が送られる。
そして全てのメールを読み終え、必要に応じて返信をした後、今度は郵便物のチェックを行う。
許諾された申請書類の写し、検閲済みのファンレター、解析用に頼んだレースデータが入っているUSB。どちらかと言えば、こちらの業務の方が多種多様な物があるため面白みがある。
「……ん、これ間違いだよな? いたずらか?」
ただ、郵便物はメールよりも自由過ぎてしまうとも言える。費用さえ惜しまなければ、配達可能な大きさ無制限で、場合によっては受取人に払わせることも可能だ。また、送り元の記載が無くとも受け取りが可能なため、現代社会ではメールよりも宛先の特定が難しく、いたずらや脅迫などのハードルが下がる。
そのため、ウマ娘とレースが人気商売なだけあって、トレーナー業をしていると時たまに業務と関係のない物も送られて来てしまうのだ。
本来はミスとして管理部に報告なのだが、芝崎が怪訝そうに手に取っているのは『一枚のポスター』だ。A4サイズのそれには誰宛かの記載はなく、誹謗中傷らしき文章が載っているわけでもない。恐らく捨てるはずであったチラシが、何らかの手違いで迷い込んできたということだ。
「はい、ゴミ」
そのため、芝崎はそのポスターをデスク横にあるゴミ箱へと乱雑に捨てた。
──しかし、捨て方が良くない。シュレッダーに入れるでもなく、デザイン面を内側に折ることもしていない。ただ投げるように突っ込んだだけだ。
つまり、ゴミを回収する際にそのポスターが見えてしまう。
さて、レグルスのゴミ出しであるが、基本的にはサイレンススズカが行っている。トレーナーの仕事を少しでも減らすため、秘匿性の高い文書を毎日きちんと処分している。
そうなるとゴミを処分するまでの一連の流れとして、ゴミ箱の中身をまとめているのも彼女だ。
そのため、見てしまった。
その芝崎が捨てたポスターを見てしまったのだ。
可愛らしい女性たちが載せられた、男のロマンが詰め込まれたポスターを──。
『幕間 メイド喫茶編』
「それを聞いたのか? スズカが? 本当に?」
芝崎がクエスチョンマークを浮かべる場所は学園の廊下。トレーナー室に向かう最中に、珍しくウマ娘の方から芝崎に声をかけてきた。
自分に声をかける生徒など知り合いしかいないと止まってみれば、そこには同好の士が立っていたではないか。
「そうなんですよ。不思議ですよねぇ?」
ウマ娘の名は、アグネスデジタル。芝崎と同じ──、芝崎以上にウマ娘オタクのウマ娘だ。芝崎と彼女は月に一度、研究会と称してウマ娘に関したトークを繰り広げる。研究と呼ぶには些かファン目線の強いものだが、一度の研究会にかかる時間と熱量は愚論とは程遠い。
本来なら芝崎と彼女の出会いも詳細に記すべきだが、幕間にはそこまでの余裕はない。ひとまずは諦めて欲しい。
さて、そんなアグネスデジタルが芝崎を呼び止めたのは、彼女自身に起きた奇妙な出来事について伝えるためだ。
数日前、彼女が寮の自室で『推活』をしていたところ何者かが訪問してきた。そして、それは今まで面識のないサイレンススズカであったという。加えて、いきなり大人気ウマ娘と対面して驚いているアグネスデジタルに対し、サイレンススズカは一つの質問を投げかけたと言う。
『メイド喫茶について教えていただけますか?』
サイレンススズカの知り合いならば、彼女の正気を疑うような質問だ。仮に、芝崎が彼女からそんなことを質問されるならば、次の瞬間にはスマホで近くの精神科を探し始める。
……ただ、一概に可笑しくなったと言えないのは、質問をする相手をきちんと見極めている点だろう。その類の趣味嗜好に関して通じている、少なくとも学園内で最も通じているアグネスデジタルに質問している。質問者を適切に選ぶ判断力は残っているのだ。
「まあ私としては、あの絶世の美少女であるウマ娘さんに話しかけて頂いたので、もうそれで十分なですけどねぇ~」
ドゥヘヘ、と笑うアグネスデジタル。まあ、その気持ちは分からんでもないと芝崎も同意。……ただ、その同意と頷く顔には脂汗が滲んでいる。
──……やっべ──!! 絶対アレじゃん、あのチラシ見られてるじゃん!!
終わり、終わりですわ。あんなの見られたら気持ち悪がられる──!!
芝崎は見線を腕時計に落とし、時刻を確認。時刻は14時58分と30秒である。15時からはチームミーティングを開く予定で、メンバー全員をトレーナー室に集めている。
このまま誤解を解かなければ、今日のミーティング内容が5月末のチーム戦についてではなく、『芝崎走一メイド喫茶で鼻の下伸ばし罪』の裁判に変わってしまう。もしくは『学園にこんな不埒なもの持ってくるな罪』だ。
──どちらにせよ社会的な死刑は確定である。
「……お、俺、……ちょっとトレーナー室に行かないと──。マジで」
「おや、そうですか? それではまた今度、ウマ娘ちゃんについて語りあいましょう!!」
アグネスデジタルに対して弱々しいサムズアップを作ると、芝崎は早歩きでトレーナー室に進行を始める。心臓の鼓動がテンポ・強さ共にMaxであるが、これは早歩きで起こっているものではない。焦りが純度100%で心臓を動かしている。
滑るようにトレーナー室の前に着いた芝崎は、不安を募らせながら扉を滑らせた。
さて、第一声はなんと弁解するべきなのか──?
「何これぇ……?」
しかし、そんな芝崎の目に映ったのは異世界であった。……転生はしていない。ただ、彼にとっては目の前にある光景、──メイド喫茶のような、ピンクのふわふわした空間は経験が無いのだ。
トレーナー室であったはずの部屋。しかし、PCやファイルなどの仕事関係の物が一切見当たらない。その代わりに、壁には風船や横文字が書かれたボードがかけられ、部屋の中央には木の丸机と椅子がワンセット置かれている。そして微かに香る甘い匂いも、その雰囲気作りを十分に担っていた。
謝罪文を作り上げていた芝崎の脳に、クリティカルなカウンターパンチが飛び込んできた。疑問を吐き出した芝崎は、そのままボーッと部屋を眺めている。
──すると、これまたトレーナー室には無かったカーテンの仕切りから、一人のウマ娘が姿を現して芝崎の意識を呼び戻した。
「遅かったな……。さっさと席に座れ」
命令口調のイケ(ウー)メンボイス。間違いなくナリタブライアンだと、芝崎が声の方向に視線を動かす。
今の彼が求めるのは安心感。こんなサプライズ展開からは最も掛け離れた性格をしている彼女に、一刻も早く目の前の景色について説明を求め、この事態への対応を手伝って欲しいと願う。
──が、そう効率よく話を畳める訳がない。
「──おまぇ……、執事じゃん」
「……見るな」
そんな無茶な、と芝崎は思う。
ナリタブライアンは革靴とテーパードパンツで下半身を固め、シャツとネクタイの上にジャケットを羽織っている。生地自体は安い物と見てわかるが、顔とスタイルの良さが帳消しにしている。また彼女の髪色が漆黒であることも、執事服の黒と合わさってスタイリッシュに決まっている。……相変わらず葉っぱは咥えているが。
──しかし、そのベストは危険すぎる。
ナリタブライアンが身に着けているベスト。シャツとジャケットの間に位置する一般的な胴着である。
……さて、イメージして欲しい。男性がベストを着ると、第三者から視認可能なシャツの部分はどこだろうか。──そう、中央胸部と首回りだ。ネクタイ周りと言ってもいい。
しかし、ナリタブライアンはスタイルが良い。等身があり、足が長く、顔が良く、胸がデカイ。
──デカいんだよ!! シャツ越しとは言えベストからアレがはみ出てるから、ベストに持ち上げられちゃってるからさぁ!!
「──うん、見ないよ。とんでもねぇから」
ナリタブライアンに言われた通りに芝崎は目を逸らす。
「……待て、どういう意味だ?」
──が、駄目。言葉の雰囲気で失礼なニュアンスと捉えられ、ナリタブライアンが突っかかって来た。
「あぁ!! 違うから、止まって、俺に近づかないでぇ!!」
「なんだと──!? もう一度言ってみろ!!」
それ以上近づかれたら触れちゃうでしょうがぁ!! とは言えない。そんな勇気ないから。童貞だから。
……などと騒いでいると、ナリタブライアンが現れたカーテンから助け船がやって来る。
「あ、走一さん!! 待ってましたよ!!」
「キタちゃん!! 助けて、食われる!!」
「食わん!!」
芝崎が手を伸ばした先からは、頼もしい教え子であるキタチャンが現れた。
──ミニスカメイドで。
「えぇ……?」
男からは困惑よりも唖然が強く出た。
メイド服なのは芝崎も分かる。この部屋のピンクの雰囲気と、ナリタブライアンの恰好を知れば感得は出来る。
キタサンブラックが身に着けるは、ある意味で王道的なメイド服だ。
メイドを象徴する純白のエプロンとホワイトブリム。かわいらしいリボンが服の至る所に飾られ、フリルが多層になったスカートからは、スラッと伸びた足が映えている。ナリタブライアンと同じだ。スタイルの良さと髪色が絶妙にマッチしている。
……ただ、ミニスカには納得できない。
本来、王国の地で従事しているメイドはロングスカートである。ミニスカメイドの文化はこの国特有のものである。そのため
だから芝崎は親心に近いものとして、キタサンブラックが着るならせめて上品なメイド服であって欲しいと思ってしまう。
「キタちゃん、それは……?」
「はい!! ダイヤちゃんが貸してくれました!!」
難しい返しをされたが、ここはあえて深堀をしてみる。
「そうか……。貸してもらっただけ?」
「へ……? うーん……、──あ!! 服を貸す代わりに、写真を撮らせて欲しいって言ってました!!」
芝崎の中でキタサンブラックの親友たる『ダイヤちゃん』に抱いていた印象が更新された。キタサンブラックからは、お嬢様で、とても優しい、お母さんみたいな人だと聞いていた。だが、男の眼前にいるミニスカメイド姿の純粋な少女と『ダイヤちゃん』が行った交渉結果を聞く限りでは、その子は計算高く、狡猾さも秘めているウマ娘なのだと推理できる。
──『ダイヤちゃん』とやら、交渉が上手いな。
「そっか、気をつけてね。──ホント、マジで」
「……? はい、借り物なので汚れないようにはしますよ?」
執事のナリタブライアンと、メイドのキタサンブラック。そして実はヤバい『ダイヤちゃん』の存在に疲れて、芝崎は用意されていた椅子へと自然に腰をかけた。
こうなればもう彼女たちの計画からは逃げられない。一通り彼女たちを満足させてから諸々の話は聞けばよい。それにメイド喫茶がモデルなら、このあとの展開を想像することなど容易だ。
恐らく残りの出てきていないメンバーが、この後飲み物やら食べ物を提供する。もしかしたら、チェキと呼ばれる撮影などの特殊なイベントも行うかもしれないが、予想していればティーンエイジャーの企み程度なら受け流せるものだ。
「あ、トレーナーさん!!」
……今度はスペシャルウィークだ。芝崎の好物のアイスコーヒーが置かれたトレーを持っている。まずはドリンクからなのだろう。
彼女もキタサンブラックと同じでミニスカである。ただ、胸部装甲の発育がキタサンブラックより大きいため、揺れる山地が凄いことになっている。──隠せ。
まあ、でも、全部受け流すと決めた芝崎に弱点は無い──。
だが、
「もぉおおお!! ヤダァあああ!!」
「トレーナーさんが壊れた!?」
「どどど、どうしたんですか走一さん!?」
スペシャルウィークのメイド姿はバニーであった。基本の衣装はキタサンブラックと同じだが、頭部の耳に被り物を着けて見た目を拡大、長い尻尾はスカートに隠して代わりに丸い尻尾を付けている。その他にもサイズが限界なハリ具合と、デニールの薄いタイツが危険だ。
ここで、「どうしてお前らそんなにエッチな恰好してんの?」と聞けたら、この気持ちがどれだけ発散できただろうか。──だがそんな男に勇気は無い。童貞だもの。
だからと言って着替えろと訴えても、お前が変なチラシを生徒に見えるように捨てたことが事の原因だと跳ね返されれば反論は出来ない。
「あの、ほんと、僕たちは適度な距離感でいこうね」
「えっと、大丈夫ですか? 実は気分悪いですか?」
大丈夫なわけがない。
ノー青春、ノー彼女の人生だ。ただでさえ顔面・スタイル・性格が優のウマ娘たち。そんな彼女たちに可愛らしい恰好で囲まれて接客をされれば、もうどうしたら良いのか分からない。
「あ、アイスコーヒーです!! おいしいですよ!!」
「──はい、どうも……」
味なんか分かるか、と心でツッコミを入れる。
コーヒーを置く動作で揺れるソレから目を逸らして、ストローに口をつける。冷たい飲み物は、緊張で熱い身体と乾いた喉が欲していた。結果的には最高のバランスで需要と供給が成り立った。
アイスコーヒーのお陰で少しばかり冷静を取り戻した芝崎は、心を落ち着けて次に来る衝撃に備える。
残っているメンバーは、サイレンススズカ、カレンチャンだ。突拍子もないことをするならカレンチャンだが、これまでの展開的からすれば逆を突いてサイレンススズカが大きな攻撃を仕掛ける可能性も捨てられない。
芝崎は大きく深呼吸をして、カーテンの仕切りを見つめる。
──さあ、次はなんだ!?
「トレーナーさん、ケーキです。みんなで作ったんですよ」
サイレンススズカだ。
うん、サイレンススズカだね。
めっちゃ普通のサイレンススズカだ。
確かに恰好は他の三人同様にいつもと異なる。……ただ、違う方向が健全だ。彼女の恰好は和メイドと表現するのが最も近いのだろう。
サイレンススズカが日常で着用する耳当てや、勝負服に用いられている翠。彼女はその色をベースにした着物に白いエプロンを着けている。
いつものイメージに近くも、どこか非現実的。その美しい姿での丁寧な給仕は、芝崎の視線を完全に引き付けた。
「トレーナーさん? 食べないんですか?」
「──あ、ああ、悪い。……食べる、食べるよ」
今までの全てがサイレンススズカのための前振り、そう思っても仕方がないほどに今の彼女は完璧なメイドである。着物であることも、奥ゆかしさや大和撫子といった要素を引き立てている。──そう、男なれば一度は憧れる『俺に尽くしてくれる超美人な奥さん』がそこにいる。
芝崎もこれには耽るだけ。彼女からの呼びかけで、今日何度目かの飛んでいた意識が戻り、いつの間にか目の前に現れた食器に気が付いた。
食器に置かれているのは美味しそうなチョコレートケーキだ。芝崎はスイーツには疎いが、これが手作りなのかと衝撃を受けた。表面が均一であり、スポンジが崩れていない。ココアパウダーなどで形が悪い部分を隠しているのかもしれないが、それでも素晴らしいできだと褒めねばならない。
「じゃあ、いただきます」
──が、ケーキの配膳だけで終わることはない。
先に出て来た三人は強烈であった。だからこそ、サイレンススズカは出鼻から衝撃を与えるような戦いを仕掛けるよりも、荒ぶる芝崎を一度落ち着かせてから、自身の放つ最大の一発を仕掛ける。つまり、緩急で生まれた差の分だけ、その攻撃力が大きく感じられるということだ。
サイレンススズカは芝崎が掴みかけたフォークを奪うと、それを持ったまま彼の膝上に座った。──そう、膝の上に座った。
二人の位置関係はお姫様抱っこに近い。対面とまでいかないが、横向きのサイレンススズカが芝崎の顔を覗き込んでいる。
軽い。柔らかい。良い匂いする。顔カワイイ。ヤバい、どうしよう──。
フリーズした脳が緊急シャットダウンを始めた芝崎を他所に、サイレンススズカは楽しそうにケーキを切り分ける。そして、その一つをフォークで刺して、ゆっくりと芝崎の口へと運び──。
「あーん――♡」
──ああ、死ぬわこれ。
俺の死因は女性耐性が無いことでの尊死だ。人類初じゃないかな。……あ、先駆者にデジタルがいたわ。
……などと現実から乖離するのも束の間。このフィニッシュブローは単発ではなく連撃である。それに戦いは芝崎とサイレンススズカだけのものでは無い。すでに戦いは芝崎対メンバーになっている。
残念なことは、この勝負に残っている芝崎の手札が残り一枚であることだ。
サイレンススズカの行動に対して彼が取れる行動など、膝の上に乗っている彼女を落とさないようにカタカタと震えるだけである。何とも哀れで些細な抵抗だろう。
「あ!! 駄目ですよ、スズカさんが落ちちゃいます!!」
「もー!! ほんと今日の走一さん変ですよ!?」
その些細な抵抗も逆効果。上下に揺れる芝崎をスペシャルウィークとキタサンブラックが押さえつける。……そう、察しの通り。ミニスカメイドとバニーメイドが芝崎の腕にしがみついて体を押さえつけている。
加えて、彼女たちが身に着けているのは、その辺の大型ディスカウントストアで購入した、うっすい生地で作られたメイド服。もう、当たるもんが当たるどころか、腕に絡みついている。
「くぁwせdrftgyふじこlp──!!」
──自分を囲む女性特有の柔らかさと甘い香り。芝崎の記憶はそこで途切れた。
次に意識が現世に戻ったのは時間にして数分後。気が付くとケーキは無くなり、自分の口内にはチョコレートの通った甘ったるい重みを感じた。どうやら自分は意識の失っている間に困難を乗り越えたのだ。
真似事であっても、喫茶店内では到底聞くことのない大きな溜息が芝崎から漏れた。
「トレーナーさん、次で最後です」
サイレンススズカの一言は芝崎にとっては歓喜の脱出口だ。
次の対戦相手、十中八九最も破天荒な行動をしてくるカレンチャンだが、そこを乗り越えれば試合は終わりだ。終わりが見えればメンタルも回復して、相手の攻撃にも耐えられる。
──よっしゃ、来いやぁあ!!
「じゃーん!! カレンだよ!! ──どう? 似合ってるでしょ!!」
あー……、ハイハイ。……なるほどね、確かにメイドっぽいわ。
白黒の生地にフリルが付いている。頭にカチューシャで、エプロンもしている。それっぽい箇所を文字だけ抜き取ればメイドですよ。
……だが、まあ、ここまで来たなら声を大にして言おう。もう言ってしまって楽になろう。
「それ
カレンチャンに指を突き立てて叫ぶ。
廊下にはビキニやら、犯罪者やら、危険な単語が飛んでいるのも構わない。ここで言わなければマジで死ぬ。
「──全員、今すぐ服を着替えてこい!!」
*
「あー……、疲れた……」
半ばグロッキー状態の芝崎。下校の流れに逆らって廊下を歩く姿は、メイドの奉仕を堪能したとは言い難い。
結局、カレンチャンの登場に怒号を飛ばした後、メンバーの着替えが終わるまでトレーナー室の外で待ってから説教タイムがスタートした。ついでに説教に紛れて、オタク特有の早口でそもそもメイドに興味が無いことも説明して、最後には誤解も解けた。
そのまま通常の制服姿のメンバーと、ファンシーなトレーナー室でミーティングを行って解散。現在の芝崎は提出書類を持って生徒会室に向かっていた。
生徒会も本日の業務が終わる時間帯だ、折角だから今日の出来事について愚痴でも聞いてもう。
「お邪魔しますよ、っと。ルドルフいるか?」
シンボリルドルフは生徒会長専用に用意されている重厚感のある木製の机でファイルの片付け中であった。
ちなみに部屋では副会長のエアグルーヴも仕事をしており、別の机で書類を睨んで数字を書き殴っている。ただ、その鋭い目つきは書類が難しいことが原因ではなく、何かから目を逸らしたいが余りに目が細く睨んでいるように見える。
「やあ、トレーナー君。どうしたんだい?」
「……あー、書類の提出に来たんだけど……」
それを聞くとシンボリルドルフが手を伸ばしたので、芝崎は近づいて書類を渡す。
それを受け取った彼女は上からサッと記入内容を確かめると、確かにと頷いて紙束の中に入れ込んだ。すると彼女は、何か他に言うべきことがあるのではないかと目で訴えて来る。
芝崎は分かっている。その言うべきことがトレーナー室の出来事ではなく、今まさに目の前で起こっていることについて言及して欲しいとの意味だと。
だが、今日のところはメイドでお腹一杯である。
「お邪魔しましたぁ……」
書類を受け取って貰えたなら芝崎は帰る。消えるように移動し、生徒会室の扉を閉めた。
過去の相棒であるシンボリルドルフ。その彼女がまさかのフリフリ全開なメイド姿でも無視だ。突っ込んではいけない。深淵には触れず、さっさと帰って休むのが得策である。
「……ふむ。やはり、派手さが足りなかったかな?」
「いえ……、問題はそこでは無いかと……」
頑張れ、エアグルーヴ。
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