オワタ式な神機使いの生き方   作:てっちゃーんッ

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第14話

 

 

「姉さん、また精度落ちたか?」

 

「ええ!?で、でもちゃんとアラガミは倒せているよね!?」

 

「攻撃範囲が広いブラストでも狙わないで撃つのと、狙って撃つのとは違うぞ?」

 

「うぅぅ……」

 

「誘導するバレットエディットに頼り過ぎた結果だな。一度修正しよう。バレットをデフォルトの設定に戻して。それでアラガミを倒す」

 

「わ、わかった」

 

 

 

最近大きなミッションもない。

 

そのため休暇が出来た。

 

なので俺の義姉である台場カノンを連れて小型のアラガミの掃討ミッションを受けてやって来た。ちなみに誘ってくれたのは姉さんであり、俺は喜んで彼女が指定したミッションに着いて来た。そして今は真心込めてスパルタしているところだ。

 

 

「オラァ!!」

 

「うわっ、とうとう裏カノンになりやがった…」

 

 

そして切り替わる彼女の人格。

 

オウガテイルが悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 

 

「あっはっは!やはり自分で狙い定めて好きなところを破壊するのは気持ちいいねぇ!お前の断末魔最高だったよ!!」

 

「デフォルトの意味間違ってんだろ…」

 

 

オラクルバレットは普通のデフォルト設定だが人格はデフォルトから裏カノンの豹変してゲラゲラと気持ちよく笑っている。俺と同じ203式キャノン砲が彼女の喜びに比例して銃口から火を吹く。

 

そして良い笑顔でこちらに振り向いた。

 

 

「あっはは!マロンじゃない!ねぇねぇ!そこで今の見てくれたよねぇ!めちゃくちゃすごっかったねぇ!」

 

「適合率の高さだな。トリガーひとつであの威力。衛生兵って枠じゃないぞ」

 

「たしかに傷を治すのも良いけどさ、アラガミ倒してしまった方が早くなぁい??その方が安全だし!何よりアラガミの血飛沫も見れて一石二鳥だよねぇ!!これ最高ぉぉ!!あはっはははは!!!」

 

「タツミ先輩苦労してんなぁ…かわいそ…」

 

 

衛生兵としての役割を忘れてるわけではないが裏の人格は傷つけてくる根源、言わばアラガミを駆逐すれば解決すると言う思考らしい。

 

言ってることはわからなくないが戦闘維持のために存在するのが衛生兵であることを忘れてないだろうか?

 

いや、ゴッドイーターとしての役割に忠実である証拠だろうが…

 

 

ppppp!!

 

アナグラから通信?

 

 

「ヒバリさん?」

 

『マロンさん!突然すみません!』

 

「いえ、それよりどうしました?」

 

『救援に向かって欲しく急遽連絡を…!!』

 

「!」

 

 

 

オペレーターのヒバリさんから指示を受けたあと、迎えのヘリコプターにカノンを乗せて先に帰投させる。

 

そして俺はヘリコプターに乗らず、アナグラとは反対の方へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断したわけではない。

 

しかしその禍々しさは想像以上だった。

 

ピターと言われるアラガミに襲われてしまい、技量でどうにかできるほど生温くない。

 

その圧倒的な力に俺達は押し潰されてしまった。

 

サクヤさんとコウタの援護は期待できない状況まで追い込まれて、その力に屈した。

 

その証拠に俺の神機はピターによって壊されていた。

 

 

ここまでなのか…?

 

 

地を這いながらも気絶するアリサを守ろうと覆い被さる。

 

俺の力ではどうにもできない現実を突きつけられた心の弱さが一瞬だけ神に祈りそうになってしまう。残酷から目を背けて祈れば楽になるだろうか?

いや、それではダメだ。

 

俺は神を喰らうためにゴッドイーターになった。

 

絶望の淵で神に祈りたくなる人の弱さを振り払い、打開策を考える。

 

するとアリサを守ろうと覆い被さった時に触れた携帯アイテム。

 

 

「!」

 

 

俺はすぐさま彼女の腰に備え付けられていたスタングレネードを掻っ攫い、それを地面に叩きつけて発光させた。

 

どうやらスタングレネードの効き目はあるようでピターは怯んだ。

 

その隙にアリサを拾い上げて俺は立ちあがろうとしたが足腰に力が入らない。出血の量も多すぎる。意識も危うい。それでも這いつくばりながら倒れているアリサを引きずって、ピターから遠ざかろうとした時だ。目眩しに暴れるピターの巨体が崖に一歩踏み込み、そして崖は崩した。

 

落下する体。

 

地面に打ちつけられる。

 

冷たい水が襲いかかる。

 

体は無慈悲に流されている。

 

アリサはこの手で掴めているだろうか?

 

わからない。

 

わからないが、まだ倒れることは出来ない。

 

俺は失いそうな気を保たせながら、歯を食いしばって先で立ち上がる。

 

 

 

「からだが痛すぎる、な…」

 

 

 

背中を突き刺された激痛に堪えながら泥水を踏み締めて前に。

 

未だに動くこの体は俺の適合率が極東支部の中で一番高いため、とても高い回復力や防御力が備わっているらしい。だからあれだけピターからズタボロにされても歩けるくらい俺のバイタルは強靭らしい。それでも疲労は抜けない。体のあちこちが悲鳴を上げている。今すぐ倒れない、ら

 

あのピターから助かった現状を受け止めた体は今すぐにでも力が抜け落ちそうだ。

 

でも、それはピターだけ。

 

まだここはアラガミがうようよと存在する場所。油断なんて出来ない。

 

少し離れたところで気絶してるアリサを見つける。ぐったりしている彼女を拾い上げ、岸の上に寝かせる。

 

 

 

「アリサ?……っ、アリサ!?」

 

 

 

息をしていない。

 

俺は直ぐに彼女のコートを剥がし、彼女の胸元に両手を当て、心肺蘇生を行う。

 

この知識はマロンから教わった訳ではない。

 

これは姉さん(イロハ)から教わった。

 

神に祈れないから、自分で人を助ける。

 

そう言い聞かせられ、俺は人命救助の知識を姉さんから得た。いまここで役立つ時だ。

 

 

「っ! げっほ…げっほ…っ…」

 

「!」

 

 

蘇生する彼女の姿を見て今度こそ体の力が抜け落ちる。

 

良かった。

 

姉さんのお陰で、俺は人を助けれ__

 

 

 

「っ!?アラガミ!」

 

 

 

オウガテイルだ。どこにでも現れる奴だとマロンから聞いてるが本当にこの上なく鬱陶しい。

 

アリサも倒れていてる今どうしようもない。

 

神機もまともに動く気配が無いため戦闘行為は避けないと…

 

 

 

「逃げるが勝ち…か」

 

 

 

マロンの言葉を思い出す。

 

確かこれを『ことわざ』と、言っていたか?

 

殆どの文明が食われた今、失われたポテジティブシンキングの一つだと言ってたが… それって本当か?いや、今はどうでも良いか。

 

だがリンドウも言ってたな。

 

生きていればなんとかなる…か。

 

俺はアリサを背負って建物に逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が戻る。

 

俺はアリサを適当な建物の中まで運び、個室の中にある寝床を見つけるとそこに寝かせる。

 

ぐったりとしていた。

 

俺も相当やばい。

 

しかしアラガミがこの建物に侵入してくる可能性は捨てきれないため、生存本能が働き、意識を保たせていた。

 

俺の意識は彼女を見守ろうとしていた。

 

しばらくすると寝床からアリサが目覚める。

 

 

「ここ…は?」

 

「目が覚めたか…」

 

 

状況把握のため彼女と短く言葉を交わした瞬間。

 

ギリギリ保っていた意識が遠のいた。

 

限界だ。

 

背中を貫かれた傷が痛い。

 

しかしズタズタにされてもよく生きた体だ。

 

俺は、よくやった、方だろう…か?

 

命がけを渡ってきた精神力は底を尽きる。

 

倒れた。

 

 

 

 

 

 

レンカ、対アラガミ戦術は非武装の人間が活用する技術だが、ゴッドイーターになってからも使えるのは覚えておけ。

 

 

___そうなのか?

 

 

そうだよ(肯定)ゴッドイーターも神機が手元から無くなれば非武装の一般人と変わらないだろ?身体能力はともかくとして、アラガミを殺す方法は無くなる。でも逃げ延びることを優先とした対アラガミ戦術ならアラガミを前にしても生き残れる。オウガテイルの捌き方は覚えてるな?

 

 

___ああ。確か"わざと"噛みつかれる距離にいる…だったな。

 

 

ああ。遠くにいると尻尾のトゲを飛ばしてくる。普通なら認知してからの回避は間に合わない。でもオウガテイルは獲物に食らいつける距離に相対している時は一直線に噛み付こうとする単純な生き物だ。あとは動作を見て回避可能な筈だよ。

 

 

___ああ、そう教えてくれたな。

 

 

 

あとその大口に目掛けてスタングレネードを投げればオウガテイルは確実に怯む。体内から発光させれば両目が一時的に潰れるからな。ちなみにこれは検証済みで、効果的だ。

 

 

___いるのかその情報? あと検証までしたのか…

 

 

 

おいおいあまりコレをバカにすんなよ?

もしかしたらこれのお陰で生き延びれるぞ?

 

 

 

___別にバカにはしてない…… だが、そんな状況に…

 

 

 

言いたいことは分かる。でも慢心するな。絶対にそんな事は「ありえない」と斬り捨てるのは二流以下だ。最悪な状況になってしまった時のことを想定して『知識』を頭に準備するんだ。 お遊び程度でもいい。脳内でシミュレーションを繰り返すんだ。そうすりゃ打開のための『知恵』も直ぐに浮かび上がる。冷静な自分をちょっとでも保てる。

 

 

__そしたら大丈夫なのか?

 

 

ある程度はな。でも勘違いするなよ?これはアラガミを殺すための力ではない。泥まみれになってでも生き延びることをやめない神に祈ることをやめた人間の力だ。生きるための知恵。

 

 

__知恵…

 

 

 

レンカは外で生きてきた人間だ。理不尽が蔓延る外側で足をつけて来た。なら君だけの生き残り方もある。決して諦めるな。お前が諦めた時がお前という人間の終わりだ。神に祈らないからこその生きた方をイロハに教えてもらったんだから、それを力に……

 

 

そう、俺はそれを、力に…

 

姉さんが与えてくれた、知恵と力を…

 

そのためには…

 

 

 

 

 

「きゃぁぁあ!!パパ!! ママぁ!!」

 

「!?」

 

 

アリサの悲鳴で目が覚める。体感的に短い睡眠だが、長い夢を見ていたように思えた。いや今はそれどころでは無い。

 

 

「ッッ、うおおお!!!」

 

 

俺は壊れた神機を掴んでこの部屋に襲いかかってきたオウガテイルの右目を狙って叩きつける。

 

アラガミだって生物だ。

目を狙われれば一瞬だけでも怯む。

 

俺はその間に掛け布団を投げてオウガテイルの視界を制限させた。

 

 

「アリサ!!」

 

「っ…っっ…」

 

 

あまりの精神的なショックにより口元に指を咥えるほどの幼児退行をしていた。

 

彼女らしくもない。だから心配になる。何がそこまで怯えさせたのか俺にはわからない。しかしそれを考えてる場所でもない。動けない彼女を抱きしめながら建物から飛び降りた。オウガテイルからなんとか逃げ切る。

 

 

「あの建物にまでやってくるのか…」

 

 

建物に入りやすい小型種だからこそ許されるのだろう。残念だ。休めることが出来るいい場所だと思ったのに運が悪すぎる。いや、ほんの少し休めただけありがたいか。

 

 

「しっかりしろ!アリサ!」

 

「!」

 

「その足で歩けるな?」

 

「え? あ、はい…」

 

「なら行くぞ。 コンゴウが来たら面倒だ」

 

「え? コンゴウが!? ど、どこに!?」

 

「今はいない。だが奴は聴覚が良すぎるアラガミだ。この程度の騒ぎでもやってくる可能を捨てきれない」

 

「!」

 

「わかったらこの場から離れるぞ」

 

 

極東に来た当時と打って変わって随分と弱気な立ち振る舞いをするアリサだ。震える手を引っ張り先導する。俺はアラガミの気配がしない建物に向かって進んだ。 文明が失われた今あの建物は一体なんなのかも知らないが、とりあえず駆け込む。

 

とても広い場所に出た。

 

蛇口が多く、水を受ける大きな皿、あと石鹸らしきモノが転がっている。

 

もしやこれは浴場か? すごく大きいな。

 

 

 

「あなたの神機は壊れて動きません…」

 

 

 

突然口を開くアリサに耳を傾ける。

 

どうやら精神面は安定したようだ。

 

 

「やはりか」

 

 

たしかに、見たらわかる。

 

俺の神機は半壊していて、生きてる様には思えない。

 

 

「や、やはりか…って!それがどういうことか分かっているんですか!」

 

「ゴッドイーターとして力を無くした… とまではいかないが、身体能力を除いて一般人と変わらないと言ったところか」

 

「っ! ならなんでそんなに冷静なんですか!」

 

「まだ死んでないからだ」

 

「!」

 

「たしかにアラガミを殺せない。だから俺はアラガミからしてら活きのいい上等な餌なんだろう。だがそれがどうした?まだ死んでない。足は動く。手も動く。頭も動く。ならこんな状況なんて覆してやれる」

 

「っ… ど、どうして…?こんなにもボロボロなのに、絶望的なのに、どうしてそうやって立っていられるの?い、一体なんの薬を飲んだらそうなるの?」

 

「薬なんて飲んでない」

 

 

 

俺は立ち上がり、入り口を見渡す。

 

アラガミは来てない様だ。もし来たとしてもここなら隠れながら移動できる場所だ。

 

警戒心さえ失わなければ何とかなるだろう。

 

 

 

「俺は薬なんて飲まない。飲んだのここまで繋いでくれた凡ゆる命だ。それはマロンだったり、母さんだったり、父さんだったり、姉さんだったり、ツバキ教官だったり、コンパスを渡してくれたとあるゴッドイーターだったりと、色々とだ。その中には死にながらもここまで繋いでくれた。託してくれたんだ。だから俺はそれを飲んで生きている」

 

「繋いだ命を、飲む…?」

 

「そうだ。 アリサ、この世界で神に祈れない。 なぜなら祈っても助からないから。敵は神だから。なら神に祈ることは無意味なんだ。だから人は人で救わなければならない。そのためには神を食らえる程に強くならないとダメだ。なによりも…」

 

「?」

 

「そんな自分自信を支えるソレを抱かないとならない」

 

「……空木さんにとっての『支え』ってなんですか?」

 

姉さん(イロハ)に会う事だ。 そのためには生きる。なんとしてでも生きてやる」

 

 

 

執念と言っても良い。

 

そう、例え話。

 

これはマロンから聞かされた。

 

とあるゲームの物語だ。

 

その者は、一から積み上げて完成させた優しい世界に満足すると、突如ソレをリセットしてしまい、次は真逆の結末を目指す。

 

作るのではなく壊し、虐殺の先に手を伸ばし続けた。全くもって無意味な事のために凶器を振るい、凶器は狂気と変えていった。

 

その世界の怒りに触れてしまう過程で何度も殺されるが『絶対に成し遂げる』と心に掲げた者は何度も何度も殺されながらもそこにたどり着いた。

 

虚労に佇む達成感は自分の褒美で、ゴールまでたどり着いだ自分への愛で沢山だ。

 

そこに後悔もなく、そして何も無い。

 

そうなる結末を知っていたにも関わらず、ただその結果をその目で見たいがために抱き続けた独りよがり(LOVE)決意はとても煌びやかに狂っているんだと。

 

そう教えられた。

 

それは、人だからできること。

神にはできない、悍ましさから。

 

 

そう、夢中なんだ…

 

人はそうなったとき、とても恐ろしく強い。

 

だから俺の執念は、もしくは決意は、心と体を動かすための歯車だ。

 

 

 

「絶対に生きる。俺は最後の家族である姉さんを迎えに行くんだ。だから次は俺が姉さんを守る番なんだ。繋げてくれたこの命で、姉さんを守るために…」

 

 

 

だからゴッドイーターになれたんだ。

 

 

 

「……強い、んですね」

 

「別に強くなんか無いさ。でも、このまま縮こまる自分を許さない。それだけの話だ」

 

 

 

そう、強くなんか無い。

 

必死になるだけ。

 

それだけなんだ、ゴッドイーターは。

 

 

 

 

 

つづく






マロンがレンカにしたたとえ話についてだが。
筆記当時(2018年)は、とあるloveでいっぱいなゲームが、とても流行ってからね。
作者もそれに夢中だった。
仕方ないね。






















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