〜 訓練室 〜
「オウガテイルは案外慎重な生き物であり、最初の内は獰猛には襲いかからない。でもここはそうじゃない。データベースから掘り起こされるAIに従った理性なきアラガミ。だからこの程度で遅れとるなよ、レンカ」
「うおおぉぉぉ!!」
プラスチックで作られた訓練用神機もどきを握りしめたレンカは
そして一撃で屠り、次の獲物を索敵する。
少し離れたところにコンゴウがいる。
しかもそのコンゴウは映像で作られた人間を襲おうとしている。
しかも器用に怯えたようなリアクション込みでリアリティが高いのなんの。
絶望感を見せてくれるシミュレーターの中でレンカは今からコンゴウに近づいても救助は間に合わない事を察して苦虫を噛み潰したような顔をする。
しかし唐突に何かを思い出した。
「っ、確か、こうやって!」
プラスチック製神機もどきの持ち手部分を引っ張り、力を込めると剣が銃にガチャガチャと音を立てて変形する。
些かオモチャっぽくる見える武器だがそのトリガーを引けば銃口から赤い弾が放たれた。
コンゴウの胴体を抉り壁に吹き飛ばした。
「いいぞ、やっと咄嗟に出来たな」
「ああ、なんとか…な」
「そしてらあとは今の変形を実戦時に一秒も掛けずにやる事だ。だからレンカの神機が完成したら何度も変形させたりと遊んでおけ」
「ああ、わかった」
手数が多くなる分、剣と銃の両刀は複雑であり使い分けが難しい。
しかし状況によって変形させながら闘えるレンカの飲み込み良さが伺える。まだたどたどしく神機を扱うが素質は充分であり、なによりレンカはアラガミとの戦闘に場慣れしている。
外で生きてきた彼の強さだろう。
レンカのポテンシャルを再確認しながら上を見上げるとガラス越しにこちらの様子を見ているツバキ教官だ。あの顔は何を考えているのか。
ちなみに俺が訓練に付き添っている理由は同じ新型だから。
オワタ式に呪われたプロトタイプとは言え新型神機の使い勝手は俺が一番詳しい。なので俺が立候補してツバキ教官から許しを得た。プロトタイプではない正真正銘の新型かつ潜在能力の高い神機使いを早急に育てれば戦力も一気に増強する。あとサカキ博士や理事長からも大いに期待されているため、その活躍は誰もが期待している。
何かと俺も重大責任だな。
まあ、俺はそれでもプロトタイプとして生まれた神機使いだ。踏み台にして主人公補正でグングンの仕上がってほしいな。
「ぜぇ…ぜぇ……お、わっ、た…」
「シュミレータの訓練とは言え、今回は二人分の設定の中で全てのアラガミを捌いたんだ。 上出来だな」
「いや、そんな事はない。途中までマロンがオウガテイルの注意… と、言うよりかは、しばらくアラガミを引きつけて俺から戦力を割ってくれた。そうなると一人分のアラガミに息切れ起こしてる俺はまだまだ、だな…」
「だとしても状況に応じての近距離と遠距離の神機切り替えはスムーズに行えてた。そこから冷静な攻撃は流石だ。レンカの中にある才能がしっかりと訴えてる。だってシュミレータとは言え空想世界のアラガミも怖いだろ?」
「…」
「臆せず、怯まず、竦まず、尚且つ程よい緊張感を保ちながらも神機を手元から落とさないゴッドイーターは絶対に強くなる… って、それよく言われてるから」
「そうなのか?」
「いや、いま俺がここで決めた」
「そうなのか…」
軽口を叩きながらアフターフォローを行う。
まあコイツは恐らくストイックなタイプだと思うから何度か落とし込んで、後は勝手に自己分析させていれば勝手に強くなるだろう。
吸収力がある。
化けるな。
「じゃあ理解を深めるために猿蟹合戦でもしようか」
「さる、かに?」
訓練所の高台に案内すると壁に取り付けられたタブレットを触る。
シュミレータを設定。
するとコンゴウ四体を選択した。
「
「どう言う意味だ?」
「
「!」
早速コンゴウがこちらを視認して襲いかかってくる。息を呑むレンカに俺は声をかける。
「この訓練は銃撃しかできない旧型の状況を理解してもらう」
「理解?」
「たとえばだ。接近が可能なレンカが居てくれたなら旧型はかなりやりやすくなる。でも居ない場合は非常に危険だ。 ほら、右」
「!?」
レンカの胴体を叩き潰そうとするコンゴウにブラストが放火される。
「一体ならまだ良い。でもそこに四体いたら? またそれ以上の個体いたら?銃撃しかできない旧型に未来は無い。しかし接近戦で前線を張れる神機使いが近くにいれば戦況は変わる。わかるな?」
「…」
「銃形態も使えるレンカは新型神機使い。なので今回の猿蟹合戦でその理解性を深めよう」
「理解…か」
「ゴッドイーターは何も一人で全てを全うしろとは言わない。剣も銃も使える手数の多い新型だとしても背中は仲間に補ってもらうんだ。レンカはそれを身につけてもらう。お前は仲間と戦えるゴッドイーターになれ。プロトタイプなんかではない。正式な新型として…!」
それは願いだ。
俺がそうでありたかった願い。
しかしこの体は既にまともではない。
だから託す、正しく受け取れた者に。
ゴッドイーターの彼に。
♢
さて、俺はしばらく仕事が無い。
なのでレンカ強化イベントという名の訓練は有給を使って一週間みっちり教育してやった。
雑学も交え、対アラガミの知識もつぎ込んだ。
なかなか熱心な性格をしてため教え甲斐があった。なので良い有給を過ごせたと思う。
その過程で『藤木コウタ』とも知り合い仲良くなったが格好がフェンリルの服装だった。訓練生だからまだラフな格好は許されてない。レンカも訓練生卒業までは堅苦しそうなフェンリルの服装だろう。
ちなみに有給中は訓練ばかりではない。
恋仲であるリッカと外でデートしたり、外でなくとも部屋の中で一日中ゴロゴロしながらキスしたり、人肌が恋しくなったらそのま部屋の電気を薄暗くして肌を重ね合ったり、行為後は一緒にシャワーを浴びたりと結構濃厚にイチャイチャしている。
肉欲のために堕落した有給も良いが、リッカと整備室で神機の『強化パーツ』の開発も行ったりしている。あと彼女から神機の整備を学んだりと戦う以外を吸収しているところだ。かなり充実している。そして夜になればそれなりな肉食系な彼女の甘えモードに変貌して、俺の理性が結合崩壊。バースト状態突入してしっぽり互いにメンテナンスした。
本当に充実している。
だから彼女のためにも死ねないな。
…
…
…
そして有給が終わった次の日の夕方。
アラガミ装甲が壊れた。
「穏やかじゃないですねぇ…」
大型作戦会議室の巨大なモニターに映し出された居住区の映像。
アラガミがアナグラを守る装甲を食い破り、次々と侵入する。
「すみません!」
「遅いぞ、ヒバリ」
遅れてやってきたオペレーターのヒバリはツバキ教官から注意を受ける。
休憩中だったのかな?
オペレーターも大変だな。
そんな俺はツバキ教官に用があったが今はそれどころでは無いので邪魔にならないよう階段式の長椅子に座って状況を後ろから見る事にした。
極東支部にいるゴッドイーターがヘリコプターに乗り、食い破られや防壁へ向かう。
目的地まで数分はかかるな。
それまでは抵抗できない人々がアラガミに喰われ続けるだろう。 無慈悲だ。
え?
俺の出撃?
それが襲撃許可を頂けない。
何せ俺はフェンリルからすると貴重な調査隊であるため戦闘兵として活用は認められない。
例え高く評価されたゴッドイーターだとしても事故で失うのは痛手である。
そういう事だから動かせないのだ。
過去にも防壁が食い破られて、それで姉を加えた防衛班だけが居住区に飛んでいって、俺だけは出撃許可を出させてもらえないもどかしい経験してる。
なので俺は後ろで眺めて皆の無事を祈るだけ。
なのだが…
「「!!」」
「おいおい…」
この世界は無慈悲だから人間をたやすく追い込む。
ヘリコプターが進む方向とは逆の方向にある防壁が食い破られたのだ。
これでアラガミの侵入場所は二箇所になる。
これは由々しき事態だ。
ツバキ教官は早速部隊の分裂させてもう一つのポイントに向かうことを指示するが、到着まで時間が経ちすぎる。
っ、これは、異例だな。
え?突破が二ヶ所??
アラガミにそんな知性あったか??
禁忌種ならともかくコンゴウのような原種は流れるがままに蒸れて、それで飢えを求めて防壁を超えて来ただろうに。
予想外だ。
このままではと思い…
「ツバキ教官、流石にここは俺が___」
「アラガミが侵入したのか…?」
もう一つの声。
それは空木レンカ。
彼はこの状況を見て叫ぶ。
ここからゴッドイーターをもう一つの防壁に向かわせないのかと。
しかし…
「出撃できる神機使いが誰一人も、いない?」
ヒバリさんとツバキ教官の沈黙。
それは肯定を意味していた。
「厳密には出撃可能な神機使いがいないだ」
「!」
「俺は訳あって出撃許可をもらえない。レンカは訓練生だから出撃は認められない。そして俺たちの他にも出撃できない奴らは怪我などで戦闘行為が行えない。つまり襲撃可能なストックが無いんだ」
「っ!!」
後ろから声をかけられ驚くレンカ。
だがそれ以上に俺から伝えられた事実が驚愕として襲い掛かる。
数秒間の静寂、そして動き出した…
「っっ、俺は! アラガミを殺すために! ゴッドイーターになったんだ!」
「空木ッ!」
レンカは走り出す。
ツバキ教官の声は彼には届かない。
心のままに走り出した。
若いって良いねぇ…
「ヒバリ!レンカの居場所を特定しろ!」
「現在神機保管庫に向かってます!」
「!!……待て、レンカの神機の整備は___」
「あ、すんません。それ俺とリッカで昨日終わらせてしまいました」
「ええ!?」
「なんだと!?」
ほら、有給中にリッカの神機整備手伝ったから色々と作業が進んでしまって、そしてレンカの神機まで整備できた始末だ。
反省も後悔していない。
「あー、そうだな…よし!!とりあえず俺が責任持ってレンカを追いかけよう!!」
「待て!お前まで行くのか!?」
「しかしツバキ教官。あのレンカに追いつけるの俺くらいですよ」
「くっ、だが…」
ツバキ教官は貴重な新型を安易に出撃なんかさせたくない。
その気持ちは分かる。
彼女の判断は上官として悪くない。
むしろ正しい。
しかし、このままでは埒があかない。
「俺がレンカを死なせないようにする。俺の言葉はちゃんと聞く彼なので、大丈夫です」
「………っ、早急に迎え」
迷ってる場合ではない。
俺は敬礼して廊下を駆ける。
そして整備室まで来たのだが…
「うわ、壁に穴抉り開けて脱出しやがったのかアイツ!?やり方が若すぎィ!」
思いっきり一人分の大きさ。
太いのが気持ちいい。
「本当、若いよね」
声を聞いてすぐにわかった。
彼女だ。
「こんばんはマロン。整備中だったから抜け出し辛かったけど、凄い音がしたからやっぱり中断して見に来たんだ。そしたらこの有様だよ」
「行動力の塊でむしろホッとするね」
「彼って、歳いくつ?」
「確か…15か?」
「うん!若いね!」
「リッカも若いだろうに」
緊張感が走る中でも緊張感無い会話を弾ませながら俺はモニターをタップして、床から排出されたオラクルソードを手に掴む。
紙切れのように軽い神機だけ、俺の大事な生命線。 そしてこれを握れば羽のように軽くなって力が湧いてくる。
深く息を吸い…
ゆっくり吐いて…
呼吸は伴う。
最後にリッカへ振り向き。
「行って来ます」
「うん、いってらっしゃい、マロン」
天使が微笑んで見送ってくれる。
あぁ^〜、たまらないぜ。
ぜったい生き残って帰ってやる。
彼女の声援を力に俺もレンカがこじ開けた壁の穴を潜り抜けながら片目を閉ざして視力を強化する。
数百メートル先には、若さゆえの過ち犯しながらも自分に素直な青年が残したオラクルの足跡。
一応レンカの足止めとして20メートルほど真上に伸びる防壁が下から現れるが、レンカはとんでもない脚力で跳び、壁の上に着地するとそれを近道として走り出す。
「適合率高すぎだろ、すげーなオイ」
一応俺もあのくらいなら飛べる。
神機がめちゃくちゃ軽いし。
まるで 主人公 みたいだな。
…
…
いや、待てよ。
むしろ……そうなのでは??
なにせこの極東で新型を握った人間だ。
空木レンカってそうだよな?
「あまり意識してなかったが、そうなのかな…」
極東に現れし新型神機使い。
原作ゲームからすればつまりそう言うことだ。
そうなると…
「原作知識は役に立たない、はっきりわかんだね」
まあとりあえず追いかけよう。
俺も垂直の壁を走り、レンカを追いかけた。
♢
「あー、感じたことあるオラクル反応だと思ったらエリックか」
「マロン!?なぜ防衛に…??」
「あー、やんちゃ坊主を追いかけに来た」
「なるほどね。しかし彼は初陣なんだよね?なかなか動きが華麗ではないか?」
「そりゃレンカの訓練は俺が一週間近く付き添った。もちろん対アラガミの知識もつぎ込んださ。あと激しい戦闘行為後のケアの仕方も教えたりと、可能な限り無駄を省かせるように仕立てたよ」
「なるほど、もうそうならばあの動きに納得が行くね」
「あ、うん。それよりまもなく横からコンゴウが現れるぞ」
「え?」
本当に現れるコンゴウにエリックは驚く。
だが俺はこちらに来ることを知ってたので冷静に捌きながら。
「戦艦の
俺とエリックを叩き潰そうとするコンゴウが横からダイナミックエントリー、しかし俺はブラストを放火して奴のバーニング・ラブを拒否する。コンゴウの顔が弾け飛びそのまま地面に轟沈した。
しかしまた何処かで復活するだろう。
ダメコンも真っ青だ。
「レンカ、援護するから前衛役やってみろ!」
「っ、マロン!?付いてきたのか!?」
「ああ。とりあえず詳しい話は後だ。いまはコイツらを屠るぞ、ゴッドイーター」
「っ、ああ!」
頷いたレンカはアラガミに振り向いて神機を力強く握りしめる。
「いいのかい?」
「訓練は充分に行った。俺的には実戦に飛び込んでも良いと考えてたくらいだから良い機会だよ。状況的に不謹慎な言い方だけど」
「フッ、君に任せるさ」
エリックと共にレンカを支援する。
ちなみにブラストでもカートリッジ変えれば支援攻撃できるから誤射は心配しなくていい。
なのでレンカの邪魔をするアラガミは遠慮なく射撃で葬った。
その途中で逃げ遅れた母娘を叩き潰そうとするコンゴウが現れたがレンカは慣れたように銃形態に変えるとトリガーを引く。
コンゴウの顔を吹き飛ばした。
「……凄い威力だね」
「適合率の高さが伺えるだろ?」
「化けるね、アレは」
「俺もそう思う」
軽口叩きながらもアラガミに攻撃することを忘れず、レンカの潜在能力に苦笑いしていた。
すると新人研修とばかりに襲いかかる初見殺しのヴァジュラがレンカをロックオンする。
「!!」
「レンカ、怯むな。座学で教えた奴だ。わかるな?覚えているならお前ならそいつは殺せるだろう。できるか?」
「あ、ああ…!」
「一応確認だが、ヴァジュラの知識はちゃんとあるだろうな?雷を受けたらスタン状態で動けないことを」
「覚えている。ヴァジュラを中心とした大気が電気で震えたら合図だと」
「上出来だ。ならあとは死にやしないさ。どうとでもなる!」
本当ならリッカと開発に成功した強化パーツの『スタン抗体1』を装備させて『スタン体制』のスキルを持たせてからヴァジュラと戦わせたかった。
事故率を減らすために。
そもそも『スタン=死』は共通認識だ。
しかも初見殺しで襲いかかってくる。
だから事前な知識と情報は大事だ。
当たり前だよなぁ??
「ヴァジュラの予備動作をよく見て戦え。案外大振りな攻撃ばかりでわかりやすい。慣れればまったく怖くない敵だ!」
しかしながら初陣にヴァジュラとは一体誰がこんな事やるだろうか?
初見殺しの塊を新人ゴッドイーターが立ち向かうなんて自殺行為に過ぎない。
けど、レンカは退くことも無ければ、恐れることも無い。
神機を握りしめてヴァジュラを殺す気でいた。
「マロン!それとマロンの隣の人!援護を頼んだ!!」
それだけ言うとヴァジュラに走り出す。
マロンの隣の人とはエリックのことだろう。
エリックは少しだけ驚いたが、笑みを浮かべてブラストを構える
「フッ、いいとも新人くん。僕の援護も交えて華麗に舞いたまえ!」
「おっけー、援護は任せろ。さて、訓練を除いて久しぶりのチームプレーだから気合い入れてくぞ」
「言われてみれば、たしかにマロンと華麗に肩並べて戦うのも久しぶりだ…」
「でも今回の主役はレンカだってそれよく言われてるから」
未だ三人だけしか集まってない防護壁の近くでアラガミに囲まれながらも俺を含めたベテラン神機使いの二人。そして期待の新人たる主人公くんだ。
そこに絶望は無い。
最後まで立っているのは間違いなく、ゴッドイーターだから。
つづく